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運命の人  作者: K-ey
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~欲望~

久しぶりに目覚めのいい朝だ。


酔いは少し残ってはいるが、心の軽さがいつもとは違う。

洗面台の前に立って自分の顔を覗き込む。

『なかなかイイ男ではないか』

左右交互に角度を変えて鏡に映してみると ピシャッと頬を叩いた。


身仕度を整えると、足どりも軽く車に乗り込んだ。

エンジンをかけ、ハンドルを握ると自然と鼻歌が出て来た。


俺は毎朝出勤前に寄るコンビニへと急いだ。

「居た居た。」

駐車場からお気に入りの女性店員を確認すると

ルームミラーでネクタイを整えて店内へ入った。


俺は毎朝ここで、HOTコーヒーとサンドイッチを買う。

これが俺の朝食スタイル。


「ありがとう。」

そうお気に入りの女性店員に微笑むと

「いつもありがとうございます。」

と笑顔でレジ袋を渡してきた。

俺はそれをニッコリ頷いて受け取ると誇らしげに外へ出た。


いつもの俺は恥ずかしくて ろくに目も見られないのだが、

今日の俺はどこか違う。

フンと鼻を鳴らして車のドアを開けた。




「ミ.ホか…」

昨晩のことを思い出し、ニヤける自分を諌めるようにエンジンをふかした。



職場に着くと早番スタッフが駐車場の清掃を始めていた。

俺の車に気がつくと、皆一斉に会釈をしてくる。

「よしよし、ちゃんと掃除しろよー」

そう呟くと社員通用口のドアを開けた。


「おはようございます、今日のレディース デー楽しみですね」

と後輩の杉崎が 俺の顔を見るなり声を掛けてきた。

コイツの顔を見て、俺は ハッと 我に返った。

『ゴメンね、エンジェル、俺昨日浮気しちゃった。』

と心の中で呟いた。


「ああ、《海伝説 》だよ。」

そう後輩に告げると

杉崎は笑いながら

「頑張ります!」

と意味ありげに言い、ホールへと消えて行った。



「はあ」

昨晩の浮かれ具合に 俺は初めて 罪悪感 を覚え

ゆっくりと階段を昇り、事務所へと入って行った。

用を済ませ、すぐさま店長室へと行き、コンビニの袋を机の上に無造作に置いた。


『俺には 天使 がいるのに、何やってんだよ!』

サンドイッチをむさぼると、コーヒーで流し込んだ。




開店5分前になり、スタッフが皆各々の持ち場に着き

ホールにオープニングの曲が流れると

俺は上着のボタンを締め、ホールへ出た。


「いらっしゃいませー、おはようございます。」

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」


ホールにスタッフの元気のいい声が響き

開店前300人は並んでいた客が、ドッと店内に押し寄せて来た。

言わば 戦場のようだ。

男も女も皆 目の色を変えて

各々の思惑の台へとまっしぐらに突進して行く

他人を押しのけ一直線だ。


そんな殺伐とした群れの中に

遠慮がちに入って来た 彼女の姿を確認すると

俺はそそくさと店長室へと戻った。


『彼女を守りたい。健気で可愛い彼女を守りたい。』

俺は彼女を目にすると、改めて

『やっぱり彼女が好きなんだ!』

と再認識せずにはいられなかった。


カメラに映る彼女がいつもより余計に愛おしく思え

『大切にしなければ』と妙に切なくなったのだった。




整理券を手にゆっくりと、お気に入りの《海伝説》のシマに入って

空き台を探し歩く彼女。

一台一台、台の上皿に物が置かれ、キープされていないか確認しながら歩いている。

3シマ目を回って最後の一台も確保されていると分かると

彼女は苦笑いしながら少しうなだれて、足早にシマを後にした。


通路のところで女性スタッフを見つけると、肩をトントンと叩いて

微笑みながら整理券を差し出した。

そのスタッフは整理券を受け取り、頭を下げた。


『なかったのか…』


彼女は何でも やみくもに遊技するタイプではない。

好きな台を一途にとことん打つタイプ。

“出れば何でもいい” そこまでのギャンブラーではない。



俺は彼女を行かせたくなかった。

『彼女のことがやっぱり好きだ』と再認識した以上

1秒でも長く一緒にいたいと、そう心から思った。


出口に向かう彼女、俺は居ても立ってもいられず

店長室を飛び出し、副店長に

「ちょっと出掛けてくるから、後は頼む。」

と言って、車のキーを握りしめた。

「あっ、でも、あ、はい。」

俺の気迫に押されて、ヤツは慌ててそう答えた。



彼女の姿はもう見えなくなっていたが

この近隣にある中堅店舗を、幾つか見て回ることにした。

3店舗目の駐車場で彼女の車を見つけた。紺色のセダン。


「ここだったのか…」

俺は、なり振り構わず店内に入って行き、

彼女の好きな機種のシマを見つけるとそこに入って行った。


長い髪を上の方で結んだあのヘアー スタイル。

少し猫背で首を右に傾け、左手を腿の下に挟む

あの独特な遊技スタイル。


俺は一台、一台彼女に近づく度、ドキドキしながら

また泣きたくなるような

それでいて

今すぐにでも腕を掴んで無理矢理に引っ張って 連れて帰りたくなるような

そんな複雑な興奮の中にいた。


彼女の台の後ろをゆっくりと歩きながらデータをチェックすると

所謂《ハマり台》で、椅子の下には ドル箱 がなかった。

彼女の横顔を見ながら何事もなかったように

そのまま通り過ぎ、自動ドアの開閉ボタンを押した。


『バカだなあ、お前には俺しかいないんだよ。

お前を満足させられるのは、この俺だけなんだよ!』

そう心の中で叫んで、店を後にした。



俺は車のキーを ガチャガチャ 言わせながら足早に車に乗り込むと

ブオーンとアクセルをふかしハンドルを握り締め

音楽のボリュームを上げると自分の店へと急いだ。


やがて赤信号に引っかかると

タバコに火をつけ、大きく一口吸い、窓を開けてゆっくりと煙を吐いた。


『誰にも渡したくない!』

彼女の横顔を思い出し、他の店舗に彼女がいる ということ自体が

どうにも許せなくてイライラしていた。


俺は店へ着くなり店長室へと駆け上がって自分を落ち着かせた。

『彼女が好きだ、誰かに盗られるのは絶対イヤだ。

でも、どうすればいい?』

必死になって答えの糸口を見つけていると

突然、携帯が鳴った。

ビクッとして胸の内ポケットから取り出すと



そこには

【 ミホ 】

と表示されていた…









































































































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