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運命の人  作者: K-ey
61/91

~罪~

「調子に乗ってんじゃねーよ!」

女は俺が言わせた通りに大きな声でそう叫んだ。

店で声を掛け、遊ぶようになった女を車に乗せ、彼女のマンションの前を通った。

駐車場を確認すると、昨日置いた猫の死骸はやはりそのままで、子猫は口を開けた

まま、ピクリともせずに横たわっていた。

「ハハハハ‥可哀想に…」

俺は窓を開けると、咥えていたタバコをポンと投げ捨てた。

「うわーさみー、どこかで飲み直すか?」

そう言うと女の膝に手を置いた。


猫は日を追うごとに小さくなっていき、自然界の厳しい掟のもと、無残な姿を

無造作に晒していった。


「なあ、明日ちょっと付き合ってくれないか?そしたら3万払うよ。」

俺は店に来た行きつけのキャバクラの女にそう声を掛けた。

女は二つ返事で引き受け、「ホントにお金くれんの?」と言って目を輝かせた。

俺は翌日、涼子さんが仕事に出掛ける時間を見計らって彼女のマンションの駐車場

の空きスペースに車を停めて待機し、彼女が姿を見せると、彼女の目につくように

車を出たり入ったりして、女を見せつけた。

『俺は何ともないよ、もう新しい女ができたから、どうってことないよ。』と

彼女に当て付ける為にやった。


「サンキューもういいよ。」

俺は涼子さんが車に乗り、駐車場から出て行くのを見届けると女にそう告げた。

「ねえ、こんなことでお金くれんの?」

女はニコニコして金を受け取った。

「ああ、いいよ、またな。」

落ち合わせたところまで女を送ると、女は嬉しそうに手を振りながら自分の車に

走って行った。

『バカだな俺と一緒にいればこんなにも簡単に金が得られるのに‥』

俺はピッとクラクションを鳴らした。

『しかし、女はチョロいな。金をやればホイホイついてきて何でも言うことを聞く

んだからな…まぁそんなもんだな。金のある者勝ちだよ、人生は…』




「ねぇ今、住むとこ探してるんだけど、どっかいいとこ知らない?来月、更新月で

さ、もうちょっといいところ探してるんだよ。店からも近くて便がいいとこ‥」

女はカラカラと氷をかき混ぜながら上目遣いで俺に言った。

「いいとこ?ふーん…まあ頭に入れとくよ。」

『いいとこ…彼女のマンションがちょうどいいよな…目の前に郵便局、ちょっと

出れば大通りに銀行があって、ガソリンスタンドもある。それに繁華街から歩いて

行けない距離じゃない‥あそこはいいよな…』


俺は翌日、涼子さんの住むマンションの前を通った。

この前行った時、確か涼子さんの部屋の上の階が空いていたような気がしたから

だった。あの晩、火をつける前に彼女の部屋を見上げた時、上の階の部屋は

カーテンも何もなくて真っ暗だったような記憶があった。

俺はゆっくりと車を走らせながら涼子さんの上の階の部屋を確認すると、【テナン

ト募集】という貼り紙に書かれてあったマンションの管理不動産に電話を掛けた。

「はい、ええ。あーそうですか?良かった。一度見せてもらってもいいですか?」

ビンゴだった。

俺は電話を切るとすぐさま女に電話をし「いいとこが見つかったよ。」と告げた。



内見の日、俺は女を連れて部屋を見に行った。

「へーいいじゃん。ここ便利で良いよね。どこに行くのにも近くて…」

女はサングラスをずらすと嬉しそうに腕組みをしながら言った。

「どうしますか?ちょっとお考えになりますか?でも、正直言うと今、この部屋を

考えている方がもう一組いらっしゃいまして…その方が先に返事をされるとー

ちょっと…」

と不動産屋はこっちをチラッと見て言った。

「ねえ、ここでいいよ。早くしないと取られちゃうじゃん‥」と

俺の腕を引っ張った。俺はバカだなーと思いながらも

「じゃあ決めればいいだろっ、」と言った。

「ではご契約でいいんですね。」と不動産屋はしてやったりの顔をして微笑んだ。



俺は後日、女の保証人になってやり、敷金・礼金を出してやり、あの部屋を契約

した。『安いもんさ。これからはここで毎日のように女を抱くんだから‥涼子さんの

上で別の女を抱いてやるのさ、思いっきりね。復讐をしてやるのさ…』ハハハハ

俺は笑いが止まらなかった。

『よし明日はビールで乾杯といこう。あの女とヤリまくってね…』

俺は契約が済んだことを女に報告すると、女は甲高い声を出し

「わかった〜明日待ってるぅ」と言った。

『これでいいんだよ…』

俺はタバコを吹かしながら、不動産屋から預かった部屋の鍵を握り締めた。


陽の光は春の訪れを告げつつあったが、今日吹く風はどこか嵐の前触れのような

そんな胸騒ぎを感じさせる、冷たく乾いたものだった。



翌日、仕事を終え、女の勤める店へ行くと、女は猫なで声を出し

「ありがとぉ〜。」と言ってくっついてきた。

いつもより胸の開いた、谷間を強調させるドレスを着て、俺の腕を引っ張り、自分

の身体に押し付けた。

「ねーいっぱい飲んでね。今日はアタシのおごりだからっ‥」

女は意味ありげにウィンクをすると、席へ連れて行った。

女は終始ご機嫌で膝をピッタリとくっつけて座り、時々俺の腿に手を置いては

上目遣いでチラチラと見てきた。

「ねぇ、今日アフターするでしょ、」

女は目配せをすると小一時間もしないうちに店を出て、自分の住むアパートに連れ

て行った。行ってみるとそこはとても、華やかなイメージとはかけ離れた地味な

部屋で、女は俺を部屋に入れると焦ったように俺の服を勝手に脱がし、俺の上に

またがった。胸を俺の顔に押し当て、狂ったように動きまくった。

『これから面白いことが起こりそうだな…』

俺は、必死になっている女の顔を見ながらニヤっと笑った。

『これからは面白おかしく生きていくよ…』

俺は天井を見上げながら女の身体に力を込めた。





引越しの当日、すべての手配を済ませ、荷物を運び入れると、まだガランとして

馴染まないこの部屋の台所で、俺は女を抱いた。

「ちょっと‥」と言って女はしらじらしく一旦は拒んだが、服を着たまま後から

無理矢理に抱き始めると女はいつも通り声を上げた。

『フン、女なんてこんなもんさ。本当はね…』

俺は涼子さんが下にいると思うとますます興奮してきて、そんな満たされない涼子

さんの上でヤッていることが、今この瞬間が、快感でたまらなかった。


思うがままに欲望を満たすと、俺はすぐに女から離れてタバコを吸った。

「もう帰るよ、後は好きなようにだんだん片付ければいいだろっ、じゃ‥」

俺はそそくさと服の乱れを整えると玄関に向かった。

女は「ちょっと…」と言って慌てて駆け寄ってきたが、俺は後ろを振り返りもせず

に部屋を後にした。

下の階へ降りる時、一瞬立ち止まりチラッと涼子さんの部屋の方を見たが、廊下は

静まり返っていて、誰もいなかった。

勢いよく階段を降り、外へ出ると顔を隠すように車に乗り、そして出発した。


少し走り始めると、イライラしてそしてドキドキして、なんだか急に落ち着かなく

なり、音楽をかけた。だんだんムシャクシャしてボリュームを上げてそして、後は

気がついたら、目の前に自転車が転がっていて、その脇には高校生らしき女の子が

横たわっていた。俺はハッとしてサイドブレーキをかけ、ゆっくりと車を降りた。

駆け寄ると自転車の車輪はカラカラとただ回っており、女の子は真っ白な顔を歪め

て、倒れていた。

「大丈夫ですか?大丈夫?」

俺は女の子にそう声を掛けると、女の子はゆっくりと頷き「はい…」と応えた。

「今、救急車呼んであげるからね、」

俺は好奇の目に晒されながら、携帯電話を取り出し、緊急連絡をした。

「今、救急車呼んだからね、大丈夫だよ、助けてあげるからね…」

俺は震える身体をうろうろさせながら、その場に立ち尽くしていた。







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