第10話 「教会へ」
「狭き門から入りなさい。
滅びに通じる門は広く、その道も広々として、
そこから入る者が多い。
マタイによる福音書 第7章13節」
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誠実な人、という人種がいる。
彼らは自分に嘘をつかない。
自分が信じた道をまっすぐコツコツ進んでいく。
正しい人、という人種もいる。
彼らは誰も反論できないような言葉、行動、思考で
他者を牽引していく。
どちらかというと、僕は正しい人より誠実な人の方が美しいと思う。
僕はK牧師に確かな誠実さを感じていた。
そして、彼に話を聞いてもらい、嘘のない言葉を与えて欲しいと思った。
K牧師のくれたパンフレットに地図は無く住所と電話番号だけが記されていた。
住所から大体の場所が分かったので僕は明治通りを新宿方面へ向かい、近くまで来たと思えたところで路上の地図看板を見て細かい位置を確かめようとした。
しかしその地図には僕の探す住所の隣の区域までしか記載されておらず、目的地は思ったよりも遠いと言うことが分かった。
僕は携帯電話の電源を入れ、グーグルマップで住所を検索しようとした。
妻からのラインが夜を徹して、昨晩からずっと定期的に来ていた。
それらを既読にすることで僕が生きていることを伝えるとすぐに妻からラインの電話が掛かってきた。
昨日からずっと僕からの電話を待って、眠りもせず、携帯電話を握りしめていたのだろう。
しかし僕はそれに応えることが出来ず、グーグルマップを諦めて、また勘を頼りに教会に向かった。
もう怒っているのか意地なのか、自分の気持ちを冷静に分析する余裕は無かった。
ただ自分が設定した目的の為だけに行動した。
いくつも地図の看板を見て、なんとか教会の最寄り駅まで辿り着いた。
公園を突っ切ってスマートに行けばきっと15分で行けたところを1時間以上かけてしまい、気が付いたら18時を過ぎていた。
駅からまたしばらくさ迷った。近ごろめっきり長くなった日が傾き、黄昏時になった。
番地だけを頼りに住宅地をギターケースを担いで自転車で右往左往する僕は人の目にどのように映っただろう。
そして僕はついに教会を見つけた。
入口は奥まっていて、建物に電気は灯っていなかった。
入口までの細長い敷地に大きなワゴン車が停めてあったので僕は自転車を道路に停め、ギターを背負ったまま奥の玄関に向かった。
玄関のドアは透明で、中は保育園のような雰囲気で
来客用の緑のスリッパが幾つか目に入った。
ドアは閉まっており、中には誰もいないようだった。
僕は呼び鈴を鳴らしてみて、誰も出なければまたどこかに行こうと決めた。
個人宅には見えなかったし、もう誰もいないだろうというつもりで、自分を諦めさせる為に僕はインターホンのチャイムを鳴らした。
5秒待っても、無音だった。
やっぱりなあ、と思い振り返ろうとした時、感じの良い男性の声で「はい」と返事があった。




