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118 活性草


 男神の拠点である、お馴染みの真っ白な空間。


 神域では男神が鴉魔人の青年から受け取った報告書を読みながら、最近配信したクエストのクリア状況を確認していた。


「ふむ。神力の循環は正常に行われているようだな」


「ええ。んぐ、んぐ。活性草も魔王国から発芽し、順調に領土内に広がっていますね」


 イングリット達の蒔いた種。それは神力が枯渇した大地を再び活性化させて、荒れた大地を修復するという役割を持つ。


 それと同時に敵勢力と味方側の持つ領土において境界線を明確にするモノでもあった。


 人間達が占拠している土地、魔族と亜人が占拠している土地。これを明確にする行為にはちゃんとした理由がある。


 しかし、理由を語るには全ての元凶である邪神と神脈について、まずは語らねばなるまい。


 神脈とは男神の力の源であると同時にこの世界に満ちる力だ。神力、神脈の根源たるモノを突き詰めて簡単に述べるとしたら『世界を創った神の血』のようなモノ。


 まぁ、通常の血は飲食等で体の中で作られるが、神力は作られないのが厄介であり、血とは異なる点であるが。


 現状の男神は血が足りずに貧血状態。故に動けないし、抵抗力が落ちている、といったところだろうか。男神が神脈を取り返すという事は足りなくなった血を輸血するような行為である。


 神の力(血)で作られた世界はこの力を循環させて、自然や命を作る。輪廻転生の理に乗った魂が再び別の命に生まれ変わるには神力を使う、という事。


 故にこの世界で生まれた者達は少なからず神力を体に秘めている。個人に秘める神力を使ってゲーム内で魂を覚醒させたのが『スキル』というわけだ。


 どう足掻いてもこの世界の創造者と生まれた者達は神力という力に良くも悪くも縛られる。男神側の弱点とも言えよう。


 では、邪神にとってはどういうモノなのか。


 結論から言えば、違う世界からやって来た邪神にとって、この世界に満ちる神力は『毒』となる存在だ。


 同じ神といっても体の作りが違う。同じように血として例えるならば、全く違う血液型の血を輸血するような行為で、その者が持つ血液型とは()()()()()しない。


 ただ、例外としてはその世界の創造者が別の世界の神を自分の神域に招けば、神域内に限り活動が許される。


 最初にこの世界へ訪れた邪神は瀕死だった。これを助けようと神域に招いてしまったのが失敗の原因であるのだが……。


 原因は置いておいて、神の居城たる神域での活動ならばともかく、地上に降りての活動など毒沼の中で生きるような行為だ。


 もしも、別の世界の神が地上で活動するには体を世界に適応させなければならない。通常ならば神域で創造者の許可と助力を得ながらゆっくりと適応させて行く。


 適応していない体で現世へ降りようものなら大地の全てが毒沼のような存在になってしまい、体が弱って果ては死に至る。


 この仕様は神々のルールだ。安易に神という存在が他の神の世界を侵略しないよう、神々の戦争が起きないように作られたルールである。


 仕様に従って男神は邪神を神域から追い出す事までは成功したが、女神を手にした邪神に絶大な効果を挙げられたか、と言われれば否だ。


 現に邪神は地上に降りて人間達と共に活動している。それは何故か。


 邪神は適応時間を短縮して世界を侵略する為の抜け道を持っていた。


 それが地上のど真ん中に植えられた樹。聖樹と呼ばれた大樹。あれは世界の神脈を吸い上げると同時に邪神の体へ毒を適応させる為のフィルターのような存在である。


 更に創造者の許可も助力も必要とせずに、体を適応させるのと同時に根を通して大地の毒を無効化させる。


 このフィルターの源は囚われた女神だ。


 毒となる神力を濾過し、変えてしまう。神力を邪神力に変えて、世界の理を書き換えていると言うべきか。


 彼女の力を使って、世界を己のモノにしようと、この世界を創った男神にとって毒となる世界――自分にとって都合の良い世界へと作り変えている最中というのが真相である。


 同時に、邪神に召喚された人間達も邪神と同様の仕様を適応されていた。


 邪神によって召喚された最初の人間達は体の造りが違う。空気が毒である場所に召喚されたようなものなのだが、邪神の持つ抜け道が人間達に活動させる力と同時に様々な力を与えた。


 この世界の力を変換させ、力を持った人間達が侵略している。


 戦争の勝敗は神力を如何に相手より得られるか。それが勝利の鍵なのだ。


 故に邪神は聖樹を破壊されないように変換した神力を元に人間達を毒に負けないよう強化し、聖樹を守護させる。


 そして、強化された人間は地上の王を排除して世界の書き換えに必要なこの世界で生まれた魂――この世界の情報が刻まれた魂を神に献上する。


 魂を献上する理由は、邪神が行う世界の書き換えに必要な力は女神だけでは足りないからだ。


 何故なら、この世界は二神によって作られた世界。この世界を完全に掌握するには女神の力と男神の力、両方が必要となる。


 しかし、邪神は男神は捕らえられなかった。故に、別の方法を取った。それがこの世界に生まれてくる魔族と亜人の魂を使って男神の力を解析する事。 


 この世界に生まれる者達は二神の力が混じりあっている。女神と男神が造った子供のような存在だ。


 子供のDNAを解析して親を知るように。邪神は男神を使わず、弱い子供を狙った。


 必要とされる情報は特殊な個体の魂ほど情報量が多い。その理由は特殊な個体ほど世界を変えうる力を持っているからであり、この世界の力を多く含んでいるからだ。


 創造者2人による祝福のような要素だろうか。愛された者の魂ほど、世界に関する情報が多く刻まれているという事だ。   


 故に邪神は王種族の魂や特殊個体であるシャルロッテのような存在の魂を必要としている。



 と、いうのが前置きである情報。


 では、最初の問題に戻って『活性草を使って土地の明確化』について。


 これは先に説明した邪神と人間に対しての『毒』を復活させる事である。


 今までは男神に神力が足りず、大地を構成する『情報』を書き換え、または書き加える事が出来なかった。


 故に既にこの世界に適応してしまった人間と邪神は我が物顔で、どこでも好きな場所へ赴ける。


 だが、今回の活性草を使って少量ながら魔族と亜人が暮らす大地に含まれる情報を書き換えた。これによって人間達は魔族と亜人の土地へ踏み込めない――とまではいかないが、息苦しさは感じるだろう。


 万が一、人間達が魔族と亜人の住む土地に侵略して戦争が起きた場合、少しくらいは有利になるはずだ。


 これから先、イングリット達が占拠されている神脈と領土を解放し、神域に昇って来る神力が増えれば邪神と人間にとって完全なる毒の土地へと変えられる。プレイヤー達にとって有利なフィールドが増やせる、という事。 


「もう安全な場所に神脈は無い。あとは人間達のいる土地まで行って解放する他ない」


「ええ。んぐ、ごくごく、そうですね」


「補給地点も作った。魂の保管庫から王種族を降ろせた。邪神の力を多少なりとも抑制する機能も加えた。遂に反撃の時だ! ……ってお前は何を食っているのだ?」


 男神が拳をグッと握り締めて熱弁するが、隣に座る鴉魔人の青年はハムスターのように頬を膨らませながら食事を摂っていた。


 神や眷属達は食事をせずとも生きていける。神力さえあれば体を維持できるのだ。


 なのに、食っていた。食事を作る場所なんて神域には無いのに。めちゃくちゃ温かい出来立ての料理を食べていた。


「え? 地上に降りたプレイヤー達が作った『異世界飯』ですよ。いやぁ、成熟した異世界は凄いですよね。食の進化もとんでもないですよ」


 鴉魔人の青年は男神にフランクフルトを「食べますか?」と言いながら差し出す。


「いや、何で? どこから? まさか!? 貴重な神力を使って創造したのか!?」


 世界を覗き見る眷族達が己の欲を満たすべく神力という万能パワーで創造したのか、と男神は憤慨するが鴉魔人の青年はブンブンと首を振って否定する。


「ち、違いますよ! 転送門から下級眷属が地上に降りて買いに行ったんですよ!」


「転送門から?」


「そうです。転送門を管理する彼女が地上に降りる機能を付けたんです。万が一、神域が奇襲された時用の非常口として。そこを使っているんです。あ、ちゃんと管理者権限が無いと使えないので地上の者達はこちらには来れませんよ」


 転送門を作った魔法部門の管理者であるオウルメイジ――梟魔人の眷属である女性が事の発端のようだ。


「そ、そうか。誤解してすまない」


「いえ。良いんですよ。あ、肉まん食べますか? カウ肉とピッグ肉の合挽きが使われてて美味しいですよ」


 鴉魔人はホカホカと湯気を漂わせる肉まんを蒸篭の中から取り出して、男神に差し出した。


「う、うむ。頂こう」


 男神は肉まんに齧り付きながら、モニターへ視線を向けた。


読んで下さりありがとうございます。


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