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運命の人  作者: K-ey
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~嫉妬~




「お前は何遊んでるんだ‼︎」

語気を強めて 後輩である スタッフに怒鳴った。

彼女が遊技している台の ボタンの不具合で、修理させている時のことだった。


胸元に刺繍のある 白いコットンのシャツに、白いフリルのキャミソールが透けている。


俺は嫉妬していた。

彼女が後輩の耳元に囁くように手を添えて 耳打ちする姿を目にして

思わず声を荒げたのだった。


彼女の突き出た胸が アイツの腕にくっ付きそうで イライラしていた。


彼女が席を立つと、ひとりの男がその姿をジッと目で追っている。


『アイツ 何見てるんだ⁉︎』


「お前、あの男が何しでかすか分からないから、彼女の護衛をしろ!」

俺はそう後輩に命令した。

どうやらトイレに向かった彼女を 通路のところで待つよう 後輩に指示したの

である。


やがて彼女は出てくると、スタッフに気付いて ちょっと不思議な顔をしながら席へと

戻って行った。



ここにいる男どもが皆 彼女を狙っているかのように思えて

居ても立ってもいられない気持ちだった。



『なんとかしなくては』

焦りばかりが募っていった。



こんな状態が何か月も続き、どんどん膨らんでいく彼女への想いと

また、それとは裏腹に自分の気持ちを伝えきれないもどかしさで

いっぱいになっていた。





「お前、ちゃんと伝えたのか⁈」


今日は攻略雑誌の記者を呼ぶイベントの日で

取材が一通り終わったら、一般客に台を開放する予定でいた。

俺はもちろん 有利なその台を彼女に打たせるつもりでいた。

勝たせたい一心で…

ところが彼女はイベント台には目もくれず、好きな台に座ったのだ。


俺はこの日の計画を 彼女に伝えるよう指示したスタッフを

その日付けでクビにした。





「可愛いな」


彼女が、注文したオレンジジュースを飲もうと ストローを口に咥えた時だった

ひとつ空けて座っていた中年の男が、彼女の方をチラッと見た。


「見るな!」


俺はすぐに激アツ演出を外させると、彼女は席を立った。

もう21時近くだったこともあり、彼女はあっさりと遊技をやめ

スタッフを呼び出し、帰り仕度を始めた。


まったく油断も隙もありはしない。

皆、彼女を見ている。隙あらば近付こうとしているのだ。

俺は少し胸をホッと撫で下ろして様子を見守った。


彼女はカウンター前に並ぶと 会員カードを専用の機器に挿し入れた。

読み取りが終わり、景品と引き換えると そのまま出口に向かった。

すると彼女の後ろに並んでいた男が、彼女が機器から抜き忘れた会員カードに気付き

彼女を追いかけ呼び止めたのだった。

その男は 彼女に追い付き、肩に手をかけると 彼女は驚いて振り返り

目を丸くして男を見た。

数秒後その男に微笑みかけ、カードを受け取ると彼女は無事に帰って行った。


俺はすぐさま下へ降りて行き、カードの読み取り機器の挿入口をテープで塞いだ。



俺は焦っていた。

『どうにかしなくては』

『早くどうにかしなくては彼女を誰かに盗られてしまう』

そのことばかりで悶々としていた。






「あの男は誰なんだ?」

今日彼女は突然、背の高い男と一緒に現れた。

体にピッタリと沿った淡いピンク色のセーターが

いつもより余計に胸の大きさを強調させている。


俺はだいぶ動揺していたが 二人の関係を探る為に

ひとまず様子を見ることにした。

彼女はもちろん勝たせてやり、その男から金を巻き上げることにした。


いつも笑わない彼女が今日ばかりは楽しそうにしているではないか


『それにしても大きい胸だなぁ』

監視カメラを覗き込みながら 俺は何だか余計に腹が立ってきたのだった。


一気に連チャンさせてやると、隣で遊技していたその男と何やら談笑し

彼女はすぐさまスタッフを呼び出した。



『帰るのか…』

『これからどこに行くんだよ⁈』


カメラで追いながら俺は気になって仕方がなかった。

まさかついて行くわけにもいかず、モヤモヤしながら二人を見送った。


それからの半日、俺は何をしていてもソワソワとして落ち着かず

ただイライラするばかりでスタッフに当たり散らしていた。






『アイツは誰なんだ⁉︎』

仕事帰りに立ち寄った居酒屋で、ひとりビールを飲みながら

いつまでもぐるぐると同じことばかり考えていた。

彼女に子供がいることは知っている。でもあの男は?

あの男は恋人なのか? それとも…


夜中に何度も目が覚めてしまい、考えまいとすればする程

頭の中がそのことでいっぱいになって 全然寝付けなかったのだった。






『確かめるしかない』

翌朝 俺は歯を磨きながら、鏡に映る自分に向かってそう結論を出した。



この日 早めに仕事を切り上げると 彼女のマンションの一階に入っているテナントが、

閉店になるのを待って彼女の部屋の真下に車を停め、窓を全開にした。


宅急便がマンションの脇に停まった。

ドライバーが荷物を抱え階段を上っていく。

俺は下を向き、通り過ぎるのを静かに待った。


耳を澄ますと様々な音が聞こえてくる

炒めものをしている音、水道の蛇口をひねる音、また笑い声など…

まさしく生活の音だ。

そうこうしているうちに さっきのドライバーが戻ってきた。

足早に車へと帰って行く

俺はドキドキしながらシートに身を沈めた。




「りょうくん」


『あっ、彼女の声だ!』


「りょうくんお風呂入ろう」


「イホ」


『? 』


「イホー」


『男の声だ!』

スペイン語で息子を呼ぶ時に使う言葉だということは知っていた

『まさか、まさかあの男じゃ⁈』

俺は 、昨日彼女と一緒に来店したあの背の高い男のことを思い出していた。

『まさかアイツ?アイツなのか⁈』

俺だってまだ彼女の部屋に入ったことがないのに

まさか俺より先に、この俺よりも先に…


『許せない!』

俺はクラクションを ビー と思いっきり長押ししてその場を去った

『俺より先に、この俺様より先に…』



俺はこのまま とてもまっすぐには家に帰る気になれず

橋を上って繁華街へと向かって行ったのだった。












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