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運命の人  作者: K-ey
33/91

~信じる~

「ロミオとジュリエットか…懐かしいな。」

あの有名なメロディーがラジオから流れてきて思わず耳を澄ました。


〜 敵対する一家に生まれた若い男女は運命を感じる出逢いをし、

魂で惹かれあった二人は周囲の心配や反発をかいくぐり、密かに育んだ愛を

皮肉にも互いの愛を信じるが故に失ってしまうという悲恋の物語 〜


そのメロディーを聴いた後、妙に真剣に考え込んでしまい、“ 愛って何? ”と

自分に問いかけてみた。

“ 愛とは信じること、信じられることなんじゃないかな‥”

俺はそう自分に答えを出した。




『早く風邪が治らないかなー』最近、街中でも買い物中でもやけに

子供連れやカップルが目について

『俺だって涼子さんがいるんだから本当なら手を繋いで歩いているんだぞ。』

と説明しながら歩きたいくらいだった。

『それにしても全然連絡が来ないなあ…どうしたんだろう?大丈夫かな‥

ちょっと近くまで来たから…ということにして、彼女の職場の近くで

落ち合おうかなぁ?』

俺はふとそんな風に思い立ち、昼休み絡みで彼女の職場まで行ってみる

ことにした。


「確かここを曲がればあるんだよな…」

賑やかな通りを抜け、路地を曲がった。

「そうそう、ここで合ってた。」

俺は以前も停めた、彼女の職場の隣にある病院の駐車場に入って行った。

「あれ?…」

駐車場から彼女のいる事務所を眺めてみたが、この前停めてあった場所に

彼女の車が見当たらず、

『今日は違うところに停めたのかな‥』と思い、会社の周囲を見渡してみた。

だが、見える範囲に彼女の車は見つからず、狐につままれたようになった。

目を凝らして事務所の中を見てみたが彼女の姿は見えず、室内には

社長とおぼしき人物と従業員らしき女の人が一人。

『どこか頼まれごとで外出でもしているのかなぁ?』

俺はそのまま少し待ってみることにした。


約1時間そうしていたが彼女は一向に姿を現さない。

『休み?それとも子供さんの体調の関係で早退でもしたのかなぁ‥』

考えていても埒が明かないので彼女に電話をしてみることにした。

「…あ、も、」

「ただ今電話に出ることができません、発信音の後に…」

「あれ?おかしいな、」

彼女は珍しく留守番電話をオンにしており、余計に心配になって、

このまま彼女のマンションを見に行ってみようと思い立った。

「大丈夫かな‥」

俺は来た道を引き返しマンションへと向かった。



彼女も風邪がうつったのではないかと心配になり、やけに神妙な面持ちで

ハンドルを握った。やがてマンションが見えてくると、すぐに駐車場を

チェックし、彼女の車を探した。

「あれ?…」

しかしそこに車はなく、どうしたのだろうと心配になり、もう一度

電話をかけてみた。


「…達矢さん、」

「彼女は一度呼び出しただけですぐに応答した。

「涼子さん、大丈夫?具合悪いの?」

「えっ?ううん、私は大丈夫よ。それよりさっきはごめんね

電話に出られなくて。ちょっと仕事が忙しくて、お客さんが来てたから…」

「…お客さん?…」

「そう。社長が出掛けていなかったから私が少し用件を伺ってたの…」

「……」

「達矢さん?」


俺は何を言ったらいいのか、心に空白ができ、次へ進めなかった。


「達矢さん?‥」

「…ああ‥」

「子供もだいぶ良くなったから心配しないで。また連絡するから…」

俺は気の利いた言葉を返すことができず「ああ…」とだけ言うと電話を切った。


彼女が嘘をついた…俺に。


俺は電話を切った後しばらくは何もすることができなかった。

頭の中が空洞になり、何かを思い浮かべることすらそれを受け入れようと

しなかった。

やがて静かに車を発進させると、音のない世界に生きる旅人のように

あてもないまま車を走らせた。笑うことも泣くことも許されずにただ走り続けた。



廃人のように一日を終えた俺は、テレビもつけず、夕飯も食べず、風呂に入り

ベッドに横たわった。

目を閉じるのが怖かったが、せめて真っ暗にならないようにと部屋の灯りを

ひとつだけ残して眠ることにした。


『ああ今日は悪い夢を見なくて良かった‥』と

うつらうつらしながら思っていると明け方に夢を見た。


彼女は俺の髪を撫で、優しく抱きしめてくれた。


俺は夢の中で、言い表せないほどの安堵感と幸福感に包まれ、起きた後

しばらくは胸がいっぱいで何も出来ずにいた。


『きっと何かあったのだろう。ズル休みをしたから言えなかったとか

何か理由があったのだろう…』

俺はそう思い直した。



二日後、彼女から電話が入った。

風邪がやっと良くなったから来週なら逢える、だからその日は半日休みを

もらってその後に逢おうという約束をした。

『ほら、やっぱり取り越し苦労だったんだ。』

俺の心は急に軽くなった。




約束の日、俺はまるまる一日休みを取った。特に忙しい仕事はないし、

重要な案件もない。朝から、いや、前の晩から心を弾ませその日を迎えた。

約束の時間に待ち合わせ場所へ行くと、彼女は少し遅れてやって来た。

いつもの笑顔で、いつものスタイルで、いつもの歩き方で俺の前に現れた。


一瞬にして心が晴れるのを感じた。


「達矢さんお待たせ。」

彼女はドアを開けると俺の顔を覗き込んで

「たまには私の車で出掛けない?」と悪戯っぽく言った。

「えっ?涼子さんの?」

「心配なの?」

「う〜ん…」

「私運転は上手いんだから。」そう言って手招きをした。

俺は苦笑いしながらエンジンを切って、彼女の言うとおり助手席に乗り込むと

シートベルトをしっかり締め、ドア上部にある取っ手に掴まった。

「ちょっとぉ‥」

彼女は笑いながら俺をたしなめた。


彼女に全てを委ねて向かった先は【 シノア 】というフランス料理店だった。

こじんまりとした気取りのない店構えで、誰でも入りやすい、感じのいい店

だった。

「へえ、こんな店知ってるんだあ…」と感心しながら言うと

「だってこの前来た、…」

「えっ?」

「…こ、この前、友達と一緒に来たの…」と彼女は慌てた様子で答えた。

「…そう‥」

「早く入ろっ」

彼女は俺の目を一度見てそしてすぐまた目をそらした。











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