第14話 「帰宅」
「人がひとりでいるのは良くない。
彼のために、ふさわしい助け手を造ろう。」
創世記 第2章 第18節
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妻はすぐに電話に出た。
そして、泣きながら、僕の名を呼んだ。
「今どこにいるの?
怪我したり風邪引いたりしてない?
お腹空いてるんじゃない?
良かった、、電話してくれてありがとう。
私が悪かったです。本当にごめんなさい。
帰ってきてくれる、、?」
僕は今から家に帰る事、家に着くまで2時間半くらいかかるだろう事、心配させて申し訳なく思っている事を伝えて電話を切った。
結婚してから妻が家で一人きりで夜を過ごすのは初めてのことだった。
とても心細かったのだろう。
妻がここまで僕に謝ることも初めてだった。
早く帰らねば。そう思った。
僕は夜の山手通りから青梅街道に出た。
あとはずっと一直線だ。
妻に電話を掛けたとき、20時過ぎだった。
今日のうちには帰れるだろう。
毎週ふたりで観ていた吉田栄作と山口智子と鈴木美奈子のドラマは0時半からなので、疲れ果ててペースが落ちなければ、先週と同じようにふたりで観ることが出来る。
僕は自転車を飛ばした。
帰り道は暗くなってしまったせいもあり、行きとは全然雰囲気が違ったので、時々自分が正しい道を進んでいるか不安になったが、青看板を見て自分が真っ直ぐ進んでいることを確認しながらペダルを踏み続けた。
Kさんのお陰で力はみなぎっていた。
時々信号待ちの際に妻に電話し、大体の場所を伝えながら進んだ。
幸い警察に職務質問されることもなく、事故もなくこの旅の一番最初に立ち寄った神社を通り過ぎた。
あと少し。
見慣れた町が現れ、少しずつ緊張がほどけていくのが分かる。同時に疲労感が意識に浮かび上がってくる。
最寄り駅に辿り着いた時、妻に電話した。
自分が思っていたより時間が過ぎていて、もうすぐ日が変わりそうだった。
ようやく家に帰りついたのは0時を少し回った頃だった。
僕は鍵を持って出なかったので、妻に電話してマンションのエントランスまで迎えに来てもらった。
僕が電話した時妻は、2日間何も食べていないはずの僕にパスタを茹でてくれていた。
僕を見て妻は泣いた。
大声で泣き、僕に謝った。
僕も心配をかけたことを謝った。
そしてふたりで泣いた。
妻は野宿した僕に風呂に入るように薦め、自分は料理に戻った。
妻が疲れた体を癒すためにお風呂にお湯を張ってくれていた。
風呂から上がると、ふたり分のパスタがテーブルに並んでいた。
妻はこの2日間、僕が何も食べていないと思い、自分だけ食べるのは悪いと思って水しか口にしていなかったのだと言う。
僕は2日間の出来事を食事しながら話し、ひとりだけご飯をご馳走になっていたことを妻に詫びた。
吉田栄作のドラマは録画予約されていた。
帰ってきたら絶対に一緒に観るつもりだったのだと言う。
あのドラマに出てきたペットショップの前も通ったよ。
僕はそう言って、パスタを口に運んだ。
それはアボカドとベーコンのクリームパスタでものすごく美味しかった。
僕たちは泣き笑いしながら、妻の料理が改心の出来だった時いつもそうしていたように、食卓でハイタッチした。




