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運命の人  作者: K-ey
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~誘惑~

「どれにしようか?」

半ばやけくそになって繰り出した夜の街で、ピンク色や緑色に光る看板に目移りしながら

入る店を品定めしていた。


「おっ、これにしてみよう」

紫色に妖しく光る 《熟女パブ》 という看板が目に入った。

若い女は苦手だ。思ったことをすぐ口にする。

他人の気持ちなど全くお構いなしに、ズケズケと物を言ってくる。


「ここなら大丈夫そうだ。」

俺は勇気を出して店のドアを開けた。

「こんばんは〜、いらっしゃいませえ〜 お一人様ですか?」

派手なドレスに身を包み、女は出て来た。

俺は緊張しながら「ええ」と答え、促されるまま席に座った。


飲み物を注文すると女は満面の笑みで

「私も何か いただいてもいいですかあ?」と言ってきた。

胸元が大きく開いた真っ赤なドレスから

谷間が丸見えになっている。

俺は咳払いを一つして 「どうぞ。」と答えた。

そうこうしているうちに飲み物が運ばれて来た。

慣れた手つきで用意をすると 「ミホです、よろしく。じゃあ乾杯‼︎」

と言って、俺にグラスを差し出してきた。


「あっ、乾杯‼︎」

じっと見つめられドキドキしながら 俺はグラスを傾けた。

はちきれんばかりに ギュウギュウになった胸元に目は釘ずけになっていたが

そこは冷静を装って、話しの相づちを打っていた。


年齢は35、ムチムチっとした身体に 髪はロング。目はパッチリと大きな二重で

なんと言っても笑顔がサイコーに魅力的だ。

俺はバカみたいに興奮して、話しに夢中になっていた。


「フルーツ頼んでもいいですかあ?」

突然彼女は上目遣いで頼んできた。

「どうぞ、どうぞ」

俺は慌ててそう答えた。

「素敵なスーツですね。背が高いからすごくよくお似合いですよ。モテるでしょ」

彼女はそう悪戯っぽく微笑みながら 俺の目を覗き込んできた。

「いやあ、そんなことないですよお 全然」

俺は照れながらそう答えると

「だって、誠実そうで 優しそうだもん 女の人がほっとかないでしょ。」

とイチゴにフォークを刺しながら 伏し目がちに尋ねてきた。


「みんな私のことなんか、いつもスルーですよ」

ソワソワしながら彼女に言うと

「えー?、うそお だってモテそうだもん。カッコイイし」

そう言うと パクッと イチゴを口に入れて俺を見た。


俺はドキっとして、慌ててグラスを口に運んだ。

「ミホさんこそモテるでしょ、可愛いから」

探るようにそう返すと

「そーんなことないですよ〜、アタシって自分をアピールするのが下手だから全然ダメ〜。」

と言ってうつむき加減にグラスを手にした。


長く黒いまつげが妙に色っぽく、目線を口元に移すとグロスで濡れた唇が艶めかしかった。

俺は慌てて、思わず上着からタバコを取り出すと

彼女は すかさずライターを手に取り、火をつけた。


俺は ハッと我に返って

突然手品のように現れた 目の前の炎にタバコを近づけた。


その時ふと、【俺の天使】が頭に浮かび

俺は静かにタバコを吸って、チリチリと赤くなっていくタバコの先を見つめていた。



「お名前伺ってもいいですか?」

この一瞬の間を引き裂くかのように、 彼女は大きな声で尋ねてきた。

「え?あ、 も、本木です。」

俺は慌てて答えると

「下のお名前は?」

と再び尋ね返してきた。

「達矢」

「ふ〜ん、たっちゃん。えっじゃあ、これから たっちゃんって呼んでもいいですか?」

と嬉しそうに手を胸の前で パンと合わせた。

「えっ?ああ いいですよ。」

動揺してそう答えると

「あっ、じゃあ 私のことは “ミホ” で。ミホって呼んでくださいね〜」

そう言って俺の手を掴んだ。

俺は思わずタバコを落としそうになり、

ミホは「もおう、大丈夫う?」と言うと

悪戯っぽく笑ってみせた。


「いっぱいお話ししたから喉が渇いちゃった〜、何か頼んでもいい?」

と目を大きくして俺を見た。

「ああ、いいよ。」と言うと

「シャンパンお願い!」そう店員に告げ、

「ちょっとゴメンね、」 と言って席を立った。



「あー、こんばんは」

奥の方のテーブルで挨拶を交わす声が聞こえる。

俺はグラスを手に取ると中身を一気に飲み干した。





『こんな風に気楽に話せたらなあ。』

そんなことをぼんやりと考えながら、またタバコに火をつけた。


15分くらいするとミホは戻ってきた。

「ゴメンね〜、常連さんなの。」

少し困ったような顔をして席に着いた。

すぐさま運ばれて来たシャンパンを

「乾杯っ、あー喉渇いちゃった」 と一気に飲み干した。

俺は咄嗟に 少し汗ばんだ胸元に目をやると

「あの、お仕事、何されてるんですかあ? だって素敵なスーツ着てるし」

と目をジッと見てきた。

俺は姿勢を正して

「店長をさせてもらってるんだよ。」と答えた。


だいぶ酔いがまわってきたせいもあってか、得意になって

自分が名の知れたアミューズメントホールの店長をやっていることを明かした。

すると彼女はすかさず

「すっごーい、店長さんなんだあ。」

と胸の前で両手を合わせながら目を輝かせて すり寄ってきた。

「今度 寄らせてもらってもいいですかあ?」

と前のめりになって、上目遣いに俺の顔を覗き込んできた。

「あ、ああいいよ。いつでもどうぞ。」

と下心を悟られないように静かに答えた。



「今日はとーっても楽しかったあ、ありがとう。

また来てくれるでしょ、ねえ待ってるから。」

そう言ってミホは、俺の腕を自分の胸にグッと引き寄せ、ジッと目を覗き込んで

「はい、これ。」

と言って、胸元から名刺を一枚取り出した。

「あ〜、ああ俺も楽しかったよ。また必ず来るから」

ドキドキしながらそう言って名刺を受け取ると 胸のポケットに入れた。


出口まで見送られ、束の間の “疑似恋愛” を味わった俺は

まるで王様にでもなったような気分で店を後にした。

『こんなに楽しい気分を味わえるのなら女遊びも悪くないな。』

俺の話を真剣に聞いてくれ、一生懸命に相づちを打ってくれる。

『俺は 本当はモテるんじゃないか⁉︎』

「まんざらでもないな。」


俺はひとり、ニヤニヤしながら ネオンの中を帰って行った。















































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