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運命の人  作者: K-ey
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~真実の告白~

“達矢さんの言う通りになった!きっとこれのお陰。”

私は達矢さんからもらった“お守り”を握り締め、病院からの連絡で駆けつけてくれた

ひかるくんと喜び合った。

これでまた空を見たり、大切な人たちを見たりして、いろいろなことを感じることが

できる。私は本当に神様に感謝した。そして何より角膜を提供してくださる方にそして

その方のご家族に心から御礼を申し上げたい気持ちでいっぱいだった。

“達矢さん、私頑張るからね。そしたらまた、あなたのこともいろいろしてあげるから”




手術から3日すると、眼帯を取ってもいいとの許可が出た。

「見える…見える、見えます。」

私とひかるくんは涙して喜んだ。

「先生、ありがとうございます…」

私にもう一度光を、見える喜びを与えてくれた全ての人に心から感謝した。


先生が部屋を出て行った後、私は意を決して話を切り出した。

「ひかるくん、私、お願いがあるの。ホントにこんな我がまま言ってごめんね、でも…

どうしても報告したい人がいるの。安心させたいの、それだけでいいの。元気になった

よって、ちゃんと見えるようになったよって…」

「誰に?」

「…達矢さん、本木達矢さん。」

私がその名前を口にした途端、ひかるくんの表情が曇った。

「…悪いと思うけど、お願い。きっと心配してると思うから…報告だけでも、ね、

お願い。ねえ…」

私はひかるくんの手を取って頭を下げた。


彼はしばらく悩んだ挙句

「…もう…いないよ。その人はもういないよ…もういないんだよ。」

とキッパリ言った。

「…いないって…どういうこと?どこ行ったの?どこか別の病院にでも転院したの?…

ねえ…」

私はひかるくんの腕を掴むと問い詰めた。

「死んだんだよ、亡くなった。この世からもういなくなったんだよ…もう亡くなられた

んだよ、」

「……」

私はひかるくんが何を言っているのか理解することができず、しばらく彼の顔を見つめ

ていた。


「本木達矢さんは亡くなる時に、君に角膜を提供してくれた人だよ。本木さんはこの

病院で4日前に亡くなったんだよ。」


私はそれを聞いた途端に身体が震え出して、もうジッとしてはいられなくなり、ひかる

くんの腕を放り出すとベッドから降りて、ドアの所まで行くと振り返り

「嘘つき、ひかるくんの嘘つき。そんな嘘…何でそんな嘘つくの?…酷いよ、いくら

ひかるくんでも酷いよっ、そんなの…」

と罵り、部屋を後にした。

「嘘じゃない、嘘じゃないんだよ…」



私は一心不乱に、彼がいた病室まで行った。ところが表札に名前はなく、部屋はガラン

としていて、私は意地になって

「達矢さんっ、」

と彼の名前を呼びながら中まで入って行った。

「…達矢さん?…」

ところがいくら名前を呼んでもやはり誰もおらず

私はすぐに部屋を出るとナースステーションで彼の所在を尋ねた。


「本木さん、本木達矢さんは退院されたんですか?」

カウンターのところに座っていた看護師は返答に困るような仕草で

「あ、あの…」

と口ごもった。ちょうどその時、私を心配して探しに来たひかるくんが、看護師に詰め

寄る私に気づき

「何してるんだよ、まだ安静にしてなきゃ、良くなるものも良くならないだろっ」

と近づきながら、声を上げた。


「本木さん…本木達矢さんはどこ行ったんですか?」

「いい加減にしろよ…」

ひかるくんは興奮する私を制して

「さあ、行こう…」

と連れて行こうとした。

「離してっ、離してよ…今聞いてるところなんだからっ」


すると中で騒動を聞いていたと思われる別の看護師が表に出てきて

「本木さんは、旅立たれましたよ。」

とハッキリとそして穏やかな口調で私に告げ、その後で私の目を見つめて諭すように

ゆっくり頷いた。

私は途端に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちた。

「橘さん、本木さんはあなたの目の中に今いるんですよ、ちゃんと生きておられるん

ですよ。」

その看護師はそう言うと私の背中を優しく擦った。




私はほとぼりが冷めると、心配するひかるくんを説得してひとりテラスに向かった。

通路から見える夕方の太陽は、まだ昼間の名残をとどめ、沈むのをためらっているかの

ようだった。

私は見える目を伴ってテラスの入り口に立ち、ひとまず深呼吸をした。

テラスに一歩踏み出すと風がふわっと舞い上がり、私の髪をさらい、私はその時なぜか

“ああ、達矢さんだな”と感じた。

一歩ずつ太陽の方に向かって行くと更に風が強くなり、まるでそれが何かのスイッチで

あるかのように私を別の世界へと運んで行った。

風の音しか聞こえない、この世に自分しか存在しない、そんな空間の中に私は、いつの

間にか立っていた。


しばらくの間、目を閉じ、不思議な感覚に身を置いていると

「涼子さん…」

と呼ばれた気がして、私はハッとして辺りを見渡した。

「涼子さん…」

確かに私を呼ぶ声にもう一度よく見てみると、オレンジ色に染まりつつある空の向こう

に、人影が浮かび上がった。

「涼子さん?」

その人影はだんだん大きくなり、私は緊張しながら、陽の光を背にまだよく見えない顔

を見つめていた。


「た、達矢さ、…」

思わずそう言い掛けそうになった時、その影の正体が少年であると分かり、私は一気に

肩の力を抜いた。その少年は頭に包帯を巻いていて、初対面なのにまるで私のことを

以前から知っているかのように、人懐っこい笑顔で

「涼子さんでしょ、おじさんから頼まれてるよ。きっとここに来るからそしたら言って

って、頼まれたの。」

と言った。

「…おじさん、何て言ったの?」

と尋ねると

「信じることって、信じることって言ってたよ。」

それだけ言うと少年は姿を消した。




「愛って何?」

「信じること。信じられることじゃないかな?」

私は達矢さんとの遠い記憶を思い出していた。



それから私は自分でも驚くほど冷静さを取り戻し、何か胸のつかえがスーッと下りた

ような、爽快感さえ覚えていた。

私は胸のポケットに忍ばせて置いた、達矢さんからもらった“お守り”を取り出すとそっと

手の平に乗せ、その手を前に伸ばした。すると手の平に乗ったお守りの葉は風にふわり

と浮き上がり、宙に舞ったと思うとやがてどこかに飛んで行った。


「ありがとう…さようなら…」


私は残りの人生を悔いのないよう生きていくと、誓った。











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