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運命の人  作者: K-ey
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~占拠~

俺はそのまま運転を続けた。何かに追われるように必死になって

その場から逃げ出した。さっき耳元で囁いた悪魔が俺を嘲笑うかのように

いつまでもしつこく追いかけ回して俺を困らせた。


俺の行動に焦りを感じ始めた彼女は

「達矢さん、私もう帰りたい‥」と呟いた。

俺は「大丈夫だから、何でもないよ、もう少し一緒にいよう。」と

なだめすかすと、彼女を乗せたまま煽り立てられるかのように走り続けた。

やがてホテルの看板を見つけると引き寄せられるかのように中に入った。

すると彼女はすぐさま動揺して

「達矢さん、やだ。」と言ったが

俺はもう引き返すことのできない焦燥感に駆られて構わず車を停め、強引に

彼女を連れて行った。部屋に入ると、動揺し尻込みする彼女をねじ伏せて

欲望に突き動かされるがままに欲求を満たした。

胸元や尻に俺の存在を強く残し “ マーキング ”した。

『これで彼女は俺のものだとわかるだろう』そう考えていた。

コトが済むと俺はシャワーを浴び、タバコを吸った。

彼女は何も言わず静かにシャワーを浴びに行くとしばらく出て来なかった…



やがて化粧を済ませ出て来た彼女は「帰りましょう‥」と一言だけ言って

カバンを手にした。俺は「ああ」と言うと目も合わせず立ち上がった。

俺たちはそれから一言も口にせず帰路についた。


帰り際「旅行気を付けてね、」と彼女に言うと「うん‥」と言ったきり

彼女は一度も俺の方を見ることなく車を出た。

ドアを閉める音だけが虚しく響いて一層後味を悪くした。

俺は彼女がエンジンをかけた音を聞くと、やっと顔を上げた。

テールランプの灯りが物哀しく、俺を責め立て、俺はハンドルを何度も

拳で殴って自分を戒めた。

ふと「俺なんかいっそ死んでしまえばいいのに‥」と口をついて出た。




旅行の朝《 行って来ます。》と彼女からメールが届いた。

俺は《 気を付けて 》と一言書くのが精一杯で、この間の一連の出来事を

まだ引きずっていた。

俺はその後、どこにいても何をしていてもただ呆然とするばかりで

一向に捗っていかない仕事を延々と続けていた。

『明日になれば彼女は帰ってくるのだから』といくら自分に言い聞かせても

これっぽっちも納得することができず、余計に自分を虚しくさせるだけだった。


今日は朝から机の上に出したままにしてある携帯電話ばかり気にしていた。

「この前はごめん。」と一言謝ってしまえば楽になれるのに、どうしても

その勇気が出せない自分がいた…



仕事を終えると、いないと分かっているのにも関わらず

彼女のマンションの横を通ってから家路についた。食事もろくに摂らず

ビールを数本あおると風呂も入らず横になった。




“ あいつのどこがいいんだよ、俺の方がいい男だろ。”

女は男に抱かれていた。女は男の胸に顔を埋め背中に手をまわし、

二人はしっかりと抱き合っていた。

やがて女は顔をゆっくり上げるとニヤッと笑い、俺の方を見た。

『涼子さん⁉︎』

男は振り返ると俺を見て「お宝は貰ったよ。」と不敵な笑みを浮かべて

吐き捨てるように言った。

『南⁈』


俺は焦って目を覚ますとベッドの上に横たわっていた。

「夢だったのか…」

ベッドの脇に置いてある時計を引き寄せると4時を回っていた。俺はため息を

ついてまた布団の中に入ると、さっき見た夢の光景が蘇ってきて俺を苦しめた。

『まさか?…』

俺は良からぬ想像に悩まされ、その後一睡もできなかった。



寝不足のまま朝を迎えた。心も身体も重く目覚めの悪い朝。

俺は仕方なく身体を起こすとカーテンを開けた。ぶ厚く薄暗い雲が

強風に押されていた。

夕べ飲み散らかしたままのビールの缶を片付け、シャワーを浴びに行った。

洗面台の前に立つと冴えない男がそこに映っていて、思わず目を逸らした。

熱めのシャワーで目を覚ますとコーヒーを一杯飲み、仕事に出掛けた。

今日は誰にも会いたくない そういう気分だった。



“ 俺の方がいい男だろ。”

彼女とアイツが抱き合いながら俺の方を見た。その光景が何度も繰り返し

頭の中に浮かんで、俺はもう狂いそうだった。


俺は職場に着くなり自分の仕事部屋に入ると鍵をかけた。

机の上で頭を抱えてなんとか自分を落ち着かせていた。そうでもしていないと

正気ではいられない自分がいた。

「早くどうにかしてくれ、助けてくれ。」

俺は独り言を繰り返し呟いていた。机に響く振動の音にハッとして携帯電話を

掴むと、涼子さんからの着信だった。


「もしもし‥」

「もしもし達矢さん?」

「何してんだよ、」

「えっ…何って‥」

「今どこにいるんだよ、」

「…達矢さん、今、」

「何時に帰って来るんだ?」

「…ちょっと待って、私旅行に、」

「だから何時に帰って来るの⁈」

「えっと、夜になっちゃう」

「逢える?」

「えっ‥今日はムリ、もう遅いから‥」

「じゃあ明日、明日必ず連絡して、いいね。」

「うん‥」

「絶対だよ」

「‥はい。」

俺は必死だった…




『もうさすがに家に着いたよな…』

ふと時計を見上げ、彼女のことを考えていた。今夜もまたあの夢を見るのでは

ないかと不安になり、酒をあおって眠りについた。

『早く朝になれ。』そう祈りながら目を閉じていた…


明け方4時過ぎにまた目が覚めた。どうしてこうもこの時間になると

目が覚めるのか、眠ろう眠ろうとすればするほど目が冴えていった。


暗闇に時計の針の音だけが響いて俺を不安にさせ、孤独にした。

『もう少しで楽になれるさ』そう必死で自分に言い聞かせ、

外が明るくなるのを待った。




やっと朝が来た。俺は気持ちを切り替え、起き上がった。

『彼女に逢ったらまず謝ろう。この前はごめんと言えばスッキリする。』

そう心を決めて一日をスタートさせた。

前向きな気持ちになると腹も空いてきて、今日はしっかり食べなきゃという

気になり、出勤途中コンビニに寄った。

カフェオレという文字を見た途端、普段はブラックの俺も何だか急に飲みたく

なって結局両方手に取った。


カフェオレを車のホルダーに置くと何だか彼女と一緒にいるような気がして

ひとり頷くと職場に向かった。




ちょうど仕事のキリがつき、昼飯でも食おうとしていると携帯電話が鳴った。

『涼子さん⁉︎』

俺は勇んで電話に出ると、お土産を買って来たから4時過ぎに公園に

来て欲しいとのことだった。

彼女の声にホッとし、これから逢えるという喜びに元気が出た。




俺は仕事を抜け出して公園に向かった。到着すると間もなく彼女が現れ

車から降りてこっちへ向かって来る姿に、少し緊張しながら彼女を待った。

彼女は俺の顔を見ると笑って手を振り、ドアを開け車に乗り込むと

「ただいま、これ」と土産物を差し出した。

その時、手首に光るものが見え、

「ありがとう、あれっ?買ったのブレスレット」と聞くと

彼女は手首に視線を送り

「あ、うん、向こうで買ったの。」と素っ気なく言った。

「そう、見せて」と俺が手首を掴もうとすると手を引っ込めて

「なんてことない普通のブレスレットだから…」と言った。

「そう…」

俺は少し違和感を感じていた。









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