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運命の人  作者: K-ey
46/91

~key~

家にいた主人は料理中で、玄関を開けると駆け上がって行った息子に

「オカエリー」と言って頭を撫でた。

私はその隙にそそくさと寝室へ行き、二つのプレゼントをタンスの奥に隠した。

達矢さんと南さん、私を抱く二人の男の存在。私はタンスの扉を開いたまま、

自分にとっての二人の存在について少しの間考えを巡らせていた。

途中でふと南さんに抱かれた時のことを思い出した。優しくてそして力強くて

何とも言えない安堵感。

『また抱かれてもいいな…』

あの時の自分を思い浮かべてなんだか急に暑くなり、恥ずかしくなって慌てて

扉をバタンと閉めた。




人生とは不思議なもので、私だって初めて主人に出逢った時は“これが運命なの

だ”と真剣に思ったからこそ結婚にまで至ったわけで、もちろん最初の頃は度々

抱かれていたし、女としての喜びを味わったりもした。でもやはり感覚的に違う

ものや、育った環境などいくら他のものであてがってごまかそうとしても、

いつかそこには、自然に歪みができてしまうもので、後になってはもうそれは

取り繕うことのできない大きな溝となってしまうものなのだ。

私は主人の作ってくれたご飯を食べながら、テレビの音だけがこだまする部屋で

ぼんやりと考えていた。



食事の後片付けを済ませ皆んながお風呂に入った後、自分も後に続いた。

私は湯船に浸かりながら、今日買ったプレゼントをいつ渡したらいいのか

考えていた。南さんにはいつでも渡すことができるが、達矢さんにはこの間の

ことで傷つけたままになっているから、やっぱり私の方から、このクリスマス

プレゼントをきっかけに歩み寄るべきなのではないかという考えに至った。


私は早速お風呂から出ると、まだ皆んながテレビを見ている隙に洗濯機を回し

ながら達矢さんに電話を掛けた。

「もしもし涼子です‥達矢さん今大丈夫?」

私は少し緊張しながら話し始めると、達矢さんは

「大丈夫だよ、どうしたの?」と返してくれた。

私はその声にホッとすると手短に近々逢いたい旨を伝えた。

だんだん話をしていくうちに彼は明るい声に変わっていき、私の方もいつもと

変わらないその聞き慣れた声に、逢いたさを募らせていった。






涼子さんからの電話を受けて俺はホッとしていた。声に変わりはなかったし

何より逢って話をする約束ができたのだから、まずは一安心だ。

ちょうどいいことに注文していたクリスマスプレゼントが出来上がったという

知らせも入ったことだし、早速明日にでも取りに行ってみようとカレンダーに

丸をつけながらそう思った。


俺は翌日の午後、ショッピングモールに出掛けた。

車を停めて入口に向かって歩いて行く途中、人だかりが見えたので、気になって

よく見てみると“宝くじ売り場”の行列だった。億万長者の夢を買う人で溢れている

様子を目の当たりにして『もうそんな時期になったんだな… 一年って早いなぁ』と

しみじみ思いながら店内へと入って行った。

ジュエリーショップで注文の品を見せてもらい、イニシャルの刻字を確認すると

足早に店を出た。やらなければならない仕事が山ほどあって、そうそうのんびり

してもいられなかったのだ。

俺は助手席にプレゼントの入った紙袋を置くと、少し眺めてから車を出した。

すると走り始めて間もなくして黒田から

「悪りぃ金曜日はうちの忘年会だったってことすっかり忘れてたよ、また今度

絶対誘うからなっ、悪りぃ。」

と連絡が入った。俺は正直ホッとすると心も軽くハンドルを握った。

俺のところは来週の月曜日に忘年会をやる予定で、涼子さんとの約束は水曜日

だからちょっと忙しくなりそうな感じだ。

『でも忙しい方が良い、その方が余計なことを考えなくて済む。』

俺は自分にそう言い聞かせて帰り道を急いだ。







今日私は南さんに貰ったブレスレットをつけて家を出た。新しく買った香水を

信号待ちの車内で手早くつけて会社に向かった。

何だか少しソワソワしながら会社の敷地内に入ってくると遠くから南さんの車

が見えた。

『いるんだ…』

そう思うと、急に緊張し始める自分を落ち着かせながら車を停め入口へ向かった。

事務所のドアをゆっくりと開けると社長と南さんがそこにいて、一斉に私を見た。

私は南さんの顔は見れずに社長の顔を見て挨拶すると、社長は開口一番

「涼子ちゃん来週の金曜日空けといて忘年会するからね。」と嬉しそうに言った。

「来週の金曜日…あっはい。」

「空けといてって‥大丈夫?予定入ってないの?」と

南さんは少し笑いながら気を遣って私に言った。

「あ、あの大丈夫です。」

私はやっと南さんの顔を見ると南さんは私の目を見つめて

「そう良かった。」と微笑んだ。


私は慌ただしくその場を離れ、自分の机に荷物を置くと毎朝の日課に取り

掛かった。そうこうしているうちに社長には来客があり、やがてその方と忙しく

出掛けて行った。

私はなんとなく南さんと二人きりになるのが怖くて、給湯室でもたもたしている

と、ふらっと南さんが現れて後ろから声を掛けた。

「この前は少し心配したよ。おかしいね子供じゃないんだから大丈夫だよね。」

私は後ろを振り返ると少し笑って何も言わずに頷いた。


抱きしめられたかった。優しくされると泣いちゃいそうで、だからいつも自分を

ごまかして、自分の本当の気持ちを隠していたようなところがあった。

いつも良い子を演じて、他人に気を遣って…そんな自分が本当は嫌だった。だから

南さんは本当に好きな人じゃない分、何でもさらけ出して甘えられるのではないか

今のところは…

私は自分をそう分析して、納得させていた。



「あ、あの〜南さん、月曜日一緒に映画でも見に行きませんか?ずっと前から

観たかった映画があって‥それで今度の月曜日ちょうどレディースデーなんですよ

仕事が終わったら観に行きませんか?…」

私は何を思ったか、南さんの背中に向かって突然そう口走ってしまった。

南さんはゆっくり振り返ると「いいよ。」と微笑んだ。



私は自分で自分が分からなくなっていた。私を理解してくれる人が欲しかった…

ただそれだけのこと。自分に優しくしてくれる人が必要だったんだ。

私は南さんの目を見つめたまま少しの間、立ち尽くしていた。













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