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運命の人  作者: K-ey
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~真実~

俺はこの数ヶ月ずっと考えていた。俺は一体何の為に生まれてきたのか?人生も折り返し

地点を過ぎ、家族を失い仕事も満足にできなくなって、この先何に向かっていけばいい

のか?本当にこれでこの人生を終わりにしてしまってもいいのか?やり残したことはない

のか?自問自答を繰り返していた。

そう考えた時にやはり真っ先に頭に浮かんだのが涼子さんとのことだった。


そうとなればもうこれ以上我慢することはできなかった。あの頃の俺は弱虫で、“好き”

という言葉でさえ容易に口にすることができない臆病者だった。本当は束縛したいのに

嫌われるのが嫌で体裁をつくろい平気なふりをして、それで自分をがんじがらめにして、

結局はそのしわ寄せが彼女に行くという顛末だった。

『何もかも話そう。このまま年老いて悔いを抱えたまま死んでいくのだけは絶対に

嫌だ。どう思われてもいい、恥も外聞も捨てて洗いざらい思いの丈を素直に話そう!」



俺は待ち合わせ時間よりも1時間早く来て、これまで涼子さんとの間にあった出来事を

ひとりベンチに座って頭の中で次々とフラッシュバックさせていた。


涼子さんとの待ち合わせ場所に選んだのはあの橋を渡りきったところにあるあのバス停

だった。もう年月はだいぶ過ぎていて、あの時僕たちを繋いでくれた白い犬はもう

いないけれど、あの時の思い出は今もまだ鮮明に頭の中にある。

主のいなくなった犬小屋を見つめながら遠い記憶を描いていた。すると遠くからリズミ

カルな足音がだんだん近づいてきて俺はハッとした。なぜならその足音が彼女のもので

あると俺にはすぐに分かったから。立ち上がって振り返り、音のする方に注目している

と、やはり彼女が現れた。


「ごめんなさいっ、」

彼女はそう言うと俺の顔を見て驚きの表情を見せ、立ち止まった。久しぶりに見る彼女

は最後に会った時よりもずっと綺麗になっていて、まるで初めて出会った頃のように

輝いていた。彼女はすぐに泣きそうな顔になり、必死にそれを堪えようとしていたが、

みるみるうちに涙が溢れ出し、やがてポロポロとこぼれ始めた。

俺は思わず手を差し伸べて、でもこの伸ばした手をどうしたらいいのか戸惑っていると

彼女は顔を覆い泣き崩れ、俺はやっと咄嗟に彼女をこの腕に抱きしめることができた。

「俺はあの頃と変わらず今も君を想っています。もう一度僕を信じてください。」

泣きじゃくる彼女にそう告げた。




痩せこけ精気を失った達矢さんを目の当たりにして私はただただ泣くことしかできな

かった。何日か悩んだ末、ひかるくんに打ち明けると

「どれだけそいつに苦しめられたと思ってるんだよっ、食事も喉を通らなくなる程

傷ついたんだろう。そいつを心配するなんておかしいよ。」と

声を荒らげられたが、でも私には達矢さんとのことが完全にクリアにならなければ自分

の人生をリセットすることができないことももう十分に分かっていたので、我がままを

承知で“少しだけ時間をください”とお願いした。



達矢さんと私があの頃を少しずつ取り戻し始めて間もなく、達矢さんの命が余命幾ばく

もないことを知った。

私たちは話し合い、今までできなかったことをすべてやり切ろうと決めた。離れていた

長い年月に置き去りにしてきたことをひとつひとつ拾い集めて、悔いの残らない人生を

生きようと約束した。そんな自分勝手な私たちの気持ちを理解してくれたひかるくんは

「待っているから。」と言ってくれ、

「俺も本気でやりたいことに挑むから見とけ。」と笑った。


達矢さんは仕事を辞めざるを得なくなり、また様々な事情で地元には帰れなくなって

またこちらに戻ってきた。

また新たなページをめくり始め、充実した日々を送っていた私たちだったが、達矢さんが

とうとう入院しなければならなくなるという事態に陥った。心配する私に彼は

「大丈夫だよ。」と笑ってみせたが日に日に痩せていくその顔は少し寂しそうだった。

「ねぇ音楽を聞かせようか?それとも私が歌を歌おうか?」とふざけると

「それだけは勘弁して。」と目を細めた。

「ねぇ…これ…」

私はずっと気になっていたお揃いのペンダントについて、今もまだ持っているのかどうか

聞こうとしたが途中でやめた。

達矢さんは「何?」と聞き返したが

「これ…これ食べる?」

と咄嗟に花瓶の花を指すと

「まったく食べることばかりだね…」

と呆れ顔で笑った。

『時間が止まればいいのに…』私はそう心の中で呟いていた。



達矢さんはそれでも時々は外泊を許され、外の空気を吸うこともできた。

風に舞った枯葉を見て「こうやって散っていくんだね…」と言った時の声と顔は

おそらく生涯忘れることは出来なくなるだろう。

私たちは本当に遠回りをしてきてしまった。あの時もっと素直になっていれば事は簡単

に済んだのに、あの時もう少し勇気を出していさえすれば迷うことなんてなく、誰も傷

つけずに幸せになれたのに…

でも、それでもこうなるしかなかった。私は時々、達矢さんの寝顔を見ては自分にそう

言い聞かせていた。



やがて担当医師からは“何でも好きなようにやらせてあげなさい”と言われるように

なった。私は会社にお願いして、消化しきれていなかった有給を使いながら極力彼の側

にいた。

ある日、達矢さんは私に内緒で外出の許可を取っていたらしく

「涼子さん、今日は一緒に行ってもらいたいところがあるんだ。」

と突然、私を外に連れ出した。

「どこに行くの?」と尋ねても微笑むばかりで教えてはくれず、私をタクシーに乗せる

となんと私が住んでいるアパートに連れて行った。そして車を降りると何かを確かめる

ようにキョロキョロとして、指を指しながら考えてやがて紐解いたように頷くと、辺り

にあった物を使って徐に芝生を掘り始めた。

「ちょっと…」

心配する私に目配せをして夢中で掘り進めると、やがて手を止めて頷き、私を振り返り

「僕の気持ちはここに置いていく、いいね。僕は君と離れていた時も本当はずっと一緒

にいたんだよ…僕はいなくなってもずっとここにいるから。」

そう言うと土の中からペンダントを取り出し、ゆっくり立ち上がると私に見せた。

聞きたくても聞けなかったお揃いのペンダントはそこに眠っていた。実はいつも私の

近くにあったんだと知り、私は泣いた。そんな私を見て彼も涙を流し、私たちは抱き合

って子供のように泣きじゃくった。



神様がもしすべてをお見通しだったとするならば私たちに何を教えたかったのだろう。


「帰りたくないな…このまま一緒にいられたらいいのにな…」

私たちはしばらくそこから離れられずにいた。




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