表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の人  作者: K-ey
88/91

~翔~

今まで見たこともないような明るく輝く夜空に、何か白いものがゆっくりと動いている

のが見えた。その正体を確かめる為に視点をズームしていくとそれは、幾つもの星々の

間を悠然と駆け抜けてゆくペガサスだと分かった。

『なんて神秘的でカッコいいんだろう…』

私は今まで見たこともないその光景に、夢の中にいながらもうっとりと酔いしれて

いた。だから「今日はいいことがある!」とそう言い切れたのだった。



「優勝者は……柚木 ひかる さんです!」

「ほらね。」

私はひかるくんの肩をポンと叩くと、彼は信じられないといった表情で私の顔を見た。

「ほらっ私の言った通りになったでしょ、スゴいひかるくん。良かったね。ホントに

おめでとう。」

彼は顔を真っ赤にして、感無量といった様子で喜びを噛み締めていた。


「俺、まだ信じられないよ、ホントに優勝できるなんて…まるで夢を見ているようだよ。

こんな、俺みたいなのが勝てるなんて、ほとんど奇跡だね。」

ひかるくんは興奮気味に、震える手を頬にあてて言った。

私は彼の手を取って

「あなただから優勝できたの。あなたの才能がこうさせたんだよ。」と

力強く言うと、ひかるくんは

「…ありがとう。いや、橘さんがいたからここまで頑張れたんだよホント。ホントに

ありがとう。」と

声を震わせた。

「でも、とにかく良かった〜、ホントに良かったね。」

そう言ってハグする私にひかるくんは、突然、頬にキスをした。

「っ、ちょっと…みんなの前で…もう、恥ずかしいじゃん。」

焦る私を見てひかるくんはいたずらっぽく笑った。



優勝者にはニューヨークへの音楽留学一年間が約束された。喜ぶ半面、落ち着いて

考えると、簡単には会えなくなるその距離に当然寂しくなった。

帰路に着く車の中で

「ニューヨークかぁ…遠いなあ、やっぱり。」と

ひかるくんが突然ポツリと言った。

私はしんみりとした空気になるのが嫌で

「うん…あっでも、一年なんてあっという間じゃない?それに会いたくなったら

なんとかして会えばいいでしょ、」と慌てて言うと

「…さすがにそう簡単にはいかないでしょ。」と

ひかるくんは冷静に言った。


いざ現実を突き付けられて一体なんて言ったらいいのか言葉に困っていると、

「橘さんは平気なの?俺と会えなくなってもいいの?会えなくても別にどうってことは

ない?」と矢継ぎ早に言って、こっちを向いた。

私は正直何をどう言えばいいのか、自分の気持ちを正しく伝えるのにはどうしたらいい

のか、考えていた。

寂しいのに決まってる、離れたくないのに決まってる。お腹の中には子供がいて、

ひとりでは何かと心細いことも事実。でも、それでも、学生時代に将来の夢を安易に

諦めてしまったことがもとで自分にコンプレックスを持ち、人生に“後悔”という大きな

忘れ物を常に纏っていた私にとって、まだ夢が現実に手が届きそうなところにある

ひかるくんには、何としてでもこの千載一遇のチャンスをものにして欲しいと、心から

切に願っていた。だからこそ

「ひかるくん、会いに行くよ。どうしても会いたくなったら、その時は、会いに行く。

だからひかるくんも、会いたくなったら会いに来て。それでいいよね。」と言った。







私はいつしか、この貴重で特別な数年間の出来事をしたためるようになっていた。

誰もが容易に経験し得ない、自分でも“こんな将来が待ち受けていたのか⁈”と驚くような

特殊でとても想像がつかない“人生の物語”。まさに【事実は小説よりも奇なり】

自分だけのオリジナルのストーリーを描くことで、いつの間にか置き去りにしてきた

自分らしさや、ずっと昔から好きだったことなどを、もう一度見つめ直す良いきっかけ

となった。常に仮面を被って偽りの自分を演じてきた私にとって、心から笑うことも

泣くことも全てが新しい人生の始まりだったのだ。


高校生の頃から空想の世界へ入り浸ることの多かった私は、頭の中だけでは飽き足らず

いつしか文章に起こすことを始めていた。挫折を味わい、現実の世界に居場所を見つけ

られない私は、非現実的な世界の中でやっと生きられたのだ。とりとめのない感情の

羅列、センチメンタルな詩、ファンタジーな世界…。それらを時には答案用紙の裏に、

ある時にはノートを引きちぎって走り書きに、またある時にはきちんとした原稿用紙に

書き留めていた。


私は最初の主人との結婚、出産、義母・実母の死、自己破産、運命の人との出逢いを

経て、再び文章と向き合うこととなった。あの時捨てた夢が、いや、置き去りにして

きた夢が今度は向こうから私に会いに来たのだった。






ひかるくんはニューヨークへ旅立った。そして私は作家への道を歩み始めた。

彼は何も知らない。知っているのは馬鹿みたいに正直で、お人好しのちょっと変わった

女だということだけ。一年後に会う時にはどんな女になっているのか…

「面白くなってきたぞ。」私は休めていた筆を再び走らせた。



『強くなるんだ。』赤信号で止まった車の中で俺はそう自分に言い聞かせた。窓の外に

目をやるとコンビニの駐車場に見慣れた水色の車がとまっていた。

『まさか⁈』そこには俺が守らなければならなかった女性と息子になるはずだった少年

が乗っていた。『どうして最後まで目にしなければならないんだよ、』

その時【運命】という二文字がふと頭をよぎった。


「こんな書き出しでいいかな?」物語の題名は【運命の人】に決めた。

初めての投稿日は母の命日だった。

これからが私の本当の人生の始まり。過去を未来に変えるストーリー。現実と非現実の

狭間で真実を描いてみせる!私は意気込んでいた。




「もうすぐ産まれるよ、そろそろ名前を考えなくちゃ。」

私は鏡の中の達矢さんに話し掛けた。

「望…望っていうのはどうかな?…」

私は産婦人科のドクターに、産まれてくる子供の性別を教えないよう頼んでいた為、

男の子でも女の子でもどっちにでも通用する名前を考える必要があった。

「のぞみ…のぞむ…うん、いいと思う。いいよね。」

私は鏡に向かって笑い掛けた。

達矢さんの望みを繋ぐこの名前、きっと喜んでくれるに違いないと、確信した。



ひかるくんは時々インターネットを通じて自分の近況を報告してくれた。

シンガーソングライターになるのが夢だと言って、時には詩を披露してくれたことも

あった。

「良かったね、生き生きしてる。本当によかった。私も負けずに頑張るから。」

仕事との両立は大変で、りょうくんが大学に行きたいなんて言い出したから、いっぱい

働かなくちゃ、でも心配はご無用。

「望はちゃんと繋ぐから。」

ひかるくんは「何それ?」と言った。

































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ