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運命の人  作者: K-ey
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~洗脳~



俺はなんとか自分を押し殺して、受付カウンターにいた。

先ずは、会員カードを出してもらって

会員を優先で、並んだ順に整理券を一枚ずつ 手渡していく。


人の波の中に、あの男と彼女がだんだん

近づいてくるのが見えた。

俺の天使とあの男が…


俺は妙に冷静になって、その時を迎えた。

「ありがとうございます。会員カードをお願いします。」

彼女は「はい。」と言って

会員カードを提示した。

裏面には黒いペンではっきりとフルネームが書かれてあった。

俺は「はい、ありがとうございます。では、どうぞ。」

そう言って、整理券を一枚差し出した。


彼女の横で じっと様子を伺っていた男が

会員カードを差し出した。

俺はまじまじと男の顔を見た。

目鼻立ちの整った、はっきりとしたこの顔。


まさしくこの前彼女と一緒に現れた男だった。


カードを裏返すと、この男が外国人であることが 証明された。

整理券を手渡すと「アリガトー」と

独特のアクセントで言って去って行った。


次のお客の相手をしながら俺は二人の姿を目で追った。

何か談笑しながら車まで歩いて行く。


俺はじっと見つめていた。

お客を目の前に、手と口はしっかりと動いてはいるのだが、

意識は完全に

あの二人に集中していた。


一挙手一投足をじっと見ていた。


彼女は運転席に、そして男は助手席に乗り込んだ。

俺は二人が乗った車が駐車場から出て行くまで

ずっと見ていた。


心の中でスーッと冷めていく感情と

また、それとは逆に

ふつふつと煮えたぎってくる感情とが入り混じって

俺をひどく混乱させた。

自分の身体なのに、自分のものではないような

心と身体がバラバラで まるで借り物のような

そんな、実に不気味で奇妙な生き物が

そこに存在していた。



「どうして分からないんだ、どうしたらいいんだ!」

俺の頭の中で突然 ピーッと

車のクラクションのような、高くて乾いた音が

鳴り響いた。



俺は仕事を終えると

ゆっくりと数えるようにして階段を昇り、店長室へ行くと

重い身体を椅子に落とした。


ネクタイを緩め、上着からタバコを取り出し火をつけた。

目を閉じて煙りを吐くと少しだけ楽になったような気がした。

缶コーヒーを開け、頭を上げると

壁掛けの時計が目にとまった。

「9時か…」

秒を刻む針が、俺に催眠術をかけているかのように思えた。

俺は時を忘れて、ただそれを見つめていた。


やがてカチッと音がして

俺はタバコの匂いと共に我に返った。


灰皿に“トン”と灰を落とし、もう一度吸った。

煙りが俺を現実に引き戻した。

「まだ9時過ぎかあ…」

腹も減っているし、何より今日は酒が飲みたかった。

かと言って、同僚と飲む気分ではない。


再び缶コーヒーを口にし、タバコをふかした。


「ミホで〜す、よろしく!」


突然、耳の側でそう声がして

俺はハッとして、横を向いた。

もちろん俺以外には誰も居るわけがなく

俺はフッと笑って、再びタバコを口にした。

すると


「どうぞ、」


今度は目の前に、ライターの火を近づける

あの商売女の顔が浮かび上がり

思わずドキっとした。



気がつくと俺は財布の中から一枚の名刺を取り出していた。

自分の意思とは別に

手が勝手に

そこに書いてある数字を、一つ一つゆっくり確かめるように

電話をかけさせた。


呼び出し音が頭の中でぼんやりと、ただ鳴って

やがて

「もし、もし」

と明るい女の声が耳に響いた。


「もしもし〜?」

女が少し探るようにそう言うと

俺は無意識とはいえ、

自分で電話を掛けておきながらも

一瞬『切ってしまおうか』と戸惑いながら


「 もしもし」

と低い声で答えた。


「もしもし」

女がもう一度、はっきりした声でそう言うと

俺は「本木です。」と告げた。


「本木さん?あ、本木さん、こんばんは〜

どうしたんですかあ?でも嬉しいですう」

と明るく甲高い声で言った。


「お元気ですか?あの、今日 、店に伺ってもいいですか」

俺がそう言うと


「ええ、もちろん。うわー嬉しい、ぜひぜひ

来てくださーい。お待ちしてまーす。」

と一層甲高い声で答えた。


「じゃあ」

俺はそう告げ、電話を切ると

携帯を見つめ、暗い気持ちになった。

女の甲高い声と俺の心のギャップとが あまりにもあり過ぎて

俺を一層落ち込ませた。


俺は徐に、外していた腕時計をはめ

ネクタイを整え、火の消えていたタバコを もう一度灰皿に押し付け

缶コーヒーを飲んで 部屋を後にした。


まるでロボットのように

無表情で、無感情で

廊下を歩き

階段を下りて

外へ出た。


車に乗りエンジンをかけるとラジオをつけた。

すぐさま パーソナリティーの笑い声が車内に響き渡り

俺は反射的にチャンネルを変えた。

すると今度はトランスミュージックが飛び込んできた。

俺はボリュームを上げ車をスタートさせた。


駐車場を出てすぐの信号が赤になり、仕方なく止まると

角にあるコンビニが やけに白々と明るく

怪しげに光っていて眩しかった。

店の方に目をやると

店の前の駐車場でたむろしている

女のスカートがやけに短くて目が釘付けになった。

ニヤッと笑いながらハンドルを握り、身を乗り出していると


やがて信号が青に変わった。

一気にアクセルを踏み込むと

トランスの音が 脳内にガンガン響き渡り

俺を“ハイ”にさせた。


俺はボリュームを更に上げると

アクセルをまた踏み込んだ。


もう止められなかった

もうどうすることも出来なかった

俺の中のもう一人の自分が

暴れ出して

言うことを聞かなくなっていたのだ。


「早く出してくれ!」

「早くここから出せ‼︎」

そう俺に命令して

もがき 狂い始めていたのだった…


















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