7.ノルマ
上の空のエリアスと共に適当に王都をふらついた俺は、城に帰るやいなや5日間の有給を申請した。
魔王討伐の功績と、城に帰って来てから1度も休みを取っていなかったからだろう、溜まり続けていた有給は新しい上司から「もっと取らなくてもいいのか?」と聞かれてしまうほどだった。
「さすがに一気に取ったら迷惑でしょう?」
「まぁ……な。だが第5騎士団に居た時も休みは極力取らずに結構働き詰めるやつだってのは報告来てるから、お前には有給消費ノルマを作ってある。だからそのつもりで休めよ」
「……ありがたく休ませてもらいます」
有給消費ノルマなんてものはないだろうと思うものの、それは彼なりの優しさなのだと受け取っておくことにする。
そもそも城下の警備が主だった第5騎士団と比べて、近衛兵は忙しくないのかもしれない。
魔王を討伐した英雄を有するこの国に友好的に近づいてくる国はあれど、攻め入る国などありはしないのだから。
忙しくなるとすれば王族の婚姻の時が近づいて来たら、だろう。
……それも、これから俺が潰してしまうかもしれないのだが。
「ところでシリウス、急に休みとって実家でも帰るのか?」
「いえ、ちょっと行きたいところがありまして」
「行きたいところってまさか、お前……!? 万が一お前が休み明けに間に合わなくとも俺が何とかしておくから、気にせず行ってこい。なんかあった時は上司として、俺が骨を拾ってやろう」
「…………一応行っておきますけど、俺に彼女はいませんからね?」
「居ないのか? なんだ、俺はてっきり帰って来ても仕事づくしで一向に構ってくれないお前に怒りを噴火させた彼女のご機嫌伺いのための旅行でもするのかと思ったんだが……」
「違います! というかそれは副団長のことでしょう……」
新しい上司は最近近衛兵になったばかりの俺にも気を使ってくれる、いい人ではあるのだが、若干思い込みが激しい一面がある。
いや、この人の場合、これがコミュニケーション一環なのかもしれないが、違うことは違うと早めに否定しておくに越したことはない。
「そうか? ……まぁ、なんでもいい。お前が休みを取ってくれるなら。そんじゃあ、もう今日は上がっていいぞ」
「え、いいんですか?」
「用意とかあんだろ? ほらさっさと帰れ。そして俺の汚名を払拭するのを手伝え!」
「は?」
「ほら、帰れ、帰れ」
難なく?有給を取ることに成功した俺は部屋に戻る前に王立図書館へと立ち寄った。
目指す場所へと、世界各国の地図が並ぶエリアへとただ一直線に。
何冊もの地図帳が刺さった本棚からファーレン王国のものを引き抜き、ペラペラとめくり、かつてエリアスから聞いた話に登場した、小さな田舎の村を探し出す。
『アカラ村』――それはエリアスとアリアの産まれた村だ。
勇者の産まれた地でありながら、王国中のほとんどが名前さえも知らない村。俺も初めて名前を聞いた時にはピンとこなかった。
エリアスの話によると村人の数はあまり多くはないが、馬羊鶏牛豚と家畜は一通り育てており、畑も村の結構な面積を占めるらしい。
そして近くの村との交流はあるが、作物の生産量はさほど多くはないため、都への出荷はしていないのだという。
想像していたよりも村への道筋は単純で、そのほとんどが魔物による被害を受けてはいないことに安心した。
長めに5日もとってはみたものの、足りなかったらどうしようかとビクビクしていたのだ。
ここなら5日もあれば目的を達成して帰ってくることができるだろう。