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運命の人  作者: K-ey
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~想い~

『どうしよう…』

俺はいたずらが見つかった子供のように、椅子から立ち上がったり、座ったり、

上着を羽織ったと思ったらまた脱いだりと、とにかく落ち着かなかった。

『行こう』『いや、やっぱりやめよう』

ドアまで数歩の距離を行ったり来たりしていた。

『行くしかない!』とやっと決心して下まで行く頃には彼女はいなくなっていた。

『まったく俺はいったい何やってるんだよ…』

店の隅々まで探してみたが彼女の姿はなくなっており

『何で声を掛けなかったんだよ、声を掛ければよかったじゃねーか。』と

自分で自分を恨んでいた。

『チャンスだったのに‥せっかくの歩み寄るきっかけだったのに…』

俺は消え入りたい気持ちでいっぱいになっていた。






やっぱり怖かった。勇気を出してここまで来たものの、達矢さんに見られている

と思うと居た堪れなくなってしまい、結局逃げ出してきてしまった。

『私って何やってるんだろう‥もう自分で自分がイヤになる。こんなことなら

来なければよかったのに…』

私は自己嫌悪に陥っていた。

足早に店を出ると逃げるように駐車場を後にし、泣きたいような気持ちで

ハンドルを握っていると、遠くに見える山の頂に真っ白い雪が積もっているのが

見え『私は何をやっているんだろう、こんなことをやっている場合じゃない

でしょ。』と自分を戒めた。


気を引き締め直していつも通る道に差し掛かると交通規制が敷かれていて

『何かあったのかな?…』と思いを巡らせていると、だるまを持った人の姿が

チラッと見え『ああ今日は初市か…』と思い出した。

毎年恒例の伝統行事として行われるもので

『あのだるま、達矢さんに買ってあげたいな…』とふと思った。



家に着くと「ちょっとテレビでも見てひと息入れよう」とリモコンを手にした。

スイッチを入れるとちょうど天気予報のコーナーで、週末の雪の予想をしている

ところだった。

『寒いのは苦手だなぁ、やっぱり暑くても夏がいいなぁ。』と

ぼんやり考えているとそこに主人が帰ってきて

「キョウ シゴト スコシ…」とボソッと言った。

私はすぐにテレビを消すと「りょうくんを迎えに行ってくる」と言って家を出た。






俺は居ても立っても居られず、スタッフの誰にも告げずに店を飛び出した。

『逢いたい‥逢いたい、』その一心でどこに行ってしまったのかもわからない

彼女の後を追いかけた。

とりあえず彼女の家の方面へ猛スピードを上げて車を走らせた。

「涼子さん、涼子さん…」

だが、いくら車を走らせてみても彼女を見つけることはできず、焦りはますます

募っていき虚しさだけを抱えたまま街中を彷徨っていた。







「…達矢さん‥助けて、助けて…」私は心の中でそう叫んでいた。

寂しくて、悲しくて、いくら“頑張ろう”と自分に言い聞かせてもでも、“誰かに寄り

掛かりたい、甘えたい”と弱い自分が顔をのぞかせていた。

『こんな泣き顔は見せられない。』私は下を向いたまま慌てて車に乗り込むと、

あてもなくただ街の中を走り始めた。


ほとぼりが冷めた頃、子供を迎えに行き「ちょっと遊んで行こうか‥」と

子供を誘い、スーパーの上の方のフロアにあるゲームコーナーで気を紛わせること

にした。

子供は嬉々として走り回り、いろいろなゲームに熱中し、私は私でほんの一時だが

嫌なことを忘れることができた。






俺はどうしても気持ちを抑えることができず多くの人が寝静まる頃、涼子さんの

マンションに出掛けた。

辺りはもちろん暗く、街灯だけが俺の存在を知っていた。

物音に気をつけてゆっくりと階段を上り、彼女の住むフロアに出ると冷たい廊下を

静かに一歩ずつ歩いて行き、そして部屋の前で止まった。

『どうしようか?…』と少しの間迷っていたが、とうとう意を決してドアチャイム

に触れると部屋の奥でピンポーンと軽い音がこだました。

俺は犯罪者のような感覚で興奮にも似た恐怖心の下、もう一度ゆっくりピンポーン

とチャイムを鳴らした。『出てきたらどうしよう…』と不安になりながらドアの前

に立っていたが、部屋は静まったまま一向に人の動く気配はなかった。

俺は内心ホッとしながらゆっくりとその場を立ち去った。

「開けてください…」と口にして。




翌朝、寝不足のまま出勤すると後輩の杉崎がニコニコしながら近づいてきて

「店長っ新年会いつやるんですかあ?」と尋ねてきた。

「あーいつ?いつでも、どこでもいいよ。お前の好きにしろっ」と丸投げすると

「えっホントにいいんですか?‥わかりました。」と嬉しそうに一礼して言った。

『新年会?そんなのどうでもいい‥』

俺はため息をつきながら店長室へと上がっていった。







「雪降らなくて良かったねぇ、こっちは。」

南さんは出勤した私の顔を見るなりそう声を掛けてきた。

「そうですよね、やっぱり雪は慣れないから降ったら大変。仕事に来られません

よぉ〜。」と答えると

「うーん、その時は迎えに行ってやるよ。」とボソッと呟いた。

私は少し照れながらも嬉しくて、心を温かくしながら巻いていたマフラーを解くと

「あー涼子ちゃん、新年会、今年も頑張ろう会やるからね。来週の金曜大丈夫?

空けといてね。」と社長がドアを開け、顔を出して言った。

「まったく忙しいね、ここんちは。」

南さんはそう言うとハハハと笑った。


私は南さんの笑った顔を見て

『いったい私は南さんと達矢さん、どっちが好きなんだろう…』とふと思った。

どっちも嫌いになれない。でも“愛しているのは南さんではない”ということは

分かっていた。愛ではなく恋。ふいに心が軽くなる恋。

逢えなくて苦しくなるのは達矢さんの方。それは紛れもない事実だった。







午後になると俺は彼女の姿を見に出掛けた。“逢いたさ”が俺を突き動かして

ついまた、いつもと同じ行動に出てしまうのだった。

『それでもいい…』俺は煮え切らない自分を情けなく思いながらも、それを

受け入れていた。


彼女の姿を見始めて間もなくすると、南が現れた。

『あいつさえいなければ…』と思ったが、まさか殺すわけにもいかず

『見なければいいんだ。』と切り替えた。

そう思ってはみたもののやはり、仲の良い姿を目の前で見てしまうといたたまれ

ないものがあり、俺はすぐにエンジンをかけるとその場を離れることにした。

携帯電話をホルダーに置き、履歴をチェックしているとちょうど着信が入り、

表示には【黒田】と書かれてあり、テンションも低めに電話に出ると

「今度の新年会、うちと合同でやらないか?」と誘われた。一瞬めんどくさいなと

思ったがまぁ仕方ない、断るわけにもいかないから

「いいですよ、」と答えた。

「俺の知ってるトコ抑えるからいいよな、日にちだけ決めといてくれよ。そんで

決まったら知らせてくれ、」と捲し立て、電話は切れた。

「‥はあ、 まぁいいか。やらせておけばいいや…」

俺はゆっくりと車を出した。




白夜のような空から雪が降ってきた。

冷たい風に舞った雪がくるくると渦を巻いてゆっくりと地面に吸い込まれていた。

「雪か…」

ぼんやりと外を眺めながら『初雪の日に逢いたい人といえばやはり、涼子さんしか

いないな』と思っていた。

雪が降るとなぜか彼女を思い出してしまうのだった。


今季最強の寒波が訪れた影響で先週降らなかった雪は今週にずれ込んでいた。

「今日の新年会、大丈夫ですかねえ…」

雪の為、早出をしていた後輩の杉崎がスコップを片手に近寄ってきて、ポツリと

呟いた。

「まぁ晴れ間が見えてきたから、何とかなるだろう…」

俺は駐車場を確認するとそそくさと店の中に入った。

『新年会か、今日は黒田と一緒だからな…二次会どこにに連れて行くんだか…』

コーヒーのフタを開けながら、やれやれと思っていた。






「あっ雪だぁ…」

降らないと思っていた雪が朝起きてみると積もっていて、凍り付いて開かない窓を

手で拭きながら

『雪か…やっぱり、達矢さんに逢いたいな‥』とぼんやり思っていた。












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