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運命の人  作者: K-ey
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~夢の中~

私はまだ夢の中にいた。達矢さんとはまた違った包容力で私を夢の世界へと

連れて行ったこの身体に包まれて、私は未だ陶酔の靄の中で動き出せずにいた。

南さんは私の髪の毛に触れながら「大切にするよ‥」と耳元で囁き、もう一度

私を抱きしめた。


「気をつけて帰るんだよ。」

南さんは、車に乗り込もうとする私を呼び止めて手を振った。私は大きく頷くと

手を振り返してシートに座り、冷えきった車内に暖房を入れた。暖かい風と共に

ふと南さんの残り香が香ってきたような気がして、ドキっとした。

『私はとうとう愛人になったんだ。南さんの女に。達矢さんという恋人が

いながらも他の男の人に抱かれて自分をさらけ出すなんて…でもすごく心地

良かった。心が軽くなって本当に心も身体も解放された感じだった。不思議…

私は何だか特別な女にでもなったかのような感覚でイヤリングを直し、練り香水

を手首と耳の後ろに少しだけ塗った。




翌朝、いつものように出勤するつもりで支度をしていると、突然、従姉から

「今日はこちらの都合でお休みしてもらいたい」との連絡が入った。

『たまには平日にのんびりするのも悪くないな。』と思い、私は快くそれを

承諾した。

「さて何をしようか?」

私はせっかくの休日を無駄にはしたくないと考え、ここのところずっと

気になっていたクリスマスのプレゼントを買いに行こうと決めた。

『どうせなら普段行く店ではなく、変わったところがいいな…』などと思い

十数年近く足を運んでいなかった、隣の市にある駅前のデパートに行ってみよう

と思い立った。


おおよそわかってはいるものの何せ方向音痴の自分を考え、念のため

ナビゲーションを入れて目的地へと向かった。案の定、最後の最後で

コインパーキングを探すのに手間取ってしまい、毎度のことながらそんな自分に

呆れ気味で、それでも何とか無事に車を停めるとデパートへ向かった。


いざ建物の前に立ってみると、建物自体はあるものの全くの別物になっており、

改めて年月の早さを感じた。

店内に入ると洋物・和物の古着屋が出迎え、その安さや品揃えに驚きつつも尚

進んでいくと、靴屋が目に飛び込んできた。店先に並んでいたブーツに目がいき、

眺めていると、店主らしき初老の男性が声を掛けてきた。

「この靴今日入ったばかりですごく暖かいよ。」

私はそれが一目で気に入り、サイズを合わせると今度は店内を物色し始めた。

やがて奥の方の高い所にディスプレイされていた紳士物の赤いショートブーツが

気になって手に取ってみるとスエードの触り心地も良く、何より派手過ぎない

紅葉のような赤い色がとても気に入った。

「それがこれだよ。」

いつの間にか後からついてきていた店主が自分の履いている靴を指差してそう

言った。靴に目をやると、まさに今私が手に持っている赤いブーツで、

『やっぱりこれにしよう』と達矢さんのクリスマスプレゼントに決めた。



買い物を済ませると一旦店を出て、目の前にあるコンビニに寄りホットコーヒー

を買うと、ひと息入れた。何気なく空を見上げると彩雲が出ており、その横を

飛行機雲が爽快に移動して行った。

どうも空を見上げるのが癖で、“いつも、どこにいても空が気になってしまう”

というところが私にはあった。

コーヒーを飲み終えると道に迷いつつも駐車場まで辿り着き、なんとか来た道に

出ると、その後、大型ホームセンターの敷地内にあるショッピングモールに

寄った。

店内に入ると、人だかりが出来ているゲームセンターに後ろ髪を引かれつつも

お目当てのショップまで歩いていくと、途中で京都の物産展が催されており、

思わず立ち寄って銘菓や民芸品などを物色していると、ふと南さんのことを

思い出した。

『そうか‥南さんのプレゼント…』

いざ南さんへの贈り物をと考えると何を選んでいいのかわからず悩んでしまう

自分がいた。







明け方の夢を引きずったままスッキリしない朝を迎え、冴えない頭と冴えない

身体で職場に向かった。

この時期は夏と同じくらいの書き入れ時で、ボーナスをあてに遊技している客の

財布の紐をいかに緩めさせるかが勝負といった、気の抜けない時だった。

俺は何とか自分に喝を入れて仕事をこなしていた。

目を覚ます為にホットコーヒーでひと息入れようと、パソコンから目を離し、

立ち上がろうとした時ちょうど電話が入った。見慣れない番号表示に考えを巡ら

せているとそれはジュエリーショップからのものだと気がつき、実際出てみると

“注文の品が出来上がった”という知らせで、一瞬にして気持ちが

涼子さんに移行した。

『良かった…これで涼子さんに逢うきっかけができた。』

俺は少し心を軽くすると休憩に入った。







「ママー、手つめたい。」

南さんのプレゼントは諦め、子供を保育園に迎えに行くと、ほっぺを真っ赤に

しながら園庭で遊んでいた子供が私を見つけて駆け寄ってきた。

「あれぇ手袋は?」

と子供に問いかけると首をかしげて「ない、」と言った。

私は笑いながら「だって朝はあったでしょ…」

と言うと、1つしかないとばかりにポケットから片方だけ取り出した。

「じゃあ帰りに買って行こうか…」

と助け舟を出すと「うん。」と照れ臭そうに答え、ピョンピョンと跳ね上がった。

先生と帰りの挨拶を交わすと足早に門を出て、早速子供を連れて手袋を買いに

出掛けた。



ショッピングセンターの服飾のコーナーに行くと子供はすぐに、今人気の

キャラクターに目がいき、駆け出すと目を輝かせて「これがいい!」と

指を差した。

私は若干苦笑いをしながらも本人が望むものを手にするとレジへ向かおうとした。

その時ふと紳士物の手袋が目に入って「そうだ!」とひらめいた。

私は子供を少しの間待たせると、南さんに似合いそうな柄と素材の手袋を選び

始めた。


「プレゼント用にしたいのですが…」

私は子供と手を繋ぎながらも瞬間、南さんに思いを馳せていた。

思いがけなく南さんへのクリスマスプレゼントも購入して車へ戻ると、後部座席に

置いてあったもう一つの包みに気がついた子供が

「ママーこれなにぃ?」と私に尋ねた。

私は一瞬ドキっとしながら「それはママのお友達にあげるんだよ。」と答えて

前を向いた。








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