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117 砦の再建


 この世界にやって来た貴馬隊はイングリット達と少しシステムが違う部分がある。


 それはイングリット達の持っている『真実の鍵』のようにクエストがダンジョン攻略に特化されたモノではない、という点だ。


 レギオンマスターであるユニハルトと副レギオンマスターであるセレネに与えられたのは『闘争の角笛』というアイテムである。


 この闘争の角笛を軽く吹くと空中にウインドウが表示され、表示されている内容はPvPと大陸戦争に関わるものが記載されていた。


 真実の鍵との違いは、あちらは1つの目標だけに対してメインのクエストとサブクエストの両方が表示されている事だろう。


 その内容を再び確認すべく、セレネは北東戦線にある壊れた砦の敷地内で角笛を咥えて軽く吹いた。


『メインクエスト:チュートリアル――北東にある砦の再建』


『サブクエスト1:人間種・エルフ種のキル 578 / 1000』


『サブクエスト2:戦場で敵の落としたアイテムを拾う 100 / 200』


『サブクエスト3:敵リーダーの撃破 10 / 10 完了!』


 セレネは表示されたクエスト内容を確認し、3番目のサブクエストを指でタッチする。


 すると、完了したクエストは一覧から消えて『レギオンポイント獲得』という文字が数秒浮かんでから消えた。


「リーダー撃破で貰えるレギオンポイントは100ポイント。メインクエスト完了で1000か……。先はなげぇなァ」


 クエストをクリアすると得られるレギオンポイントでレギオン機能の拡張やレギオン専用の魔道具が得られる機能が備わっていた。


 一例を挙げるとするとポイント交換で得られる『緊急招集ボタン』という魔道具はレギオンメンバー全員を一箇所に集める事が出来る。


 また、別の機能ではレギオンのメンバー上限を解放。他にはレギオンメンバーに対して機能する支援魔法等――敵との戦闘で種族差を埋める為の支援スキルや防衛している砦に一定時間の防御バリアを展開など、様々なスキルが用意されていた。


 これらを解放・駆使しながら大陸戦争で勝利を収める事が貴馬隊の大きな目標となるだろう。


 ただ、どれも要求ポイントが高い。魔道具1つ交換するには1万ポイント。スキル解放は2万ポイント。一番必要数が低いものでメンバー数の上限解放が5000ポイントだ。


「こりゃ、こっちから討って出ないとかねェ」


 セレネはウインドウから視線を外し、周囲を見やる。


 彼の周囲には魔王国で建築関係に携わる者達が砦の修理を行い、貴馬隊のメンバーがインベントリを駆使しながら大量の物資を広場に展開していた。


 現在はメインクエストである砦の再建中だ。ただ、ここは現実世界。ゲームのように一瞬で再建が終わるなんて事はない。


 一番ポイントを多く貰えるであろうメインクエストの完了には時間が掛かるだろう。


 今回はチュートリアルとされており戦闘関連の内容ではないが、クリア後に提示されるメインクエストも同様に簡単にはクリアできない内容が提示される可能性が高い。


 ならば防衛を主に動くのではなく、相手を駆逐するべくこちらから積極的に動き、コツコツとサブクエストを消化してポイントを地道に稼ぐのも視野に入れないと多くの恩恵を得る事はできないとセレネは推測した。


 幸いにも、新たな機能として実装された転送ゲートは砦にも繋がっている。セレネ達がこの世界に来た際に空から落ちてきた女神像が転送ゲートの出入り口として機能していたのだ。


 これにより、砦に何名か常駐させておけば貴馬隊全員で防衛に当たる事が可能となっている。


「あとは個人ボイスチャットがあれば完璧なんだけどなァ」


 不満があるとしたら、報告する為にゲートで魔王国まで戻らなければならない事か。


 ゲーム内にあった個人対個人のボイスチャットが可能になれば、より迅速な行動が取れるのだが無い物ねだりは出来ない。そもそも運営に要望を言う事すら出来ないのだから。


「おおい、セレネ~」


 セレネが今後の計画を思案していると、貴馬隊のメンバーが話しかけてきた。彼の手には砦の改修計画書と設計図が握られている。


「壁と門の基礎は完了した。どちらもアダマンタイト製でいけそうだ」


 砦の重要な部分となる壁と門。以前は鉄と石ブロックというお粗末な防御力であったが、今回改修するにあたってアダマンタイト製に作り変える予定だ。


 使用する大量の資材も日替わりダンジョンで貴馬隊のメンバーや軍人と傭兵、犯罪者となった元貴族達が汗水垂らして集めているし、アダマンタイト製に作り変えれば人間勢力の使う攻城兵器にも少しは耐えられるだろう。


 少なくとも、前回のように一撃で崩壊とはならないはずだ。


「アダマンタイトの数は良いんだがよ。対魔法防御用コーティングに使うレッドミスリルが足りねえ」


 対魔法防御用コーティングとは簡単に言えば、液状化した金属を指定の物の表面に上塗りする、大陸戦争向けの技術だ。


 物理に強いアダマンタイトで壁と門を作り、メインの外装の上からミスリルの中でも魔法耐性が最も高いレッドミスリルと、平均的な能力値で他の金属と混ぜやすい通常のミスリルを液状化させて混合させたモノを塗ってコーティングする。


 これで魔法の直撃を食らっても幾分か軽減し、物理攻撃を受けても基礎のアダマンタイトが軽減する、という2重防御が完成するのだ。


「メンバーの持ち物にネェのか?」


「全員に出させた。それでも半分にも満たねぇ。日替わりダンジョンじゃ採掘できねぇしよ」


 対魔法防御コーティングは大陸戦争時の砦防衛戦では必須となる事項だ。何せ、相手には魔法をジャンジャカ使うエルフがいる。


 これがあるか、無いかで砦の耐久値がグッと変わるのだ。陥落して敗走となれば敵の手に落ちる。それを再び取り戻すのは多大な労力が掛かるだろう。


 そんな事を繰り返していたらいつまで経っても勝利を収める事などできやしない。


 1度の改修作業でやれる事は完璧に終わらせておきたい。それがセレネの理想だ。


「わかった。一旦戻って黒盾に聞いてみる」


 現状、レギオンメンバーの他に頼れる相手は先にこの世界に来たイングリット達しかいない。


 しかし、その答えを聞いて貴馬隊のメンバーは難色を示す。


「黒盾に頼り過ぎじゃねえか? いつか、とんでもねぇ要求をされそうだぜ? 溜まったツケを返せ、なんて言われてな」


 金に執着し、ガメツイ竜人。イングリットの悪評はゲーム内でも然ることながら、こちらの世界に来ても再び認識するに至っている。


 何たって商売の邪魔となる貴族達を揃って鉱山送りにした男だ。血も涙も無いと貴馬隊どころか、元貴族の家族や冒険者組合に所属した商会からも恐れられていた。


「しょうがねェよ。何とかするさ……」


 恐らく交換条件で何か寄越せと言われるか、もしくは『貸し』だ。セレネ的にもレギオン的にも『貸し』が一番怖い。


「まぁ、お前がそう言うなら良いけどよ」


 貴馬隊のメンバーとセレネが話し合っていると、2人に向かって全力疾走してくる軍人が見えた。


 軍人の男は息を切らし、肩を上下しながら自分の後方へ指差す。


「ゼェ、ゼェ、お、御二方! ま、魔王都の方向から、草が、地面から物凄い勢いで草が生えてきています!」


 草が生えてきている。


「「は?」」


 2人は当然、意味が分からない。誰かキーボードの『W』キーを押しっぱなしにしているのだろうか。


 2人は顔を見合わせて「どういう状況?」と首を捻った。 


 しかし、すぐに彼の言っている事が正しいと分かる。


「な、なんだァ!?」


 ズモモモモ、と効果音を鳴らしながら、セレネ達のいる場所に向かって荒れた地面より芽が生えて来るのが見えたのだ。


「た、確かに草が生えて来てやがる……」


「な、何だよコレ」


 地面から生える芽はセレネ達のいる場所を通り越えて砦の外――人間とエルフ達と戦った戦場まで伸びて行く。


 そして、戦場の半分まで生えるとそこでピタリと芽の進軍は止んだ。


「何なんだよこれ……」


 貴馬隊のメンバーが地面に生える芽を摘んで引っ張ると簡単に引っこ抜けてしまう。だが、引っこ抜けた場所には再び芽がポンと姿を現すのだ。


「俺様に聞くなよ……。意味わかんねえよ」


 セレネは溜息を零すと、イングリット達に質問するべく魔王都へ急いで戻って行った。 


読んで下さりありがとうございます。誤字報告ありがとうございます。


芽の正体は次回に。

次回は木曜日投稿です。

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