W 007話 自由意思
1930年◯◯月◯◯日 『日本 とある組織の某所にて』
とある建物の中にある広い講堂の中。壇上から一人の男が大勢の若者に向け話しかけていた。
聞いている若者達は整然と列を成し身動ぎ一つせず話を聞いている。
話している男の地位と身分が高い故だろう。
「諸君らを集めたのは他でもない。
君達に受けて欲しい任務があるからだ。
だが、これは筆舌に尽くし難い苦労と困難と危険とを伴う。
それも長期間に及び日本には戻れない。
軍籍からも抜けてもらう。
そして最後は十中八九死ぬ事になるだろう。
だが無駄死には決してさせん。これは国のためなのだ。
それは儂が保証する。
任務の詳しい内容についてはその特殊性から前持って話す事はできん。
この任務を受諾する事に決めた者にのみ話す。
故に任務を受けるか否かは諸君らの自由意思に委ねる。
辞退しても罰するような事はしない。
君達の軍歴にも響かない事を約束しよう。
儂からは以上だ」
男が壇上から立ち去るとその副官らしき者が出て来て、明日の朝に任務に志願するか否かの確認をとるので、それまでは自由時間とし、よく考えるようにと言い解散を告げた。
列が崩れ騒めき起こり講堂の中にいた者達は皆、出口に向かい始める。
「お前はどうする?」
「どうするかな……」
「外国は練習航海で行っただけなんだよな。俺は故郷に家族もいないし。志願するかな」
「お前も家族がいないのか。俺もだよ。でも軍籍から抜けるのがな」
「俺は志願するぞ。閣下が選んでくだされたのだ。軍人になった時から死は覚悟している。貴様は?」
「今夜一晩ゆっくり考えるよ」
そんな会話があちらこちらで聞かれた。
知り合いのいる者はどうするかを話し合い、知り合いのいない者は一人で懊悩している。
その時から一晩、彼らは少ない情報を元に考え悩み、翌朝には自身の一生を左右する決断をする事を余儀なくされた……
【続く】