114 サブクエ消化と新機能
メイメイがイングリットの鎧を完全修復させた日の昼からサブクエストをクリアすべく魔王都を出発。
事前に調べておいた魔王都近郊にあった廃神殿奥にあった崩れた祭壇を直し、神殿で一泊した後に日替わりダンジョンへ。
日替わりダンジョンに潜り始めて既に3時間が経過していた。
「フンッ!」
「グゲェェ!」
日替わりダンジョン内をうろつくゴブリンの顔面にイングリットの鉄拳が炸裂。
踏鞴を踏んだゴブリンへ大盾を振り下ろしてフィニッシュを決めると、イングリットは粒子となって消えるゴブリンの前で己の拳を握ったり開いたりを繰り返す。
「どう~?」
後ろでイングリットの戦闘を見ていたメイメイが怪しい核を使用して修復した鎧の感想を問う。
「特に問題は無い。前より動きやすい気がする」
イングリットの感想は気のせいではない。怪しさ満点の核を使用した事で鎧全体の稼働率が上昇。特に関節部の稼動が滑らかになったり、鎧全体に掛かる負荷が軽減された。
これによって使用者の感じる違和感や動きにくさが解消されて、重厚な鎧を身に着けていながらも生身で戦っているような軽快さを感じさせる。
「変な呪いとか~。変な声が聞こえるとか~。そんな感じは~?」
「なんじゃそれは!? ダンジョンマスターの呪いでもあるのか!?」
随分とオカルトチックな心配をするメイメイの言葉にイングリットではなくシャルロッテの方がぶるりと身を震わせる。
「いや、ねえよ」
2人の心配を余所に、イングリットは首を振って否定した。
「おおい、目的のアイテムが揃ったよー」
ドロップアイテムを拾っていたクリフが愛用の杖を片手に近寄ってきた。
「意外と早く揃ったな」
「そうだね。じゃあ、クエストのガイド通りに入り口にある祭壇に奉納しようか」
クリフは真実の鍵から表示されるクエストガイドを確認。
空中投影されたウインドウには前回までとは違い『集めたアイテムを日替わりダンジョンのダンジョンゲート横にある祭壇に奉納せよ』とクエストの道筋が詳細に表示されていた。
イングリット達はガイドに従ってダンジョンの外へ。ゲートから出た後、すぐ右へ顔を向けた。
そこには屋根付きの小さな祭壇が新たに出現しており、駐屯している軍人の話では1週間前に出現したらしい。
丁度イングリット達のクエストが更新された時期と重なる。
「ここにアイテム入れるのか?」
祭壇――というよりも小さな長方形のテーブルの上にフィギュアサイズの女神と男神像が置いてあり、テーブルの前には賽銭箱のようなアイテム投入口が置かれている。
「アイテムを入れた後に鐘を鳴らす、だってさ」
小さな屋根には鐘付きの縄がぶら下がっていて、アイテムを賽銭箱に投げ入れた後に鐘を鳴らす。
イングリットはクリフに言われた通り、アイテムを投入してから縄を左右に振って鐘を鳴らした。
カランカランと心地良い音が鳴り響くと賽銭箱が淡く光る。光が収まるとテーブルの上にあった二神像の間に小さな革袋が置かれていた。
イングリットはその革袋を手に取って中身を確認。すると、中には小さな種のような黒い粒がギッシリ詰まっていた。
「なんだ、こりゃ。種か?」
「ダンジョン裏手に穴を掘って種を蒔く。その後でポーションを振りかけよう……だってさ」
このクエストの最終目標がよく分からない。だが、ガイドにはそう書いてあるので従うしかないだろう。
「何か野菜でも生えるのじゃろうか?」
「そりゃ良い。金になる種じゃないか」
シャルロッテの予想にイングリットが笑った。日替わりダンジョンで採取される食材アイテムの中には野菜類もあるが、どれも売り上げは好調だ。
また利益を生んでしまうな。とニヤつくイングリットを先頭にダンジョンの裏手へと向かった。
日替わりダンジョンの敷地となっている場所は全て石畳で整備された地面だ。流石に石畳に蒔く訳じゃなかろう、と石畳を越えた向こう側――ダンジョンの敷地外である荒れた土地まで向かう。
イングリット達の背後には整備された石畳。前面には荒れ果てた黄土色の地面。種を蒔け、と言われれば例え草木の育たない痩せた大地であっても常識的に考えて土の方に蒔くのが正解だろう。
皆で手分けしながらインベントリからシャベルと取り出して浅めの穴をいくつか掘る。
4つ穴を掘った後に種を適当に穴へ落とした後に再び土をかけ、ポーションをドボドボと振りかけた。
「何も起きないな」
「そうじゃな」
ポーションを振りかけた4つの穴に変化は無い。何か変化が出るには日数が必要なのだろうか。そう思っていた時――
ポン、ポン、ポポポポポポポン、と種を植えた穴から小さな芽が無数に姿を現した。
「な、なんだ!?」
その芽はどんどんと姿を現し、広範囲に広がってゆく。ポンポンという効果音よりもズモモ、と表した方が正しいか。
やがてイングリット達の視界を埋め尽くすほどの芽が荒れた大地から姿を見せ、黄土色の大地に緑色の点が無数に打たれたような光景に変化した。
『クエストクリア!』
「これはどういう事なんだ?」
「さぁ~? 本当に野菜が生えるのかな~?」
指定されたアイテムを集め、そのアイテムを元に出来た種を蒔き、荒れた大地に無数の芽が出現する。
最後までクエストの目的がよくわからない。
「芽が出たって事は育つんじゃないかな? 結果が分かるまで時間が掛かるのかも」
クリフのもっともな意見に同意し、イングリット達はその場を後にした。
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日替わりダンジョンでのクエストを終えると空は青から茜色に変わりかけていた。
今からジャハームへ向かっても少し進んだ所でキャンプとなる。ならば、明日から出発しようという事で一旦魔王都へ戻る事に。
魔王都へはダンジョンゲートに備わった新機能『転移ゲート』を使用すれば一瞬だ。
ダンジョンゲートの柱に触れると行き先の一覧が空中投影され、行き先名と人数を指でタッチすればダンジョンゲートが目的地へと繋がるという優れ物。
「行き先は魔王都で、大人4名……と」
イングリットが行き先と転送人数を指定すると空中投影されたウインドウに変化が表れる。
『行き先:魔王都イシュレウス』
『大人4名』
空中投影されたウインドウの表示が変わり、選択された内容があっているかどうかを問われる。
間違いないので確定ボタンを押すとピッという電子音と共に柱から音声が。
『2000エイルを投入してね!』『2000エイルを投入してね!』
若い女性のような音声で金を入れろと催促させる。何故、金額投入時だけ音声で催促されるのだろうか。
未だにイングリットがダメージを食らうと無機質な女性の声でダメージの数値を教えてくれるが、その声の主が生気を取り戻し、元気よく声を出したら……似ているかもしれない。
音声による催促が始まると柱の真ん中にあるお札投入口が赤く光った。
ご覧のとおり、便利な機能であるがタダではない。金が必要になるのだ。
徴収された金がどうなるのかは不明であるし、投入された紙幣がどこへ溜まるのかも不明だ。
柱の後ろに回収用のフタがあって、その中に紙幣の溜まる箱がある……なんて事は無かった。本当に不明だ。
イングリットが2000エイルを投入すると、ダンジョンゲートから見える向こう側がダンジョン内部の光景から魔王都にあるイシュレウス大聖堂の内部へと変わる。
これで転移ゲートは魔王都へと繋がった。
「便利じゃのう」
「全くだね~。これ、どういう仕組みなんだろ~?」
片道一時間以上掛かる距離を一瞬で行き来できる。なんと素晴らしいシステムだろうか。
しかも王種族であるプレイヤー達限定ではなく誰でも使用できるのだ。
この転移ゲートが発表された際に一部商会――特に物資輸送や人を運ぶ馬車関連の商会から仕事が無くなると懸念の声が上がったが、行き先は限定されているので完全に仕事が無くなる訳ではない。
今ではすっかり影響力のある組織となった冒険者組合と魔王による声明のお陰で懸念は払拭されている。
イングリット達がゲートを潜ると映っていた光景通り、イシュレウス大聖堂の中へと到着。
ゲートが起動されると大聖堂に設置された女神像前にダンジョンゲートのような異次元空間の入り口が現れ、そこから人が飛び出してくるという仕組みだ。
イシュレウス大聖堂に勤める神官やシスター達は最初こそ驚いて腰を抜かしていたが、今では既に多くのプレイヤー達がゲートを使っている。
大聖堂の中を掃除していたシスターもゲートから現れたイングリット達を見つけると、床を掃く箒を片手にニコリと微笑んだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
シスターと目が合ったイングリットは挨拶を返す。
ゲート機能が実装された当初は『像から人がァァァ!』『使者様が現れたァァァ!?』なんて叫びながら大慌てしていた彼女も、この光景にすっかり慣れた様子。
4人全員が転移を終えると異次元空間の入り口は徐々に小さくなっていって完全に消えた。
さて、宿へ帰ろうと大聖堂の入り口へ向かうと、イングリット達と入れ違いで貴馬隊のメンバーが数人大聖堂内へと入って来た。
「おう、黒盾パーティじゃねえか。今帰りか」
「ああ、そっちは?」
「ワンダフルからの依頼だ。明日の朝定食に使うネギが足りねえとよ」
今では魔王都一番の食堂となった冒険者食堂の料理長であるワーウルフのワンダフルからの依頼を消化しに行くようだ。
冒険者食堂はいつでも賑わっているし、朝定食は日替わり制でいつも違う料理が食べられると魔王都住民から人気がある。
そんな冒険者食堂で明日の朝定食の材料が足りないとなっては緊急依頼になっているに違いない。
「ううむ。ネギを使った料理か。明日は冒険者食堂で朝食じゃな!」
どんな料理が出るのだろう、とワクワクするシャルロッテも冒険者食堂を贔屓にする客の1人。
「クエスト中にカウ肉の上カルビが出たでしょ。それ使って夕飯作ってもらおう」
「賛成じゃ!」
冒険者限定であるがワンダフルに食材を提供すればメニュー外の料理も注文できる。
ルンルン、とスキップをしながら上機嫌のシャルロッテを先頭に冒険者食堂へと向かい、夕食を摂った。
夕食が終われば夢見る羊亭で寝るだけだ。だが、イングリットとシャルロッテには寝る前に行う日課があった。
「き、今日も頼むのじゃ」
セクシーなレースネグリジェとローライズなおぱんてぃを着用したシャルロッテはもじもじと体を捩らせながら、恥じらいで頬を赤く染めてイングリットを上目遣いで見つめる。
2人が毎日行っている日課はシャルロッテへの魔力補充だ。
今まではシャルロッテが得意の呪いで魔力を使用した際に補給していたが、北東戦線で見せたシャルロッテのドラゴニュート化があって以来毎晩補給を行っている。
あれ以来、シャルロッテの体にドラゴニュートの特徴が出る事は無い。しかし、彼女の抱える衝動が強くなったと言うべきだろう。
魔力を使用しなくとも夜になると体が疼いて仕方なく、魔力補充した際の快楽が欲しくて堪らない。そんな体になってしまった。
彼女はハァハァと熱い吐息を小刻みに吐き出しながら、下腹部にある淫紋の傍に手を添えてイングリットへ見せつけるようにして待つ。
魔力補給を生きる為に仕方なく、嫌々行っていた部分もあるシャルロッテ。だが、今の彼女にそんな気配は微塵も感じられない。
ドラゴニュート化した時に聞こえた声を認識して以来、イングリットの魔力を受け入れる事に忌避感は無くなった。それどころか、もっと欲しいと思えるくらいになっていた。
内から湧き出る衝動が高くなると、頭の中に浮かぶ理想の男性像とイングリットの姿が重なって見え、自分から淫紋に触れて欲しいと懇願してしまいたくなる。
「わかった、わかった」
イングリットもあの日以降、シャルロッテが魔力を欲しがる事を勿論承知している。クリフになるべく補給するように、と言われている事もあるので嫌がったりはしない。
「んっ」
最初は軽く指先で触れただけでも謎の液体を撒き散らしながら気絶していたシャルロッテだったが、最近はどうやら耐性がついたようだ。
指が触れるだけでは甘い声を漏らすだけでまだまだ満足していないといった表情を浮かべるようになった。
今では掌を淫紋に当てて、グッと押すくらいでなければ彼女は満足しない。
「んっほおおおおおお!!」
彼女の淫紋に掌を添えて押すと掌の下ではバチバチッと電流が流れるような感触と共に、シャルロッテのアヘ顔ダブルピースが。
シャルロッテのだらしない顔を見た後に視線を下へ下げると、イングリットの掌の下にある淫紋から赤い魔力の残滓がバチッバチッと音を鳴らしながら弾けた。
「ぐっ……」
加えて掌から体の中にある魔力が吸い取られるような感覚と脱力感がイングリットを襲う。一晩寝れば元通りになるが、脱力感を感じた後にやって来る酔っ払った時のような頭がフラフラする感覚にはまだ慣れない。
「お"……お"ぉ"……」
シャルロッテはいつも通り、白目を剥いて気絶した。このまま朝まで眠るだろう。
イングリットも頭を抑えながらベッドに沈む。
彼にとって幸いなのは、彼女が気絶する際に謎の液体を撒き散らしてベッドを汚さなくなった事だろうか。
宿の受付嬢から『あまり激しいのは……』と苦言を貰わなくなったのは大きな進歩だ。そんな事を思いながらイングリットの意識は闇に沈んだ。
読んで下さりありがとうございます。
次回は金曜日です。




