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運命の人  作者: K-ey
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~ループ~

こうなることは初めから分かっていた。

一度抱かれてしまえば、弱い自分がどんどん顔を出してきて、優しくされれば

されるほど“居心地の良さ”という底なし沼から抜け出せなくなってしまうという

ループ。

いくら普段は良い子を装っていてもその仮面はいとも簡単にはぎとられて、本来

命の中に持っている性が露呈されてしまうのだった。


私は「ホテルに行こう。」と言う南さんの言うことを聞かず、自分の車の中で

愛し合うことを提案した。狭い車の中で窮屈に動き合いながら、きっと

似た者同士の私たちは他人には言えない縛りを、この時だけはほんの少しでも

解きたくて、お互いを解放してあげていた。

達矢さんには決して見せたことのない顔や囁いたことのない言葉を、この南さん

には表すことができる。私はこの不思議な感覚にだんだん取り憑かれていってる

のかもしれない。“愛人”という名の裏切りが徐々に確立されていく過程を私は

おぼろげながらも感じ取っていた。



お互いに本能を剥き出しにした後、南さんは

「ごめん、ちょっとタバコ吸ってくる‥」

と言って外に出ようとした。

「ここで吸ってもいいのに‥」

と南さんの腕を掴んだ。

「だってタバコ嫌いだろ…」

と心配そうな顔を見せた南さんに

「だって外は寒いでしょ。」と言うと、彼はためらいながらも

「ほんとにいいの?じゃぁ窓を開けて吸うから‥」

と言ってタバコに火をつけた。

白く光る月がずっと私たちを見ていたんだ。私たちが愛し合うところを…

私は窓の隙間から見える月を見上げて深呼吸した。


南さんはタバコを吸い終えると私の顔を両手で包み、前髪にキスをして

「じゃ、もう行くよ…おやすみ。」

と言って車から降り、自分の車に乗り込んだ。

私は南さんに手を振ると南さんはピーとクラクションを長く鳴らして駐車場から

出て行った。

私はクスっと笑いながら携帯電話を取り出すと履歴をチェックし始めた。

「あれ?達矢さんメールくれてたんだ…」

開いてみると《俺、今日忘年会って言ったよね。終わったらカラオケだって…

そういえば涼子さんとまだカラオケ行ったことなかったよね。今度行こうよ。

じゃあ水曜日に 、 おやすみ》

と書かれてあった。

私は弱い自分に蓋をするようにすぐさまアプリを閉じると、音楽をかけて家へと

急いだ。




この匂いを嗅ぐのは久しぶりだった。もうずいぶんと達矢さんのお店にも遊びに

行っていないし、タバコ臭くなった髪を洗うのも懐かしい感じがした。

家に着くと遠くから家族に声を掛けて、急いで、南さんが付けたタバコの匂いを

洗い流す為にシャワーを浴びた。

頭のてっぺんから流れるお湯が全身を伝わり足元に落ちていく…私はシャワーの

音で雑念を消すようにしばらくの間じっとそのままでいた。


濡れた髪を乾かしているうちに、ふと『そうだ、明日髪の毛を切りに行こう』と

思い立った。

『色も少し明るめに染めてパーマでもかけようかな…でも達矢さんは黒髪の方が

好きなんだっけ…』

私は鏡に映る自分をあれこれとシュミレーションしながらイメージチェンジした

自分を想像していた。

『思い切ってショートでも…案外いいかもね…』

私はこれまでと違った自分を少し見てみたくなった。





翌日、仕事を終えるとすぐに、朝方予約をした美容院に出掛けた。

以前立ち寄ったスーパーで、配っていたチラシを捨てずに持っていて、そこに

載っていたメニューが気になり『たまには新しい所もいいかな…』と

思ったのだった。

予約の時間に店に入ると20代の男性が対応してくれて、丁寧にカウンセリングを

してくれた。仕事熱心で明るく誠実そうなその男性にいろいろアドバイスをもらい

流行の染め方などを取り入れて少しイメージチェンジをした。

「どうですか?似合いますよ。」

私は鏡の中の少し若返った自分に心を弾ませ

「ありがとう。」

と笑顔で応えた。


施術を終えるとドア開けてもらい店の外まで見送ってもらった私は、お姫様気分で

車に乗り込んだ。

『達矢さん何て言うかな…』

私はルームミラーに映る自分をチェックしながらワクワクしてエンジンをかけた。






翌朝、いつもより少し早起きをしてタンスの奥に隠してあった達矢さんへの

クリスマスプレゼントを紙袋に入れて玄関のところにそっと用意した。

「今日は会社でクリスマスパーティーがあるから遅くなるよ、」と

主人に説明し、達矢さんにもらったストールを肩にかけて慌ただしく家を出た。

「今日はパパが迎えに来るからね。」

と息子に言い聞かせ、保育園に送り届けると会社に向かった。




会社に着くと営業の人は皆出かけており、私は事務所に一人きりになった。

でも今日はその方が気が楽な感じがした。私は自分の為にお茶を淹れると早速

仕事に取り掛かった。


次々に仕事をこなし昼食も済ませ、あっという間に午後になった。

時々、疲れた目を休ませる為に窓の外の景色に目をやった。午後の太陽は大きな

雲を時折、虹色に染めながらもゆっくりと動いていた。私はその光景を少しの間

ぼんやりと眺めていると、突然、外の方が賑やかになり、南さん達が姿を見せ、

ゆっくりと入ってきた。

お茶でも淹れようと立ち上がると南さんは、すかさず

「この前は楽しかったね、また映画行こうね。」

と言って私を一旦その場に留まらせた。


私がコーヒーを淹れて戻ってくると南さんは

「さっき携帯が鳴ってたよ…」

とパソコンに目をやったまま告げた。私は南さんの机にコーヒーを置くと

自分の机の上に出しっ放しにしてあった携帯電話を手に取った。

『達矢さん…』

電源を入れると達矢さんからの着信が表示されていた。私は若干の居心地の悪さ

を感じながらも電源を切ると仕事の続きを始めた。

「大丈夫?電話しなくていいの?」

南さんはコーヒーを飲みながらパソコンに目をやったままで私にそう言った。

「…大丈夫です…」

「あー風が出てきたなぁ…夜はきっと寒くなるね。これ」

南さんは窓の外に視線を移してそう呟いた。



定時になり、あと片付けを始めるとまた携帯電話が鳴った。達矢さんからの着信で

私は南さんに「お先に失礼します…」と挨拶すると小走りでドアの方に向かった。

「涼子ちゃん!」

私はドキっとして立ち止まり、ゆっくり振り返ると

「忘れ物だよ。」と言ってストールを掲げて見せた。

私は慌ててそれを取りに戻ると南さんは

「気をつけてね、寒いから。」と言って

ストールを肩にかけてくれた。

私は「はい…」と頷くと顔も見ずにその場を後にした。

暗く寒い駐車場を歩き始めると再び携帯電話が鳴り、出ると

「もしもし、涼子さん?あと10分ぐらいで着くからね。涼子さんも気をつけて

来てね、寒いから。」

と達矢さんが言った。








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