三、
「あれ……」
ぼうやが目を覚ますと
ゆきの模様と鹿の絵の 大きな箱がありました
かたわらに 倒れるように眠っている人が いました
なんだか いつもより 体が軽くって
なんだか いつもより こころも軽くって
なんだか いつもより 楽しかったのです
ぼうやは その小さなぷっくりとした手で
眠っている その人の髪の毛にふれました
やわらかくて やさしくて
ぼうやは なんだか 涙がでてきました
ぽつりと 涙がその人のほおに落ちました
「あれ……ぼうや。どうしたの」
「……だっこ」
ぼうやを あたらしいお母さんは ぎゅっと抱きしめるのでした
なんとも甘い 子どもの匂いがします
めをとじて ほおを寄せて
「ぼうや……さがしたのよ」
「うん。だいすき。」
よるが明けようとしています
まいにち まいにち 新しい日がやってきます
すこしずつ すこしずつ 昨日は とおくなっていきます
だから ぼうやのお店は年中無休です
幼子の夢の中には、こんなお店があって、寂しさと悲しさを楽しいことに交換してくれたらいいな、と思って書きました。誰にでもあった幼き日に。純粋な光を失わないままに生きることの切なさをこめて。(しかし、最初に書いた自分に追いつけない。あのころ相当追い詰められていたのでした。)