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幕間 ファドナ皇国


「宝物庫に侵入した賊はまだ捕まらんのか!!」


 ファドナ皇国皇都の一番奥に建設されたファドナ皇城の玉座では、怒りで顔を真っ赤にさせた豪華な装飾を施した聖衣を着た白髪の老人――第11代教皇 クルト・スーベル・ファドナが玉座の手摺に拳を叩きつけていた。


「は。南東に魔族が魔獣の大群を連れて現れたとの報告があったので、そちらに向かったと思いまして騎士達を向かわせたのですが……」


「いたのか!?」


「いえ、魔族も魔獣もおらず……。賊の足取りも掴めぬままです」


「馬鹿者があああ!!」


 彼は今し方無能の烙印を押した部下の報告を聞き終えると、再び怒鳴りながら手摺に拳を叩きつける。


「宝物庫には主国より賜った物があったのだぞ!! それを奪われるなど、あってなるものか!!」


 教皇の怒りの原因はどこかの竜人族が宝物庫に潜入して、収めてあった物の半分を奪った件だ。


 人間・エルフ側で流通している貨幣の金貨類を奪われただけなら彼もここまで怒りに身を染めなかった。


 問題は奪われた物の中に主国――聖樹教発祥の地であり、ファドナ皇国の親でもあるベリオン聖樹王国から渡されたマジックウェポンやマジックアイテムがあった事だ。


 彼らにとってベリオン聖樹王国とは主人であり、絶対服従の相手。


 そんな国から賜った物を奪われたと知られ、聖樹王国の機嫌を損なえばファドナの国も住民も簡単に滅ぼされてしまう。


 教皇クルトはまだ死にたくない、まだ死にたくない、と呟く。


 ようやく教皇まで上り詰めて甘い蜜を吸えるようになったのに。このまま何も問題が起きなければ死ぬまで楽をして過ごせたのに。


 玉座に座りながら頭を抱えるクルトは必死に解決策を考える。


「どうすれば良い……! どうすれば――」


「おや。クルト殿。キゲンが随分と悪いようですが?」


 解決策を考えていると、彼が今最も会いたくない人物が玉座の間にやって来てしまった。


「こ、コーナー様……」


 玉座で頭を抱えていたクルトが声のした方向へ顔を向けると、ニコニコと笑みを浮かべる糸目の男が立っていた。

 

 年齢は20代であろう、茶髪で痩せ型の糸目男――アリム・スズキ・コーナー。


 彼は聖樹王国からやって来る教導者の正装であるスーツを身に纏い、手には大鷲の頭を模した装飾のなされた金の杖を持っている。


 彼こそが今最もクルトが会いたくなかった者。主国である聖樹王国よりやって来てファドナ皇国に駐在している聖樹王国の教導者であった。


 アリムの役割は聖樹王国が発祥となっている聖樹教を本国の司祭に代わって同盟国に教え導く、というものであるが実際は同盟国の内政にまで干渉する聖樹王国から来た『監視者』だ。


 同盟国のトップに聖樹王国の意向を伝え、聖樹王国の思う通りに動かさせる。


 動かなければ死、動いて失敗しても無能とされ殺される。


 そして教導者が選んだ次のトップを据えて再び聖樹王国の思惑通りに同盟国を動かすのだ。


 ファドナ皇国の教皇、否、国の上層部なら誰でも知っている。


 ファドナと聖樹王国は同盟国ではない。属国でさえない。


 聖樹王国以外の国、人は全て――聖樹王国の飼う奴隷だ。


 故に、クルトは怯える。


 宝物庫が荒らされたと彼に知られれば自分など簡単に殺されてしまうのだから。


「ここに来る前に聞いたのですが、宝物庫の物が奪われたようですねぇ」


 ニコニコと笑みを崩さず、さらには声音は穏やかに告げるアリム。

 

「お、お待ち下さい!! い、今!! 今、犯人を捜しているところで!!」


 クルトは慌てて玉座から立ち上がり、アリムの前へ跪いた。


 アリムの表情――何を考えているのかわからず、常に表情を変えない姿に恐怖を覚えている者は多い。

 当然、クルトもその1人であった。


「ふうむ。そうですか。なら、この件はお任せしましょうかね」


「へ!? あ、は、はい。お任せ下さい!」


 最大級の危機感を抱いていたクルトであったが、アリムは気にもしていない様子であった。


「ふふ。そう、怯えないで下さいよ。今回は南の地を奪った褒美と相殺しただけですよ。これは渡せなくなってしまいましたがねぇ」


 言葉1つで顔色をぐるぐると変えるクルトを笑うアリム。


 彼は笑みを浮かべながら、ファドナから南の魔族領土――アルベルト伯爵領地――占領の褒美で与えるつもりであった『黄金色のリンゴ』が入った箱の蓋を開けてみせた。


 その黄金のリンゴを見たクルトは視線が釘付けとなり、ゴクリと喉を鳴らす。


 一度味わえば麻薬のように求め続ける甘美なる黄金のリンゴ。


 クルトはその味をもう一度味わう為に南へ騎士団を出兵させたのであったが、賊の侵入によって帳消しになってしまった。


 忌々しい侵入者へ恨みの念を何度も心の中で叫ぶが、未だ視線はリンゴに向けられていた。


「魔族のポーション供給源を焼き払い、さらには上質な供物まで手に入れたのは良かったのですがねぇ。残念でした。まぁ、次の機会に取っておきましょう」


 開けた蓋を閉じながらアリムは言葉を続ける。


「本国は供物の追加を要求しています。魔族領土の王領になっている場所へ第1騎士団の誰かを差し向けて供物の大量獲得に励んで下さい」


 ファドナ皇国第1騎士団。


 それはフォドナ皇国の中でも最も強者の揃う、ファドナ最強騎士団だ。


 歴代教皇の中でも一際臆病なクルト教皇は、国防の要でもある第1騎士団は皇都からあまり動かしたくはない。


 だが、アリムの言葉は聖樹王国の言葉でもある。拒否はできなかった。


「わかりました。聖槍を向かわせます。」 


 聖樹王国より賜った最強武装の1つ、聖槍を使いこなす第1騎士団所属 第4番隊隊長の1人。


 残虐性のある性格が難な男であるが、実力は折り紙つき。


「ええ。お願いしますよ。あまり失敗が続くと……さすがの私でも見過ごせませんからねぇ」


 アリムがそう言うとクルトはビクリと体を震わせ、膝をついていた体勢のまま深く頭を下げた。


 頭を下げるクルトから背を向けてアリムは何も言わずに玉座の間を後にする。


 皇城の廊下を歩き、廊下を行く皇国の者に頭を下げられながらアリムは小さく呟いた。


「馬鹿な奴隷共が作った魔法陣と言えど……宝物庫地下の魔法陣を壊すのは容易ではないんですがねぇ。一応、本国に連絡しておきましょうか」


 この国の宝物庫の中身が奪われた事は大した問題じゃない。


 聖樹王国が下賜した物ではあるが特に重要な物も無い。庶民でも手に入れられるようなただのゴミだ。


 ただ、少しだけ惜しいのは『レア』な供物が奪われた事か。

 

 しかし、アリムにとって重要なのは供物を拘束していた魔法陣は強力な物で、それを打ち破った者が魔族に現れたという事。


 それを本国に報告しないで後から問題視されても困る。


「ホウ・レン・ソウは基本ですしねぇ」


 アリムは廊下を歩きながら胸ポケットへ手を差し込み、胸ポケットから板状のマジックアイテム――携帯端末(スマホ)を取り出して操作し始めた。



読んで下さりありがとうございます。


当作品を気に入って頂けたら、ブクマや評価をして下さると嬉しいです。

作者のやる気がモリモリになります。

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