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魔王の呪い  作者: 斯波@ジゼルの錬金飴③ 10/18発売
本編 ~アリア=リベルタ~
13/44

13.迫られる決断

「アリアちゃん、久しぶりね!!」

「元気にしとったか?」

「おじさん、おばさん、それにリコルも、お久しぶりです」

 

 婚姻式を翌日に控えたこの日、エリアスのところのおじさんとおばさんとリコルが王都を訪れた。前々から手紙で連絡は取っていたものの、やはり直接顔を見れるというのは嬉しいもので、私は懐かしいその胸へと飛び込んだ。

 

「アリア、今回のことは本当にありがとうな」

 頭の上で少し訛りの入った懐かしい声がシミジミとそう告げて私の頭を撫でた。

 節ばった大きな手はやはり昔と何も変わらず温かく、そしてなにより優しい。

 

「はい……」

 その手に甘えながら私はゆっくりと頷いた。

 一時はエリアスとおじさんの間には明確なまでの溝ができた。エリアスが私を捨てたと思われた時のことだ。魔王が西と東の大陸を分断するときに作った溝と同じかそれよりも大きな溝を作ったものだった。

 だが今ではこうして笑ってくれている。

 エリアスもおじさんもおばさんも、そして何があったのかわからずに首を傾げているリコルも、私の大事な人だから、だからみんなが笑ってくれていることが何よりも心を温かくさせる。

 

 玄関先では悪いと奥へと案内しようとすると、おばさんはフルフルと首を横に振った。

 

「そろそろチャールズのところにも顔を見せてあげなくっちゃ!! こんな時じゃないと中々王都を案内なんてしてもらえないもの!」

 爛々と目を輝かせるその姿は子供のようではあるが、田舎から王都に出てきたものなら大抵そうなるだろう。私も来たばかりの頃は見るもの全てが目新しく映ったものだった。

 これは無理に足止めするのは悪いと察してから「あ、そうだ。ちょっと待っててもらえますか?」と3人を玄関に残すと私は部屋の机から1冊のアルバムを手に取った。


「おじさん、おばさん。これ、約束してたスクラップブック」

「ああ、ありがとう!! これ、うちの村まで売りにきてくれないのよねぇ……。こういう時、田舎って不便だわ」

「その分、いいところもたくさんありますけどね」

「そうね! 私達の大事な場所ですもの。あ、それとアリアちゃん。私も渡すものがあるのよ。はい、これ。アリアちゃんのお家から預かってきたの」

「手紙? ありがとうございます」

「それじゃあ、私達はお暇するわ! じゃあね、アリアちゃん。また明日」

「ばいばい、アリア姉ちゃん」

 

 3人の背中に手を振りながら見送った後で、手の中に残った手紙に視線を落とす。

 王都に来る用事があるのなら郵便屋さんに頼むよりうんと早く届けることが出来るが、それにしてもつい最近届いた手紙は三日前のものである。

 あまりにも期間が短すぎるのでは?と疑問に思いつつも、部屋へ戻ってからコーヒーを用意する。猫舌の私はそれをキッチンへと残して、リビングの椅子へと腰掛けていよいよその手紙の封を開けた。

 

 中にはいつも通りの飾り気のない便箋。それがたったの2枚だ。

 いくら期間が短いとはいえあまりにも少なすぎるその便箋を開く前に一度大きく深呼吸をしてから開いた。

 

 まずは1枚目に目を通す。

 するとそこに書かれていたのは私が心配するような内容ではなく、パレードの日は上の兄さんが家族を代表して写真を撮りに行くため、家に泊めてほしいとのことだった。

 

 写真なんて口実だろう。写真が欲しければ、後でそれを本職とするものが撮影した写真集が王都中に売り出されることだろう。

 おそらくは兄さんがただ王都に来てみたかっただけである。そして兄さんが担当するのは写真ではなく、王都土産だ。

 姫様と勇者様の結婚ともなれば、それに乗じた商品は今から多く出回っている。それを買おうというわけだ。

 王都の土産物が欲しいという家族と、王都に行って見たいという兄さんの希望が相まってこの結果になったに違いない。

 

 この家は私が一人暮らすには広すぎるくらいで、兄さんがやって来たところで寝場所に困ることはない。掃除はいつもより念入りに行えばいいくらいだ。

 

 それでは2枚目は何だと捲ると、そちらは私が構えていた内容だった。


 実家に帰ってくることを考えて欲しい――と。

 

 あの日、一緒に帰ろうとの誘いを断って一度は引いた兄さんだったがやはり王都に一人で妹を残しておくのは心配のようだった。そして今回は別の、上の兄さんが私の説得係も兼ねているらしい。

 返事はパレードの日に聞くからそれまで考えて欲しいということ、そして最近息子たちの元気がありすぎて猫の手も借りたいくらいなのだと丁寧に付け加えるところが何とも兄さんらしい。

 

 …………本当に私のことをよく分かっている。

 

 手紙からも伝わってくるほどに元気な5人の兄弟の隣にはきっと私の新しい場所を確保してくれているのだろう。

 

 もうリリさんも産休から戻ってきていて、仕事は以前ほど忙しくはない。

 パレード前後の忙しい時期を乗り越えさえすれば彼女たちのことだから背中を押して送り出してくれるだろう。

 

 そろそろ私は考えなくてはならない。

 もうこの王都に来てから5年が経った。状況は全く変わってしまっている。


 日々止めどなく時間が流れ続ける王都で今まで通りの生活を選ぶか。

 それとも時間の流れが緩慢に感じる村で甥っ子や兄さん達と共に過ごす生活を選ぶか。

 

 それは到底一日では下すことの出来ない判断で、猶予をくれた兄さんの代わりに手紙に向かって頭を下げるのだった。


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