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恋愛リスタート!  作者: たか式
1/7

~日常編~ 「失恋」

※この作品は、作者である私が目指している、美少女ノベルゲームのライターの練習として評価してもらいたくこの場を使って投稿しています。

なので本作品のシナリオは、一般の小説というよりはそちらの書き方のルールに沿って書かれていますが、それを理解した上で読んで頂けると幸いです。

「俺は...お前のことが、好きなんだ」

夏を思わせる暑い六月の末。

日が暮れる時間でもまだ恨めしいくらいに差してくる日差しが、俺と彼女を照らす。

学校の放課後、部活前の時間。

言いたいことがある。そう言って幼馴染である彼女とここに二人きりになって。

俺は高鳴る緊張を抑え、彼女に向かってそう叫んだ。

「え...」

彼女は戸惑っていた。

そのまま5秒ほどの沈黙が流れる。

「ご...ごめんね...」

彼女の答えはそうだった。

何年もそばにいながら、その時の困ったような彼女の表情を見たのは始めてかもしれない。

「私とじゃ、釣り合わないよ...」

「そんなことは...」

「だめ...ヒロ君のことがもっと好きな人に悪いよ」

「高槻は...俺のことどう思ってるんだよ!」

俺は、つい声を張り上げてそう言ってしまう。

「...」

彼女はしばらく沈黙した後、口を開ける。

「今は...嫌いかな」

「...」

嫌い。

その一切包み隠されていない大きな爆弾をもろに受けた俺は、すぐには何も言い返せなかった。

「今は...って」

「遅すぎたんだよ、何もかも」

「...」

遅すぎる。そうだな。

俺が彼女に対して恋心を抱いたのはいつだっただろうか。

今思えば、とても昔の話に思えた。

だが、今に至るまでに、いろんなことが起きすぎた。

それでも、チャンスはいくらでもあったのだ。

もう、あの頃には戻れない。

「ほら部長!部活行こ!なるちゃんが待ってるよ!」

何も言えずにいた俺に対して、彼女がそう言ってくる。

まるで、先程までのことを無かったことにするように。

「...そうだな」

「作品もあとちょっとで完成だし...頑張らないと!」

俺は彼女にそう言われ、部室へ向かう。

部長...

俺はこの学校の「ノベル研究部」という部の部長を務めていた。

彼女はその部員で、副部長でもある。

俺が部長であることに対し、「心配だから」という理由で自分から副部長を立候補したのだ。


それは今から約2ヶ月前。

季節は春。

シャワーのように細かく心地いい雨音が、カーテン越しから聞こえてくる。

「ノベル研究部」に務めていた俺は、ある問題に直面していた。

それは部員の数である。

この学校では部活を行うためには、最低3人の部員が必要であった。

その人数に達していない場合、1ヶ月以内に部員を見つけてこなければ廃部になってしまうのだった。

俺が学校に入学したばかりの頃、この部活に入部した時にはまだ最低限の人数は揃っていた。

だが1、2年経ち、俺が3年生になる頃までには全く新入部員が入ってくることはなかった。

そして今では俺一人となってしまった。

もともと廃部寸前の部活だったらしい。

今まで部員の人数に対して無関心だったことも悪いのだが、今こういう状況になって、ようやく事の重大さに気づいた。

「はぁ...」

探し始めて約1週間が経つも、まともに人が増える気配はない。

俺は今日は諦めて帰ることにした。


「あ...!」

部室の扉を開けると、そこには俺のよく知る顔が立っていた。

「どうもヒロ君...」

「どうしたんだ、こんなところで?」

彼女、高槻麻衣は俺の住んでいる家の隣に居住している幼馴染である。

彼女とは幼少期の頃からの付き合いだった。

昔からお節介で面倒見がよく、俺の救いであった彼女のことが俺は昔から好きだった。

だが、ある出来事をさかえに、俺はその恋を諦めていた。

...俺は過去に、彼女にフられたのである。


忘れもしない中学2年の春

俺が彼女に告白しようと決め、校門前で待ち合わせをして。

幸運にも午後の授業が早めに終わり、俺は予定より約20分も前に校門に着いていた。

...何時間待っただろうか。

完全に日が沈み、冷え切った空気の中、俺は待っていた。

しかし、いつまで待っても彼女が現れることはなかった...


そんな彼女が今、この「ノベル研究会」の前に立っていた。

しかし、彼女が今ここに立っているのはおかしかった。

彼女はバレー部で、今そっちの方で活動しているはずだった。

「その...今足りてないんでしょ?部員」

「え?」

「これ!」

そう言って高槻が渡してきたのは一枚の紙。

「これは...入部届け?!」

「私で良ければ...入ってあげようと思って」

「でも高槻、バレー部の方はどうしたんだよ?」

「辞めるよ。」

高槻は迷いもないような目で、俺にそう言ってきた。

「高槻はそれでいいのか?」

「私、ヒロ君のことが好きだから」

彼女は俺の目を見つめながら、唐突にそう言ってきた。

「またそれか」

「嘘は言ってないよ?」

高槻は、俺に対して好きと言ってくることがよくあった。

言い出すようになったのは、俺たちが高校生になり始めた頃からだと思う。

それが本心なのかどうかは分からないが、俺はそれを無難に受け流し続けてきていた。

「だから...自分の好きな人が苦しんでる姿は、あまり見たくないというか...」

恥ずかしがっているような表情で、彼女はそう言う。

「ふーん、で、本心は?」

「これが本心だよ!...入部ダメかな?」

こうなった彼女は断ってもきかないと、俺はよく知っていた。

「高槻がそれでいいっていうならいいけど...」

「ふふ...やった!」

ガッツポーズを作りながら、嬉しそうな表情を浮かべる彼女。

「私、本を書くことはそんなわからないけど...読むのは好きだから」

高槻はいつもこうだった。

困ってる俺を放っておけない。

いいって言っても聞かないので、俺は高槻に助けてもらう度に申し訳ないと思うことしかできなかった。

「別に俺のことは放っておいてくれてもいいのに」

「私が決めたことだから」

俺の強がりも高槻には全く効かなかった。

実際、ノベル研究部の現状はとても厳しいものだった。

今彼女が入って、協力してくれるのは非常に助かる。

「そうか...よし、分かった。今日はもう終わりだけど、明日からよろしくな」

「ヒロ君は...もっと私に頼ってくれていいんだよ?」

「そうは言ってもな」

「好きな人には頼って欲しいものなんだよ~」

彼女はそう言うと、無邪気に笑いながら、俺の腕に抱きついてくる。

「あっおい?!」

「フフフ~誰も見てないから大丈夫だよ~」

高槻はずっとこうしたかったと言わんばかりなほど嬉しそうに、俺の腕に頬を擦りつけながらそう言う。

高校生になり、俺に好きと言い出すようになってから、高槻がこのような行動を取ることも日に日に増えてきていた。

俺はそれにどう答えていいか分からず、ただただ慌てることしかできなかった。

「じゃあ、これからよろしくね!ヒロ君」

俺の腕から手を解き、隣にいる俺の好きだった人は、そう言う。

そうして俺の部活継続の危機に一筋の光が入ることになった。


翌日の放課後。

雨は綺麗に止んでいた。

授業を終え、俺は高槻と共に部室へ向かった。

「私、バレー部を辞めようと思ってるんですけど」

部室と言ってもノベル部ではないが。

俺は先生と話す彼女の後ろで待ちながら、その様子を眺めていた。

「そうか...」

彼女の言葉を聞き、うろたえるような表情を作るバレー部の顧問。

「どうしてかな?」

しかし、すぐに表情を戻し、真面目な顔で高槻に理由を聞く。

「ノベル部に入ろうと思って」

「ノベル部か」

顧問は少し考えるような表情を見せてから、答えた。

「君は、ノベル部が今どんな状況でいるか、知ってるのかい?」

「はい」

「それを知った上で、そこへ入ろうと?」

「そうです」

「ほう...」

そう言うと、その顧問は後ろで待機していた俺と目線を合わせた。

「君は?」

「3年の里中です。里中孝宏」

「彼がそのノベル部の部長です」

名前を告げた俺に付け足すように、高槻がそう言う。

「ノベル部は今、何人で活動しているんだ?」

「一人です。私が入ると二人になります」

俺が言う前に彼女が答えてしまったんで、俺はだんまりするしかなかった。

「部を続けるには、最低3人の部員が必要だが、足りてないみたいだね」

「はい」

「どうするんだね?」

「彼と一緒に見つけます」

俺が言うまでもなく彼女が早々と答えてしまうので、何も言えずにいた俺はどこか情けない気持ちになっていた。

「君は...どういう考えでいるのかな?」

そんな俺に顧問はそう聞いてくれた。

「彼女と二人で協力して部員を探します」

彼女が言ったことと同じことを告げる。

「ふむ...そうか」

何かを察したような表情をする顧問。

「なんとなくね、高槻さんが考えてることが分かったよ」

「え?」

顧問が言ったことに対して、きょとんとする高槻。

「いいよ、退部を認める」

「あ、ありがとうございます...」

高槻はきょとんとした表情のまま、そう言う。

「大会も控えてたからさ、君には少しばかり期待もしていたんだが...そういうことなら、しょうがないね」

「はい...」

「ノベル部の方でも、頑張ってくれたまえ」

顧問は、ちらりと横目で俺を見てから、そう答えた。


「じゃあ...部室行こうか。」

「うん...」

高槻は少し悲しそうな表情をしていたのが目に取れた。

バレー部を引退し、彼女にもどこか思うところがあるのだろうか。

「大丈夫か?」

なんとなく心配だったので、俺はそう声をかけた。

「あの...えと...実は今日...」

「今日は帰るか」

「あ...」

なんとなく彼女が言わんとしていることを察して、俺はそう言った。

「でも...」

「いいよ、高槻なんか元気なさそうだからさ」

「え...」

「バレー部引退して、色々思うことがあるかもしれないし...」

それが本当にバレー部引退のせいなのか、それ以外のことのせいなのかは分からない。

「いやそんなことは!ないんだけど...」

高槻は、俺に何か言いづらいことがある。

鈍感な俺でも、それに気づくことはできた。

「引退して直後、すぐに新しい部活動に来ても、やりづらいだろうし」

だが俺がわざわざその内容に首を突っ込む必要はないのだ。

俺は気づいていないフリをして、部室に向かっていた道を引き返し、学校の外へ向かうのだった。


「ヒロ君!」

「...ん?」

学校から出て、校門に差し掛かった時。

唐突に彼女に名前を呼ばれて、俺たちは立ち止まる。

「私、あなたのことが好きです」

「また...」

幾度となく聞いた、その言葉。

「ヒロ君は、どう思ってますか?」

しかし、彼女の顔と口調がいつものそれと違っていた。

「今、答えて欲しい」

彼女は真剣だった。

幸い、周りには人が少ない時間帯だった。

嫌、幸いではなく、高槻は狙っていたのだろう。

この時間は、帰宅部を除いて皆部活に励んでいる時間だ。

昨日の雨でぬかるんでいて、今頃は外で活動しているはずの野球部もいなかった。

「答えて...!」

「え、それは...」

高槻は、身を乗り出しながら俺にそう訴えてくる。

いつもは見ない、彼女のその表情に、俺は圧倒されていた。

「...なんで今更」

「え...」

「あの時、お前は俺をフったじゃないか」

未だに忘れもしない、あの5年前のこと。

言いたいことがあると、彼女にそう伝えて。

放課後に校門で、と約束をして。

「ずっと待ってたのに、高槻は来なかった。」

その時のことを、俺は彼女に訴えた。

「嘘...」

「え?」

俺のその話を聞いて、彼女は何やら困惑していた。

「違う...違うよ...ヒロ君勘違いしてる」

今度は彼女の言葉に俺は困惑する番だった。

「だってあの時、あなたの前には...!」

「高槻さ~ん!」

その時、学校側の方から、女の子の声が聞こえた。

それは昨日自分たちのクラスへ転校してきたばかりの女の子の姿だった。


結局、その後高槻は用事で先に逃げるように帰ってしまい、雪野さんと2人で帰ることとなった。

「里中さん...でしたよね?」

「あぁ...うん」

と言っても、彼女と話すことなんて滅多になく、そもそも俺は高槻以外の異性と話すこと自体が苦手だった。

「私は雪野奈留と言います。転校してきたばかりですが気にせず話しかけてくれれば、嬉しいです」

彼女は同級生に対しても、敬語を使って話す子だった。

だがとても積極的な印象があり、初対面の自分でもがつがつ話しをふってくる。

異性と話すことに関しては乏しい俺は、そんな彼女に対して情けなく応答を繰り返すことしか出来なかった。

「ノベル部...でしたっけ?」

「え?」

「里中さんが入ってる部活」

「ああ、そうだよ」

「里中さんは何でノベル部に入ろうと思ったんですか?」

「あぁ...それは...」

俺との会話は、初対面同士にも関わらず、ペースよく進んでいた。

自分が何も話せなくとも、向こうからどんどん話題をふってきてくれる。

高槻以外でここまで異性と会話したのは、おそらく生まれて初めてだと思う。

「昔から主人公が大切な人を救う...みたいなお話が好きで...そういうのを自分も書いてみたいと思ったんだ」

「...」

雪野さんは黙って俺の話を聞いてくれる。

彼女とは、他の異性の子と違って、気軽に話ができていた。

転校してきて早々から色々な人と会話出来ているのを考えると、納得できる気がした。

「まぁ...恥ずかしい話だけどね」

俺は初対面の彼女に対して、自分の夢である小説家について語ってしまっていた。

高槻にもここまで話したことはないのに...

どこか彼女には、不思議な力があるように、俺は感じていた。

「そんなことないです。とてもいい話を聞かせてもらった気分ですよ!」

雪野さんは初対面の人相手に対して、何のためらいもなく、満面の笑顔を俺に見せながら、そう答えてくれた。

「昔...その物語の主人公みたいに、困ってる人は放っておけないって人がいたんですよ。」

「え?」

「そんな彼が、一人ぼっちだった私を助けてくれたんです」

彼女が過去の話をし始める。

「私、その人のことが好きになったんですよ」

「うん」

俺は、黙って彼女の話を聞いていた。

「私は思い切って彼に告白したんです」

彼女はそう言いながら、どこか悲しそうな表情をしている気がした。

「...」

それから少しの沈黙。

「...で、どうなったの?」

黙ってしまった雪野さんに対し、俺はそう声をかけた。

「でも...ダメでした...」

「あ...」

俺はそこから、彼女と話をするのを控えた。

彼女の目には、うっすらと涙が溜まっていた。


その翌日。

結局あの後高槻と話す機会は訪れないまま、今こうしてノベル部の活動をしている。

その彼女は今目の前にいるのだが、互いになかなかこの話題を出せずにいた。

「なるちゃんを誘おうと思うんだ」

「...」

部室で部員集めのことについて話を始めて、一番最初に彼女から出た提案がそれだった。

なるちゃんというのは、雪野奈留という最近この学園に転校してきたばかりの女の娘であり、俺たちと同じクラスメイトの同級生だ。

そして、昨日校門で高槻を呼んだ張本人でもある。

彼女はクラスからの評判は良く、転校してきて早々に複数の人たちと話すようになっていた。

高槻も彼女とはよく話すらしく、部活もまだどこに入部するか決めていないという。

俺はその彼女との関わりは、昨日話したくらいだったので、この部活に入部させるということに対してはちょっと不安だった。

「でも俺、まともに喋ったことないんだよな...」

「大丈夫、私もすぐに話せるようになったから、ヒロ君もきっと!」

俺は雪野さんとは昨日のこともあり、今日はなかなか話しかけることが出来なかった。

彼女も彼女で、俺と目が合う度に、ちょっと慌てた反応をして目を背けてしまうのだ。

そのせいで俺は雪野さんとまともに会話することは出来ずにいた。

「まぁとりあえずさ、明日から雪野さんを狙ってみようと思うんだけど」

「何でそんな雪野さんにこだわるんだよ」

「何ていうか...直感...かなぁ?」

「え...」

「雪野さんならここで上手くやっていける気がするんだ」

高槻の雪野推薦理由は「直感」という、極めて曖昧で適当なものだった。

「まぁ...特に俺にもあてがあるわけじゃないしな...」

「じゃあ明日、私が誘ってみるね!」

俺も特には反論はしなかった。雪野さんだから何がダメということもないし。

雪野さんは既に学校にはいなかったので、その日はそれで活動を終了することになった。


翌日。

授業を終えた放課後、部室では俺と高槻、そして高槻が連れてきた女の娘の姿があった。

「どうも...雪野奈留です」

「どうも、里中孝宏です。聞き及んでいると思いますが、ノベル部の部員です」

俺はできるだけ変な印象を与えないように気をつけながら、彼女に自己紹介をする。

「そんなに緊張しなくても、ヒロ君は優しいから大丈夫だよ」

「は、はい...」

高槻が少し笑いながらそう雪野さんに言う。

雪野さんの前でも何のためらいもなく俺を「ヒロ君」と呼ぶ高槻。

とても恥ずかしいのでやめて欲しいと思ったが、今は口には出さないことにした。

「高槻の言う通り、気楽にしてくれればいいよ」

「ほら、本人もこう言ってるよ」

「うん、ありがとう麻衣ちゃん」

普段の雪野さんは、今ほど緊張するようなこともなく、普通にクラスメイト達に心を開いている。

だが俺と対面している時は、彼女からいつものその表情はなくなっていた。

「で...この部活のことだけど...」

「入ります...入らせてください!」

俺がその話をするのを遮るように、雪野さんが大声でそう言い、俺に向かって頭を下げる。

「...あ、うん、とりあえず入部届けを...」

「あ...それってOKってことですか?」

「というかそのつもりで君をここに呼んだんだけど...」

「ありがとうございます!」

そう言いながら鞄から出した入部届けを俺に差し出す。

俺はあっけにとられながらもそれを受け取った。

「おい、高槻」

「ん?」

黙ってその光景を見ていた俺の幼馴染を呼ぶ。

「お前、雪野さんに何言った?」

「私はヒロ君が部員足りずに困ってるから助けてあげてって言っただけだよ?」

「...そうか」

どうやらそこらへんの詳しいことは知ることはできなさそうだった。

「麻衣ちゃん、里中部長...これからよろしくお願いします!」

「え?部長?」

雪野さんが唐突に言ったその言葉に、俺は反応する。

「え...里中さん、部長じゃないんですか?」

「いや...俺が一人になってから、特に部長とか考えてなかったんだけど...まぁ俺がやるのが普通だよな」

つい最近まで廃部の危機で精一杯だったので、新しい部長のことなんか何も考えていなかった。

俺以外の二人はこの部活に入ってきたばかりなのでこの部活のことについては何も知らない。ここは俺が部長をやるのが妥当だろう。

「ヒロ君が部長やるの?」

「ダメか?」

「いや...じゃあ私が副部長になっていいかな?と思って...」

高槻が俺から目を背けながら、どこか恥ずかしそうな様子でそう立候補する。

「え?」

「私なら、ヒロ君をちゃんとサポートしてあげられる気がするんだ...ヒロ君だけだと心配だし、ね!」

自信満々に、ガッツポーズを作りながら俺の幼馴染が言う。

「私は、それで不満ないです」

雪野さんもそれを受け入れる。

「別に...それでもいいけど」

「やったー!」

高槻は嬉しそうにそう叫ぶと、唐突に俺に抱きついてくる。

「うおっ?!」

「あっ...」

しかし雪野さんの存在を気にしたからか、慌てて俺から離れる。

「仲がいいんですね」

彼女はそんな俺たちの光景を見て、フフフッと笑いながらそう言う。

「あぁごめんこんなとこ見せて...高槻も周りを気にしろ...!」

「アハハハ...ごめんねなるちゃん」

「いえいえ、見てるとこっちまで嬉しくなってきます」

雪野さんは微笑みながら、そんな俺たちの光景を眺める。

「私も二人のノリについていけるよう頑張りますね!」

そう言ってガッツポーズを作りながら笑顔を作る雪野さん。

先程までの彼女の緊張も、この会話を通して消えてるように見えた。

そして俺は、そんな彼女の笑顔に無意識にも惹かれていた。

「ヒロ君!」

雪野さんの笑顔に見入ってた俺は、幼馴染によって引き戻された。

「あっ...何?」

「これで3人集まったから、ノベル部は無事再始動!だねっ!」

高槻が今にも俺に抱きつくのを耐えている様子で、嬉しそうにそう言う。

「だな...ノベル部としての活動時間はあまり残されてないけど、二人ともよろしく!」

これで、俺がこの学校を去るまでは、ノベル部として活動することができそうだ。

今回のことは、高槻には感謝しなければならない。

(まぁ昔から高槻に面倒かけてばっかりの人生だったからなぁ...)

俺は心の中でそう思いながら、自分の幼馴染の姿を見ていた。

彼女は、その笑顔とは裏腹に、どこか悲しそうな表情をしているように見えた。


それから数日が経過したある日。

部員が3人になり、廃部を免れた我らノベル部は、約1ヶ月後に迫った小説の新人賞に応募する作品を作っていた。

「ねぇ部長?」

隣に座る俺の幼馴染が、俺をそう呼ぶ。

俺がこのノベル部の部長に任命されてから、高槻は俺のことをプライベートでも部長と呼ぶようになっていた。

「ここのヒロインのセリフ、もうちょっと自然な感じにできないかな?」

「やっぱり不自然過ぎたか?」

と言っても人数が少なくなってきてからまともに活動してこなかったため、分からないことだらけの状態だった。

さらに期間も最初からあまり残されていない状態で始めた為、最初から切羽詰った状態でのスタートだった。

人数もあれから増えることはなく、俺と高槻と雪野さんの3人だけの活動となっていた。

でもあまり多いよりもこれくらいの人数で丁度いいのかな...と俺は思っていた。

「雪野さんはどう思う?」

「私もそのセリフは不自然に感じますね」

「やっぱそうかぁ~」

雪野さんとも、あれから一緒に部活動を始めてからだいぶ打ち解けてきた気がする。

廃部騒動の時は俺と会話することすら困難だったけど、今は部活動以外の時間でも普通に会話できていた。

「どうしようかな...」

「部長、さっきからずっと手が止まってるよ...」

ノベル部と言っても、まともにシナリオが書けそうなのは俺しかいなかった。

高槻も雪野さんも、読書はするがろくに書いたことがないという。

結果、俺がシナリオを書き、高槻と雪野さんはその補助という形になった。

「今日はもう遅いし...また明日にしてもいいと思う」

雪野さんがそう言ってくれる。

「...ああ、そうだな」

時間があまりないのも事実だが、一人にはなるが家で書く事もできる。

何より、一度休んで気持ちをリセットさせることも重要である。

「私も疲れたかも...今日は終わりにしよっか部長...」

高槻も異論はないようなので、今日は帰って体を休めることにする。


帰りの道。

「じゃあ、部長と麻衣ちゃん、また明日お願いしますね」

「あぁ、またな」

「なるちゃんまたねー」

今日は時間も遅く校舎にはほとんど誰もいなかったため、俺ら3人で帰ることにした。

俺たちは部活帰り、学園を少し歩いたところの分かれ道で道が違う雪野さんと分かれる。

「じゃあ、私たちも帰ろっか」

「だな」

雪野さんを見送った後、俺たちも家路に向かう。

「あと1ヶ月で間に合うかな小説」

「正直不安だよ...」

「動くのが遅かったよねー...といってももう私達今年で卒業だし...」

「そうだな...」

俺たちは今年で卒業を迎える学年で、そろそろ進学・就職どうこうについても考えなければならない時期だった。

そういうのを考えるとこの部活も来年には高い確率で終わることになる。

「ほんと...この部活で何か一つはやり遂げてみたいな...」

「じゃあ頑張ってシナリオ書かなきゃね」

「だな...」

「...」

「...」

会話が止まってしまった。

俺と彼女の間に沈黙が流れる。

そういえば最近、高槻とこう二人きりになった機会があっただろうか...

そんなことを思いつつ、俺は高槻に伝えなければならないことを思い出していた。


もう結構前のことになってしまったが、あの校門での出来事。

5年前の中学2年生の春。

校門で高槻と待ち合わせの約束をする。

約束の時間は放課後の15時30分。

授業が早く終わった俺は、予定よりも20分も早くその場で待機していた。

外では高槻たちがいるはずの体育の授業が実施されていたので、俺はあまり目立たないように校門で待つ。

俺は高槻の様子が無性に気になって、体育の授業にいるはずの高槻を見ようと校門から眺めていた。

そして約10分がすぎ、体育の授業が終わる。

高槻含めた女性たちが、一斉に教室へ移動していく。

俺は緊張で頭をクラクラさせつつ、その時を待っていた。

しかし、先に俺の前に現れたのは、体操着を来た違う女の子だった。

俺は彼女とは友達の関係だった。

異性との関わりが乏しい俺のために、高槻が俺にその子を紹介してくれたのだ。

俺は、その場で彼女に告白をされた。

その時の時刻は、15時半ちょっと前。

着替えを終えた高槻がこの場に到着していてもおかしくない時間だった。

この光景を、高槻は見てしまったのだろう。

もちろん俺は、その告白を断った。

彼女には申し訳ないとは思ったが、しょうがない。

そして、彼女が俺の場から立ち去り、高槻が来るのを待っていた。

しかし、俺が待っていた人は、日が暮れても現れることはなかった。


俺が本当に好きなのは、紛れもなく高槻である。これは絶対に変わらない、昔から変わらぬ事実であった。

俺は、それを伝えなければならない。

(ふぅ...)

だいぶ遅くなってしまった。

もうこれ以上放置する訳にはいかない。

俺は心の中で、覚悟を決める。

「あのさ」

「え?!何?」

急に俺に話しかけられた高槻は慌てて返事をする。

「言いたいことがあったんだ...」

「え...」

彼女と俺の帰り道の途中。

二人で立ち止まり、迎え合う。

「俺は...」

その言葉を言おうとした時、途端に大きな電子音が鳴り、俺の言葉を遮る。

「あ...ごめん...」

それは彼女のポケット...携帯から流れてくる音だった。

「ちょっと待ってて、お母さんから」

そう言うと高槻は彼女の親からの電話に集中する。

それは1分たたない程度で終わった。

「あぁ...ごめんね部長、母さんが心配してて...もう夜遅いから...」

「あぁ...そうか」

「ここまで遅くなるとは思ってなかったから...私も親に電話するの忘れてて...」

「じゃあごめん!また!」

そう言って彼女は家に向かって走る。

「ちょっと待って!」

「え?!」

俺がそれを声で止めた。

「明日の放課後...部活行く前!」

「教室で話すから...みんなが、いなくなるまで待ってて欲しい!」

「うん、分かったよ!」

高槻はそう答えて去っていく。

「はぁ...」

とりあえず...明日また改めて伝えることはできそうだ。

それに安心し、俺は安堵の息を吐く。

早めに伝えないと、下手をしたら伝えられないまま卒業を迎えてしまいそうだった。

「明日...か」

俺は高鳴る鼓動を抑えつつ、自宅に向かって歩いた。


「俺は...お前のことが、好きなんだ」

そして、5年間抱き続けたこの想いを、彼女に伝えた。

学校の放課後、部活前の時間。

言いたいことがある。そう言って幼馴染である彼女とここに二人きりになって。

俺は高鳴る緊張を抑え、彼女に向かってそう叫んだ。

「ご...ごめんね...」

彼女の答えはそうだった。

「私とじゃ、釣り合わないよ...」

「そんなことは...」

「だめ...ヒロ君のことがもっと好きな人に悪いよ」

「高槻は...俺のことどう思ってるんだよ!」

俺は、つい声を張り上げてそう言ってしまう。

「...」

彼女はしばらく沈黙した後、口を開ける。

「今は...嫌いかな」

「...」

嫌い。

それが彼女の答えだった。

「今は...って」

「遅すぎたんだよ、何もかも...」


「はぁ...」

俺は、ため息をついていた。

「また手が止まっていますね...」

「そうだな...」

シナリオを書く俺の手が全く進んでないのを見てそう言う雪野さん。

しかし、俺のため息の理由は、そっちよりも圧倒的に大きなモノが原因であった。

「早く書かないと期限までに間に合わないよー?」

その大きな原因の張本人である彼女が、俺にそう言ってきた。

「そうだな...」

「なんだか今日の部長、元気ないですね...」

雪野さんが心配そうに俺の表情を伺う。

正直、まともにシナリオを書く気力など、今の俺にはもうどこにも感じられなかった。


「はぁ...」

帰り道。

今日何度目になるか分からないため息をする。

結局今日は何も活動出来ずに終わってしまった。

「二人には申し訳ないことをしたな...」

今、俺は一人で家に向かっている。

高槻は帰ることが決定した途端、「今日は二人で帰るといいよ!」と訳の分からないことを言って、俺たちのことを待たずにさっさと帰ってしまった。

彼女なりに空気を読んだのだろう。今は俺と一緒にいづらいはずだ。

雪野さんとも途中の帰り道ですぐに別れてしまうので、結局は一人になるのだった。

別れ際に「生きていればきっといいことありますよ!」と謎のアドバイスをしてくれたが、俺はそれをありがとうという無機質な一言でしか帰せなかった。

「はぁ...」

再度ため息を繰り返しつつ、俺は一人、家路に向かうのだった。


翌日の放課後。

部活の時間になる。

「ここの主人公の感情がうまく伝わらないから...もっと何を考えてるのかわかりやすくした方がいいかも」

「分かった」

「ここ、何が言いたいのかよく分からないです...」

「あぁ、そうか...了解」

今日の俺の頭は絶好調だった。

昨日のことに対して吹っ切れたような感覚に陥っていた。

「今日は手が止まらないですね...」

「これなら間に合うかもしれないね!」

「今日は昨日やらなかった分も頑張るぞ...!」

雪野さんや高槻を驚かせるほど、俺は作業を進められることができた。

まるで嫌なことから必死になって目を背けるように...

そして応募期限日を迎えるころには、シナリオはほぼ完成に近い状態になっていた。


そして応募期限最終日。

「終わったあああ」

「間に合った...」

なんとか作品を間に合わせることができた。

「良かったですね...頑張ったかいがありました」

「部長の最後の追い上げが良かったね」

「...だな」

あの失恋の日から今に至るまで、約1ヶ月。

あれから、その話題を高槻と話すことは一度もなかった。

その分、この小説作成の方に力を入れることができた。

そのおかげで、今回のこの成功を収めることができたのだ。

「これで、この部活として、少しは記録に残るようなことができたかな...」

「何もせずに終わるよりはこれで良かったに決まってるよ!」

「ここに転入してきたばかりですが...この学園で何かを達成することができて私は満足です」

二人が喜んでくれている。

この光景を見てると、本当に諦めずにやって良かったと思うことができた。

「そういえば...作品の方はどうしようかな?」

「そうだな...データとか消すのは勿体ないよな...」

「できれば、せっかく作ったんだから...実際に本の形にしたいよね」

高槻がそう提案する。

「顧問に頼んでみるのはどうでしょうか...」

「顧問...か」

言われてみればこの部活には顧問がいない。

いや、実際にはいたはずなんだが、人数が減って、まともに活動しなくなってから次第にいなくなっていた。

実質今は俺たち3人だけでこの活動は動いていた。

「出来ると思う。以前はクラブ誌として、先輩方の作品が刊行されてたから」

「そういえば顧問って会ったことなかったね...今更だけど...」

「1年前くらいにはまだいたんだけどな...活動が減ってくに連れて顧問も来なくなってきてな」

「そうなんですか...」

「とりあえずその顧問だった人に頼んでみようか」

俺たちはその顧問に会いに、おそらくいるであろう職員室へ向かった。


「これを本に?」

「できますかね...?」

「いいよ、待ってて」

作品の部誌は、思ったよりもスムーズにできそうだった。

「案外すんなりいけそうだね」

「とりあえず作品が無事、形にできそうで良かったよ」

「完成品が楽しみですねー」

自分たちの努力が今形になると思うと、素直に嬉しいと思えた。

「本なんだけどすぐには出来ないからあと30分くらい待っててくれないかな?」

作品のデータを持ったノベル部元顧問である先生が、俺たちにそう伝えてきた。

「わかりました...では30分くらいたったらまたここに来ます」

俺たちはそう言って、また部室に戻った。


「あぁ、私先に帰るね」

「何かあるのか?」

部室に戻ると、高槻がそう言い出してきた。

「うーん...今日は家に早く帰らないといけない用事があって」

「ふーん...そうか」

「...わかりました」

「じゃあ、また明日!」

「明日作品見せてね!」

高槻がそう言って足早と部室を出る。

早く帰らないとと言ってもなぜ今になって言うのだろうか...

「...」

「...」

高槻がいなくなり、場に重苦しい沈黙が流れる。

雪野さんとは今となっては気軽に話せる仲になっていたが、二人きりになるとなぜか緊張して、話しかけるタイミングがつかめなくなってしまうことがあった。

「部長」

その沈黙を先に破ったのは雪野さんだった。

「何?」

俺はそれに対して聞き返す。

「...」

彼女はまた黙ってしまう。

何か言いづらいことでもあるのだろうか。

「部長!」

何かを覚悟したような表情をして、彼女はこちらを見る。

「!」

俺はその時、すぐには何が起きたのか反応出来なかった。

「あなたのことが、昔から、好きでした。」

彼女の顔が俺から離れると、顔を赤らめながら、俺にそう告白してきた。


それが、俺のファーストキスだった。


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