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運命の人  作者: K-ey
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~傾き~

私だって躊躇しなかったわけではない。普通一般的に考えたら“こんな時にまだ

不謹慎だ”と言われるかも知れないけど、私は南さんの気持ちがよくわかっていた。

こんな時だからこそ、悲しいからこそ、苦しいからこそ何かそれをほんの一瞬でも

忘れられるような、気を紛らわすことのできるような時間が欲しかったのだ。

私はシートベルトを締めながら自分を納得させ、先に行って待つ南さんの所へと

急いだ。


順風満帆な人生などありえない。人は皆他人には言えないそして見せない何かを

抱えながら生きている。その“何か” に苦しめられて埋もれてしまう人もいれば、

何とか這い上がって脱してみせるんだという人もいる。

私は決して埋もれたくなんかない。“毎日を何とか生きて他人にできる限り優しく

しながらも日々を淡々とこなしていれば、いつかはトンネルを抜け出せるのでは

ないか⁉︎”そう信じて生きていく。決して逃げ出したりなんかしない。

もしかしたらたぶん、南さんも、そして達矢さんも、そうなのかも…知れない…。


「今日は何も聞かない、気を遣わない。ただ美味しく食べるだけ、いいね。」

南さんは最初にそう私と約束をして本当に穏やかに鍋を囲んだ。

『私にはこんなに素敵な味方がいる、大丈夫。』

食事を終えると、このまま営業に出る南さんと別れ、私は一人会社に戻った。






「おいお前、嬉しそうな顔しちゃって、ハマるだろう。こういうのがいいんだよ

楽で、こういうトコの女なら後腐れなくてさぁ一番いいの。面倒なこともないし

なっ、フフッ、ハハハハ」

黒田は俺の肩に手を掛け小声で言った。

『楽で後腐れなくて…か‥フン、そうだな‥』

俺は風で消えそうになるライターの火を必死に手で覆い、タバコに火を点け大きく

吸った。煙を吐きながら空を見上げるとオリオン座がきれいに見えていて、俺を

一瞬冷静にした。

俺はそれを遮るように「あー寒いすね、もう行きましょう。」と奴に声を掛け

火が点いたままのタバコを地面に叩きつけた。



あっという間に日々は過ぎて行った。

涼子さんのことが好きだったが、南とのことはどうしても許せなくて彼女には

連絡ができずにいた。

忘れてしまったわけではない、逢いたくないわけでもない、むしろ逢いたくて

仕方がなかった。実際何度も彼女に連絡を取ろうとしたし、夜にこっそり

マンションの下まで行ったこともあった。そんな煮え切らない俺にできることと

いえば遠くから彼女の姿を見ることくらい。

俺は仕事の合間を見ては彼女の働く姿を見に出掛けていた。


「おい、もしもし‥」

俺は慌てて下を向いた。

「あ、黒田さんどうも…」

「お前、外人はどうだよ?」

「え?」

「フィリピンのコはいいぞぉ、カワイイしサービス精神旺盛だから…フフッ」

俺は涼子さんの姿を遠巻きに見ながら、奴の汚い声に耳を傾けていた。

「フィリピン?…」

「パブだよフィリピンパブ。お前に合ってるよ、向こうのコは押しが強いから…

いつ行ける?」

「はあ…」

「今日はどう?」

「……」

「いいだろ別に付き合ってる女もいないなら…」

「…はあ」

「じゃあまたこっち来てくれるか?じゃな」

電話は切れた。

俺は携帯電話をしまうと彼女の方をチラッと見て、そしてエンジンをかけた。

『俺は一体何をやっているんだろう…』

遠くなって行く彼女の姿をバックミラーで確認しながら俺はゆっくりとその場を

離れた。



後になって考えると俺の人生はこの頃から大きく傾き始めていたような気がする







仕事を終え“今日も何事もなく家族が無事でいられてよかった。”と

ホッとしながら部屋着に着替えていると突然電話が鳴った。電話に出た主人の

口ぶりから何かただならぬことが起きているということは分かった。

着替えを終え部屋から出てきた私に主人は

「ママ、イマ、ビョウイン、キュウキュウシャ」と言った。

よくよく聞くと、主人の妹が義母の家を訪ねると義母は玄関先に倒れていて、

すぐに救急車を呼び病院に運んだ。ということで私たちはすぐに搬送先の病院へ

向かった。


救急治療室に駆けつけると義妹は私の顔を見てすぐに涙を浮かべ、義母に目を

やると鼻にチューブが入っている状況で、まるで別人のような顔をしてベッドに

横たわっていた。

義母の容体はまた悪くなっていた。すぐに入院の準備をしなくてはならず、私と

主人はドクターの説明を聞き、その深刻さに気持ちが沈んでいった。

主人はとても母親思いな為「毎日来る、」とベッドの上の母親の手を握り、そう

約束していた。

私たちは、遅れてやっと姿を見せた義父に一部始終を説明して帰宅した。

義父はビールとサッカー、女のことしか頭にない人間だから、きっとこの先は

すべて主人がそして私が面倒を見ることになるのだろうなと私は危惧していた。







派手な看板を横目に俺は黒田に連れられ店の中に入った。

片言でもまあ上手い日本語を話す女たちはとにかく派手で露出が多く、べったりと

くっついてきた。ぐいぐいと体を密着させ、とにかく積極的に迫ってきた。

俺は終始“お兄さん”と呼ばれ、おだてられるだけおだてられ金を使わされ、結局

その後すぐにその中の一人と寝た。女は俺の上で勝手に動きまくり、俺はいつの

間にかぐったりと横たわっていた。女のキツイ香水が体中にまとわりついて、俺は

それを消すようにタバコに火をつけると軽く吸い、天井に煙を吐いた。

『簡単なもんだな、金さえあれば女はこんなにも簡単に身体を開くんだな…』

俺はもう一度タバコを咥えると深く吸い込んだ。


俺はだんだん金で女を買うことに慣れてきている自分に気づき、驚きながらも

『今度は俺の店に来た好みの女を誘ってみようか…』とふと思った。







義母は日本語がほとんど分からずコミニケーションを取るのに苦労していた。

日常会話が難しいのだから病院側からの説明など無論分かる筈もなく、病院から

連絡がある度に私は出来る限り協力し、足を運んだ。

義母は働き者だった為、入院費のことを心配し“早くここから出してくれ”と私に

せがみ、いくら今置かれている状況を説明しても一向に理解してもらえず

「ここから飛び降りる!」と私を困らせた。

主人はアルバイトを終えると病院に寄り、遅く帰る生活を繰り返していたことも

あって 私はストレスを抱えていた。

もちろん私だって義母のことを可哀想に思い、精一杯のことをしてあげたいと

思っていたが、でも現実がそれを全て許してあげられる状況ではないのは事実

だった。

私は病院の休憩室で缶コーヒーを買い、椅子に座って手を温めながらふと達矢さん

と車の中で一緒にコーヒーを飲んだ時のことを思い出し、フッと笑った。

『たまには息抜きに達矢さんの所にでも行きたいな…行ったらどうなるのかな?

顔を出してくれるのかな…』

私は怖さ半分逢いたさ半分で、『明日、病院の帰りにちょっと寄ってみよう』と

思い立った。







『あの女ちょっと可愛いな‥ピアスしてるんだ、ふーん…』

俺は店長室のモニター画面で女をチェックしていた。

「あれ⁈…」

入り口に突然ふらっと現れたのは涼子さんだった。











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