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運命の人  作者: K-ey
32/91

~鎖~

「旅行は楽しかった?」

「うん、楽しかった。」

彼女はブラウスの袖を引っ張りながら答えた。

「あの…涼子さん、この前は…」

「達矢さん今日は休み?」

「‥違うよ、ちょっとだけ抜け出して来たんだ。」

「そう、じゃ忙しいんだ‥私も帰って来たばかりでちょっと疲れてるから

今日はもう帰るね。」

彼女は俺をチラッと見てドアに手を伸ばした。

「ああ、うん‥あっ俺、来週の土曜日休めそうなんだけど、涼子さんの方は

どう?空いてる?」

「うーん、たぶん大丈夫だと思うんだけど、まだわからないかな…」

「じゃ一応予定入れといて、久しぶりにどこかへ行こうと思ってるから。」

「うん、わかった‥じゃあね。」

そう言うと彼女は車を降りた。

自分の車に戻って行く彼女の姿を目で追いながら微かな変化を感じていた。



週が明け、仕事の合間に所用でデパートに寄ると、店内はもうクリスマスの

装飾が施してあり、次から次へと目まぐるしく移行する季節の変化を

ひしひしと感じていた。

「クリスマスか…」


俺はクリスマスにあまり良い思い出がなかった。

子供の頃から所謂イベント毎に何かを特別に祝うという習慣があまりない家で

ゴールデンウィークだから 、夏休みだから旅行に行くとか、日曜日には

テーマパークに行くとか、お弁当を持ってどこかに出掛けるとか、ましてや

バーベキューなどとてもではないが、母親が面倒がって1、2度くらいしか

したことはないし、クリスマスといっても家にもみの木を飾って

イルミネーションを楽しむなんてことすらしない環境だった。

強いて言えば誕生日ぐらいのもので、それも別に人を呼んでパーティーを

するわけでもなく、ケーキを食べて普段よりいい献立を食べるくらいの

ものだった。だから子供心に『どうしてウチはこんなにも、よそのウチと

違うのだろう…」と思っていた。



「ママークリスマスにこれ買ってえ」

甲高い声に思わず目を向けると、女の子が両親の間に入り、二人の手を

左右それぞれの手に取り、プレゼントをねだっている姿が目に入った。


俺は足早に文具コーナー へ向かうと来年のカレンダーや手帳などをひととおり

チェックしてから必要な事務用品を購入し通路へ出た。

時折現れるクリスマスのきらびやかな飾りに目を奪われつつ歩いていると

アクセサリーショップが目にとまり『プレゼントはお揃いの腕時計にしようか?

それとも指輪にしようか?』などと考え、また服屋を見かければ『彼女に似合い

そうな服だなぁ』などと思いを巡らせていた。

こんなワクワクするクリスマスは初めてだった。


束の間の安らぎを味わった俺は気分をリフレッシュして仕事に取り掛かった。

週末彼女と逢うために、今やるべきことをしっかりとやっておかねばならない

と気を引き締めた。



週も半ばになり、さすがに予定を決めなくてはと彼女に連絡を取った。

すると彼女はまだわからないと言い、もう少し待ってくれと頼んだ。

『パートの事務とはそんなに忙しいものなのか?』と若干首をかしげるものが

あったが、『まあ彼女がそう言うのだから信じよう』と思い、

明日必ず連絡するという彼女の言葉を信じた。



翌日の昼過ぎ彼女から電話が入った。嬉々として電話に出ると

「達矢さんごめんなさい、明日はちょっと無理みたい…」と歯切れの悪い

言葉が返ってきた。

「何かあるの?」と尋ねると

「ちょっと子供が風邪を引いて‥」と答えた。

「風邪?」

「うん、このところ急に寒くなったでしょうそれで風邪を引いたみたいなの。」

そう訳を話した。

「そうか…風邪なら仕方ないね‥じゃあ良くなったらまた連絡して。」と

俺が言うと申し訳なさそうに「ごめんなさい、そうする」と言って

電話を切った。

「残念だけど仕方ないか…」

待ち受け画面に向かってそう呟いた。



予め土曜日に休みを申請していた俺はひとりで暇を持て余し、敵情視察と

銘打って他社が運営するホールへ出掛けた。

“ たまにはこうやって立場を逆にしてホールにいるのも勉強になる ”と、

マスクの下でほくそ笑んでいた。

『あ、あの子可愛いな。』メイド服を着てコーヒーを売り歩いている女の子の

顔をまじまじと見て思わずニヤニヤしていた。

『俺はプロだからな‥』

同業の強みで、出る台(出す台)はだいたい分かっているから台選びには

困らなかった。



『女の子のミニスカ姿を見れたし、何しろ遊べたから今日は良しとするか。』

夕方暗くなるまでタップリ遊び、換金所を出て金を財布にしまいながら

駐車場に向かった。

ハイテンションで車を運転し出すと風俗の看板に灯りが灯り、ふとさっきの

コーヒーレディーの姿を思い出し「コスプレもいいな…」とつい口に出して

しまった自分に首を振り、走り続けた。


「たまには呑んで帰るか…」

俺は居酒屋の看板を見つけると車を停めた。

『腹も減ってるしちょうどいいや、』

店内に入るとすぐ酔っ払い達の大声や笑い声が耳に入った。

店員に「おひとり様ですか?」と尋ねられ、若干気分を害しながらも席に案内

されるとすぐにビールを頼んだ。

美味しい酒に酔いながら、つまみを頼みビールを数杯おかわりした俺は

大満足で席を立った。

「そろそろ帰るか、それにしてもうるせ〜な」

酔っ払ったオヤジ達の唸り声や馬鹿でかい笑い声をすり抜けてレジのある方へ

向かった。鼻歌混じりで狭い通路を進んで行くと、目の前を急に立ち上がった

女とぶつかりそうになった。

「ごめんなさーい。」女はそう言いながら振り返った。

「あっ‥」

俺は目を疑った。


見覚えのあるその女は、ミホだったのだ。何か月か前に遊んだ熟女パブの女。

酔いも手伝って何も言えずに立ち尽くしていると

「どうもお久しぶり」と言って小馬鹿にしたような目で俺を見た。

「どうも‥」俺がやっと口を開くと女は咥えタバコでレジの方へ歩いて行った。

俺は間隔を置いてゆっくり後ろから歩いて行くと、女は、先に会計を済ませて

いた中年男と腕を組んで店を出て行った。

俺は深くため息をつき手の汗を拭うと、会計を済ませた後トイレに寄り

石鹸で手を洗った。するとさっきまでの酔いが嘘みたいに覚めてしまい

なんだか虚しさが残った。


俺は念のため代行車を呼んでもらうと「やっぱりタバコを吸う女はイヤだなあ。

それに酒癖の悪い女も。」と大きな声で言って、車に揺られながら静かな街へと

帰って行った。






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