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運命の人  作者: K-ey
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~旅立ち~

この物語のタイトルからは想像できないような内容になっているかも知れません。でも結局は皆、様々な問題を抱えながらも“生きている”と実感できるような物語です。「な〜んだ下世話な話しかよ。」と決めつけずに少し読み進めてみて下さい。そのうちに「あれ?」と思うような内容と展開になってきます。【愛】とは【運命の人】とは…登場人物の不器用なまでの生き方が結構、じわじわとクセになってくると思います。初投稿から完結まで、作者の成長そのものの物語を是非、読んで頂けたらと思います。お願いします。

「ねえ、ひかるくん、あの雲…何に見える?」

私は窓の方に顔を向けて、青空に浮かぶ雲を指差した。

ひかるくんは私の指し示す方向を指で辿って、窓に近づくと

「ああ、あれ?う〜ん、龍?龍かなあ…龍に似てない?」と

私の方を振り返った。

「うん…そうだね、似てるね。じゃあ、あれは?」

私はその隣に浮かぶ大きな雲を指差した。

「えーと、あれは…うーんと、そうだな、あれは…ただの雲だろ。ただの雲の塊にしか

見えない。」と言い張った。

「えーあれはシュークリームだよ。シュークリームにしか見えないよ。」

「えー、あはっ、まあそうだね。」

「ひかるくん、なんか最近、逆らわなくなったね。素直になったよね…ずいぶん。」

「丸くなったんだよ、飼い慣らされたのかなあ…」

「大人になったんだね。」

「大人?あはは…もう70になろうとしてるのに… まあ、そうだね。いい大人で、いい

おじいちゃんだよ。」




私は若い時から身体を動かすことが好きだった為、年齢の割には元気で、寝込むなんて

こともなく今日まで無事に来られたが、さすがに75を過ぎた辺りからどうも、急に疲れ

易くなってきてはいた。

子供たちはそれぞれが皆、独立し、一番上の息子りょうくんは、中学からの同級生で

バリバリのキャリアウーマン、外交官として活躍している女性と結婚し、尻に敷かれ

ながらも幸せに暮らし、二番目の子 望は、“人を助ける仕事がしたい”と弁護士になり、

忙しい仕事の合間を縫ってボランティア活動にも力を入れる優しい子に成長した。

そしてひかるくんとの間に産まれた双子の子供は、一人は美容師に、もう一人は写真家

になった。


「ねえ、うちの子供たちは誰一人として平凡な子がいないんだね。みんな何か特別な人

になって、本当に凄いねえ…」

「そりゃそうだよ。親が変わりもんなんだから。」

ひかるくんはそう言うと、笑いながらカーテンを少し引いた。

「あ、待ってよ。空が見えないじゃない…」

「だって疲れるだろう…太陽の光だってあんまり浴びてると体力を消耗するから、もう

そろそろ…」

「やだ、もう少し。じゃあもう少しだけ空を見せてよぉ…」

「わかったよ。」

ひかるくんはカーテンを元に戻すと

「これでいいだろ?」と

諭すように言った。



70を過ぎた頃から自然と、母の亡くなった年齢を意識するようになっていた。

そして、私ももうすぐ母と同じ年になる。私はいつ“その日”を迎えても悔いはないと、

常日頃からある程度、心づもりをしていた。

今こうして振り返ってみると、人生は本当にあっという間だった。達矢さんとの永遠の

別れを経験してからの折り返しの人生は特に、瞬く間に過ぎて行った。

そして何より、柚木 ひかる という最高の理解者を得たことで私の人生は再び花を咲かせ

ることができ、もう十分に生きたと言える満足のいくものになった。





ドンドンという音で目を覚ました。

私はいつの間にか眠ってしまっていたらしく、驚いて目を開けると辺りはもう真っ暗

だった。ぼんやりしているうちに再びドンドンという音が鳴り響き、それと同時にひかる

くんが心配そうに、部屋のドアをゆっくりと開けて顔を出した。

「今日はね、花火大会なんだって。海の方で上がるらしいよ、花火。」

「え?ほ、」

私の声にかぶせるように、辺り一面に響き渡る大きな音と、今度はそれと共に緑や赤の

綺麗な花火が真っ黒な夜空に、色鮮やかな華を咲かせた。

「きれい…綺麗だねぇ…やっぱり花火はいいね。」

「せっかくだから…外で見ようか、花火。少し外に出てみるかい?」

ひかるくんは少年のような顔をして私を見た。久しぶりに見るその屈託のない嬉しそう

な顔につい、

「うん、…」と返事をすると、

すかさず、少し心配そうでいる私を察して

「大丈夫だよ。僕が側についてるんだから。」と励ますように言った。


ひかるくんは私の手を取りゆっくりと中庭に出ると、気遣うようにベンチに腰を掛け

させ、“あれはUFOに似てる”だの“あれは余り形が良くない”だのと言って、笑わせた。

「ひかるくんも年をとったね…」

私は彼のすっかり白くなった髪の毛を見ながら微笑ましくなり、思わずそう呟いた。

でもそれを言うと決まって「これは若い時からあったから年とは関係ない!」とムキに

なるので、今まで極力言わないようにしてきた。

思えば私はずっと、今も昔も本当は、泣きたくて、甘えたくて、抱きしめて欲しくて、

笑いたい時には思いっきり笑いたくて…何よりそんな本当の自分を隠しながら生きている

自分を理解して欲しかったのだと、今、人生の最終章を迎え、改めて自分というものを

認識していた。


私はなんだか自分で自分が可笑しくなって、思わず吹き出してしまうと

ひかるくんは驚いたように「何?…」と顔を覗き込んだ。

「ひかるくん、ありがとう。」

おそらく今年が、二人で一緒に見る、最後の花火になるだろうと、思った。

「そろそろ中に入る?」

私を気遣うその優しい声に、私は「うん。」と静かに頷いた。








また季節が巡った。

この一年私は、日がなベッドの上で過ごすことが多くなっていた。自分でも

『もういよいよ【その時】を迎えるんだなぁ』と、一日一日を噛み締めて生きていた。

でも何より嬉しいのは、私が生涯を掛けて大切にしてきた不遇な子供達から、手紙や絵

などが次々と送られてきて、励まされているという現実だった。

私が喜ぶようにとひかるくんが部屋中にそれらを飾ってくれ、お陰で私は毎日、子供達

の優しさに囲まれて過ごすことができた。


「ひかるくん…窓を、窓をもう少し、開けてくれないかなぁ…風の…風の匂いを、嗅ぎ

たいの…」

ひかるくんは黙って立ち上がるとゆっくりと窓を開けた。風が白いレースのカーテンを

煽り、風鈴をチリンと鳴らした。音色が好きで、結局今までずっと使っていた風鈴。

「ああ…いい気持ち。ひかるくん…ごめん、何か…飲みたいな…悪いけど…ちょっと、

持ってきて、くれないかなぁ…」

私はひかるくんへの最後の頼みごとをした。

「うん…」

ひかるくんは一瞬私の顔をジッと見つめると、やがて下を向いてゆっくりとドアの方に

歩いて行った。そしてドアの前で立ち止まり、もう一度振り返って私を見た。

「ありがとう…」

私がそう声を掛けると彼はうつむいて静かに部屋を出て行った。




私はいつの間にか夢を見ていたらしい。いや、現実だったのかも…

達矢さんがふと目の前に現れて、私に手を差し伸べると

「行こう。」と一言だけ告げた。

私が躊躇っているのを見ると彼は優しく笑って頷き、私はまるで魔法にかかったように

思わずその差し出された手を掴むと、その瞬間に身体がふわっと軽くなり次には意識が

遠のいた。


そこから先は何も覚えていない。

ただ、コーヒーの香りが、しただけ。









初投稿から季節が一巡し、私を取り巻く環境も大きく様変わりしました。言葉を紡ぐ作業は思った以上に大変で、自分の技量のなさにつまずく時も多々ありましたが何とか最後まで書き上げることができ、今は感無量です。最後までやり遂げることができたのもブックマークして下さった皆さんのお陰と心から感謝しております。次話投稿までの間が空き過ぎてしまった時も待っていて下さって、有り難うございました。今度お目にかかれる時はもっと上手い文章が書けるように努力したいと思っております。本当に最後まで読んで下さって有り難うございました。

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