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運命の人  作者: K-ey
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~転機~

風に舞い上がったゴミの花は一見天使の羽根と見紛うほどの美しさを見せたが、

よく見ればそれは単なるゴミに過ぎないと、すぐにわかった。


「⁈」俺は目を凝らしてもう一度よく見てみた。どこからともなく集まってきた

名も知れぬ群衆の中に見覚えのある顔がパッと浮かび上がったからだった。

身震いがした。ぐっと息を飲み込んで周りには何も告げずに静かに部屋を出た。

それはまさに“奇跡”とも言うべき出来事だった。

もう二度と逢えないと諦めかけていた矢先、突然目の前に再びその“奇跡”は訪れた。

風に舞い上がった花びらは決してゴミなんかではなく、確かに、手のひらにふわり

と降りた真っ白い天使の羽根だった。


俺は他人の目など一切気にすることなく、夢中で人波をかき分け彼女の元へと駆け

て行った。駐車場に溢れていた人波に隠れて君はその場にしゃがみ込んでいた。

待ちくたびれてすねている子供のようにちっちゃくなって足元を見つめていた。

俺は息を飲み込み、君を見つめたまましばらくはそのまま動けずにいた。

何をどんな風に語り掛けたらいいのか?接し方もわからないまま結局俺はドキドキ

しながらまた、店の中へと戻って行った。

『君が元気でいた…』それだけで良かった。



刻々と変化する雲のように、俺は自分でもどうしていいのかわからないまま只茫然

と事務所に戻ると『どうにかして彼女に近づく方法はないか?』と考え始めた。

「うわーやだなあ‥先輩、俺今日コレ着なきゃならないんですよお…」

その時、不満げに口を尖らせながら、同行させた後輩の杉崎がウサギの着ぐるみを

抱えてふらっと現れた。

「⁉︎ ちょっと、お前、それ貸せよっ…」

唖然としている杉崎を尻目にその着ぐるみを奪い取り、俺は足早にロッカールーム

に移動すると、急いでそれに着替えた。

頭をかぶり、鏡の前でおどけてみると別人になれたような気がした。

『これだっ…』

仮面の奥に、決して知られたくない秘密を隠して、彼女を正面から見つめることが

できる別の人間になれたような気がして、ホッとした。


今思えばそれが最後のチャンス、だったかも知れない…




誰からも愛されるキャラクターになって俺は整列をしている人の前に姿を現した。

「アハハハー」「ねえ見てー」「何だよあれっ‥ 」

様々な反応の中ゆっくりと、完璧な鎧を纏い、彼女の元へと近づいていった。

幸いなことに彼女は整列後、前の方に並んでいて、俺は容易に彼女を見つけること

ができた。ウサギになって俺は彼女に一歩ずつ近づき、彼女のいる列の前で止まっ

た。彼女はさすがに着ぐるみの存在に気づき、俺の方を見た。俺は必死にウサギに

なりきり、身振り手振り、大きなアクションで一心におどけて見せると、そんな俺

に彼女は恥ずかしそうに、それでも優しく微笑みかけてくれた。俺の方をしっかり

と見て、また、あの時みたいに…。


仮面の裏で俺は彼女のことを真正面から見つめていた。

俺が束の間の安らぎを味わっていると、店長仲間が近寄ってきて耳打ちをした。

「本木店長大変です、今爆破予告があって警察を呼ぶ騒ぎになっていますっ」

俺は瞬間、振っていた手を止めてゆっくりと後ずさりをし、詳細を聞いた。

なんでも、インターネットに《今日のオープンを中止しないと店もろとも集まった

客を吹っ飛ばしてやる!》という内容で、何が起きるかわからない昨今、容易に

“イタズラ”とは片付けない方がいいという結論に至り、警察に通報する運びと

なった。ということで、

俺は唇を噛み締め仕方なく事務所へ戻ると本部の指示を受け、急遽本日のオープン

は延期、客を返すという処置に承諾した。

多勢集まった客は口々に文句を言いながらも思った以上の混乱は起きることなく皆

次々帰って行った。


後になり、結局は“嫌がらせによる犯行”だったということが判明した。

「なんでこうなるんだよっ…」

俺は頭を抱えた。









「こうなって良かったんだ…あんなハプニングでさえ、もしかしたら神様がして

くださった配慮かも知れない。またギャンブルにのめり込もうとしていた私を心配

して、わざとそうしてくれたのかも知れない…」

私はそう思い直し、持っていたオープニングチケットを破り捨てた。


そう決心した折、ちょうどいいことにまた転機が訪れた。

兼ねてから申し込んでいた公営の住宅に当選したという通知が届いた。とてもでは

ないが今の収入状況から鑑みてこのマンション暮らしは維持できるものではなく、

“少しでも減らせるものは減らそう”と破産手続でお世話になっている担当弁護士から

も言われていたところだった。環境を変えればまたいろいろなことが良い方向に進

むかも知れない。またやり直せるかも知れない。

私は思い入れのあった土地から離れることを決めた。すべてが良い方向に進みつつ

あった。


私は身内以外には誰にも告げずにマンションを後にした。誰にも告げずに…




住居を移って半年ぐらい経った頃、義母はこの世を去った。

最期は眠るように天を仰ぎながら、義妹、孫と手を繋いで静かに息を引き取ったと

連絡が入った。

「リョウコサン アリガトウ」

私はあの時、義母が私に見せた穏やかな笑みを思い出し、胸が熱くなった。

義母は幸せだったのだろうか?…もう母国に帰ってからは夫のことを口にしなく

なったという義母は、一向に優しさを見せない自分の夫に半ば諦めていたのだろう

か?それとも何かを悟ったのだろうか?…

「リョウコサン アリガトウ」

私は義母のあの笑みと声をもう一度思い返していた。









何もかも終わった、はずだった。

「ねぇねぇ、まだキャバクラで接待してるの?」

女は立ち入ったことを知ったかぶりで俺に尋ねた。

「あ?今は現金渡しだろっ‥」

俺は付き合っていた女の店に度々警察の幹部を招待しては、いざと言う時に便宜を

図ってもらう為に接待していた。日頃から繋がりを作っておけば何か面倒なことが

起きた時に役に立つと考えていたからだった。



俺は結局、赴任した先々の、全ての店舗に女を作った。5年もの間、やりたい放題

好き勝手に遊び、自分の欲望のままに行動し堕胎させた女も1人や2人ではなかっ

た。そんな好き勝手やってる俺にも続いている女はいて、最初会った時には旦那は

いたが間もなく男に金がなくなり離婚した子持ちの女だった。

女は離婚後、風俗嬢となり生計を立てていて、俺はその女を言わば店の金で囲って

いた。女は昼間、俺のいる店に来ては“最初から出るとわかっている台”に何食わぬ

顔で座り、夜は本業で稼ぐという生活をしていた。

女は決して愛想の良い女ではなかったが、期待していない分『案外いい奴だな…』

などと思うところがあり、俺はそのうち、その女の子供まで連れて出掛けるように

なっていった。

だがどうしても口が悪く、俺のおかげで何不自由ない暮らしを送っているくせに

生意気な態度を連発する女に、俺はイラついていたことも事実だった。


「ねえまだ終わらない?いったい店長って何がそんなに忙しいの?…」

俺は電話から聞こえてきた女の低い声にとうとうブチ切れた。

「いい加減にしろよっ、誰のおかげで3台も車を所有できてると思ってんだよ!」


もう、うんざりだった。








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