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運命の人  作者: K-ey
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~自分の居場所~

主人はニヶ月してまた日本に戻ってきた。向こうへ行く前に登録していた派遣会社

は“またニヶ月したらすぐに職場に復帰できるから”と約束していた、はずだったが

いざ戻ってみるとニヶ月の間に世の中の状況はガラッと様変わりしてしまっていて

製造業の仕事はグッと落ち込んでいて「それは話が違うじゃないか!」と会社を

責めたところでどうにもならない状況だった。もちろん丸々ニヶ月間働いていない

のだからお金が入ってくるあてもなく、私の給料などたかが知れていて、恥を忍ん

で従姉から都合をつけてもらっていた。

そんな状況にあるのにもかかわらず私は、一時でもあの喧騒の中にいて“嫌なことが

忘れられるのなら”と借金をしては返済し、返済したそばからまた借りて、狂った

ように自分を正当化しながらギャンブルを続けていた。

もうあの頃みたいには決してたやすく勝てなくなっているのに、ズルズルとまるで

呪文をかけられ、操られているかのようにホールに吸い寄せられていった。


日本に帰ってまたすぐに仕事がなくなった夫、実母の病気の心配、育ち盛りの子供

を抱えた私の心労は、いつしか私から笑顔を奪っていった。

いくら収入がないとはいえ、月々の支払いは待ってくれるわけもなく、主人も流石

に焦りを隠しきれず、家庭内は自然とギクシャクしていった。

そんな折、母国に帰った義母が向こうで入院するという連絡が義妹から入り、

こちらの事情など到底知る由もない義妹は、日本にいるというだけでお金持ちと

いうイメージを持っていた為、“費用を工面して欲しい”と頼んできた。

「そんなお金どこにあるの?今私たちだって助けてもらいたいくらいなのに…」

私は大きな声で主人に訴えると、主人は内緒でどこからかお金を借りてきて義妹に

送金した。


私はもういっぱいいっぱいだった。

主人は優しすぎる為、頼まれると嫌とは言えないところがあり、私はその分、犠牲

を強いられなくてはならず、もう我慢の限界だった。

そんなある日、ついに、出口の見えないトンネルをただ進み続ける毎日に、突然

ピリオドが打たれることになった。

それは毎月、世帯に配られる配布物の中に 市で行う【弁護士による無料相談】

という記事があって、私はそれを見た途端『これしかない』という啓示めいたもの

を感じ、藁をもすがる思いで連絡を取ったことから始まった。


約束の日に弁護士と面談すると「あなたはそんな顔をしていてはいけない、私が

この件を引き受けますので楽になりましょう。」と言われ、私は思わず涙が出る

ほど安心した。

「10年はローンが組めなくなりますが貴女はまだ若いからその方がいいでしょう。

とにかく楽になりましょう。」と促された。

「ところでこの借金は何に充てたんですか?」と尋ねられ、まさか

「ギャンブルで、」とは言えず、「主人の仕事が安定しないこと、義母の入院費用、

そしてたまには子供をゲームセンターに連れて行ってやりました。」と説明すると

「ゲームセンターなんてダメですよ、あんなとこ通わせたら癖になって、金遣いが

荒くなっちゃっていいことなんてないから、もう行ってはダメですよ。」と言われ

私はどこか見透かされているような気がして『これを機に、もう本当にギャンブル

からは一切足を洗おう。』と心に固く決めた。

『私の人生はこれでリセットされて今度こそ生まれ変われるんだ!』

私は胸のつかえがスーッと降りていくのを感じ、何か憑き物が落ちたようなそんな

清々しささえ感じていた。








俺が再び赴任することになったのは、街中からは離れた田んぼの中にぽつんと立つ

のどかな店舗だった。がしかし、俺は喜んでこの人事を引き受けた。彼女が時々

ここに出入りしているという情報を得ていたからだった。

しかしよく考えてみれば、自分がこの地を去る前にしていった策略を思えば、彼女

がいつかないことくらい、分かってもいいはずだった。だからこそ俺は彼女を救う

べくインターネットや新聞の折り込みチラシを利用して“俺が戻ってきたんだぞ!”

と大々的にアピールをした。

彼女はきっと藁をもすがる思いで俺に助けを求めてくるに違いない。今度こそ店に

来た時に出してやれば仲直りのきっかけになって、関係修復できるはずと目論んで

いた。


だが“新店長就任”のイベントに彼女は一度も姿を見せなかった。


後になって考えてみればあの時、彼女はそんなことをしている余裕はなく、生きる

のに精一杯だったんだね…そんなこととは露知らず俺はのんきに一喜一憂していた

んだよ。



俺はこの頃、ひとりの女と出逢っていた。旦那も子供もいるごく平凡な女で、だが

家庭内はあまりうまくいってないらしく、旦那との不仲を密かに抱える、いわば

欲求不満の女だった。

俺は待てど暮らせど一向に現れる気配を見せない涼子さんへの不安や焦り、苛立ち

などをこの女で消化するだけ、のつもりでいた。始めのうちは…。


女は夕方ふらっとやってきて、20時ごろまで遊んで帰るというパターンが多く

目をつけ始めた当初はてっきり独身だと思っていた。まぁ見た目はそこそこだった

から、声を掛けてメシでもおごってやって、その後デキたらめっけもん…くらいの

軽い気持ちでいた。ところが女はまだ子供を産んだばかりの新婚のくせに、旦那が

帰ってくるまでに帰ればいいという考えの自己中な女だった。

ある時、俺は女が遊戯中席を立った時に声を掛けた。女は俺の身なりを確認すると

含み笑いをしながら「別にいいよ、食事くらい。」と言って簡単に誘いに乗った。

そしてその日のうちに男と女の関係になり、結果的にはズルズルとその関係は5年に

及んだ。

女は確かにわがままな女だったが、手芸が得意で、付き合い始めての俺の誕生日に

は手作りのクッションをプレゼントしてきた。口の利き方も知らないぶっきらぼう

な女だったが、時折見せるギャップに、俺はだんだん少しずつ無意識のうちに嵌ま

っていったのかも知れない。

だがそうは言っても俺の心の中心にある涼子さんへの想いは一度も揺らいだことは

なく、いつもどんな時にも彼女の存在が俺の中から消えることはなかった。

だから、誕生日やバレンタインデー、クリスマス、ホワイトデーなど、当日に一度

も一緒に過ごしたことはなく、いつもその日は涼子さんの為に空けていた。

大切な日は彼女と過ごしたかったから…


俺はこの女との関係を都合よく続けながらも、就任した店舗に涼子さんが来ないと

分かるとまた異動願を出し、また次の就任先でも涼子さんが来ないと分かると

異動願を出す、ということを繰り返していた。

いつか必ず彼女に逢えると信じていたから…


疲れた頭を休める為にふらっと立ち寄ったコーヒーショップで、ふと窓の外を眺め

ると、風に煽られた空き缶がカランカランと地面を転げ回り、あちらこちらに

ぶつかっては、まるで厄介者のように必死に自分の居場所を探していた。




あの時は俺の会社も店舗を拡大している真っ最中で次々と全国に新店舗をオープン

させている時だった。

ある日、降って湧いたように、また県内にもう一店舗出店するという計画が浮上し

俺は浮き足立った。『あそこなら彼女が住む街からは少し離れているから逆に来や

すいのではないか⁈』とピンときたからだった。俺はそこの店長にはなれなかったが

オープンにはヘルプに行くという格好のチャンスをもらった。

当時県内でも設置台数の規模が大きい店舗だった為、俺は余計に期待した。

『今度こそ彼女に逢える!』

店長会議では、本部の方にも県内大々的に告知することを提案し、躍起になった。

インターネット・新聞・雑誌あらゆる媒体を駆使し、大型店舗のオーブンを知ら

しめ、後は彼女が来てくれるかどうか‥それを祈るばかりだった。







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