W 004話 噂話
193◯年 『日本』
日本は苦難の時を歩んでいた。
1929年にアメリカに端を発した恐慌は世界中に波及して世界大恐慌となり、日本もそれに呑み込まれた。
日本国内でも多数の企業が倒産し多くの民が塗炭の苦しみに喘いでいる。
だが、そんな中でも飛ぶ鳥を落とす勢いの民間会社もある。
それが「閑見商会」だ。
経済界の片隅で声を潜めて語られる噂によると、皇族の伏見宮家と閑院宮家が秘かに財産、土地や建物、代々伝わる家宝や名品を全て担保にして資金を作り、幾つもの投資を行い、驚くべき事に、その投資の全てに成功して莫大な財産を築いたようだ。
その資金を元手に1910年に設立されたのが「閑見商会」と言われる。
「伏見宮」と「閑院宮」から一字ずつ取って付けた商会名とも言われるが、それを宮家に確かめた者はいない。
もう一つ噂がある。
伏見宮家が積極的に投資に乗り出したのは伏見宮博恭王の考えによるものという噂である。
まだ先代の貞愛親王が伏見宮家当主だった頃に、博恭王が貞愛親王を説得し投資に乗り出したらしい。
閑院宮家の場合は既に家督を継いでいた載仁親王の一存だっという噂である。
伏見宮家と閑院宮家が秘かに財産を掻き集め投資につぎ込んだ事は陛下のお耳にも入り、一言あったとも言われているが、その真偽は定かではない。
それはともかく伏見宮家と閑院宮家が立ち上げた「閑見商会」が商売に乗り出し大きな利益を上げたのが海運業と金鉱山だと言われる。
特に第一次世界大戦中には戦争で船が不足する欧州の国に船を貸す傭船事業で莫大な利益を上げたようだ。
傭船業では他にも日本で傭船成金と呼ばれる者が何名も出現しているが、終戦時期の見極めを失敗し資産を減らした者が殆どだ。まだまだ傭船業で利益を得られるだろうと船を買い増していたら戦争が終わって傭船業の市場は萎み大損したのだ。
だが、驚くべき事に「閑見商会」は終戦前に全ての持ち船を高値で売り抜けている。
まるで終戦の時期を正確に知っていたかのように…
また朝鮮半島での鉱業権を獲得し金鉱山開発に乗り出した時も、既に有望な金と銀の鉱脈の在り処を知っていたかのように失敗する事が無かったとも言われる。
今では朝鮮半島での有数の金鉱山、銀鉱山を複数保有している。
そして、世界大恐慌の時もまるでウォール街での株の暴落をあらかじめ知っていたかのように、暴落が始まる前に全ての外国株を売り抜けていたという噂だ。
その後は、日本と外国で暴落した会社の株を安く買い漁り、会社の経営権を握り、会社の設備を売り払ったり分野ごとに他社に売り払い、かなりの利益を得たらしい。
まるで1980年代の伝説的なアメリカ人投資家ア○○○○・◯◯◯○○の様な遣り口である
そうした経済活動の結果、今や「閑見商会」は日本の経済界において揺るぎ無い立場にある。
その莫大な資産を担保している「閑見商会」が、これからどのような経済活動を行い、何をしようとしているのか……
経済界の片隅から密かに注目している者は多い。
【続く】