表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

W 001話 戦艦大和・武蔵 VS オアフ島要塞

【筆者からの一言】


この作品、実は「総長戦記」よりも先に書いていました。

種々の事情から本日公開と相成りました。

幾つかの話しは「総長戦記」や「摂政戦記」等で先に使用し既出になっていますが、本来はこちらが先になる筈でした。

とは言え、この作品ではウラン爆弾(原子爆弾)は使わないので、「総長戦記」や「摂政戦記」とはかなり違う感じのお話となる予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

 1942年9月 【ハワイ沖 連合艦隊主力艦隊】


 連合艦隊旗艦である戦艦「大和」の艦橋後方にある信号旗用ヤードに「総員戦闘配置」の信号旗が高々と翻った。

 艦隊を構成する全艦で戦闘準備が始められる。


「総員戦闘配置!! 総員戦闘配置!!」

 各艦の甲板士官が艦内放送システムで命令を全将兵に伝達している。

 総員戦闘配置を知らせる艦内ブザーも鳴っている。 

 艦橋後方に配置されているラッパ手も総員戦闘配置のメロディを高らかに吹鳴している。

 艦橋の片隅では主計科の記録係が命令の出た時間を記録している。


 どの艦でも将兵が急いで配置に就くべく狭い艦内を急いで駆けていた。

 将兵の顔は真剣そのもの。必死の形相すらしている者さえいる。

 だが、どの将兵にも混乱や迷いは見られない。何百何千回と、この日の為に訓練を繰り返して来たのだ。

 その成果が出ている。


 更に各艦の艦橋より命令が続いて発せられた。 

「爆風抜き扉開けっ!」

「防水扉閉めっ!」


 配置に就き準備の整った部署からは直ちに艦橋に報告が齎される。

「機関室戦闘配置よしっ!!」

「第三砲塔戦闘配置よしっ!!」

「第二高角砲塔戦闘配置よしっ!!」

 また配置に着くと同時に改めて不要な可燃物が無いか、確認され、あれば海に投棄された。


 全ての部署が戦闘配置に就いた頃、旗艦「大和」に新たな報告が入って来た。


「制空隊より入電! ハワイ上空脅威無し、です!」

 通信班より報告が上がる。


「よしっ、観測班飛ばせ!」

 予め決められていた計画通りに命令が下されていく。 

 遅滞も躊躇も無く速やかに命令は伝達され実行された。

 観測機がカタパルト上を鋭い擦過音を立てながら飛び立ち青空に舞う。


 まるで機械の歯車のように、艦隊は全ての準備を整えて行く。


 これから、この艦隊はハワイのオアフ島要塞と砲撃戦を行うのだ。


 基本的に要塞砲と戦艦の撃ち合いでは戦艦が不利である。

 要塞砲は地上に設置されているから、戦艦よりも厚い防御を施せる。

 それに海の上の戦艦とは違い、波による揺れが無いから命中率も戦艦より高い。

 だが、砲の口径、射程、数、配置場所という要素を含めれば、いつも必ず戦艦が不利というわけでも無いし、必ず要塞砲に戦艦が敗北するというわけでも無い。

 

 だからこそ史実には艦砲が要塞砲に撃ち勝った例が幾つも見られる。


 故に連合艦隊は、オアフ島の要塞砲との撃ち合いを挑むのだ。


 オアフ島には現時点で、戦艦並みの大口径の要塞砲が30門ある。

 40.6センチ砲が4門。

 35.5センチ砲が2門。

 30.5センチ砲が24門。

 総計30門。

 戦艦約4隻分の大砲がある。


 だが、この30門のうち実に16門が旧式だ。

 元々配備されていた砲の幾つかは旧式であったし、真珠湾攻撃を受けた事から保管されていた旧式砲を慌てて引っ張り出して新たに要塞に設置してオアフ島の防衛力を増強したという経緯もある為、要塞砲の過半数は旧式砲が占めているという事情がある。


 また、射程から言えば30キロ以上の長射程を持つ砲は4門しかない。

 20キロ代の射程の大口径砲は無い。

 10キロ代の射程を持つ砲は18門。

 約9キロの射程しかない砲も8門ある。


 実は全30門のうち三分の二を占める20門が射程の短い臼砲型の大砲なのだ。

 臼砲型は真っ直ぐ直線の弾道で目標に弾を撃ち込むのではなく、山なりの弾道で目標を破壊するタイプの砲であり射程が短い。

 ただし、要塞砲の場合、強固な防御施設の中に設置され射界が限定されている物もあるが、臼砲型は射界が限定されず全方向に撃てるという利点もある。


 つまり、オアフ島要塞には長射程の大口径砲が少ない。

 これは一つの弱点である。


 そのオアフ島での要塞砲の配置は南部に偏っている。

 戦艦並みの大口径の要塞砲は全部がオアフ島南部の重要な真珠湾基地やホノルル港を守る体制にある。


 元々、アメリカがハワイを併合した頃のオアフ島の防衛は、敵が来た場合はホノルル港など重要な拠点がある南部だけ防衛しておき、アメリカ本土からの援軍が来るまで持ち堪えればよいという戦略だった。

 そのため南部の守りに重点が置かれ北部の防衛は切り捨てていた。


 この当時は、アメリカ海軍の太平洋艦隊主力もオアフ島を一時的に泊地として利用する程度だった。

 常駐しているのは潜水艦部隊などの一部の戦力であり、オアフ島全部を守る必要性もそれほど認められていなかった。


 しかし、時が流れオアフ島にアメリカ海軍の太平洋艦隊主力がいるようになり真珠湾基地の施設と規模が拡大され、大規模な航空部隊も配備されるようになると、オアフ島の防衛体制も見直され北部にも防衛拠点が設けられるようになったのだ。


 だが、やはり南部に比べるとその守りは薄い。

 史実における後世、オアフ島攻略のシミュレーションを某誌に寄稿した元防◯大学校教官は、北部に上陸作戦を行う案を提示している。 



 オアフ島南部の防衛態勢を見た場合、まずは中枢とも言えるのが、オアフ島南東部の「ダイヤモンド・ヘッド」だ。


「ダイヤモンド・ヘッド」は南東部に突き出したような位置にある。

 大戦中は民間人の立ち入り禁止区域だが、現代では有名な観光スポットだ。

 山とは言っても山頂の展望台まで若者の足で片道約30分程度だ。


 この「ダイヤモンド・ヘッド」展望台が実は大戦中におけるオアフ島南部の三要塞の射撃観測所であり、射撃指揮をとる重要な役割を果たしていた。コンクリート造りの4階建てだった。

 現代では気軽に観光客が訪れられるが、ここに射撃観測所兼射撃指揮所を建設するのはアメリカ軍にしても大変な建設作業で、何と3年以上の歳月を費やして完成させている。


 この「ダイヤモンド・ヘッド」周辺に構築されたのが「ルーガー要塞」だ。

「ルーガー要塞」には幾つかの砲台がある。


 海側から見て「ダイヤモンド・ヘッド」の裏側にあるのが「ハーロー砲台」と「ビルクヒマー砲台」だ。

 ここには口径30.5センチのM1890M1臼砲が12門配置されている。つまり「ダイヤモンド・ヘッド」の上を越えて海側の敵を狙い撃つわけだ。直接、目標を捉える事はできないが、敵から直接見られる事もない。

 そのため目標に狙いをつけるのは「ダイヤモンド・ヘッド」の射撃観測所兼射撃指揮所に任せる態勢だ。また、このM1890M1臼砲は旧式で、開戦前にその多くは保管状態にあったものだ。

 それに射程も短く約11キロしかない。


 面白いのは「ルーガー要塞」の「ビルクヒマー砲台」に配置された2門の要塞砲だ。

 ここには口径20.3センチのM1888砲が2門配置されている。この砲は本来「列車砲」だ。


 現代においてオアフ島に列車は走っていない。廃止されたからだ。

 しかし、この当時はオアフ島には列車が走っていた。ホノルル港からオアフ島西側の海岸線を北上してそのまま北部海岸線を走り、東部の北のカハナに到達する路線と、同じくホノルル港から島中央部のワヒアクまで走る路線だ。


 アメリカ軍はこのオアフ島西部と北部の海岸線を走る路線で「列車砲」を使用し、西部と北部の防衛態勢に組み入れていた。この列車砲は16門あり「第41沿岸砲兵連隊」として編成されている。

そのM1888列車砲の射程は約18.2キロだ。口径が20.3センチという事は重巡洋艦の主砲クラスという事でもある。


 それにしても何故、2門だけ「ビルクヒマー砲台」に設置されたのだろうか。

やはり「ルーガー要塞」に長射程の火力が不足していたと判断されたからだろう。

「ルーガー要塞」には他に日本との開戦後に急遽造られた「ドッジ砲台」があり旧式の10センチ砲が11門配備されているが、日本の駆逐艦でさえ、その主砲は12センチか12.7センチだ。


 他に「ルーガー要塞」には5.7センチ砲が12門配備されているが、いかにも小口径すぎる。

 つまり「ルーガー要塞」は砲の数は多くても、射程の長い砲は少ないから比較的射程の長い列車砲を配備したのだろう。それでも「ルーガー要塞」には20キ以上の射程を持つ砲は1門も無いという事だ。


 ホノルル港と「ダイヤモンド・ヘッド」の中間あたりにあるのが「デルーシー要塞」だ。

 この要塞には「ランドルフ砲台」があり、そこには口径35.5センチのM1907砲が2門配備されている。

 この砲は戦艦級の口径であり、実際、旧式戦艦の砲だったものだ。旧式な為に口径は大きいが射程は短く約16キロだ。


「デルーシー要塞」には他に「ダドレイ砲台」もあるが、こちらは口径15.2センチのM1908M1砲2門が配備されている。巡洋艦の主砲クラスの砲だ。射程は約25キロある。

 この「デルーシー要塞」は低地にあり、そのため目標に狙いをつける時は完全に「ダイヤモンド・ヘッド」の射撃観測所兼射撃指揮所に任せる態勢だ。


 ホノルル港近くには「アームストロング要塞」がある。

 ここには口径7.62センチのM1903砲2門が配備されている。その射程は約10.5キロだ。


 そして真珠湾と外洋を繋ぐ水道の東側にあるのが「カメハメハ要塞」だ。

 ここにも幾つかの砲台がある。


「セルフリッジ砲台」には口径30.5センチのM1895M1砲が2門配備されている。この砲は戦艦級の口径であり、実際、旧式戦艦の砲だったものだ。この砲も旧式な為に口径は大きいが射程は短く約17キロだ。


「ハスブローグ砲台」には口径30.5センチのM1908臼砲が8門配備されている。戦艦並みの口径だが臼砲なだけに射程は短く約9キロだ。


「ジャクソン砲台」には口径15.2センチのM1908M1砲2門が配備されている。巡洋艦の主砲クラスの砲だ。射程は約25キロある。


「ホーキンズ砲台」には口径7.62センチのM1903砲2門が配備されている。この射程は約10.5キロだ。


 真珠湾と外洋を繋ぐ水道の西側にあるのが「ウェーバー要塞」だ。

 この要塞には「ウィリストン砲台」があり、口径40.6センチのM1919MKⅡ砲2門が配備されている。

 この砲はワシントン軍縮条約で建造中止になった戦艦の物だ。

 射程は約38キロあり、オアフ島最強の要塞砲の一つだ。


「ウェーバー要塞」から西に約3.5キロほど離れた場所にあるのが「バレッタ要塞」だ。

 この要塞の「ハッチ砲台」には「ウィリストン砲台」と同じく口径40.6センチのM1919MKⅡ砲2門が配備されている。


「ウェーバー要塞」と「バレッタ要塞」は北側にあるプパライライ山の観測所兼射撃指揮所から指揮を受ける。プパライライ山の観測所兼射撃指揮所に何か問題が発生した場合に備えて、各砲台には観測所も設けられている。


 これらの要塞がオアフ島要塞の南部を守っている。



 この中で、やはり「ハッチ砲台」と「ウィリストン砲台」の口径40.6センチのM1919MKⅡ砲は最も日本軍が警戒すべき砲だろう。


 特に「ウェーバー要塞」の「ウィリストン砲台」の40.6センチM1919MKⅡ砲2門は全周旋回が可能で、全方向へ砲口を向ける事ができる。その上、射程が38キロもあり、その砲台の位置からオアフ島全域を射程内に捉える事が可能だ。


「バレッタ要塞」の「ハッチ砲台」のM1919MKⅡ砲2門は射界が南部に限られている。これは日本軍による真珠湾攻撃の後、砲台の防備を固める為に露天だった砲台をコンクリート製の掩蓋で覆った結果だ。


「ハッチ砲台」と「ウィリストン砲台」の口径40.6センチのM1919MKⅡ砲は警戒すべき砲ではあるが、だからと言って無暗に恐れる事もない。


 戦艦「大和」「武蔵」に搭載されている46センチ砲は世界最強の砲との呼び声も高い。

 だが、その砲にしても1発で敵戦艦を撃沈できるとは考えられていない。敵戦艦を沈めるには少なくとも5発~6発の命中弾が必要と考えられていた。


 それを思えば戦艦1隻分にも満たない4門の40.6センチ砲があるからと言って、正面から戦って日本の戦艦部隊が一方的に全滅するなどという事は考え難いだろう。


 だが幸運な1発というやつは常にある。イギリスの戦艦「フッド」を撃沈したドイツの戦艦「ビスマルク」の放った1弾などがそれだ。1発が装甲を貫通して弾薬庫で爆発し大きな誘爆を招き、「フッド」は正に轟沈している。

 何事も油断は禁物だ。


 

 そのオアフ島要塞の最も守りの固い南部に、今、連合艦隊の戦艦部隊が敢えて真正面から砲撃戦を挑もうとしている。

 守りの薄い北部ではなく南部にだ。


 この作戦に連合艦隊は8隻の戦艦を投入した。

 その10隻に搭載されている大口径の大砲で30キロ以上の射程を持つのは66門である。


「大和型」が46センチ砲を9門搭載し、「大和」「武蔵」の2隻があるので合計18門。

「長門型」が40センチ砲を8門搭載し、「長門」「陸奥」の2隻があるので合計16門。

「金剛型」が36センチ砲を8門搭載し、「金剛「「榛名」「比叡」「霧島」の4隻があるので合計32門。


 30キロ以上の射程で撃ち合えるのは日本側66門 VS アメリカ側4門という事になる。


 だが、まず先陣を切るのは「大和」と「武蔵」の2隻だ。


 戦艦「大和」が目標とするのは「ハッチ砲台」の射程38キロの口径40.6センチのM1919MKⅡ砲2門。

 戦艦「武蔵」が目標とするのは「ウィリストン砲台」の射程38キロの口径40.6センチのM1919MKⅡ砲2門。

 

 戦艦「大和」と「武蔵」の位置から敵砲台までは39キロの距離を維持していた。

 戦艦「大和」と武蔵の46センチ砲は最大射程42キロ。

 39キロは敵の射程外だが46センチ砲ならば届く。


 第六戦隊の巡洋艦「青葉」「衣笠」「加古」「古鷹」の4隻と第21駆逐隊の4隻が煙幕を張り始めた。

 煙幕によりオアフ島と戦艦「大和」と「武蔵」の間を遮り、敵から見えなくするのだ。


 それにより、もうもうたる煙が戦艦「大和」「武蔵」とオアフ島を隔てる事となった。


 39キロという距離は互いには直接見えない距離だ。

 アメリカのレーダーも探知範囲外だ。


 しかし、日本側は観測機を飛ばしているから相手が見える。

 制空権をとった強みを最大限生かす作戦だ。

 

 だが、アメリカ軍もプパライライ山の山頂にある観測所兼射撃指揮所からは見えるだろう。

 そのプパライライ山とダイヤモンド・ヘッドには既に第1機動部隊から航空隊が向かっている。


「観測班より入電! 我準備良し! 第1機動部隊からはプパライライ山とダイヤモンド・ヘッドへの牽制攻撃を開始したとの事です」

 通信班より報告が入る。


 第1機動部隊から出撃した艦上爆撃機隊がプパライライ山と、ダイヤモンド・ヘッドに対し発煙弾を連続投下を開始していた。

 これで敵の視界を奪うのだ。


 プパライライ山の観測所兼射撃指揮所と、念の為にダイヤモンド・ヘッドの射撃指揮所へ発煙弾を投下し、この2ヵ所から艦隊を見えなくする。更に巡洋艦部隊と駆逐艦部隊が煙幕を張り、二重に敵の目からこちらの戦艦を覆い隠す。


 狙うは敵の目を封じながらのアウトレンジ攻撃だ。


 煙幕を使い味方を隠し、観測機を頼りに砲撃を行うと言うのは、戦前に考案されていた艦隊決戦時の戦術の一つであり、アメリカ海軍でも同じ戦術が考案されている。

 同じ兵器を持ち同じ艦隊決戦を想定していたのだから同じ戦術を考案してもおかしくはない。


 今回はそれを要塞砲相手に応用しただけの話しである。


 何も要塞砲を相手に、こちらの姿を晒して近距離からまともに砲撃戦を行わなければならないルールなどないのだ。


 なお、煙幕を使い敵要塞砲から艦隊の姿を隠すという戦術は、史実でも1944年のノルマンディー上陸作戦において連合軍が行っている。

 ただし、この時はその煙幕が仇になり、ル・アーヴル港から出撃したドイツ海軍の第5魚雷艇隊の3隻の魚雷艇の接近を許し、その攻撃を受け損害を出している。

 


「大和」と「武蔵」の46センチ砲は最大射程が42キロとは言え、その最大射程で撃ってもそうそう目標には当たらない。30キロ以上の射程で撃っても、なかなか目標には当たらない。


 史実における1944年10月25日の「サマール沖海戦」では、戦艦「大和」はその主砲46センチ砲でアメリカ艦隊に対し、31.5キロの距離から砲撃を始めているが、敵艦に有効な打撃を与えた射撃は24キロ以内に近づいてからだ。


 日本海軍ではないが、1941年5月24日の「デンマーク海峡海戦」では、ドイツの戦艦「ビスマルク」とイギリスの戦艦「フッド」が砲撃戦を行った。この時、砲撃戦が開始された距離は22キロであり、戦艦「ビスマルク」は17キロの砲戦距離で戦艦「フッド」に致命的な砲撃を加え撃沈している。


 陸上設置の大砲にしても戦艦より命中率が高いとは言っても最大射程で撃って百発百中というわけでもない。

 史実では1940年8月下旬からドイツ軍はフランスのカレー海岸地区に列車砲を集結させ英仏海峡のイギリス沿岸を航行する船舶を砲撃させている。

 砲撃に使用した列車砲で戦艦の主砲クラスが13門あった。

 38センチ砲4門。

 37センチ砲4門。

 30.5砲3門。

 28センチ砲2門。

 9月だけで6回ほど砲撃を行っている。目標までの距離は約40キロ。しかし、1発も当たらなかった。

 命中弾が出たのは10月に入ってからで、ようやく約1500トンの小型輸送船に損傷を与える事に成功したが撃沈には至っていない。


 1942年2月11日から12日にかけてドイツ海軍は「ケルベルス作戦」を成功させている。

 この作戦はドイツの戦艦シャルンホルストとグナイゼナウ、巡洋艦プリンツオイゲンがフランスのブレスト港から英仏海峡を通ってドイツ本国に帰還するという作戦だ。

 この時、英仏海峡のイギリス側のサウス・フォアランド要塞の23.4センチ砲4門が、英仏海峡を航行するドイツ艦隊に向け砲撃を行っている。

 距離は約25キロ。17分間に23発撃ったが1発も命中する事はなく、ドイツ艦隊は逃げおおせている。


 遠距離の砲撃戦では戦艦の主砲も要塞砲も命中率は落ちる。

 最大射程で撃ってもそうそう目標には当たらないものだ。

 20キロ、30キロの距離で撃っても目標に命中弾を与える事は難しい。


 だが不可能でもない。

 実際、30キロ以上離れた要塞砲へのアウトレンジ攻撃で、戦艦が一方的に目標を破壊した例が史実にはある。


 1944年9月12日、ノルマンディー上陸作戦開始より約3ヵ月後、イギリスの戦艦ロドニーはドイツ軍の守るチャンネル諸島のオルダニー島のブリューヒャー砲台を砲撃する。

 オルダニー島はシェルブール半島に近く、ブリューヒャー砲台からはシェルブール半島の西端の町オーディルヴルやジョブ―ルといった町がその射程に入る。既にシェルブール半島を制圧した連合軍にとってこの砲台はちょっとした刺だった。


 この時、戦艦ロドニーは32キロ離れた距離からこの砲台を砲撃している。ロドニーの主砲40.64センチ砲の最大射程は38キロである。

 ブリューヒャー砲台は15センチカノン砲を備え、その射程は25キロだった。

 戦艦ロドニーは完全なアウトレンジ攻撃によりブリューヒャー砲台を沈黙させた。

 使用した砲弾は72発である。


 72発という事からもわかるように、射撃管制システムが進歩し、観測機が飛ぶようになっても、この時代における大砲の基本は結局「数撃ちゃ当たる」なのである。



 戦艦「大和」と「武蔵」の場合、「サマール沖海戦」の例からもわかる通り、その46センチ砲の最大射程は42キロもあるとは言え、39キロでの砲撃戦は想定していないし、そんな距離での砲撃訓練もしていない。

 そもそも戦艦「大和」と「武蔵」からは35キロ先の目標までしか視認できないのだ。 


 しかし、「想定していない」=「実行できない」=「不可能」と言う事ではない。

 

 ましてや1発目、2発目で必ず当てろ、というわけでもないのだ。


 有利な面もある。

 目標は要塞砲。固定目標で相手は動かない。

 制空権を確保し観測機で観測可能。 

 敵の攻撃範囲外。

 

 ならば後は当たるまで撃つのみである。

 そして命令が発せられる。

「撃ち方始めっ!!」


 戦艦「大和」と「武蔵」の巨砲が敵要塞砲に向け火を噴いた。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



『オアフ島 ハッチ砲台 観測所』


 ハッチ砲台では日本の空襲があって以降、既に警報が鳴り将兵は戦闘配置についていた。

 砲台周辺の立哨も通常の3倍に増やされ全面警戒態勢に入っている。


 砲台観測所にいる指揮官ニール大尉は緊張した面持ちで双眼鏡を海に向けていた。

 今はまだ砲台観測所から海を見渡しても敵船の姿は見えない。

 黒い煙らしきものが見えるだけだ。


「大尉殿、プパライライより連絡です。敵機の落とす発煙弾により観測は一切不能との事です!」

「わかった!」

 通信士の報告に振り向き返答したニール大尉は、双眼鏡を再び海に向けた。


 敵はこちらの事をよく知っている。

 プパライライに観測所兼射撃指揮所があるのを既に知っている。

 厄介な事になった。

 恐らくもうすぐ敵艦隊が姿を現すだう。

 

 ニール大尉がそう考えていた時だった。

 突如鋭い音がしたかと思うと、いきなり爆発音らしき音が聞こえ地面が揺れた。 

 思わず、バランスを崩し膝が崩れる。


「な、何だ!」

「爆撃か!?」

「いや、こいつは艦砲じゃないのか!?」


 周辺にいる兵士達がざわつき、動揺している。

 改めて海に双眼鏡を向けるが敵艦の姿は見えない。


「大尉殿、後方約200メートルの所で爆発です!」

 観測所に詰めている監視要員の一人が報告してくる。


「わかった! 上空監視はどうなっている!」

 思わず怒鳴っていた。


「何機か飛んでいますが、爆撃をした様子はありません!」

 その報告にニール大尉は訝しむ。

 爆撃していないだって。

 それじゃ今の攻撃は何なのだ。

 艦砲だとでもいうのか?

 海には敵艦の影も形も見えないんだぞ。

 そうか! 上空を飛んでいる攻撃してこない敵飛行機だ! それは恐らく観測機だろう。

 畜生、やはり艦砲か!

 高射砲部隊の奴らは何をしているんだ。


 そう思った矢先にようやく高射砲が上空の敵機に砲撃を開始した。

 空に爆発の花が咲く。

 しかし、それを敵機は悠々と躱しているかのようだった。


 それに対空砲火の数が思ったより少ない。

 先に行われた日本軍の空襲により被害がでていたからである。


 ニール大尉が内心で苛立ちを深めつつあったその時だった。

 またしても鋭い音ともに轟音が響き地面が揺れた。

 観測所の建材が軋み、天井から剥がれ落ちたコンクリートの小さな粒がパラパラと床に落下する。

 観測所の中にいるというのに思わず反射的に身を屈めてしまった。

 だが、観測所の中にいる皆が同じような動作をしている。


 そして、また次が来た。

 艦砲に間違いない。

 敵は完全にこちらの射程圏外から撃って来ている!

 何て事だ!!

 これでは、こちらは撃ち返せない!!

 敵が全く見えないのだ。


 以後も一方的とも言える砲撃は続き、敵の巨大な砲弾だけが降りそそいでいる。

 しかも、段々と被害が出始めた。


 砲の1門は至近距離に敵弾が落ち、その揺れで照準装置に不具合が生じてしまった。

 更には砲台観測所と大砲の間を繋ぐ電話線も敵弾により切断される。


 戦艦「大和」から放たれる巨大な砲弾は嵐のようにハッチ砲台周辺を揺さぶった。

 3発目、4発目、5発目、6発目……どんどん発射される砲弾の数は多くなる。

 だがハッチ砲台はまだ健在だ。

 ならば破壊するまで撃つのみ、とばかりに砲撃は続く。


 そして、アメリカ軍にとって最悪の時が来る。


 ハッチ砲台の2門の砲は、戦艦の二連装砲塔とは違い、それぞれに独立した砲として設置され運用されている。

 そして、その砲台には大砲と一体になる形で、大砲後方横側に長方形の形をした大きな弾薬庫があった。

 その弾薬庫は、大砲ほどには頑丈には守られていない。

 そこまでの守りは配慮していない。

 それは一つの弱点であり、アメリカ軍にとっては盲点でもある。

 要塞砲を運用しているのが陸軍故だからだろうか。


 実際、史実においてフィリピンのコレヒードル島要塞のゲーリー砲台の弾薬庫は日本陸軍の24センチ砲の直撃を受け大爆発を起こし、要塞砲を巻き添えに壊滅している。

 

 人のする事は完璧ではありえない。

 日本海軍についても後世、色々と失敗策や盲点があった事について種々の文献で語られているが、それは勝利者となったアメリカ側も同じであり、決して全てにおいて完璧な存在ではなかった。

  

 そして遂にその時が訪れる。


 ハッチ砲台に降り注ぐ嵐のような「大和」からの砲撃は、弾薬庫のコンクリートの掩蓋に直撃し、強力な破壊エネルギーを叩きつけた。そして、コンクリートの耐性を削り取る。


 弾薬庫は大きい。巨大な砲弾と装薬を保管しているのだから当たり前だ。

 だが、それは砲弾の当たる確率が高くなるという事でもある。


 連続では当たらなかった。

 しかし、ニ十数発後に、またしても直撃弾があったのである。

 それでもまだコンクリートの掩蓋は耐えた。

 だが、そこまでだった。

 いかにコンクリートの掩蓋であっても直撃弾を喰らい続ければ、耐性は落ちる。


 そして、またもや直撃弾が来た。

 これには耐えられなかった。

「大和」から放たれた砲弾が貫通し巨大な爆発が生じる。

 弾薬庫内の装薬が誘爆したのだ。

 これまで以上に爆風と地面の揺れが生じた。

 その大爆発は弾薬庫にとどまらずに大砲にまで届き大砲を吹き飛ばす。


 その爆発は砲台観測所をも巻き込み完全に破壊した。

 ニール大尉は自分に何が起きたか把握する間もなく部下達と共に即死した。

 残ったのは巨大な破壊の傷跡のみである。


 残る1門も続けられる戦艦「大和」からの砲撃に同じ運命を辿った。 


 こうしてハッチ砲台は永遠に沈黙した。


 戦艦「大和」は197発の砲撃を行いハッチ砲台を完全破壊したのである。


 戦艦「武蔵」が目標としたウィリストン砲台はハッチ砲台よりも遥かに楽だった。

 コンクリートの掩蓋に覆われておらず露天なのである。

 こちらは143発にて破壊している。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 【ハワイ沖 連合艦隊旗艦「大和」】


「観測班より入電! 敵砲台破壊せり! との事です」


 通信班より、その報告が伝えられると艦橋に静かな喜びの騒めきが起こる。

 暫くして戦艦「武蔵」からも敵砲台破壊の報が齎される。


 これにより、オアフ島要塞最強の要塞砲は沈黙した。


 戦艦「大和」と「武蔵」は無傷である。

 ただし戦艦「大和」の第1砲塔と「武蔵」の第3砲塔では砲撃の衝撃で不具合が生じ故障個所が出ている。



 オアフ島要塞には、未だ戦艦並みの口径の大砲が24門あるが、全て旧式で射程が短い。

 20キロの射程がある砲すら無い。

 

 しかし、日本の戦艦は全て30キロの射程がある。

 ならば、後はオアフ島南岸までの距離を縮め、他の戦艦6隻と共にアウトレンジ攻撃を行い順次潰していくだけの事である。

 21キロまで距離を縮めればハッチ砲台を破壊した時よりも遥かに短い時間で潰せるだう。


 敵は射程距離外の上に、煙幕で日本艦隊の姿は見えない。

 後は一方的に叩きのめすだけ。


 オアフ島要塞の要塞砲が沈黙するのももはや時間の問題であった……


【続く】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ