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運命の人  作者: K-ey
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~天使~

俺には数日前から考えていた計画があった。


店のメール会員になってもらう際に 携帯電話を預かり


そこでメアドをゲットする作戦だった。


1、2時間彼女を遊ばせてやると女性スタッフに声を掛けに行かせた。


数分のやりとりの後、スタッフがインカムで報告してきた。


「登録はご自分でなさるそうです」


俺は思わず机をドンと叩いた。




俺はこの日21時に仕事を切り上げると彼女のマンションまで行ってみた。


灯りがついている 『夕飯でも食べているのかな?』


2階にある彼女の部屋を上目遣いに横目で確認すると、ひとまず安堵し


素早く通り過ぎると 橋の下にある自宅に着いた。



俺は彼女のマンションから歩って行ける距離にあるアパートに引っ越していたのだった。



『彼女の側にいたい』 その一心で…




彼女は完全に常連客になっていた


毎日のように通って来るようになっていたのだった。


開店と同時に来ては夕方には帰るスタンス。


それはそうだ来る度にパートの1か月分くらいは稼ぐことができるのだから。



俺は彼女の為に 勝たせ続けた。




時には新聞の折り込みチラシにメッセージを込めることもあった。


《もしもあなたに出逢わなければ…》


《たった一度きりの人生捨てることも…》 云々。



俺のありったけの想いをのせて彼女に伝えていたのだ。


本人に直接言えればどんなにか楽になるだろう。


そうしたいのは山々なのだが、


彼女の前に出ようとすると 何故か身体が震えてしまい 簡単には近付けないのだ。


それが俺には非常にもどかしく やるせなく思っていたのだった。




今日も仕事を終えると彼女のマンションの横を通り


2階の部屋の灯りを確認すると帰宅した。


いつしかこれが日課になっていたのだった。




「可愛い犬ですね、」


ある夜待ち伏せをしていた俺は彼女にそう話し掛けた。


橋を上りきったところにあるバス停の側に 白い大きな犬を飼っている家があった。


その犬はフサフサとしてまるで たんぽぽの綿毛のような毛で覆われていた。


一瞬驚いたような様子で


「あっ、ええホントにぬいぐるみみたいで可愛いですね。」


しっぽを振りながら飛びかからんばかりのその犬を 懸命に撫でながら


俺にそう言って微笑み返した。



俺は顔が急に熱くなるのを感じた。



彼女が俺に笑いかけてくれた。



俺に、この俺に。



俺は嬉しくて 興奮して飛び上がりそうになるのを必死に抑えた。



頭が真っ白になり 次に掛ける言葉を完全に失っていた。




彼女はまだ2、3歳くらいの息子さんと 嬉々として 夢中で犬と戯れている。



俺はその光景を時が止まったかのようにただ見つめていた。



「じゃ、」


やがて彼女は俺にそう告げると軽く会釈しながら帰って行った。




俺は完全に舞い上がっていた。


彼女は俺に笑いかけてくれた、 この俺に笑いかけてくれたんだ。


この事実が俺を捉えて離さなかった。



【彼女はまさしく天使、俺のものにしたい】



俺の心の中に そのことだけが ガッチリと嵌まって びくともしなくなったのだった。



「俺のものにしたい」



「いや、彼女は俺のものだ!」



いくつも通り過ぎる車のヘッドライトの中で俺はしばらく動けなかった。





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