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10 inしたお - メイメイ編 1


 魔王都より北西の地。


 ゴツゴツとした岩と砂があるだけの寂しい景色が広がるこの地は、嘗ての神が力を奪われた事で草木が生えない大地となったと言われている。

 

 魔族の領土にはこういった土地が多い。


 魔王都より北側の土地はほとんど草木が生えず、地中深くにある水脈も枯れてしまったのか井戸を掘っても水は得られない。


 所謂、人が住めない土地というモノだ。


 この荒れた大地で生活する魔族達は魔法で水を生み出して飲料にするか、海の傍に街を作って生活している。

 

 勿論、海の傍に街を作った場合は飲み水は海水――海水を飲み水に変えるマジックアイテムを使う。


 この海水を飲料水に変えるマジックアイテムの開発は偉業と称えられているのだが、それ以外の便利なマジックアイテムは未だ研究段階で開発されていない。 


 研究段階と言っても戦争真っ只中、侵略真っ只中の現世では思うように資金繰りもできずに研究計画が頓挫しているのが現状である。


 他にも魔族領土の現状といえば、魔族の領土内で森林資源のある場所は大まかに2箇所で魔王都の近隣にある森と魔王都より北東のアルベルト伯爵領のみ。


 森林資源が少ないのは気候的な問題――魔族領土と亜人領土は比較的穏やかで年中25度前後くらいの気温で雨も少なくはない――ではなく、大地に満ちる神の力が奪われ痩せた大地になってしまったからである。


 故に畑で新鮮な葉野菜を栽培する農家が存在するのは魔王都とアルベルト伯爵領で、他の街は荒れた大地、痩せた大地でも水さえやれば育つ『根性芋』と呼ばれる生命力溢れる芋農家がほとんどである。

 

 因みに根性芋の味は良いとは言えないが魔王都の偉い学者の調べでは、多少の栄養はあるとされているので住民達は他が育たないから仕方ない、と食べている状況。



 魔族と亜人の主な食料はどこでも育つ根性芋と海で取れる魚、魔獣の肉というなんともバリエーションの少ない状況だ。


 そして、貴重な森林資源がある魔王都北東のアルベルト伯爵領地は、野菜の栽培に加えて森から採取したポーション用の薬草も栽培している土地であったが、その土地も人間に奪われて焼かれてしまった。


 亜人族の領土も同じような状況で、魔族と亜人に敵対する人間とエルフは生活資源の1つを奪うことで敵を追い詰めようとしているのであった。



「う~ん」


 そんな岩に囲まれ、砂の地面に立つのは1人の褐色肌の少女。


 彼女は砂を巻き上げて吹き込む風を150cm程度の小さい体全身で受け、パーティメンバーの1人によって綺麗に手入れされた銀髪のツインテールを揺らしながら腕を組んで現状を理解しようとしていた。


「ウィンドウも表示されない。ログアウトもできないな~」


 腕を組んでうんうんと唸っている彼女の名はメイメイ。


 イングリットのパーティメンバーであり、技巧師という職に就いて活動していた者。


 彼女もイングリットと同じように気がついたあと、体で感じる五感に気付き各種ウィンドウなどが表示されず、ログアウトもできない状況を確認。


 頭の中で現状の整理している最中であった。


「喉渇いたぁ」


 先ほど確認したインベントリからブドウジュースを取り出し、岩と砂だらけの景色をぼーっと見つめながら、ちうちうとストローでジュースを吸い上げる。


「喉潤せちゃうんだなぁ~……」


 ゲーム内では感じる事のなかった感覚があり、それを実際に解消できる。


 どう考えてもゲームとは思えなかった。


「しかも、ゲームのキャラクターになってるし……ん~?」


 そう呟いた後に、待てよ? とある事に辿り着く。


 恐る恐る自身の履いているミニスカートを捲り上げ、中に着用していた可愛らしい白いおぱんてぃを確認。


 なんとも嫌な予感がしながら片手をその白おぱんてぃの中に突っ込むと――


「無い……」


 おぱんてぃの中の手を横に動かすが目的のモノ(・・)は見つからない。


「僕のビックマグナムが無い!!」


 メイメイはリアルで男だった。


 可愛らしく中性的な見た目で、女性物の服を着ても違和感が無い程であったがそれでも性別は男だった。


 そして、現在のメイメイはゲームをプレイしていた時のキャラクターになっている。


 つまりは少女の体になっているということ。


 彼――彼女が叫んだ通り、リアルのメイメイが持っていた可愛らしい容姿とは真逆のドギツイ股間のブツが消失していたのだ。


「………」


 彼女は中性的な見た目だが男であり、恋愛対象は女性であった。


 別に女性になりたいという願望があったわけではなくゲームで性別を女性にして遊んでいたのは、単に自身のキャラクターを男にして3人称視点でゲームプレイする際に自身のキャラクターが持つ男尻を見ながらプレイしたくなかったからだ。


 現実感溢れる世界で、メイメイは意図せず性転換――TSしてしまったのだ。


「これからどうすればいいの~……」


 砂の地面に崩れ落ちるメイメイ。


 彼女は嘗て所持していた男の象徴に別れを惜しみ、立ち直るまでたっぷり2時間程要した。



-----



 どうにか立ち直ったメイメイは砂の大地を南に歩き始める。


 恐らく同じ状況になっているだろう、と思われるパーティメンバーと合流するべく大陸南にある魔王都を目指していた。 


 現在地は不明であるが魔王都が南にあるのは覚えている。


 とにかく南に向かえば何とかなるだろう、という行き当たりばったりな計画だ。


「あ、そうだ。鍵、鍵~」


 この状況に陥った元凶であるイベントで手に入れたアイテム。


 メイメイは歩きながら真実の鍵をインベントリから取り出して握り締める。


 鍵を握り、装着されている宝石に注視していると宝石の中でキラキラと輝く星が光り始めて一筋の柱となって宝石より放たれる。


『真のストーリークエスト1:北西にある神殿を攻略』


 宝石から放たれた光は空中で止まり、クエスト内容を告げるホログラムモニターを表示させる。 


「北西ってどこから~……?」


 どこを基準とした北西の位置なのか、ヒントや地図も無いのでメイメイにはわからなかった。

 

 実のところ、北西の神殿はメイメイが降り立った場所の近くに存在していた。

 

 3人を降ろした者達が始まりの地として指定したのはメイメイがいた場所なのだが、不手際でパーティメンバーはバラバラとなってしまったので男達が考える予定が狂ってしまったのだ。


 本来ならば3人同時の場所――合流済みでクエストが始まり、周辺を探索すれば簡単に見つかる神殿へクエストに従って進むはずだった。


「後回しでいいや。まずは合流しなきゃね~」


 そう呟いて鍵をインベントリに収めた後に南へと進むこと数時間。


 遠くには砂煙が上がるのが見え、人の叫び声が聞こえてきた。


 なんだろう? と思いつつ、人の声がする方向に行けば人に出会えて現在地を教えてもらえる。

 そんな期待を抱きながら叫び声の鳴る方向へ急いだ。


 次第に叫び声とは別に金属同士が叩き合う音も聞こえ始め、音の正体が視界内に見えはじめた。


 メイメイは音の正体を視界内に収めると、近くにあった大岩に姿を隠して戦闘を観察する。


「大陸戦争~?」


 ゲーム内の大陸戦争は全プレイヤー参加型であり、千を越えるプレイヤーの大群がぶつかり合う超大規模な戦争コンテンツであった。


 しかし、メイメイの目に見えている戦闘はそれに比べては小規模で100人くらいが戦い合っているように見える。


 だが、戦っているのは人間とエルフ、魔族と亜人という構図は変わっていない。


 更には運営に贔屓されている人間とエルフ側が押していて、何かと不利な仕様を突きつけられている魔族と亜人側が押され気味という状況もゲーム内と変わっていなかった。  

 

「うーん。装備の差かな~?」


 メイメイが争っている両陣営を隠れて観察していると特に目に付くのは両陣営の装備格差であった。


 人間とエルフが使っているのは『聖銀』と呼ばれる素材を使った武器と鎧。聖銀は魔法防御力に優れ、それでいて硬度も鋼鉄並みにある素材だ。


 聖銀は単純に鉱山から産出する素材ではなく、何かしらの素材を掛け合わせて出来た物なのだがどうやって生産するかは魔族側に属するメイメイはゲーム内でも不明のままだった。


 人間族の種族スキル『群れる力』と呼ばれる、人間族同士が共闘状態になるだけでステータスが強化される永久バフで更にドン。

 

 ゲーム内では『群れる力』が発動しているだけで魔族が一撃加える間に人間族は2発殴れるくらい身体能力が向上され、もう一発殴れるドン! とどこからか声が聞こえそうなくらいだ。


 それに加えてエルフ族特有の魔法が後方から放たれ、各種バフやら攻撃魔法による足止めでそれはもう酷い事に。


 対して魔族側は何の変哲も無い鉄やら鋼鉄製の剣と鎧で対抗。


 魔法を放つもレベルが低いのかエルフの放つ魔法とは比べ物にならないくらいに火力が低く、聖銀製の鎧に直撃しても少しばかりの傷を付けるだけ。


 メイメイの観察している大陸戦争も魔族側の錬度や背後にある砦を使った戦術などで蹂躙はされていないが、それでも防戦が精一杯といったところだろうか。

 

「助けた方が良いよね~」


 助ければ魔王都の場所を教えてくれるかもしれない。


 そんな打算的な期待もあって、メイメイは目の前で繰り広げられる戦闘への参戦を決意。


「まずは後ろの敵を倒すか~」


 インベントリ内に腕を突っ込んで、白銀色の弓を取り出しながら戦闘準備を始めた。 


読んで下さりありがとうございます。

当作品を気に入って頂けたら、ブクマや評価をして下さると嬉しいです。


作者のやる気がモリモリになります。


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