112 逮捕後
とある組織によって齎された情報を元に魔王軍が強制捜査に乗り出した。商人組合を運営管理していた貴族8家は罪を認め、最高権力者である魔王によって位を剥奪される。
更に商人組合で不正を働いていた者達に加えてフログ侯爵を筆頭とする貴族派に属する者も数名告発され、フログ達同様の罰を受ける事となった。
幹部連中がこぞって抜けてしまった商人組合は規模を縮小。魔王国内の流通事業のみを担当する事となり、魔王都内での商品売買からは手を引いた。
ただ、国内にある地方都市は未だ商人組合を通しての売買が盛んである為に撤退したのは魔王都内だけと言えるだろう。
しかし、国の中枢たる魔王都での変化はやがて地方にも影響は出ると専門家は言う。
商人組合が抜けた穴を埋めたのは冒険者組合という新規組合。冒険者組合は瞬く間に魔王都内の売買事業を独占。今では冒険者組合が立ち上げた『スーパーマーケット』を知らない魔王都住民はいない。
当然、この商人組合の幹部全員が逮捕された事件の話は稲妻の如く魔王都内に広まった。
住民達は最近現れた冒険者組合が情報を集めたのでは、と噂をしているが真実は謎のまま終わる。
貴族ではない一般人にとってはデカイ顔をしながら暴利的な商売していた貴族達が消えた事は歓迎すべき事件だ。しかも、件のスーパーマーケットが商人組合とは比較にならない程の良心的な価格で商売をしているのだから尚更だ。
捕まった者の中には貴族ではない一般人もいたが、彼らは貴族に命令されてやっていたと情報提供者からの証言もあり減刑され、数年の禁固刑になった。
では、捕まった元貴族達はどうなったのか。
彼らの不正は長年に渡って行われてきた。年数によって罪の重さが変わるが、加担していた貴族達は『死刑は濃厚』と王城内でも噂される。
しかし、実際彼らに課せられた罰は死刑ではなかった。
カン、カン、カン。
捕まった貴族達は誰もが囚人服を着てツルハシを振るう。
場所は魔王国内に突如出現した日替わりダンジョン。ダンジョン内部にある採掘場だ。
「ひぃ、ひぃ……」
「た、頼む! 休憩させてくれ!」
今まで居心地の良い部屋の中でぬくぬくと贅沢な生活していた日々から一変。一度も握った事の無いツルハシを手に働く毎日。
手にマメが出来ては潰れ、採掘場のホコリと土に塗れて体と顔を汚す。今の彼らを見たら、とてもじゃないが貴族だったとは誰も言うまい。
「なんで、なんで私がこんな……ゲコォ!」
それは侯爵であったフログでさえも例外ではない。
「キリキリ働け! 死刑にならなかっただけ有難く思え!」
現場で貴族達を監視する軍人が一喝すると、元貴族達はブツブツと言いながらも作業へと戻る。
彼らに課せられた罰は日替わりダンジョン内での採掘作業だ。しかも、ただの採掘作業刑ではなく特定鉱石を10個採掘するまで刑は終わらない。
当初、魔王やレガド達は噂通りに彼らを死刑にしようと考えていた。
しかし、そこへ待ったをかけたのが冒険者組合。彼らを日替わりダンジョンに送って鉱石採取の作業をさせようと提案したのだ。
日替わりダンジョン内で採れる鉱石は様々。オリハルコン、アダマンタイト、ミスリル……プレイヤー達のインベントリ内に収められている物がほとんどであるが、あって困るような物じゃない。
それらは装備品の修理にも用いられるのでイングリット達も採取をしなければならない物だった。だが、彼らは何かとやらなければならない事が多い。
採取作業を行う時間が取れない。ならば、犯罪者として死刑になる彼らを使おうと考え、待ったをかけたのだった。
協議の結果、イングリット達と魔王との間で契約が結ばれた。
プレイヤー達には採取した鉱石の6割を無償。加えて刑にある特定の鉱石を提供し、犯罪者達の管理は魔王国側が行う事。対し、魔王国側には日替わりダンジョン内にある採掘場の情報と採掘された鉱石の利用方法を提供する。
イングリット達はタダで鉱石類が手に入り、魔王国側には日替わりダンジョンにある採掘場所と鉱石の利用方法――オリハルコン製やアダマンタイト製など、現状使用している鉄製装備品よりも上質な装備品が手に入る。
魔王国側はこの提案に諸手を挙げて喜んだ。今後は重犯罪を犯した者は採掘場送りにしようとニコニコ笑顔で頷いていた。
プレイヤー達も喜んだ。何せ犯罪者が増えれば増える程に採掘量は上がり、イングリット達が手にする鉱石量も増えるのだから。
さらに、プレイヤー側に提供される物にはオマケがある。
魔王国側が提供しなければならない『特定の鉱石』の名は『アンシャロン鉱石』という。
この世界を創造した神の片割れ、女神アンシャロンの名を冠する鉱石。ゲーム内での価格は実に10Gエイル(100億エイル)。
ゲーム内にあったダンジョンのボスから超低確率でドロップするゴッド級アイテムの1つだ。このゴッド級鉱石が実は日替わりダンジョン内の採掘場で採掘できる。
だが、ダンジョンボスからのドロップよりも超超低確率。ゲーム内での噂ではダンジョン内採掘場のランダム1箇所から出土するのでは、とされていた。
今回捕まった者達はこのアンシャロン鉱石を10個採掘するまで刑は終わらない。全員で10個ではなく、各自10個だ。つまり、10個採掘できた者から刑は終わり、自由の身となる。
この刑を提案したのはイングリットとユニハルトだ。後々、この内容を聞いたプレイヤー達は顔を引き攣らせて捕まった者達を憐れんだ。
アンシャロン鉱石は日替わりダンジョン内にある採掘場1箇所から超超低確率で採掘されるが、日替わりダンジョン内にある採掘場は全部で12箇所。
しかも、日替わりダンジョン内は日によって地形が変化する。日によってダンジョン内の最奥に採掘場が固まっている日もあるのだ。
軍人が監視と監督で同行すると言っても、プレイヤー達よりも超絶クソ雑魚な現代魔族にとっては道すがら現れた魔獣との戦闘で命を落とす危険がある。
つまり、採掘場まで辿り着けない日もあるのだ。辿り着けて作業を開始しても、彼らの刑を減刑する鉱石の出土は超超低確率。しかも採掘場はランダム。一番近い採掘場でアンシャロン鉱石が出土する、なんて状況は一体どれくらいの確率なのだろうか。
終わるはずがない。
彼らに課せられた刑が生きている内に終わるのは現実的じゃない。それこそ、女神が微笑んで超超低確率を運良く引き続けなければ無理だ。
「アンシャロン鉱石終身刑……」
「あの2人は鬼畜かよ」
刑の提案をした2人に対し、プレイヤー達は恐れ慄いた。
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貴族達が捕まって以降、冒険者組合内でも変化があった。
捕まった貴族の家族が冒険者組合の仕事に従事する日がやって来たのだ。
貴族の家族といっても様々なタイプがいた。当主が捕まって貴族位を剥奪された事に憤慨して怒鳴り散らす者。意気消沈する者。家族の責任でもあると罪を受け入れる者。
大まかに分ければ、反抗する者とそうでない者だ。
反抗する者達は軍部が少しばかり脅かせば大人しくなる者が大半だった。それでも反抗する者には捕まった本人がいる場所である日替わりダンジョン内の採掘場を見せながら――
「お前もアレをやるか?」
そう言ってやると魔獣に食われたくないと泣き喚いて現状を受け入れた。アンシャロン鉱石終身刑よりも道中出くわした魔獣に対して恐怖を覚えたようだ。
と、そんな彼らを人手の足りない作業に割り振って本日がその仕事の初日。
特に人手不足なのはスーパーマーケット業務よりも冒険者組合本部の業務だ。冒険者組合の名と功績が住民に知れ渡って以降、依頼は増え続けており事務作業も比例して増加している。
そんな冒険者組合の窓口業務は貴馬隊のメンバーが日替わりで担当しているのだが、彼らは本来戦闘要員。事務仕事をさせるには勿体無いので一般人から採用した職員と捕まった貴族の家族を加えて教育しようとなっていた。
一般人から採用された職員は既に業務を始めている中、元貴族の者が冒険者組合のドアを潜ってやって来た。
「き、今日から働きます! リオンです! お願いします!」
冒険者組合職員に採用されたのは、面接時において『マジメ』と評された元伯爵家の少年だった。
捕まった伯爵は賄賂やチョロまかした金で遊びまくる典型的なダメ貴族だったのに対し、息子であるリオンは王立学園でも5指に入るほどのマジメで努力家の少年。
捕まった父の罪を受け入れ、自分達家族にも責任があるとまで言い放ち、爵位を失い、夫の不正行為に意気消沈する母の面倒は自分が見るとまで宣言。
見た目年齢10歳くらい。面接時に出されたジュースを口にして『美味しい』と言いながらあどけない笑顔を見せた可愛らしい少年だ。
「ふーん。あーし好みじゃん」
そんな少年に猛禽類のような目つきでロックオンするのは貴馬隊に所属する女性。名をリュカという。
彼女は『ハイダークエルフ』という種族名を持ち、ダークエルフ族の系譜である準王種族だ。ダークエルフの系譜である為、所謂……生えている人。第三の性別を持つ者である。
だが、その一点だけを除けば彼女の外見はとても魅力的だ。イングリット達がジャハームで出会ったダークエルフ族の長、マーレのように。
長く伸ばした薄緑色の髪を長い耳にかけながら彼女が立ち上がると、黒いビキニで隠された程よい胸がぷるるんと震える。キュッと締まったクビレに黒いビキニボトム。
腕には肘まであるオリハルコン製のガントレット、腰には2本のベルトをクロスさせながら装着し、愛用の武器であるダガーを複数装着させていた。
褐色の肌に黒いビキニ。ダークエルフの系譜は皆、このような格好を好むのか。それとも、どこかマーレの面影を感じさせるからだろうか。
「リオン君って言うんだぁ。あーしが仕事教えてあげるし」
リュカは自身の腰までしか身長のないリオンの前に立ち、見下ろしながらベロリと舌舐めずりした。
「よ、よろしくお願いします……」
リオンは目の前に現れたセクシーな姿のリュカを見ながら、自分の腹の前でモジモジと何度も手を握って落ち着かない様子。
そんなリオンを見たリュカは内心で更に期待度を上げた。
「さ、おいで。あーしが手取り足取り教えてあげる」
「は、はい……」
リュカは窓口までリオンの手を握りながら連れて行き椅子に座る。そして、自分の膝の上にリオンを座らせて、背後から抱きしめるような姿勢で仕事を教え始めた。
彼女の柔らかな2つの果実を背中に感じ、顔を赤らめるリオン。そんな彼を冒険者組合のフリースペースから見る複数の男女がいた。
「おい。ありゃ何だ」
「リュカはショタ好きだろ。やべーよ。アイツの目。あのガキ、もう逃げらんねえぞ」
2人の男は酒の入ったコップを片手にコソコソと囁き合う。
「はー、リュカのヤツ羨ましい」
「いいなー。私も可愛い子欲しい」
2人の男と一緒のテーブルで飲んでいた2人の女性もリュカとリオンを見ながら感想を零し始めた。
女性の片割れは戦闘も良いが、女性の幸せも欲しいと言いながらビールの入ったジョッキを一気に呷る。
そんな言葉を聞いた男の1人がチャンスとばかりに自分を指差してアピール。
「俺なんてどう?」
「は? レア武器しか持ってねえ雑魚はお呼びじゃないんだけど。殺すわよ」
「あたしらが欲しけりゃ貢ぎ金100Mエイル持って出直しな。つーか、勝手に同じテーブルにいるんじゃねえよ」
女性が腰に差しているレジェンダリー級の長剣がキラリと光った。もう一方の女性も背中に収めている槍はレジェンダリー級。
2人の女性は貴馬隊の中でも上位に君臨するプレイヤー達だ。貴馬隊に所属していると言ってもパッとしない男など眼中になかった。
「やめとけ。ホントに殺される」
貴馬隊の装備格差は大きい。男達はテーブルを変えて飲み直し始めた。
読んで下さりありがとうございます。
冒険者組合の話はこれで一旦終わりです。
また合間に日常パート的な感じで描きますが、次話からは主人公PTの話に戻ります。
次回投稿は月曜日です。




