トランプの王子様
タイトルにルビ機能が適応されないことに気付いたので編集しました。
金曜の繁華街は騒がしい。しかし、今の彼女にそんなことは関係ないらしい。
「それで!今日はもともとは王子様の、メジャーデビュー祝いのイベント日だったんです。もちろん王子様も好きなんですけど、私は断然キング派で。だから、今日は余裕があったら行っても良いかなー、程度だったんですけど、王子様ファンの友達が入り待ち…あ、会場に早めに行ってメンバーのお出迎えをすることなんですけど、その入り待ちをしてたら、キングが一緒に来たって教えてくれてー……」
「ちょっと待ってくれ。王子様、というのがジャックという1番人気のイケメンで、キングというのが小鳥遊さんの好きなカトーというメンバーで間違いないな?」
「完璧です!キング・カトーは、私はキングって呼んでるんですけど、王様って呼ぶ人が一番多いと思うので、それも知っといて貰えると、良いかもです。まだ着くまでもう少し時間がありますから、他にわからないことがあったら遠慮なく聞いてくださいね!」
会社を出てから今まで、ほぼ休みなくこの調子である。普段の大人しげな態度はいったい何だったのか。見た目の違いもあいまって、とても同じ人物だとは思えない。
やはり、会場に着くまでの間少しで良いから今日見に行くバンドについて教えて貰えないか、と言ったのが拙かったのだろうか。その頼みを口にした時、彼女の目は確かにキラリと光っていた。
私たちは今、会社にほど近い繁華街の中ほど、寂れた雑居ビルの地下2階にあるというLIVE HOUSE2130に向かっている。そこでは連日、小規模ながらもライブが行われており、バンドマンやDJ、趣味人や学生などのグループが代わる代わる発表しているらしい。なかでも夜の9時半からは、ニイサマtimeと呼ばれる店の名前に因んだ大枠の時間が設けられ、この枠を任されるようになれば、この界隈では一端と認められた証なのだとか。
「会場は金を払って借りるものじゃないのか。あぁ、他の枠に比べて賃料が高いから、そこそこに人気が出て、稼げるようにならないと借りれないってことか?」
一介のライブハウスのどの枠で歌ったからと言って一人前扱いとは不思議だと思って聞けば、小鳥遊がチッチッチと人差し指を左右に振って教えてくれる。なんだそのキザな仕草は。やめろ、イメージが壊れるじゃないか。
「それはですねぇ、2130のオーナーは、まぁ、有体に言えばヤクザ上がりのそこそこ偉い人なんですよ。で、昔から路上パフォーマンスなんかを見るのが好きだったらしくてですね、店自体も、趣味でやっていて、収入云々は二の次なんですって。で、その時間だけは使いたい人が申し込むんじゃなくって、オーナーから声を掛けられたら無料で使えて、しかも、そこに来たお客さんからの収入は全部、ご祝儀に貰えるんですって!すごくないですか?はーん、私もそんな、道楽生活がしてみたいですー。」
「うーむ、たしかに羨ましい話ではあるかも…ん?9時半からと言ったな?もうそろそろ9時になるが、じゃあその王子様とやらのイベントはその認められた枠で…?」
「そうです!先輩はご存知ないみたいですけど、TRUMPのPOKERっていえば、この辺の音楽やってる若い子なら誰でも知ってる人気バンドなんですよ。」
「TRUMP?どこかで見たような気もするが…POKERは知らないな。…若い子なら、本当に皆知っているのか?」
「あっ…。せ、先輩、違いますよー、先輩を年寄り扱いしたとかでは、決してないですから!あくまでバンドとかやってる子たちの中では…ってことですし。むしろ、TRUMPは知ってるかもなんて、驚きました。どこで聞いたんですか?」
「気を使ってくれなくてもいい、すまないな。…いや、たぶん勘違いだろう。実は友人が、定期的に路上でロボットダンスを披露していてな。金色のマスクなんぞ被ってなかなか目立つし、たまに見ると楽しめるんだが。たしか、その時の看板にTRUMPと書いてあったような、と。」
「ツタンカーメン様!?♣のKの!?友達なんですか?うわー、いいなぁ、いいなぁ。彼は、POKERには滅多に参加しなくて、予告なしの路上パフォーマンスばっかりやるから、滅多に会えないんですよ。いいなぁ…。」
「♣のK?なんだそれは。あとPOKERって今から聞きに行くバンドだろう。あいつはとんでもない音痴だから、そんなのには出てないと思うぞ。」
学生時代行ったカラオケでの惨状を思い出し、自然と眉が寄ってしまう。それを見て小鳥遊が笑い、たまに出ても基本踊ってるだけだと教えてくれた。バンドなのにそれでいいのか。
小鳥遊によれば、今夜の主役POKERは、いつも違うメンバーが登場し、オリジナルからコピーまで気まぐれに曲を披露するバンドなのだという。長くなるから、と詳細は省かれたが、TRUMPと呼ばれる集団から毎回5名が選出されて、その時限りの活動をし、解散する。TRUMPのメンバーはそれぞれスートとランクを持っており、例えば♡の3、♡の6、♣の3、♠のK、♢のQが集まった時は、ワンペアと呼んだりもするらしい。
メンバーの詳細は公表されていない。♣の6があの俳優に激似だとか、♡の7は某アイドルにそっくりだとか様々な噂が囁かれているが、その真偽は不明。年齢もバラバラ、普段の職業もまちまち、ニートも学生も社畜も、頬に傷持つオジサマも、ただ皆等しくTRUMPの一員なのだという。
メンバーの人数も52名きっかりではない。現在それなりに活動しているメンバーは、およそ30人程だという。一応かぶらないように配慮しているようだが、それぞれが好きなカードを選ぶせいか、たまに事故も起きるそうで。熱心なファンによれば、現在♣の3と8は2人ずついるらしい。なぜ♣ばかりが重なったのかは謎らしいが…
「謎?最初にいた方の、影が薄かったんじゃないのか?」
「しっ、黙って!先輩、今日その最初にいた方の8も出ますから。ファンに聞かれたら殺されますよ。」
「それは失敬。」
黙って続きを聞くことにする。
「えーと、なんでしたっけ?まぁ、とにかくそういう訳で、POKERはちょっと変わったバンドなんですけど、2年くらい前にはじめてニイサマtimeを任されてから、一気に人気が広がってて。特に、今日メインの王子様なんて、あ、♠のJで、そのままジャック様って呼ばれてるんですけど、人気ありすぎて、他のスートのJに誰もなりたがらないくらいですし。」
「なるほど、王子のジャックは大人気…と。そういえば、メジャーデビューが決まった記念だと言っていたか。それほどまでの人気とは、恐れ入る。ソロデビューか?」
「いえ、王子様は歌も上手いですけど、ギターがメインなんで。なんか全然別でスカウト?とかされた人と組むらしいって聞きました。まだ、詳しいことは決まってないそうですよ。」
「そんなもんか。上手くいくといいな、デビュー。……ところで、さっきから気になっているんだが、王子様って呼び名はどこから来たんだ?そういう、華奢でキラキラしい感じのヤツなのか?」
「いいえ?めちゃくちゃイケメンですけど、どっちかというと男らしくてチャラチャラした感じですよ?ていうかランクがJだからじゃないんですか?唯一のJですし。」
「それなら王子じゃなくて騎士だろう。」
「え?」
「え?じゃない。騎士じゃないのか?」
「え?あれー?……あ、先輩、見てください!あそこの建物の地下が、LIVE HOUSE2130ですよ、着きました!並びましょう。」
「…ほう、すごい人だかりだな。」
明らかに誤魔化そうとした彼女に思うところはあったが、こんなことで嫌われでもしたら困る。私は素直に頷き、彼女と連れ立って入口に向かった。




