ロスト・ユリング〜犯罪スレスレの保護者〜
閲覧ありがとうございます。
「んあーーー!」
「うるせえ」
女子小学生、倉田麻子。とあるボロアパートの一室で作業に没頭していた彼女の安寧を打ち砕いたのは、同居人の女性の叫び声だった。
「おへそが! おへそが描けない! インスピレーションがぁっ!」
「うるせーなー」
「ねえ麻子ちゃん! 今すぐ服を脱いでおへそを見せて!」
「やだよ。エロ漫画家なんだろ。妄想でなんとかしろ」
「うぅ……。幼女のぉ……幼女のおへそぉ…………」
「気持ちわりぃ……。やっぱコイツの家に住むのやめときゃよかったか……」
「そんなこと言わないで麻子ちゃぁんっ! ……さっきから、なにしてるの?」
「ん? 今朝ゴミ捨て場で見つけた布切れと羽毛枕を使ってヒグマのぬいぐるみを作ってんだよ」
「え、でもウチに裁縫道具なんてあったかな……」
「安全ピンと糸くずでなんとかした」
「器用だねぇ……」
この部屋の主であるエロ漫画家。彼女は極度のロリコンであった。原稿の締め切りに追われる日々の中、ひょんなことから面倒を見ることになった倉田麻子なる幼女は彼女にとって絶好の作画資料であり、癒しであった。……いや「癒し」などという生優しいものではない。まるで自身の性癖に応えるように運命的な出会いを果たしたこの幼女に対して、彼女は保護者としての目線というよりも、性的なそれを持ち合わせることの方が遥かに多い。日常的に倉田麻子へ「イメージ作り」と称して小学生に求めてはいけないような破廉恥なポージングやセリフを要求し、その度に「なんだそれは」「知らん」「嫌だ」と一蹴されてきた。だがしかしいくら達観しているとはいえ、所詮幼女は幼女。真夜中のイタズラは成人の彼女にとっては容易い。彼女は時にその欲望に負け、熟睡している倉田麻子の衣服を捲ったりもしていた…………が、その事実は墓場まで持っていくつもりのようだ。
「……おい」
「え?」
「この絵は、なんだ」
倉田麻子が示した「この絵」とは、エロ漫画家が原稿の気分転換に鉛筆で描いていたとある「落書き」だった。
「げっ!」
チラシの裏に幾つもの細やかな線で形づくられたそれは、見事に「ぺたりと床に座り込み、頬を赤らめ、小学生にしてはかなり際どい水着を纏った倉田麻子」を繊細に描写ものであった。
「確かに妄想でなんとかしろとは言った」
「そ、そうだよね!」
「だがよりによって私にする必要があったのか? お前の漫画に出てくる『くらら』とかいうキャラでも良かったんじゃねぇのか? あん?」
「ご、ごめんちゃい……。……だって、麻子ちゃん私のタイプだし、大人パワーでねじ伏せて無理矢理チューするおねロリ物とか、麻子ちゃんで妄想しちゃうし……」
「…………」
エロ漫画家には、彼女を見下す幼女の瞳に「蔑」の文字が浮き出ているように見えた。
「今まで世話になったな。あとサツに通報しとくな」
「あー! 行っちゃダメぇっ!」
玄関扉のノブに手をかける倉田麻子を必死に引き留めるエロ漫画家。
これもまた、この二人の日常の風景であったのだった。
今回の短編は麻子さんの過去の一ページでした。