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11 inしたお - メイメイ編 2


「ハァーハッハッハ! 所詮は魔族。我らの敵ではないな!」


 人間族の騎士――ファドナ皇国の騎士は苦悶の表情を浮かべながら地面に転がる魔族の騎士の背中に聖銀製の剣を振り下ろした。


「全く。抵抗するだけ無駄だと言うのに。憐れな者達だ」


 隣にいた同じ騎士隊に所属する者も迫って来た魔族の剣を軽々と弾き返し、握る剣を相手の腹に突き刺した後に蹴り飛ばして剣を乱暴に引き抜いた。

 

 魔族領土北西の地を侵略して来た人間とエルフは合わせて500程度の数。


 対する北西の土地を守護するべく建設された砦に常駐していた魔族の数は800。


 数が差があるにも拘らず、魔族側が有利とは言えない状況であった。


 その理由はメイメイが観察していた際に呟いていた装備格差もあるが、エルフ達が遠距離から放つ魔法への対抗手段が乏しい事も大きい。

 

 過去の戦争で強者を失った魔族と亜人は過去の強者達が使っていた強力な魔法を失伝し、僅かに残った魔法資料を読み解いた一部の者が少数いる状況であった。


 この強力な魔法――上位魔法を使用可能な者が別の者に伝授しようにも種族相性などもあって上手くいっていない。


 それ故に遠くから放たれるエルフの上位魔法に対し、適切に防御する為の上位防御魔法を使える者がこの場には存在しない。


 国内にはエルフに対抗できる有名な魔法使い――攻魔師の実力者が数名いるが、彼らの数も限りがあって魔族の領土全てをカバーできない。


 彼らが不在の北西砦には魔法に対抗する手段は敵軍後方に位置するエルフへ弓で矢を撃つしかない。


 が、上位魔法を使えるエルフ達が矢なんぞに当たってくれるなんて状況は皆無であった。

 

 前衛部隊はエルフ部隊へ到達する前に人間族に殺され、砦はエルフによって狙われる。


 人間とエルフ達は実り豊かな自領土から潤沢な物資を持って来ているのか、ここ何日も攻め続けている。彼らは砦が落ちるまで攻め続けて来るだろう。


 篭城するにも先に食料などの物資が無くなるのは魔族側。


 援軍が来るまで防衛に専念するという作戦であったが砦が破壊されるのは時間の問題であり、騎士も砦も完全にサンドバック状態だった。


 魔族軍は人間とエルフに一方的とも言える攻撃を受け続け、800あった数を300程度まで減らしていた。


「このままでは……」


 砦の城壁で指示を出していた魔族軍の最大戦力である四将のうちの1人――炎剣のレガド。オーガ族の男であるレガド・フィンベルは現状を打破しようと頭をフル回転させていた。


 人間とエルフの軍に攻められてから3日経った。


 後方の街を守る貴族と王都に援軍の要請を出したが王都の軍が到着するには、あと3日はかかるだろう。


 貴族に至っては、砦が落ちると決め付けているのか援軍を寄越そうともせずに自身の身を守るべく亀のように街へ篭っていると報告があった。


「このような状況だというのに!」


 侵略を続けられる時代だというのに、貴族達は迫り来る辛い現実を直視せず己の富と命を護るばかりで、民の為に戦おうなんて崇高な志など微塵も持っていない者ばかりだ。


 防衛や戦争は軍に任せて自分達は己の利権を味がしなくなるまで舐め尽すのが仕事だ、と協力する気など全く無い。


 そんな役立たずな貴族へ悪態をつきながらも、彼は自慢の愛剣である刃に炎を付与する能力を持ったマジックウェポンでエルフ部隊から飛んでくる魔法を斬って砦の損傷を抑えようとしているが1人では到底無理な事であった。


「団長! 左翼が崩れます!」


「クソッ!!」


 砦前で人間族の勢いを押し止める騎士達も既に限界であった。


 その証拠に部下の1人から展開する騎士隊の左側に位置する左翼部隊の状況を聞かされ、もはやこれまでかとレガドも覚悟を決めた。

 

「誰か! 王都へ状況を知らせに走れ!」


 砦は破壊され、人間とエルフ達は魔族領土内に入って進軍を続けるだろう。


 後方からこちらへ向かっているであろう王都軍に知らせ、何としても魔王都までの道だけは守らなければいけない。


 その事を部下に告げて、必ず伝えよと念を押した後に伝令に走らせた。


「私が時間を稼ぐ!」


 800の兵がいたにも拘らずほんとんど敵軍を減らせなかった。


 能力も装備も魔法も食料も、何もかもが劣っている魔族軍。敗戦するのは仕方ない、と誰かは言ってくれるだろうか。


 だが、砦を指揮する司令官として、魔族軍最強を名乗る四将の1人としてレガドは黙って負ける訳にはいかなかった。


 きっと自分は死ぬだろう。だが、少しでも部下を、砦を守って時間を稼ぐ。


 そう決意して城壁から飛び降りようとした時、彼の人生の中で最も幸運な出来事が起きた。


 右翼側から一筋の光が現れ、後方で魔法を撃っていたエルフの部隊に襲い掛かったのだ。


 突然の出来事にエルフ部隊は混乱。その最中にもう一回。


 現れた一筋の光はエルフ数人を巻き込んで貫通する。


 レガドが遠目に見える倒れたエルフの死体を注視すれば、地に倒れるエルフの体には矢が刺さっている。


「矢だと……?」


 そう考えていたのも束の間、次々と放たれた矢が高速でエルフ部隊に再び襲い掛かって数を半分以下にまで減らしてしまった。

 

「一体、何が……」


 レガドの心の中では勝てるかもしれない、という期待とエルフを簡単に屠る正体不明の何かに恐怖を抱き、2つの感情がぐるぐると混ざり合っていた。 



-----



「半分まで減ったかな~?」


 メイメイは腰に装着した矢筒から矢を取り出して呟く。 


 彼女は戦闘準備を終えた後、姿を隠していた岩の陰から後方に位置するエルフ部隊に攻撃できる場所まで移動して己が作り上げた弓をエルフ部隊の脇腹にお見舞いしていた。


 砦の城壁上からレガドが目撃していた一筋の光とはメイメイの放つ矢が正体であった。


 魔族軍が驚くような矢を放つ彼女は、再び弓を横に構えてから矢を番えてエルフへ放つ。


 先程まで撃っていた矢と同じく、放たれた矢は高速でエルフ達の体を串刺しにて絶命させた。


 メイメイには聞こえていないが彼女に強襲を受けたエルフ達は聖銀製の防具ですら防げない威力のある矢に混乱を極め、適切な対処法を見出せずに「どうすればいい」と叫ぶばかりであった。



 彼女の持つ弓から発射される矢自体は鏃が鋼鉄製のどこにでもあるような矢なのだが、破壊力の秘密は白銀弓【ジェミニ】という銘打たれたメイメイお手製の弓にあった。


 この弓や彼女自身の作り上げる武器と防具こそがメイメイの強さであるのだが、彼女を語るには涙無しには語れないアンシエイル・オンラインのクソ仕様があるのだ。


 メイメイの就いている職は『技巧師』という生産系の職であり、戦闘系の職業ではない。


 さらに彼女は最初から技巧師だったのではなく、初めに就いた職は『武器職人』だった。


 キャラクターメイキングで強制的に決まる種族も技術力に補正が掛かる『ドワーフ』であり、彼女は元々強い武器を作る武器職人に憧れてゲームを始めたのだが、それを後押しする形となった。

 

 しかし、ここで彼女はアンシエイル・オンラインの辛い仕様を思い知る。


 アンシエイル・オンラインでは物を生産するだけではレベルが上がらず、生産職でさえ戦闘をして経験値を稼がなくてはいけない仕様であった。


 技術力というステータス値が生産職にとって重要なステータスなのだが、技術力だけでは敵に与えるダメージは増えない。


 しかし攻撃力や防御力を鍛えては、生産に必要な技術力が確保できず作り上げる物の品質が落ちるという、生産職にも戦いを強要するクソ仕様なのがみんな大好きアンシエイル・オンラインだ。


 それ故に『生産職ガチ勢』と呼ばれる技術力のみを追求する者達は、大した戦闘能力を持っていないので『お荷物』としてパーティから敬遠される。

 

 メイメイも生産職ガチ勢であり技術力のみのステータスだったので、当然ながら他人と一時的にパーティを組んでのレベリング――所謂、野良パーティプレイなどには参加できずにソロプレイを行っていた。


 レベルが上がってもダメージは増えない。ただひたらすら毎日、初期マップで経験値の少ない魔獣を倒す日々。


 少しでも効率を上げようと戦闘職プレイヤーの動きを見て覚えて初期マップの魔獣を相手に実戦訓練し、技術力以外は低いステータスなのにも拘らず並の戦闘職と同じように、戦闘中の適切な位置取りや戦い方ができるようになった。


 それでも技術力のみのステータスから敬遠される事実は変わらず、初期マップでレベリングしながら二束三文にしかならないドロップアイテムを稼ぎ、マーケットで材料を買って新たに覚えたレシピの武器を作る日々。


 拠点となる街で自身が作った武器を売って金を稼ぎ、その日だけは自分へのご褒美として豪華な夕飯を食べる。


 食事をする街の酒場で他のプレイヤー達が自慢気に語る華々しい活躍話を聞きながらもメイメイは挫けなかった。


 いつものように初期マップで魔獣を倒していると、ふらりと現れたイケメンに――


「君、可愛いね。どこ住み?」


 なんてオーソドックスなナンパ文句を言って話しかけて来たクリフと出会ったのが彼女の転機だろう。


 美少女狂いの彼と意気投合してからは固定パーティを組んで効率は多少上がった。

 

 その後はイングリットとも出会い、徐々に倒せる魔獣も保有経験値が多いモノが増えてきて遂に彼女のレベルはMAXになった。


 そして彼女は転生システムでレベルリセットを行う。


 リセットする際に彼女はメンバーの2人に「次は戦闘に役立てるよう戦闘職にする」と言ったのだが彼らは「生産職が好きなら次も生産職にしろよ」と言って『お荷物』の彼女を決して見捨てなかった。


 2人に救われ、彼らと楽しく冒険をするメイメイは4回目の転生を向かえようとした時――遂に生産職の遥か高みへ辿り着いた。


 武器職人、防具職人、道具職人と職業スキルを継承して来た彼女。その3つが混ざり合い、3つの生産スキルが内包された生産系複合職『技巧師』が選択可能になったのだ。

 

 技巧師のスキルは今まで極めた技術に今まで隠されていた技術を加える。その技術とは『ギミック』というモノであった。


 元になった複数のマジックアイテムやマジックウェポンに付与されている能力を継承しつつ、ギミックによって別の武器種に『可変』させたりと様々な応用が広がる新技術が使える職であった。

 

 前置きが長くなったが、彼女が持つ白銀弓【ジェミニ】も技巧師の作る技巧(ギミック)武器である。


 この弓は元々はダンジョンで得たマジックウェポンである、『防具破壊力向上』の能力が付与された双剣と魔導弓という魔法の弓を生み出す宝玉が原型で、双剣と魔導弓宝玉にギミックを加えて組み合わせたメイメイ自慢の一品だ。

 

 その証拠に彼女の握る弓は反った片刃の双剣が合体し、合体した柄部分の片方には宝玉が埋め込まれている。


 宝玉の魔力を纏った剣の先端付近からは魔法の弦が発生して矢を撃つ事が可能になり、原型となった双剣に付与されていた『防具破壊力向上』と魔導弓に付与されていた『高速射撃』『貫通力向上』の能力を継承。


 勿論、武器だけではなく彼女が装備している防具にも大幅なステータス補正が掛かる付与がなされた、メイメイの作り出した装備だ。


 彼女――技巧師メイメイが作り出す装備は『技巧装備』とカテゴリされ、今までの武器防具とは比べ物にならないほどに高性能と名高い。


 メイメイは生産職という茨の道を貫き通して転生を繰り返した結果、様々な能力が付与された武器をギミックによって組み合わせ、オリジナルの武器を作って能力を底上げし、強力な『武器の力』で戦う戦闘生産職(バトルクリエイター)とカテゴライズされる『技巧師』になったのだ。


「聖銀製の装備、あとで回収できないかな~」


 生産職を極めたドワーフ族の日焼け褐色美少女は可愛らしい容姿に似合わず放つ矢でエルフをどんどんと射抜いていく。


「あそこだ! あのガキが弓を撃ってる!」


 謎の相手に後方部隊が射抜かれている現状に気付いた人間の騎士達が、遂にメイメイの正体と位置を割り出したようで叫び声を上げながら突撃してきた。


「バレちゃったな~」


 聖銀製の銀鎧を装備した人間の騎士達10名ほどが剣を抜いて迫って来るがメイメイに焦りは無い。


 メイメイは剣の有効範囲に入るまで先頭を走る順に矢で撃ち抜き、騎士を4名まで減らす事に成功。


 残った4名の騎士が迫るも、メイメイはその場を動かない。


 そうしているうちに4名の騎士に囲まれて剣を向けられる。


「もう逃げ場はねえぜ? 散々仲間を殺したんだ。楽に死ねると思うなよ?」

 

「キヒヒ。手足をチョンギって散々使った後に殺してやるよ」


 と、なんともゲスい人間の騎士様。


 褐色貧乳低身長美少女のメイメイをギラギラした目で舐めまわすように凝視する彼らは恐らく特殊な性癖を持った方々なのだろう。


 この後の事で頭がいっぱいな様子だが、弓使いを取り囲んだという事実を得た人間の男達は既に余裕の表情。


「うひっ」


 ゲーム内では元々は中身が男だったメイメイは彼らの視線を受けてゾワゾワと背筋に嫌な感触が這い回る。


 ああ、世の女性達は男からこんな視線を受けているんだな、と身をもって体験したところで弓の握り手を両手で持って空へ掲げる。


 人間の男達はそれを降参の意と勘違いしたのが原因か、メイメイを前に気を緩めてしまったのだ。


「残念」


 メイメイの持っていた弓の魔法の弦が消える。


 そして弓はガキン、という音と共に真ん中から分裂して双剣状態――白銀双剣【ジェミニ】――へ変形した。


 メイメイは足に力を入れて地面を強く蹴って踏み込む。


 装備能力によって向上した身体能力を披露した彼女は、取り囲む騎士の1人へ急接近した後に相手の首筋に剣の刃を当てて振り抜いた。


「あ?」


 何が起こったのか理解できなかった騎士の男は、首筋から噴出す温かい液体に手を当て短く言葉を漏らした後に地面へ崩れ落ちる。 


「あっえっ」


 他の騎士達も同様であったが、首から血を噴出して倒れた仲間を見た事でさらに混乱状態に陥る。

 彼らが困惑している間に2人の騎士がメイメイによって心臓を双剣で突かれて膝から崩れ落ちた。


「お、お前……ッ!」


「残念でした。僕は弓使いじゃありませ~ん」


 場違いな程に可愛らしくフワフワとした声音で告げる言葉。


 これが騎士の男が聞いた、人生最後の言葉となった。


読んで下さりありがとうございます。


今日は夕方に後1本投稿します。

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