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95 駄馬の愉快な仲間達


「えっえっ」


「…………」


 あまりにも衝撃的な死を遂げたユニハルト。彼を殺した人間は未だ困惑状態である。


 一方で天へと昇って行ったユニハルトの魂を見送ったイングリットは少々の焦りを感じていた。


(マズイぞ……! 俺が押したせいか!?)


 ユニハルトの死因はイングリットが尻を押してしまったのが原因……いや、原因の一部だろう。


 直接的な原因でなくともイングリットの行動が絡んでいるのは明白。


 イングリットはチラリとユニハルトのレギオンメンバー達がいる方向を見やる。


 レギオンメンバー達はイソイソと準備中らしくこちらを見ている者はいないように思えた。だが、不安要素は潰しておくべきだろう。


 後々にレギオンメンバーからユニハルトの死に対して賠償金を払えと要求されても面倒だ。


「お前!! よくもユニハルトを!!」


「えっ……ぐぎゃあ!」


 イングリットは困惑していた人間の騎士を大盾で思いっきり殴って殺した。


「テメェ等も同罪だッ!!」


 そして周囲を囲む人間達を今まで以上の力を出し、本気で全滅させた。これで敵側の目撃者は消え失せた。


 あとはレギオンメンバーのいる位置まで戻り、ユニハルトが然も人間にキルされたかのように報告すれば万事解決。


 イングリットは全力ダッシュで砦へと戻って行った。



-----



 一方で、砦ではクリフ達がレギオン『貴馬隊』の副マスターと話をしていた。


「セレネちゃん。魔力ポーション余ってない? 余ってたら売って欲しいなぁ」


 クリフは副マスターであるセレネというアイドルのようなフリフリにリボンマシマシなトップスと動けば下着が見えそうなミニスカートな衣装を着用している少女――少女の見た目をした者にポーションを売ってもらえないかと交渉中。

 

 セレネは赤紫色の髪をセミロングまで伸ばし、髪には黒縁の白いリボンを巻いて可愛さを200倍まで引き出している最中だった。


「あ? 魔力ポーション? 良いけど、何本だ?」


 交渉を持ち掛けられた少女のような外見をした者、セレネは外見の美少女っぷりからは想像も出来ない程に荒い口調で返す。


 彼女……いや、彼は生物学上では男である。フリフリでミニスカなアイドル衣装を着ているが男だ。


 メイメイがリアル男でキャラクターは少女の見た目を使用し、こちらの世界に転送された事によって中も外も女性になった。


 対し、このセレネはアンシエイル・オンラインをプレイしていた頃から男キャラクターを使用している、生粋の男プレイヤーだ。


 しかし、彼のキャラクターメイクは美少女っぽい男。つまり、男の娘というやつであった。


 少女のように可憐な男。男の娘。それでいて、彼の種族はハーピー種の準王種族セイレーン。


 職はヒーラー系統に分類される『アイドル』で、これが着用している洋服の理由だ。


「上級を10本くらい欲しいな。敵のボスを倒さなきゃなんだけど、ポーション切れてて」


「しょうがねえな。いいよ」


 セレネはインベントリからポーションを取り出してクリフに手渡し、クリフはゲーム内の相場で10本分の代金と交換した。


「しっかしよー。ほんとに現実世界なのかよ」


 セレネはこの世界に来た際に一目散に飛び出して行ったユニハルトと違って、五感を感じる事に戸惑っていた。


 そこに丁度良くクリフ達を見つけたので事情を話して、こちらの世界の事を少しだけ聞けたという状況。


 未実装エリアと聞かされていた場所が実は現実世界となれば、初期の頃のイングリット達と同様に実感が沸かず、信じ難いと思うのも無理はないだろう。


「信じられないと思うけどね。飲食も出来るしトイレも出来るんだ。それに痛覚もあるから……。ゲーム内とは思えないよ」


「マジかー。でもまぁ、やる事はあっちと変わらないな」


「変わらないって?」


「俺様達は運営に未実装エリアで大陸戦争をしてクエストをクリアしていけば報酬が貰えるらしいんだ。ほら、これ」


 そう言ってセレネが取り出したのはクリフ達の持つ『真実の鍵』のようなクエストアイテムである『闘争の角笛』というアイテム。


「これ、大陸戦争が始まると音が鳴ってメッセージが聞こえるんだよね。見た目ダッセェけど」


「へぇ。私達のは鍵だね。こっちはダンジョン制覇がメインぽいけど」


 お互いにクエストアイテムを見せ合いながら、互いに与えられたクエストの系統を確認する。


「他のメンバーも持ってるの?」


「そうだよ」


 クリフが視線を他のメンバー達に向けると、そこでは撮影会が始まっていた。


「生シャルたん可愛い!!」


「やべえ! マジでのじゃのじゃ美少女!!」


「スクリーンショット良いですか!?」


「自分、見抜きイイっすか?」


 貴馬隊の男キャラクター達に囲まれるのはシャルロッテとメイメイ。


 シャルロッテは突然群がってきた男達に困惑し、メイメイは彼らからシャルロッテを守るように抱き寄せる。


「な、何なのじゃ!? お主等、なんなのじゃ!?」


「こらこら~! スクショは禁止~!」


 男達が手に持つ『カメラ』というスクリーンショット撮影用のアイテムによる、パシャパシャと光るフラッシュに囲まれる2人。


「美少女2人が密着! たまんねぇ!」


「技巧少女もアイテム絡みだと悪魔みたいなヤツだけどツラは良いからな!」


「ヒューッ! 視線、こちらに下さーい!」


 メイメイが撮影を止めるように言うが、パシャパシャと光るフラッシュは途絶えない。


「おい! クリフ!」


 困っている2人を助けようかな、とクリフが動こうとしたところでイングリットが走り込んできた。


「おい! ユニハルトが死んだぞ!」


 どうしたのか、とクリフが問う前にイングリットの必死な叫びが飛び出す。


 ユニハルトといえば貴馬隊のリーダーである。彼が死んだとあれば大事だろう。メンバー達も慌てふためくかと思いきや。


「ああ、死んだの? アイツ、RvRでも開幕早々死んでるし。大陸戦争じゃいつも死ぬから問題ないよ」


 と、平然としながら返答するセレネ。


「あ? うちの駄馬が死んだ? んな事より、俺は撮影で忙しいから」


 他のメンバーも気にもしない様子。イングリットの心配は杞憂だったようだ。


 しかし――


「黒盾ェー! 往生せえやァー!」


 貴馬隊のメンバー数人がドスを構えてイングリットに特攻。勿論、カチコチタンクなイングリットの鎧に刃は防がれてしまう。


 突然背中を奇襲されたイングリットは少々驚くが、ダメージを受けてない事で脅威とは感じず。


 もしや、ユニハルトが死んだ理由を知っている者か? と脳裏に考えが過ぎる。


「コイツ等はユニハルトの信者か何かか?」


「いや、コイツ等はお前とあのシャルロッテ? がイチャコラしてたのが気に食わないメンバー」


 ガキン、ガキンと鎧に刃を打ち付けられる中でイングリットが内心ドキドキしながら問うとセレネが理由を教えてくれた。


「は? イチャコラってなんだよ。してねぇよ」


「お前等の行動はあっちじゃライブ配信されてたんだよ」


 イングリット達がこちらの世界に来た当初から行動がライブ配信されていた、とセレネが説明するとイングリットとクリフは露骨に嫌そうな顔を浮かべた。


 イングリットはどうにかしろよ、とセレネに言うが。


「アイツ等もこっちに来れたんだし、そのうち収まるでしょ」


 放置でOKという事でまとまった。実際ダメージを受けていないのでイングリットも放置で問題無いと結論付ける。


「んじゃ、俺様達はいくわ。敵の数減らしてやるからよ。適当なタイミングで目的果たして来いよ」


 クリフによって敵将を討たなければならない理由を聞いていたセレネは情報収集をそこそこに大陸戦争へ参加すべく向かう様子。


「そろそろ()るぞー」 


「「「 ういー 」」」


 まだ無事な城壁に向かって行くセレネは他のメンバー達に声をかけると、撮影会をしていたメンバー達は素直にインベントリにカメラを仕舞って返事を返す。


 カメラを仕舞った代わりに取り出したのは彼らの武器。剣、槍、双剣、大剣……アンシエイル・オンライン内で得た様々な武器を担いで戦場へと向かって行った。


 一部、イングリットを射殺すように睨み付けている者もいるが向けられている本人はスルーを決め込んだ。


「あ、あの者達は何者なのじゃ?」


 ようやく解放されたシャルロッテがメイメイと共にイングリットとクリフへ駆け寄ってくる。


「心配するな。あいつらは大陸戦争ガチ勢だ」


 イングリットは一部コンテンツにおいては心強い味方達の背中を見つめながら告げる。 


 それはクリフもメイメイも同様に思っている事であったが――


「ガチ勢って何なのじゃ?」


 シャルロッテだけは首を傾げていた。


読んで下さりありがとうございます。

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