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運命の人  作者: K-ey
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~共鳴~

「大丈夫ですか?」

平井さんは私を落ち着かせてくれた後、ゆっくりと立ち上がらせてくれた。

「ごめんなさい…」

涙を拭きながらやっと顔を上げて彼の顔を見るとなんだか恥ずかしいような気がした。

「ケガとかないですか?痛いところは?」

そう聞かれて身体を確かめているところだった。

「橘さん⁈…」

声のする方を振り向くとひかるくんが、今まで見たこともないような顔をしてそこに

立っていた。

「ひかるく、ん…」

「…どうしたの?」

ひかるくんは低い声で一言そう言うと、平井さんの方を見た。

「今、男の人に囲まれて困っていたところを、この方が助けてくれて…」

と話すと驚いた表情になり、

「大丈夫?」と駆け寄ってきた。

「うん、大丈夫。」

「遅いから心配したんだよ、」

と言って顔を覗き込むと頭に手を置いた。

「あの、ありがとうございました。助けていただいて。」

ひかるくんはハッキリした声で平井さんにお礼を言うと、私を自分の方に引き寄せた。

「あ、いえ、じゃあ俺はこれで…」

私はハッとして振り返り

「本当にありがとうございました、平井さん」と言うと

「、いえ、じゃあ、あの気をつけてください。」と言って

少しうつむき加減に去って行った。


「平井さん?あの人…平井さんなの?」

ひかるくんは背後から私にそう尋ねた。

「うん、そうよ。彼が平井 詢さん。絵の、」

そう私が答えるとひかるくんは一瞬口をつぐんだ。そして

「どうして、どうしてあの人がここにいたの?」

と問い詰めるように尋ねた。

「どうしてって…それは、偶然じゃない?偶然通りかかったんじゃない?」

と思ったことを口にすると彼はまた口をつぐみ、

「…それで大丈夫なの?ケガはない?男に囲まれたって何人ぐらいいたの?」

と言うと私の両肩に手を置き、心配そうに見つめた。

「うん、ケガはしてないと思う…男の人は三人いた。」

そう答えると、すぐに私を抱き寄せた。ひかるくんのため息が耳に響いて、私の中に

安堵感と切なさが込み上げた。





映画を見ている間、私たちはどちらからともなく自然に手を取り合っていた。

合間合間でスクリーンに反射される光にパッと照らし出される彼の横顔を見て私は妙に

“男の人”を意識していた。


映画を見終えて駐車場に戻ると

「送って行こうか?」と彼が言った。

「だって車は?職場に置きっぱなしにしてあるんだよ。」と言うと

「うん、そうだよね…」と言って照れくさそうな、困ったような顔をした。

「ねえ、ごめんね今日、遅くなっちゃって…」あらためてそう彼に詫びると

彼は急に私を抱き寄せ、そして

「ホントに心配したんだよ…」と言って抱きしめた。





二ヶ月くらい経った頃、久しぶりに平井さんが顔を見せてくれた。

この前のお礼を言うと

「俺は別に、ただ通り掛かっただけで何も…」と言って

「あの、それより俺、ここで働き出したんで、もしよかったら来てくださいっ」と

一枚の名刺を取り出した。そこには【 スタイリスト 平井 詢 】と書かれていて、

名刺の上部には店の名前らしき横文字が書かれてあった。

「スタイリスト?…」

「ええ、あ俺、美容師なんですよ。」と目をクリッとさせて言った。

「美容師さんだったの?」と驚いていると

「…まあ。」

「私てっきり、あのーホストか何か、そーゆー職業の人なのかなーって思ってて…」

と思わず口にしてしまうと彼は軽く笑って

「まあ、しょうがないですよ。俺こんな感じだから、」と言った。

「あ、あの絵、見に行きましたよ。あの…あれはもしかして私?」と聞くと

「そうですよ。どうですか?」とまっ直ぐな目で聞いた。

「ええ、一緒に行った人が私にそっくりだって、言ってました。私も最初、どこかで

見たことある人だなぁって思ったくらいだったから。」と言うと、声を上げて笑った。

「でも、なんで私を?」と尋ねると少し考えて

「描きたかったから。かな…」と言った。


「じゃぁ俺そろそろ行きます、よかったら店に来てください。」と言った後

「サービスしときますから、」と小声で言って帰って行った。

「美容師さんか…」

後ろ姿を見送って、さっきもらった名刺をもう一度手にするとしみじみと眺めていた。






それから何日かして、職場の周辺に悪さをする高校生の三人組が出没するという噂が

突然入ってきた。

よく聞いてみると、その三人は一人でいる大人の男の人を襲撃して嫌がらせをし、

その男の人が逃げても逃げてもしつこく追い回して危害を加えるらしいから、念の為

気をつけた方が良いとのことだった。

『もしかしたらこの前のこともその三人の仕業かもしれない…』と思うと、あの時の事が

頭をよぎってまた怖くなった。


「橘さん髪の毛染めてるの?」と

私の頭をしみじみと見て、先輩が突然、話題を変えるように言った。

「え?ええ染めてますよ一応。」

「全然染めてないのかと思った。もっと明るく染めてもいいんじゃない。」と真顔で

言われ、いつもおしゃれなこの先輩が言うのだからきっとその方がいいのに違いない、

と妙に納得し、それと同時にこの前もらった名刺のことが頭に浮かんで、あまりの

タイミングの良さに『せっかくだから行ってみようか』と平井さんの勤める美容室に

行くことを決めた。


次の休みの日に早速出かけ、店に入り受付を済ませるとすぐに平井さんが出てきて

「来てくれたんですね。」と嬉しそうな顔を見せた。

彼の仕事ぶりを見ていると、アシスタントの女の子からも信頼されているようだし、

時折見せる他のお客との会話やまたスタッフ同士のコミニケーションの取り方も卒が

なくて「やっぱり頭の方もいいんだ…」と感心した。

そんなことをぼんやりと考えていた私に「どうしますか?」と鏡越しに聞いてきた。

「あ、うん。もうちょっと明るくして軽くしたいと思うんだけど…」と言うと

「わかりました。」と言いながら髪を触り始めた。


施術をしている間にいろいろな話をして、彼は以前、世間に名が知れたお店で修行して

いた事を知った。

「どうしてそこでずっと働くことにしなかったの?」と聞くと

「有名な店だろうがどこもそんなに技術は変わらないと思ったから、」と言い放った。

私は話に相槌を打ちながらも何か釈然としないものを感じていた。



「どうですか?」

後頭部を手鏡で映しながら私にそう尋ねた。仕上がりは満足のいくもので

「いいと思います、ありがとう。」と答えると

彼の方も嬉しそうに、今度はオイルを手で温めながら私の髪になじませて

「橘さんの髪にはオイルがいいですよ。」と自信ありげにアドバイスをした。

今まで自分が見てきた彼の姿とはあまりにもかけ離れていて、なんだか嬉しくなって

「もしよかったらまた来てください。」と言う彼の言葉に、結局、次の予約を入れて

帰ることとなった。


「担当は僕で。」

そう言うとカウンター越しの彼は水を得た魚のように、スケジュール帳と思われる物に

何かを記入し始めた。それが終わると今度は、方向音痴の私に笑いながらドアを開けて

見送ってくれ「ありがとうございました。また!」と頭を下げた。

美容室の中庭を歩きながら『何かペースにハマってない?』と立ち止まった。

そして若干、首を傾げながらも

「まあいっか。」と呟いてまた歩き始めた。


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