1.プロローグ
「大きくなったら私、エリアスと結婚するんだ!」
「お前は本当にエリアスが好きだな」
「うん!」
私は優しくてカッコよくてだけどほんの少しだけ抜けている、2つ歳上のエリアスが大好きだった。
隣の家に住むエリアスには兄弟がいなくて、彼は歳の近い私とよく遊んでくれた。兄さんや姉さんもよく世話を焼いてくれたけど、私の幼少期の思い出は家族である兄さん達よりもエリアスの方がうんとたくさんあった。
こんな、憧れの近所のお兄さんと結婚するなんて子どもの夢でも何でもなくて、エリアスもエリアスの両親も、私の家族もみんなそうなることを疑ってなどいなかった。
エリアスが勇者に選ばれた時だってそうだった。
「エリアス、私も連れて行って!」
「それはダメだ。俺がこれから行くのはどこも魔物が沢山いるところなんだ」
「なら王都でエリアスの帰りを待っているわ! 村には中々帰って来られないかもしれないけど、王都になら王様に会いに帰ってくるでしょう?」
「そういえば衛兵さんがそんなこと言ってたな……。王都なら、チャールズ伯父さんの家ならまぁ、危なくはないよな……。アリア、ちょっと待ってて。父さんたちに聞いてくる」
王都で働いている、エリアスの伯父さんであるチャールズさん夫婦の家に下宿されてもらえると決まるまでそう時間はかからなかった。
村長さんの家にある電話を貸してもらって連絡を取れば「いいよ」と即快諾を得られたのだった。
そうして私はチャールズさん夫婦の家に下宿するために、そしてエリアスは勇者として国王陛下と謁見するために王都へと旅立ったのだった。
私達が王都へ到着するとエリアスはその日のうちに国王陛下の選んだ仲間達と顔を合わせ、そして翌日には王都を立った。
1か月もすればすっかりチャールズ伯父さん達との生活にも慣れ、私は王都の食堂で働くようになった。
エリアスは国王陛下に報告に戻るたびに元気そうな顔を見せては出発までの短い時間、私に旅の思い出を語ってくれた。
そしてエリアスが旅に出てから2年後、彼はやっと魔王の退治に成功したのだった。
勇者一行が魔王を倒して帰ってくると報告があった王都では早速彼らの凱旋式が開かれた。
王都中の人が城へと続く一本道に集まり、彼らの勇姿をその目に収めた。その姿はその場にはやって来られなかった郊外に暮らす人々にも写真と記者の熱気のこもった文章でたちまち広まった。
もちろん私も衛兵さんの背中越しにエリアスと彼とともに戦ってくれた仲間たちの勇姿を見守った。
エリアスがこんなにも多くの人に愛されている事実を前に胸がぽおっと温かくなって、今すぐにでも彼は私の大事な人なのだとここにいる全ての人に伝えたい衝動に駆られた。
………………けれどそんなことをしなくて本当に良かったと今は心から思っている。
なぜなら彼は私を捨てて、姫様と結婚する道を選んだからだ。