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運命の人  作者: K-ey
7/91

~狂想~

俺は凍りついた。


このたった二文字に洗脳されてしまったかのような恐怖すら覚えた。



俺は、出ていいものかどうか迷っていると、やがて切れた。

携帯を手に、成す術もなくただ見つめていると

再び《ミホ》から電話が掛かってきた。

迷いながらも「もしもし」と 小さな声で出ると


「もしもしー、あの〜本木さんの携帯ですかあ?」

と明るい声が耳に飛び込んできた。

「あ、はい、そうですが」

と戸惑いながら答えると

「あのお、ミホです、昨日お店に来ていただきましたよね。

あの、お礼に電話させてもらいました。分かりますか?」

とハッキリした口調で用件を述べた。

「えっ?ああ、ええ分かりますよ。どうも」

と低い声で話した。

俺は昨晩の、自分の浮かれ具合を思い出し、自己嫌悪に陥った。


「あのお、また是非お逢いしたくて、今度いつ逢えますかあ?」

と尋ねてきた。

俺は「ああ、また今度。今仕事が忙しいんで」

とぶっきらぼうに言うと

「そうですかあ、じゃあ私がそっちに遊びに行ってもいいですか?」

としつこく言ってきた。

「あ?ああそうですね、また今度。

また今度こちらから遊びに行くんで、今忙しいから」

と早い口調で返した。


「えっ、あ、じゃあ、あの待ってますんで絶対来てくださいね。」

女はそう言った。

「ええ、じゃあ、また」

やっと電話を切ると、俺は深くため息をついた。


『なんて 図々しいんだ。商売女はこれだからイヤなんだよ‼︎」

連絡先を軽々しく口にしたことを心底後悔し、椅子に腰を下ろした。






俺の店は繁盛店で、まあ全国的にも名が知れているという

“ネーム バリュー”のお陰でもあるが、

毎日開店前には整理券がないと混乱をきたすくらい多勢の人が並ぶ。

所謂 “プロ・セミプロ” といった生活の糧に来店する人や、

昼間は時間を持て余している主婦、フリーター、サラリーマンの 時間つぶし、

定年退職した人、はたまた夜の商売をしている女達の小遣い稼ぎ 等々

様々な人種(?)のるつぼだ。


毎日通って来るような“真剣”な人達は、予め狙っている台があって

その為なら前の晩から並ぶことも厭わない。

それほど真剣なわけだから、開店前の行列にはどこか

一触即発の“隠された殺気”が秘められている。

そんな中に俺の天使を入れておくわけだから内心は気が気ではない。


スタートを待つ競走馬のように、扉が開いたら一斉に駆け出していく。

他人が転ぼうがケガしようがそんなことは全くお構いなしに

前の人の背中を押し、人の波を乗り越え、また押しのけ突進して行く。

だから 、のんびり構えている彼女など

お目当ての台にありつけないことだって、でてくるのだ。


非常に歯がゆいが、彼女は何でも打つタイプではないので

お気に入りの台に座れなかった場合はあっさりと店を出て行ってしまい

他店へと移動してしまう羽目になる。


彼女は可愛いからきっとすぐに店長の目に留まるだろう。

いっぱい勝たせて虜にさせ毎日通うようになったところで

きっと、彼女に声を掛け、自分のものにするに違いない。

「出る台教えますよ。」そう声を掛け

金を儲けさせ、食事に誘い

そして、その次は…


簡単に金が儲けられるのだから

“身体を開く”ぐらいのことはするだろう。


『そんなことはさせはしない!』

彼女は俺のものだから

俺が先に見つけたのだから

彼女はこの俺がものにする‼︎


彼女が他の男に抱かれる姿を想像して

もう頭がパンパンになり、狂いそうだった。


『やっぱり彼女と密接な関係になるしかない!』

俺はそう決めた。

彼女と親しい関係になれば彼女を意のままに操れる。

好き勝手に打たせるのではなく“出る台”を打たせ、 必ず報酬を得させて

その見返りとして俺は彼女を抱く。堂々と。

彼女にとっても俺にとっても

双方にとって良いことなのだから

何も問題はない。


そう決めると俺は、早く実行に移したくて

ウズウズした。





夜10時過ぎ、俺は彼女のマンションへ向かった。

橋を上り、スポーツ用品店の手前を左に曲がると

暗闇に人影が見えた。


「?」

ショルダーバックを肩にかけ、足早に歩く

あの姿は『彼女ではないか?』

ゆっくりと近づいていく

少し猫背で…

追い抜きざまに横顔を確認すると

やはり彼女だった。


俺は窓を開け、音楽のボリュームを上げると

バックミラー越しに彼女の顔をまじまじと見つめ

「大好きだよ。」

と呟いた。







《新装開店》


彼女の好きな《海伝説》シリーズの新台が発表された。

これなら彼女は必ず打ちに来るだろう。

俺は得意な凝ったレイアウトのダイレクトメールを作成した。

彼女のことを考えて、事前の《整理券の配布》をうたった。

2日間の配布スケジュールを設け

無理なく彼女が打てるように手はずを整えた。


配布1日目、9月にしては肌寒い日だったが多勢の人が配布開始前から並んでくれた。

100人を超えたあたりで彼女の姿を見つけた。

彼女は小ちゃいから多勢の中にいるとすぐ埋もれてしまう。

だがそこは目に見えないオーラやテレパシーで

俺には彼女の居場所が分かってしまうのだ。


彼女の姿を見て心がとても軽くなった。

「?」

ひとりの男が彼女に近づいてきた。

「あの男⁈」

先日の夜のことが頭をよぎった。

あの夜マンションの下でひっそりと聞いた、あの男の声。

そして彼女と一緒に来店した、あの背の高い男の姿がフラッシュバックされ

脳裏に鮮明に浮かび上がった。



俺はこの時

俺の心の中で

もう一人の自分が

少しずつ

目覚めようとしているのを

感じずにはいられなかった…


















































































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