幕間 聖樹王国 4
シズルとリョウジが旅立った翌日。ベリオン聖樹王国に残っていたユウキ達はクリスティーナに呼び出された。
彼らを目的地まで案内するのはメイド長であるシオン。
背筋を伸ばし、メイド服の上からでも分かるトップモデル宛らの完璧な体型。綺麗な銀髪は陽の光を浴びてキラキラと輝く様は目を奪われてしまう。
異世界から来た女性達はシオンを見て『完璧な女性』という感想を抱く。最も、シオン以上に凄まじいのはクリスティーナであるが。
あちらは完璧を通り越して『究極の美』と表現する以外に他無い。
「シオンさん、綺麗だよな」
しかし、ゴローにとってはクリスティーナよりもシオンの方に好みが傾いている様子。
「ゴローって年上好きだもんな」
「年上っていうか、嫌な顔せずに世話してくれるし、お礼を言った時にニコッて笑った顔がギャップを感じるというか……」
見た目も然ることながら自分達の世話をしてくれる『綺麗なお姉さん』といった雰囲気がゴローの心に恋の矢がブッ刺さる要因になったのだろう。
仕事中は常に真剣に。しかし、不意に見せる可愛らしい笑みがギャップを感じも異性からしたら堪らない。
「ベタ惚れじゃん」
本人が近くにいるというのにユウキがゴローをイジっていると、先頭を歩いていたシオンが停止する。
どうやら目的地に着いたようだ。
「皆様。この大広間の中でクリスティーナ様がお待ちです」
シオンは礼をした後にドアを開き、シオンに続いて全員が中へと入室する。
大広間の中には呼び出したクリスティーナは勿論、騎士団長と見知らぬ数名の男女が待っていた。
「ああ、皆様! お呼び出ししてしまい、申し訳ありません。今日は勇者の仲間となる者達を紹介しようと思いまして」
クリスティーナが相変わらず美しい笑みを浮かべながら、見知らぬ男女を手で示す。
男性1名、女性2名、合計3名の男女は一歩前へ踏み出して頭を下げた。
「こちらが勇者の仲間として皆様と共に今後活動する者達です。皆、将来有望な者達で腕利き揃いですよ」
「紹介しましょう。彼はヨウ。聖騎士隊の1人です。女性2名はエルフの者達でリンデとキク。どちらも魔法を得意とする魔法使いです」
クリスティーナに続き、騎士団長が3名を紹介するとそれぞれ自己紹介を始めた。
「ヨウです。聖騎士隊に所属しております。前衛として随伴させて頂きますのでよろしくお願いします」
茶色い短髪、日焼けした肌のヨウは如何にも前衛で戦う騎士といった風貌。見た目からは体育会系のような暑苦しさを感じるが、喋りだすとなかなかの紳士のようだ。
「キ、キクと、も、申します。よろしくお願いします」
魔法使いらしいローブを着るエルフのキクは緊張しているのか、短い挨拶でありながら何度も噛んでしまう。
くすんだ金髪をセミロングに切り揃え、ぷるぷると体を振るわせる様は小動物のように映る。
エルフらしい美しい美貌を持ちながら、内面は小動物のような様が異世界人の女性達の心を一気に奪い「可愛い可愛い」と連呼させた。
「リンデです。よろしくお願いします」
小動物系のキクに対し、リンデはキリッとした真面目な印象を持たせる。エルフらしいスレンダーな体型に長い薄緑色の髪を携えた美女。
キクが癒し系ならばリンデは超正統派のエルフ美人と言うべきだ。その美貌はこの部屋の中にいるシオン、クリスティーナという2大美人に並んでも劣らない。
「リョウジ様とシオン様が同盟国へ赴いた現状、国内の事はユウキ様方に頼らざるを得ません。そこで、皆様が活動する際はこの3名が随伴します。力を合わせて我が国をお救い下さいませ」
クリスティーナに続き、勇者の仲間達も頭を下げる。
「分かりました。それで、俺達は何をすれば?」
ユウキが問うと騎士団長が口を開く。
「まずは皆様には王都近郊に蔓延る魔獣を退治して頂きたく思います。魔族のせいか、魔獣による被害が頻発しておりまして。彼らと共に近隣の村まで赴いて魔獣を倒して下さい」
騎士団長が言うには、まずは日帰りで行ける範囲の村や町を目指して道中と目的地周辺に蔓延る魔獣を討伐して欲しいとの事。
仲間として加わった3名は国内の地理にも詳しいので心配は無い、と言う。
「俺達に任せて下さい!」
ユウキを先頭に全員が頷くと騎士団長とクリスティーナは嬉しそうに頷く。その中でリンデだけがジッとユウキを見ているのが印象的であった。
「あ、そろそろ本日の訓練時間ですわね。訓練終了後に詳細をお伝えします」
クリスティーナの一言で新たな仲間との顔見せは終了。ユウキ達はシオンに連れられて退室して行った。
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「さて……」
室内に残された勇者の仲間達へクリスティーナと騎士団長が顔を向ける。
ヨウはニコリと微笑みを浮かべるが、エルフ2名は露骨に体を強張らせた。
「ヨウ隊員。異世界人の監視は任せるぞ」
「ハッ。王女様、団長。お任せ下さい」
騎士団長がヨウへ告げると、ヨウは騎士礼をしながら応える。
「貴方達も分かっていますね? もし、余計な事をしようものなら……」
クリスティーナが2人のエルフへ顔を向け、ニコリと笑いながら言うとキクはガクガクと体を震わせ、顔中から汗がドッと噴出す。
「い、致しません! 歯向かいません! 人間様に歯向かう事は一切致しません! で、ですから、い、命だけは……!」
「……必ず、ご満足させてみせます」
キクが顔を真っ青に染めながら深々と頭を下げるのに対し、リンデは冷静な様子で頭を下げた。
人間にとってエルフとは同盟を結んだ種族と言いながらも家畜も同義である。何故なら、エルフは人間に降伏した存在だからだ。
負けた種族がどう扱われるか。それはこの世界において、とても残酷だ。
「フン。劣等種族をわざわざ王城に入れて下さり、直答を許して下さる王女様の広いお心に感謝しろ。貴様等のような薄汚い存在にとっては奇跡のような経験をしているのだからな」
ヨウは睨みつけるような視線で2人のエルフを見下す。
「ヨウ。コイツ等が何かミスをしたらお前が処分して構わん。代わりはいくらでもいるからな」
「承知しました。団長」
騎士団長も汚らわしい物を見るような視線を向けながら告げると、ヨウはニタリと笑ってから頭を下げる。
その言葉を聞いたキクはギュッと目を閉じながら体を震わせた。
ミスすれば殺される。自分が殺されるだけならまだマシだ。最悪の展開は王都で奴隷や娼婦として働かされている同族までも危険に晒されてしまうだろう。
「では、本日は解散。明日からは命令通りに動くように」
「ハッ!」
「か、かしこまりました」
「承知しました」
騎士団長の言葉を最後に、2人のエルフは退室。
2人はこの後、王城内を歩いて王都にあるエルフ街――主にトレイル帝国から連れて来られたエルフや人間とエルフの間に生まれたハーフエルフ達が住む『雑種街』と人間達から軽蔑される場所へ戻るだけ。
しかし、王城内をエルフが歩いているという光景は廊下をすれ違う人間達にとって忌むべき事。
理由を知らない者達は露骨に嫌な視線を浴びせ、2人が何故王城にいるかを知っている者はニタニタと下品な笑みを浮かべていた。
「うう、何で、何で私がこんな目に……」
キクは不安とプレッシャーで心が既に折れそうになっていた。瞳からは一筋の涙が零れる。
「…………」
対し、リンデは眉間に皺を寄せながら向けられる視線を全て無視しながら気丈に振舞う。
(やっと。やっと、チャンスが巡って来た。これを逃したらダメよ)
リンデは嘲る者達から目を反らし、己の目的に向かって突き進むべく王城の廊下を歩いて行った。
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次回は日曜日です。




