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第03話 イクシアランク測定


──回想──



 神代島中央に存在する人工島。

 それは、ハイテクとイクシアの粋が余すところなく使われ、一本の塔の周囲に、螺旋を描くよう階層が連なっている。

 その塔の最上階にして、最も重要と言える、神代島の中枢。イーターの出現の予兆を観測し、監視する、観測室がそこにあった。

 天知はじめがイーターに襲われたあの日。

 あの日も、その観測室では、イーターの出現を捉えていた。


 その日、観測室に、年に数度あるかないかの警報がなった。

 本土での、イーター出現である。

 日本のイクシアンは、この神代島に集められている。ゆえに、日本本土でイーターが出現するのは、稀であった。

 それでも、年に数度、イーターは出現する。それは、本土では未確認。または、未覚醒のイクシアンの匂いを、イーターが嗅ぎつけたからだ。

 つまり、その出現と同時に、イクシアンが襲撃されることを意味する。

 オペレーターがコンソールを動かし、日本地図をどんどんと狭めてゆく。

 衛星、都市に設置されたインフラに紛れこませた観測機より送られてくる状況などから情報を分析し、出現地点を絞りこむ。

 神代島の周囲でイーター出現の予兆が現れれば、探知を司るイクシアンのイクシアによって、顕現する前に位置を補足することは可能だ。

 島から遠く離れた本土の場合も、イクシアのパワーを増大する陣のしかれたこの部屋と、Bランクの探知を持つイクシアンをもってすれば、即座に発見。さらに転移のイクシアによって、殲滅が可能である。

「早い。もう顕現した」

 地図の光点が、一層強さを増した。

 オペレーターが、位置の絞りこみを急ぐ。

 顕現が早いということは、力の収束がゆるいということなので、敵の強さを表すランクも低くなる。しかし、どれだけランクが低くとも、イクシアを発現していない者から見れば、それは十分な脅威だった。

 出現位置を絞りこんでいる間に、一人のおばあさんが座布団に座ったまま、突然観測室へ姿を現した。

 畳の置いてある一角に、光の魔法陣のようなものが生まれたかと思えば、光の柱が立ち上がり、お茶をすする梅干のような顔をした小さいおばあちゃんが、突然現れたのだ。

 彼女こそ、御歳八十七歳を数える、日本に八人しかいない、B級イクシアン。転送のイクシアを持つ、通称オババであった。

 この地に彼女を超えるテレポーターは存在せず、まだまだ若いものには負けぬと豪語する、女傑である。

 自身の定位置である、畳の下にある増幅器の上に座り、出現地点が絞りこまれるのを、今かと待つ。

 さらに、観測室の扉を勢いよく開き、一つの人影が姿を現した。

 警報を聞き、場に駆けつけたのは、オババと同じ、B級イクシアン。障壁のイクシアを持つ、真壁薫子だった。

 存在が微弱であったも、ランクが低いとは限らない。

 強大な力を隠し、顕現する固体の可能性も存在する。

 ゆえに、襲われる誰かを守るため、最も硬い盾を持つ彼女が、最初の救出へ向うのだった。

 障壁のイクシアを持つ彼女ならば、ランクAを超えない限り、ほとんどのイーターの攻撃を防ぐことができる。

 そのために彼女は、警報と共に、この場へやってきた。

 あとは、その強さに適したイクシアンを送り、退治するのみである。

 ちなみにこの転送救出は、いつでも使われるわけではなく、今回のように遠くはなれた本土にてイーターが現れた時か、ランクB以上のイーターが島に現れた時のみの使用である。


「絞りこめました。モニター出します! イクシアンが二人、Eランクイーターに襲われています!」


 オペレーターの言葉と同時に、観測室の奥にあるモニターが切り替わり、出現地点が判明した。

 地図の光点と共に、集められたデータから、視覚状況を再現したもう一つの画面が映し出される。

 それは、定点カメラとして映された画像ではなく、その気になれば視点を変えられる、収集したデータからの、映像再現だ。

 探知のイクシアと、科学の融合によって作られた、この地でのみ許される、特別な画像処理である。

 位置を把握したオババが、即座にイクシアを発動させようとする。

 が、オババをふくめ、その光景を見た観測室の人間全ては、その瞬間、思わず動きを止めた。

 まっくろい、のっぺりとした人型。Eランクイーター。それに向って刀を突き刺し、さらにV字を描くように、刀を重力の力で振り下ろし、振り上げた少年の姿が目に入ったからだ。

 切り裂かれたEランクイーターは、断末魔の悲鳴と共に、消滅していく。

 彼女達が救出しようと思っていた相手はすでに、自力で助かっていた。

 襲われた者が、命の危険にさらされたことによって、眠っていたイクシアが目覚め、逆にイーターを撃退するというのは、稀にある。

 今回は、そのパターンだったようだ。

 場にいた全員が、安堵に脱力をする。

 自分達の徒労が無駄に終わったとしても、最悪の事態が目に飛びこんで来なかったのだから、むしろほっとしたという表情だった。

「イーターの反応消失。二人は無事のようです」

 オペレーターが、データを見ながら、安堵した声をあげる。

「どうやら、少女のイクシアが発動して、少年がそれを使って撃退したようです。少女のイクシアは、製作のイクシアですね。あの刀が、イクシアで生み出された武器になります。少年の方もイクシアンのようですが、イクシアを発現しているかは不明です」

「わかりました。では、私が彼等に状況を説明してきます。オババ、お願いします」

 オペレーターの言葉を聞き、薫子が行動を開始した。

 イクシアが顕現し、イーターを撃退したからといって、彼等に自分の置かれた状況が伝わるわけではない。

 置かれた状況を説明するために、薫子はオババの転送のイクシアによって、現場へ急行する。

 この後の彼女と少年達の詳しいやりとりは、第一話参照である。

 薫子が向かったことにより、今回の一件はこれで幕引きであると、オペレーターが思い、ほっとした瞬間。

「ちょっといいかしらん?」

「ひゃっ!?」

 背後からぬぅっと現れた存在に、びくぅ! と体を震わせてしまった。

 オペレーターの背後に姿を現したのは、この神代島で最も偉い、全ての権力を握るこの守護機関の理事長、神代銀之丞だった。

 警報が鳴った際、薫子とお茶をしていたので、銀之丞も興味を引かれ、ひょっこり遅れて顔を出したのだ。

「り、理事長!? どうしました?」

 いきなりの理事長登場に、オペレーターもびくびくである。別にミスはしていないのだが、目をつけられると、色々やっかいだからだ。いろんな意味で。

 だが、理事長の興味は、オペレーター本人にはない。

「ちょっとねー。今の、少しまき戻して見せてもらえるかしら?」

「あ、はい」

 こんこんと、オペレーターが動かす画面の端を指差し、そこに映し出せという指示。

 オペレーターは素直に従い、コンソールを動かして、理事長の正面にあるモニターへ、先ほどの戦闘時の状況を映し出した。

 これは、観測したデータから映像を再現しているので、位置が絞れたのなら、まるでビデオをまき戻すように、過去の映像を映し出すことが出来た。

 これもまた、探知のイクシアをもってこその、性能である。

 銀之丞が一人、先の戦いの様子をのぞきこむ。

 そのデータを見ようと思ったのは、薫子が戻ってくるのを待つまでの、暇つぶしであった。

 だが、その戦いを見た銀之丞の表情が、徐々に驚きの色に変わってゆく。

「ちょっと。あの二人の情報、今すぐ集めてここに出してもらえるかしら?」

 食い入るように画面に見入る銀之丞が隣にいるオペレーターへ声をかけた。

「え? あ、はい」

 先ほどの二人は、どちらもイクシアンである反応が出ていた。それゆえ、今後この島へ保護するため、情報を収集する必要がある。

 それらのデータは、国に申請すれば、送ってもらえることになっていたが、今すぐに。となると、色々がんばらなくてはならない。

 だが、できません。というと、色々いやーんな目にあわされそうなので、オペレーターは文句も言わず、即座にその命令に対応した。

 銀之丞の見るモニターに、その少年と少女の情報が、映し出された。

 少年の名は、時坂廻。少女の名は、天知はじめといった。

 さらに、二人の出身地から、年齢、性別、それらが、つらつらと並べられてゆく。

 二人は、どこにでもいる、ただの少年と少女だった。

 唯一、普通と違うところは、イクシアという力の有無。

 それだけだ。

 それを見て、銀之丞の表情は、また驚きに染まった。

 驚愕に目をむいているが、その口には、笑みが張り付いている。

 銀之丞は、先ほど見た戦闘の映像を再び再生する。

 画面に、裏路地の狭い広場へ駆けこんできた少女の姿が映る。後ろを振り返っているところを見ると、なにかに追われているのだろう。

 データが更新される。

 画面内に少女からラインが伸び、その少女は、イクシアンであると、表示された。

 逃げる少女の正面に、まるで黒いタールのようなものが、盛り上がる。

 また、データが更新される。

 Eランクイーターだ。

 どろりとした、液体のような形が、人型に姿を変える。

 ぬめりけのありそうなその表面は、人に生理的な嫌悪感を与えただろう。

 突然目の前に現れた怪物に、少女は驚き、ぺたんとそこに座りこんでしまった。どうやら、腰を抜かしてしまったようだ。

 へたりこんだ少女へ、イーターが拳を振り上げる。それは、ハンマーのように形を変えた。

 このままでは、それを振り下ろすだけで、少女の命は終わりだ。

 潰された後、跡形もなく、このイーターに食われ、彼女は行方不明の少女として、新聞を少しの間賑わすことになるだろう。

 だが、ここで潰されないことを、画面を見ている銀之丞は知っている。

 誰もが間に合わないと、目を伏せるだろうその時、路地に走りこんできた存在があった。

 データが更新される。

 現れた反応も、イクシアンだった。

 路地裏の広場に勢いよく駆けこんできたのは、一人の少年。

 どこにでもいそうな、ただの少年だった。


 ここからが、信じられない状況の、はじまりである。


 少年の接近に気づいたEランクイーターが、目標を変え、ハンマー状に変化した手を振り下ろした。

 その攻撃を、少年は体をひねりかわした。

 並の人間では、反応さえできないその攻撃を、最小の動きで、かわしたのだ。

 ──偶然か?

 最初は銀之丞も、そう思った。

 しかし、残ったもう一本の腕が、地面すれすれのところを通り、少年の腹を、蛇のように狙う。

 圧倒的な速度と、上の次に下という、死角を利用した攻撃。

 こんなもの、ただの少年に、かわせるはずがない……

 少しでも、イーターとの戦いの経験があれば、誰もがそう思う。

 だが、少年は……

 ……かわした。

 少年は、その攻撃さえも、小さくジャンプして、かわしてみせたのだ。

 これで、二度目。

 とても偶然とは思えない。

 だというのに、イクシアの発動は、観測されていなかった。

 データを何度見回しても、少年のイクシアが発動された形跡はない。

 つまり彼は、人知を超えた力なしに、人知を超えた怪物の攻撃をかわしきったということになる!

 少年はついに、へたりこんだ少女のもとへとたどりついた。

 少年は少女の手をとり、その場から逃げようとするが、少女は腰を抜かしており、その場から動くことはかなわなかった。

 少年の背後から、イーターの一撃が迫る。

 鞭のように伸ばした腕が、少年を狙い、突き出されたのだ。

 再び絶体絶命の状況である。

 だというのに少年は、焦ったような顔さえ見せなかった。まるで、なにかが起きるのを待っているかのように、なにかを確信しているかのように、自分が手をとった少女の姿を見ている。

 少年の背に、イーターの一撃が命中しようかというところで、光が瞬いた。

 データが更新される。

 製作のイクシアを確認と、画面に映し出された。

 そのイクシアの名と繋がったラインは、少女の広げた手につながり、彼女の手からは、一本の美しい刀が生まれ出た。

 その光は、伸ばしたイーターの腕を切り裂き、イーターは悲鳴をあげる。

 人知を超えた存在であるイーターは、同じく人知を超えた力であるイクシアでなければ、ダメージを与えることはできない。

 この刀は、紛れもなく彼女のイクシアが作り出した、一本であった。

 少女の手より生まれた刀が、全身を現し、それは重力に従い、落下を開始しようと……した、瞬間。少年が、その刀を握った。

 少し前に飛び出した刀を、まるで待っていたかのように、握り、そのままイーターに向け、突き出したのだ。

 流れるように突き出されたその刀は、イーターの胸に突き刺さり、少年は倒れこむように全体重をかけ、イーターを股下まで切り裂き、刃を返し、Vの字を描くようにして、刀を振り切った。

 イーターが断末魔をあげ、消滅してゆく。

 こうしてこの二人は、助かった。

 一見すると、少女のイクシアのおかげで、二人は助かったかのようにも見えるだろう。

 イクシアの力で作られた武器は、時に使用者の運動能力を高めることもあるからだ。

 確かに、最後の一撃に、その効果はあったかもしれない。

 だが、銀之丞は、少女の武器に、そこまでの効果はなかったと考える。

 この勝利は、すべて一人の少年のおかげではないか。と。

 その少年。

 時坂廻は、どこにでもいる、ただの少年だ。

 生まれが特別でも、過去に特殊な先祖がいるわけでも、戦場帰りでもない。

 日本を見渡せば、どこにでもいる、普通に生まれ、普通に育った、ただの少年。

 だというのに彼は、怯えもせずバケモノに立ち向かい、二度の攻撃を、かわしてみせた。どちらも、運がよかった。と主張されれば、それまでかもしれない。

 だが銀之丞は、あの回避は、彼の計算によるもののように感じられた。

 さらに、少女のもとにたどりついた彼は、少女のイクシアの発現を待っていたかのような動きで、イーターに刀を突き立てた。

 イーターにダメージを与えるためには、イクシアをもちいなければならない。

 これは、イーターと戦う者の中でならば、常識だ。

 だが、生まれも育ちも一般人の彼は、そんなことを知っているはずもない。なのに彼は、ためらうことなくその刀を使い、バケモノを倒した。

 彼は、人の体から刀が生えたというのに、動揺することもなく、冷静に刀を操ったのだ。

 これに関しては、直前に刀がイーターにダメージを与えていたこと。目の前にすでにバケモノがいたことで、多少の説明はつく。

 自身のイクシアを使わなかったのも、自分がイクシアンだと知らなければ、ありえるだろう。

 ここまではすべて、必死だった。と言われたら、それまでだ。

 だが、最後の一つ。

 刀をつきたて、股下まで切り裂いた後。彼は、さらにもう一度、刀を振り上げた。

 普通ならば、あれだけの一撃をきめれば、勝利を確信し、追撃はしない。

 なのに彼は、奴等のしぶとさを知っているかのごとく、とどめの一撃をさらにはなったのだ。

 現に、あのイーターは、最初の一撃では絶命していなかった。返す刃によってやっと、活動を停止している。

 ここも偶然というのなら、大した偶然である。

 この最後の行動により、銀之丞は、これら一連の行動を、彼は意図的に行ったと、確信した。

 とは言うものの、こうしてあげた少年全ての行動は、実に綱渡り的である。

 一つでもミスが出れば、一撃で殺されてしまうからだ。

 だが、すべてが繋がった結果、それは一つの最適解とも言えた。

 イクシアをもちいず、これだけのことをやってのけたのは、驚異的である。

 自分はイクシアをもちいず、イーターの知識もなく、しかも生身で、同じことができるだろうか?

 想像しただけで、銀之丞は体が震えたのを感じた。

 百回くらいやれば、一回くらい成功するかもしれないが、その一回を、一度でできるとは、到底思えない。

 当然。実際にそんな自殺行為、やる気は欠片もないが。


 だが、それを、やった少年がいる……


 一体どうすれば、こんな芸当ができるのか。

 観測に引っかからないイクシアを使った?

 実は、前世の記憶を持っていて、それがとんでもない戦士だった?

 はたまた、とんでもない観察力の持ち主で、全ての事象を把握している?

 考えたところで、答えは出ない。

 ならば、直接会って見て確認してみるしかないだろう。

「ついでに、お尻も好みだしね」

 こうして、神代銀之丞は、時坂廻に興味を持ったのだった。

「まってなさい。めぐるきゅん!」

 ぐふふ。とほくそ笑む銀之丞。

 隣でその笑いを聞いたオペレーターは。

(ああ、なんかまた、理事長の悪い癖が……)

 と、心の中で、そう犠牲者に哀悼の念を送った。



──時坂廻──



「というわけで、アテクシめぐるきゅんのことが、気になって気になってしかたがないの!」

「なにがどうでというわけー!?」

 理事長の頭の中では、そのというわけ。の部分が流れていたのだろうが、エスパーでもない俺達には、その思考はさっぱり理解できなかった。

 だというのに、俺の言葉など全く聞いていないように、どんどん顔が近づいてくる。

 俺は必死にその顔をつかんで阻止するが、そもそも自力が全く違う。女の形しているのにパワーは明らかに、男だこの人。

「大丈夫よ。細かいことは気にしない。ちょっと天井のシミを数えている間に終わるから」

「なにがですか!? というか俺、まだ十五! 子供です! 犯罪です!」

 言っている意味がわかってしまうほどには、子供じゃないけど。

「安心しなボウヤ。この島じゃ、俺が法律だ」

 なぜか渋い男の声で、語られた。

 エマージェンシーエマージェンシー! 島の独裁者に、僕の大切ななにかが奪われようとしているよ。保護されにきたのに、もっと危険なのがこの島にいたよ! 助けてー。

「じゃないですよ」

「あだっ」

 救世主が現れた。

 お盆サイズの障壁を手に持った薫子さんが、理事長の頭を、後ろから叩いたのだ。

 障壁って、そんな使い方もできるんですね。

 振り向いた理事長の襟首をつかみ、俺から距離を離す。

 助かったー。

「いつの間にこの島は王制になったんですか。あなたは島の代表ではありますが、独裁者ではありません」

「もー。細かいことは気にしないの!」

 頭をさすりながら、理事長が振り返ってウインクした。

 なぜか、瞳から星が飛び出したように見えるのは、なんなのだろう。幻か?

「はっ! それとも、あまりに嫁の貰い手がないから、アテクシの……」

 そこまで言ったところで、理事長の言葉が、とまった。

 同時に、周囲の気温が、一気に氷点下まで冷えこんだ気がする。ここ、南国なのに……

「嫁が、どうかしましたか?」

「な、なんでもなーいよっ」

 ぎらりと、目からビームでも出るんじゃないかと思うほど、鋭い眼光が、王様を睨んだ。

 あまりの迫力に、流石の王様も、大人しく従わざるを得ない。

 なんと恐ろしきかな、三十路の女性。修正。三十路を向かえる女性。死にたくないので、一緒にその眼光で射抜かないでください。ループしてしまいます。

 ……まさか、ちょっと哀れみの視線を向けただけで、ここまで死の恐怖を感じるとは、恐るべし、神代島。



 こうして俺のいろんな危機は去り、引率の薫子さんの案内で、体育館に移動したのだった。



 体育館では、昼食が用意されていた。

 丸いテーブルの上に、白いテーブルクロスがかけられ、上品な和食弁当が並べられている。

 今回船でやってきた、新入生となる七人が、正面に見る壇上に背を見せないように、半円を描くように座る。

 雰囲気的に、これから食事ついでに、この学園のことや島のことを説明してくれるのだろう。

 俺達の周囲には、理事長とかを守る、警備員の人達が、体育館の壁際のところから、俺達を見守ってくれている。


 そこまでは、いい。


 ここまでは、普通なのに、なのに、なぜ俺は、理事長のヒザの上にいるのだ!

 お姫様抱っこのように抱きかかえられ、壇上を正面に見る椅子に座らされている。

 なにこれ。なにかの罰ゲームですか? なんの羞恥プレイですか?

 理事長はご満悦だし、皆の視線は冷たいしで、ちょっと気持ちよくなっちゃうよ!

 いや、嘘だけどね。七割嘘だけどね。気持ちよくなったりしないよ。

 俺はどちらかというと、お姫様抱っこをする方がいいんですけど。

 こうして抱っこしたお姫様をおちょくる方が好きなんですけど。そう。今俺を見てニヤニヤしている、理事長のように!

 ……って、あれ?

 それってつまり、俺の趣味、理事長と同じ……?

 なんか、ものすっごいショック……

「はい、あーん」

「やめてー!」

 嬉々として料理をハシでつまみ、あーンしてくる理事長。

 そうしてもてあそばれる俺へ、助け舟を出してくれる人は、誰一人としていなかった。

(すまない少年。アレは気に入るのも早ければ、飽きるのも早い。それまでの辛抱だから!)

(君がソレを引き受けてくれれば、我々はその間安全にすごせる。だから、すまない!)

 そんな周囲の人の思考が頭にバシバシと感じられる不思議!

 普通、こんな美人で権力持ってる人に気に入られたら、嫉妬や羨望の視線が来るものなのに、同情と哀れみしかむけられないなんて、凄いぜ!

 こんな素敵なスタイルをして、しかも自分に好意を持っているんだから、本来なら、俺だってひゃっほいと飛びあがってもいいくらいだ。

 ……俺のお尻に、……尻に、硬いものが当たっている感覚さえなければ。ね。

 やはりと確信するその物体。そして、背筋がぞくぞくと、凍えるような感覚が、俺を襲っている。

 だがしかし、俺は確信している。

 いくらなんでも、壇上で説明したりするのは、この理事長のはずだ。少なくとも、新入生にようこその挨拶はするだろう。なにせ、一番偉い学園長でもあるんだから!

 つまり、それまでの辛抱だ。

 だから、耐えるのだ、俺!

「あー、テステス」

 唯一助け舟を出してくれる可能性のあった薫子さんが壇上に現れ、マイクテストを行い、壇上の背後にスクリーンを下ろしている。

 ついにきた。お別れの時だ学園長!

 だが、俺の希望はあっさりと打ち砕かれ、壇上で頭を下げ、挨拶をはじめたのは、薫子さんだった。

「ようこそ、神代島へ」

 挨拶がはじまったところで、俺は思わず、壇上ではなく、理事長の方へ顔を向けてしまった。

「なにかしら?」

「普通、こういう場合、一番偉い理事長が壇上に上って挨拶するもんなんじゃ?」

「そーなのよねー。でも、アテクシが挨拶しようとしたら、みーんなとめてきたの。本当なら、もっともっとド派手にどかんとやりたかったんだけど」

 あ、なんかすげーことやりそうな光景が目に浮かぶ。あの出迎えた電飾孔雀以上のことを、無駄にやりそうな予感だ。

「でもね、アテクシ、今はめぐるきゅんと一緒にいる方が、いいってみんなに言われて、気づいたの。みんな、認めてくれたから、こうしていられるってわけなの!」

 抱きしめて、頬ずりしてこようとしたので、両手でガードして、なんとか阻止。

 くっ、この肌触りは、女の人のような気がするのに、別の場所が気になって、全然嬉しくない!

 この時俺は、察した。

 俺は、コレが変なことをしないための、生贄なのだと……!

 俺がこの事実に気づいた瞬間。周囲からの憐憫の視線が、一気に強くなった気がした。

 すまない。と心の中で謝るくらいなら、この理事長をどうにか……できねーから、こうなってんだろうな。

 いいんだ。俺一人がこうして犠牲になれば、みんなが幸せになれる。それって素晴らしいことじゃないですか! だから、いつか覚えとけ!

 なんて俺の思惑はよそに。薫子さんのスピーチは進んでゆく。

「すでに知っている者も多いかと思いますが、君達はある力に目覚め、ある存在に狙われることになり、この島に集められることになりました」

 流石に話しがはじまったら、怒られるからか、理事長も余計なことはしなくなった。

「君達の持つ、人知を超えた力の名は、イクシアといい、その力を好み、食らうものは、イーターと呼ばれます。この学園は、個々によって個性のある君達のイクシアを発現させ、その使い方を学び、イーターとの戦い方を学ぶ場です」

 イクシア使い養成の場。それが、ここ。神代学園なのだろう。

「そしてこの島は、イーターからイクシアを持つ者皆を守るため作られた、都です。これから君達は、この島で生活してもらうことになります」

 薫子さんの後ろにあるスクリーンに、島の地図が映し出される。

 パンフレットにもあった、『C』の形をした、神代島だ。

「常春の気候。エメラルドの海を備えたこの島。ここで君達は、同胞の命を守り、守られる。あのまま本土にいれば、常にイーターの襲撃に怯えなければなりません。ですがここでなら、君達は安心して眠れるようになります。もう、夜を怯えてすごすことは、ありません」

 と、言われたが、中には今の状況がよくわかっていない者もいそうだ。

 実際にイーターに襲われたのは、俺やはじめちゃん以外、ほとんどいないらしいから。

 バスの時は、死の危険も大きく感じられなかったから、まだ実感していない人もいるだろう。

 俺は今の状況をはっきり理解しているから、ざわざわとざわめくことはなかった。

 とはいえ、ざわめいていたのは、名前も知らない、数人の人達だったけど。

「この島は、君達の力を必要とし、君達もまた、この島を必要としていると、私は思います。では、改めて。ようこそ神代島へ!」

 薫子さんは、そうしめると、壇上から降りていった。


 そして、俺の席まで来て、理事長を連れて、去って行ってくれた。



──神代銀之丞──



(ふつー。よねー)

 ヒザの上に座る少年の色々なところを触りながら、アテクシはそう感想を漏らす。

 一体どんなバケモノかと思ったけど、どこをどう触れても、いじってみても、反応が面白いだけの、どこにでも居る普通の男の子だった。

 筋肉が常人の二倍つまっているとか、とんでもない反応力を持っているとか、反射神経がとんでもないとか、そんなことはない。

 ふつーにふつーで、アテクシ好みのお尻をしているだけの、ふつーのボーヤだった。

 とても、イクシアも使わず、イーターの攻撃をかわし続けられるとは思えない。

 しょうがないので、ボーヤの色々なところだけを堪能しようと思っていたその時。

 じっ……

 視線を、感じたわ。

 何度か受けたこともある、この視線。

 これは、飛びきりの嫉妬と、羨望の視線というヤツね。

 面白い。

 アテクシは、その視線の正体を探るため、ちらっとその出所を見た。

 位置は、お姫様抱っこをされたボーイの背中側。つまり、アテクシの左側のテーブルに座る、女の子。

 ちぃ。ここで男の子だったら、とっても面白かったのにっ!

 そこには、おどおどした、気の弱そうなみつあみの女の子が座っていた。

 あらかわいい。ちらちらと、こちらを羨ましそうに見ているわ。

 確かあの子は……

 記憶の戸棚をまさぐると、ぽんと思い出したのは、あの日、めぐるきゅんと一緒にいた、女の子。

 つまりは、そういうことかしら。

 そうよねー。ピンチに颯爽と現れた王子様。それに惚れなきゃ、女の子じゃないわよねー。

 いいわねー。青春だわー。

 そんなことを思って、にひにひしていると、もう一つ、別の方から視線が向けられているのに気づいたわ。

 こっちは、嫉妬とか、羨望じゃない。

 アテクシを、ギラリと睨む、敵意。

 あの子は確か、豊増光という子だったかしら。

 はて。と再び記憶を探ると、その苗字が思い出にあった。

 あーあーあー。納得納得。そしてあっちは、納得できなかった。と。

 しかしまさか、イクシアの適性を見出されて、この島にやって来ちゃうなんてねー。そんな偶然。いえ。ひょっとすると、必然なのかもね。

 誰が導いたのかしら? あなた? いえ、あなたの場合は、そんな運命、望まないわね。

 できるならば、静かな生活をさせてあげたいけど、あの視線じゃ、そうもいかないか。

 ふふっ。面白いわ。今年は、特に面白い。せっかくだから、どっちもおいしくいただいちゃおうかしら!

 ちゅるりと、舌なめずりをする。

 あ、視線をそらされたわ。

 いけずねぇ。


 色々楽しかった時間も、カオ(薫子)ちゃんのスピーチが終わったことで、それで時間切れ。

 愛しのめぐるきゅんとも引き離されてしまったわ。

 次は、あの子達のイクシアランク判定。

 測定装置を使って、新入生が、どれだけのイクシアを秘めているのか、検査するの。

 ついでに、身体測定も行って、制服のサイズとかも計るわ。

 残念なことに、身体測定は、このランク判定でスキャンされた時、一緒に計られちゃうわ。

 昔アテクシが直々に数値を計ろうとしたのがきっかけで、こうなっちゃったのよ。いけずよねぇ。

「なにぶつくさいっているんですか。自業自得です」

 アテクシが昔を懐かしんでいると、カオちゃんが苦言を呈してきた。

「なーにぃ。昔を思い出して、身体測定もう一度やりたいと言っただけじゃない」

「だからなくなったんです」

「残念ねぇ」

 アテクシの隔離場所、教職員の待機場所に、カオちゃんと一緒に座って、終わるのを待つ。

 別にあの子達のランクを確認しなくてもいいんだけど、やっぱり今日は、楽しそうな子がいっぱい居るから。直に見たいと思ったの。

「それで、どうでした?」

 隣に座ったカオちゃんが、アテクシに聞いてくる。

 なにが? とか聞き返してもよかったけど、ここでの質問は一つしかないので、変に茶化さない。茶化すと怒られるからじゃ全然ないから。ないから! ねっ!

「ふつーの子だったわ。反応は面白かったけど」

 めぐるきゅんとは、馬が合いそうな気はするのよねぇ。だからこそ、嫌がられてるのかもしれないけど。

 カオちゃんは、アテクシの言葉に、なぜかため息を返した。

「でしょうね」

 しかも、納得。とのお言葉までつけて。

 なにさ。あーただって、年齢がもっと若ければ、あの子のこと狙っていてもおかしくないのに! むしろ十八歳超えてたら結婚考えたくせに!

 とは、口に出さない。年齢と結婚のことは、カオちゃんには禁句なのだ。

 こんなに美人なのに、どうして結婚できないのかしらねぇ。他のことは、優秀なのに。

「というか、そんな反応するってことは、アテクシのこと信じてなかったってこと?」

「ええ」

「きっぱり言ってくれるわね……!」

 めぐるきゅんが凄いって気づいたのアテクシが最初なのに、みんな偶然だとか、色眼鏡だとか言ってくれちゃって。

 とはいえ、かくいうアテクシも、もう自信ないんだけどね。

 あーあ。勘違いだったかしら……

 ちょっと自信喪失しながら、ぼへーっと、はじまったイクシアランク測定を見物する。

 そこで、なにが起きるのかなんて、想像もせずに。


 そして、あの子の番が来る。

 アテクシの目は、やっぱり間違っていなかったわ。


 あの子はやっぱり、アテクシと同じくらい。いえ、アテクシ以上の規格外だったのだから。



──時坂廻──



「はー。災難だった……」

 俺は、やっと理事長から解放された喜びから、肩の力を抜き、そんなことをつぶやいていた。

 周囲の警備の人や、準備をする職員の人達からは、「ドンマイ」とか、「お疲れ様」とか、労いの言葉が飛んできている。

 やっぱり色々生贄だったのだな。と、俺は確信した。

「だ、大丈夫?」

 はじめちゃんが、心配そうに声をかけてくれた。

「ああ。色々疲れただけだから、大丈夫。心だけ。減ったのは」

「そう。それはひょかった」

 ……かんだ。

(うう、勇気を出したのに、またこれだよぉ)

 真っ赤になった彼女を見ていると、なんか和んだ。磨り減った分の心が、回復したような気がする。

 そして、俺に気を使ってくれた職員や、新入生の皆さんが、これからするイクシアランク測定の順番を、一番最後にしてくれた。

 それまで、休め! ということなのだろう。

 人の温かみを改めて感じた、瞬間でした。

 いや、俺を生贄に差し出したのも、この人達だけど。それでも、こういうのは、心がほんわかする、

 上がアレだと、下はやっぱりしっかりするよね。そしてなぜかえっへんと胸を張っているトップ。豆腐の角に頭ぶつけて足の小指を骨折しちまえ!

 やめて。俺の視線に気づいて投げキッスとかしないで。心が壊れるから!


「それではこれから、イクシアランク測定を開始します。この結果は、今後のカリキュラムの参考となりますが、力を入れても緊張しても、この結果に影響は与えませんので、気楽でいてください。これは初回測定ですから、どんなランクになっても気にせず、これから伸ばすものだと考えてくださいね」

 測定装置の搬入も終わり、体育館の中に、測定場が完成した。

 それを、職員の一人が、説明している。

 立ててある四本の棒の真ん中に立ち、待っていると、その四本の棒から緑色のラインが出て、円を描いた。

 それが、下から上に、あがったらまた上から下に、スキャンするよう、光が動いていく。

 測定そのものはそれだけで、他にあるのは、用紙記入用のテーブルと、その装置を動かす機械だけのようだ。

「ちなみにですね、これは測定者の中に眠るイクシアをスキャンし、機内に再現して擬似的に発動させ、例え発現していない、いまだに眠るその力も測定できるものなんです! この私が、わたーしが作った、自信作! あの理事長のランクも、イクシアの種類もあっさりと計れる、実に素晴らしい一品なんですが、あ、私としては、ここの支柱が、あ、まって。まだ言うことが……」

「はい、測定を開始しまーす」

 一人熱弁をふるう職員は後ろに引きずられ、別の人がテーブルについて、測定がはじまった。


「そーいや、このランクって、なにがどういう基準なんだろ」

「あ、そういえば、そうだね」

 ふと気づいた疑問に、隣に座ったはじめちゃんも首をひねる。

 ここに来る前、警戒ランクCとか、世界に三人しかいないランクAとか言われたけど、あまりの事態に詳しいことは聞けなかったからなあ。

「ならば私が説明しよう!」

 唐突に現れたのは、あのバスの運転手さんだった。

「ふむ。最初を踏襲して、薫子さんが来るかと思ったけど、運転手さんでしたか」

 俺は現れた運転手さんを見て、そんなことをつぶやいた。

 こういう場合、俺達と一番最初に関係を持った薫子さんがくるものだと思ったけど、次に解説をやった運転手の人だったかー。

「かおるっちは今、理事長をおさえるので忙しいからな。なんなら、君が、かわ……」

「けっこうです。続けてください教えてくださいどういうことなんですか!」

「よろしい!」

 俺達は、笑顔で親指を立てあった。

 にしても、やっぱりこの人、帽子で目が隠れて、見えへんなあ。


「さーてお兄さんが、一から十まで、イクシアのランクについて、教えて……」


「あ、この測定用紙の後ろに、注釈があるよ」

「あ、ホントだ」

 運転手と俺のノリについていけなかったはじめちゃんが何気なく裏返した測定結果を書く用紙の後ろに、イクシアのランクについての説明が書いてあるのを見つけた。

 俺も、それに気づいて、紙を裏返す。

 これがあれば、説明を聞く必要はなさそうだ。

「……」

 一方運転手の人は、俺達の前で床に座り、寂しそうにヒザを抱えていじけていた。

「……」

「……」

 俺とはじめちゃんは、とりあえず、顔を見合わせる。

 しかたないと、俺はため息をついて。

 彼女もうなずいてくれた。

「無視して読み進めようか」

「なんでそーなるのー!」

 運転手が、凄い勢いで立ち上がってきた。

「いや、だって、俺今疲れてる。だから、めんどい」

「こくこく」

 俺の言葉と、俺の状況を察してくれたはじめちゃんの追撃が決まる。

 ノリのいい会話は好きだけど、理事長相手にして、今精神的に疲れてるからあとにしてください。

「うわー!」

 運転手は、なぜか一人で空に飛びあがり、派手に床に頭から落ちていった。

 ナムー。

 ※これは訓練された落下ですので、人体に危険はありません。

「さて。見るか」

「うん」

 いじけて寝転がっている大人気ない大人を無視して、俺達は、用紙に目を落とした。



 イクシア、およびイーターのランクは、全部で七つあります。

 Sを最高位として、A、B、C、D、E、F。の七種類。

 イクシア、イーターそれぞれが、それぞれのランクに対応しており、基本的に、自分を超えるランクを相手にするのは、自殺行為と考えてください。

 ※例外として、Dまでなら、下位ランクでも知恵と力と絆でなんとかなる可能性はありますが、上位ランクに出会った場合は、無理せずに逃げましょう。

 ランクB以上の場合、自分より上位のランクには基本的に勝てませんので、必ず戦闘は避けてください。


 以下は大体の等級分けの目安。


Fランク(F級)※イクシアの場合は、ランク、もしくは級で表記されます

 一般人に毛が生えた程度。

 ちょっと勘が鋭かったり、ちょっと力が強かったりと、鍛えた人間にならば、負ける可能性があります。

 このランクのイクシアンは、自分がイクシアを使えるという自覚がない場合が多く、データのそろわなかった昔は、彼等が襲われることで、イーターは人間を無差別に襲うものだと考えられていました。


Eランク(E級)

 一般人では太刀打ちできなくなってくるレベル。

 体格から見て、明らかに力が強かったり、異様に勘が鋭かったり、他者から見ても、異質に見え、例え鍛えた人間でも、このランクのイクシアを持つ者に勝つのは難しくなります。

 イクシアンの分布で、最も比率が多いのが、このランクになります。


Dランク(D級)

 人外。いわゆる、怪物と呼ばれるレベル。

 人の体ではありえない重さを持ち上げ、人類の限界を軽々と超えた速度で走ることが可能になります。


Cランク(C級)

 人知を超えたレベルに突入しはじめます。

 ビルを一つ軽々と持ち上げ、音速で飛行することさえ可能となる。

 このランクを持つイクシアンとなると、全世界でも一万人いるかどうかになります。


Bランク(C級)

 完全に、人知を超える。

 小さな都市ならば、単体で破壊が可能になり、範囲、出力共に、大量破壊兵器に近い被害を出すことが可能となってきます。

 効果範囲の広い力ならば、列島すべてを範囲に捕えられるといわれます(探知など)

 このランクまで来ると、全世界で、百人もいません。

 ※ちなみに、日本にそのうちの八人が存在している。


Aランク(A級)

 大陸を揺るがすほどの力を持つレベル。

 海を割り、大地を揺るがす力と範囲を持つ。出現した時代によっては、『神』と奉られても不思議はありません。

 現在、世界に三名しかおらず、日本の『神代銀之丞』氏は、その一人になります。



「……」

「……」

 俺とはじめちゃんは、同時に用紙から視線を離して、目頭を手で押さえてしまった。

 この銀之丞って名前のところは、とっても派手に七色で強調してあったからだ。あまりのド派手さに、目が疲れてしまったのである。

 どんだけ目立ちたがりなんだあの人。


 がしゃぁん!


 唐突に、測定器の方で大きな音が上がったため、俺達はそっちの方へ、視線を向けた。

 最後の最高ランク。S級を、確認しないままに。

 ちなみに、Sランクの説明は、こうだったらしい。



Sランク(S級)

 世界全てに干渉し、世の理さえ揺るがすことのできるレベル。

 念力ならば、地球を震わせ、治癒なら死者さえ蘇らせ、時の流れさえ操ることが可能となると言われています。



 この意味を、俺が知るのは、もう少し先だ。


「なんで俺がEランクなんだよ! もっと上だろうが!」

 どうやら、自分の力に自信を持っていたあのリーゼントの人が、自分のランクを見て、憤って職員に食ってかかったようだ。

 確かに、Eは最も多いといわれるランク。

 イクシア使いの中でも、普通だといわれたようなものである。元暴走族のリーダーという肩書きだと、それには耐えられなかったのだろうか。

 その値を導き出した、装置のオペレートをしている職員に右の手を伸ばそうとする。

 その右手は、一瞬にして二倍くらいの太さとなった。

 バスの中でも見た、あの変化。多分あれが、リーゼントの人のイクシアなんだろう。

 測定装置の上に、薄い光のモニターが現れ、『豪腕のイクシア』というのが表示されている。

 確かにあんなパワーがあれば、色々しめるのラクだろうなぁ。

 なんて思っていたら、その手は職員の襟首を掴むことはなかった。

 リーゼントの人の襟首が、なにか見えない力で持ち上げられ、彼は宙吊りにされてしまったからだ。

「なっ、なんだこりゃぁ!?」

 自分の襟をつかみ、足をじたばたさせる。

 誰もが、なにが起きたのか、すぐに理解した。

 全員の視線が、一斉にある人のもとへと集まる。

 集まった先にいるのは、銀之丞理事長。それが、気だるそうに、襟首に人差し指をかけるようにして、手を持ち上げている。

 やれやれと、アレはため息をついている。むしろ、リーゼントの人、ここに来る前にアレの力見ていて、その上でアレがいるのに、よく暴れようと思ったものだ。

「あーたの自信は、よくわかるわ。でもね、きちんとイクシアを認識していたあーたでも、まだEなの。上にはまだ上がある。それってつまり、あーたの能力は、まだまだ発展する余地が十分にあるってこと。あーたまさか、三百キロ持ち上げられるくらいで、満足するわけ?」

「がーん!」

 言われたリーゼントが、大きなショックを受けた。

 まるで、電気椅子に座って、そのショックを受けたみたいだ。

「た、確かにそうだ。これでEってことは、鍛えて上にあがれば、俺は一体どうなっちまうんだ! 世界、最強!? すげぇ。こいつはすげぇな! いいか理事長。待ってろ。お前を必ず、追い抜いてやるからな!」

「はいはい。期待してるわ」

 ずびしっと指差したリーゼントを、手を振りぽいっと放り投げ、理事長は興味ないように、視線をリーゼントの人から、別の場所へ外した。

 捨てられたリーゼントは、背中から落下していたが、痛みなど感じないかのように立ち上がり、高笑いをはじめている。

 それは怒りややけくそとかじゃなく、目をキラキラさせた、将来に希望を持ったかのような、笑いだった。

 強くなる。能力をアップさせる。シンプルなやる気で、羨ましいなあ。

 リーゼントの人は、いつの間にか隣に来た取り巻きとなる五厘頭の人と、エイエイオーと、拳を天に突き上げ、音頭を取り合っていた。

 仲いいなあ。あの人達。俺もやりに行こうかな。でも理事長の目も気になるから、ここは自重しておこう。だってやったら、理事長もついてきて、大変なことになりそうなんだもん。

 ちなみに、取り巻きの五厘頭の人は、俊敏のFランクだったらしい。

 イクシアの効果は、速く走れる。らしい。

 これが発表された時。みんな……

(パシリ)

 と思ったのは、大きな秘密である。


「パシリ、か。私と同じだな……」

 地面で転がりながら体育座りをしていた運転手さんが、ぼそりとつぶやいた。

 言っちゃったし、思いっきり自虐ですか!


 測定は進み、続いて大きな声があがったのは、フェリーでケンカを売られていた子。豊増光の時だった。

 彼女の判定結果において、大きなざわめきが上がる。

 なんと、Cランクの判定が出たのだ。

 世界に千人いるかいないかの逸材が、現れたのだ。

 にしても、あの装置の上にわざわざパンパカパーンと値を映し出す意味がわか……ら、なくもない。

 視線を理事長に向けたら、発表があるたびにわくわくしてケラケラ笑っているのが見えたからだ。あの人の、趣味だこれ。

 次いで、豊増のイクシアが判明する。その名も、光刃のイクシア。

 どうやら、両手か、その手で触れた場所に、光の刃を作り出すイクシアらしい。

 薫子さんの盾と逆で、こちらは光の矛らしい。実に、攻撃的な能力だ。

 職員の人達も、即戦力を期待できる新人が入ったことに、多少の興奮が抑えられないようだ。

 当の本人はといえば、すました顔をして、測定装置の中から出てきた。

 一瞬、理事長の方を睨んだように見えたけど、理事長は全く気づかなかったのか、どうでもよさそうに、あくびをしていた。

「……」

 その態度に、豊増は、今度こそはっきりと、そんな理事長を、睨む。

 だが、その前に、リーゼントの人が立ちふさがった。

 リーゼントの人はポケットに手を入れ、額にしわをよせ、にらみを利かせながら、豊増のことを、上から下まで体を動かし、ガンをつけながらぐるぐると回り、そのままなにもせず、ゆっくりと遠ざかっていった。

 それはまるで、ライバルの顔を忘れないようにするための行為のようにも見えた。

 豊増は、小さくため息をついて、もう一度理事長を一瞥して、その場から去っていった。

 実に、クールな子である。


 測定は、進んでゆく。

 他に大きく盛り上がることもなく、残る測定は、俺とはじめちゃんだけになり、はじめちゃんが用紙を持って、測定装置のもとへと歩いて行った。

 みんなに注目され、右手と左手が同時に動いていたが、ここで俺がフォローするのは、今後のためにはならないと、心を鬼にして、見送ることにした。

 おにーさんとしては、ここで一発転んで場を和ませてくれるのもアリかな。なんて思うが、そんなことは起きなかったぜ。

 はじめちゃんの測定は、特に何事もなく、他の人と同じく、あっさりと終わった。

 ランクはEで、製作のイクシアを持っているらしい。

 その力で、あの日、刀を生み出した。ということか。

 戦闘系の能力ではないので、前線には出ない。ということを聞き、彼女はほっと胸を撫で下ろしていた。確かに、前線に出るような性格でもないしなぁ。


 そして最後。ついにオオトリ。俺の出番となった。

 記入用紙をテーブルにいる職員にわたし、俺はその装置に足を踏み入れた。

 正直、ランクは高くない方がいい。

 高いランクだと、色々期待されるだろうし、責任も増える。できることなら、低いランクで、安全をむさぼりたいところだ。

 どうか低くありますように。

 そんなヘタレたことを願いながら、俺のランクスキャンが、はじまった。

 緑色の光が、俺の足元から、頭上へと移動する。


 その瞬間。


 一瞬、世界がぶれた気がした。

 実際に地面が揺れたわけじゃないし、なにかが振動したわけでもない。俺の見える世界の像だけが、一瞬多重に残像が出来て、像がぶれたような感じだ。

 俺を中心に、ぶるっと世界が、ぶれたように見えたのだ。

 直後、上から戻るはずの緑のラインは戻らず、さらに装置の状態を確認するモニターが、大きな音をあげ破裂し、電力を送るコンセントはショート。あげく、体育館の天井の電球も一斉に破裂した。

 それらが、ばばばばばばんと連続しておき、全員がその衝撃に頭を下げた。

 破裂し、鋭い欠片となった電球の残骸が、重力に引かれ、床に落下する。

「危ない!」

 薫子さんの声と共に、落ちてきた欠片は、緑色に光る障壁が俺達の頭の上に出現し、防がれた。

 装置はまだ、バチバチとなにか不穏な空気をかもし出している。

 非常にマズいと判断したのか、理事長が「脱出!」と声をかけたことにより、皆一斉に体育館の外へと脱出することになった。

 皆が体育館の外へと脱出すると、中では測定装置が、ボム。という音を立て、破裂した。

 薫子さんの障壁のおかげで、外まで衝撃は漏れなかったが、床が大変なことになっている。

 爆発の音を聞きつけた職員の人が慌ててやってきて、頭を抱えていた。

 俺等の方といえば、これではもう測定は続けられないということなので、寮に案内されることになった。

 俺は後日、再測定である。


 一体、なんだったんだ。



──真壁薫子──



「それで、報告ってなにかしらー?」

 学園の学園長室でグダグダしていた銀(銀之丞)が、入ってきた私に、いきなりそんな言葉を投げつける。

 実力もあって、判断力もあるのだけど、普段がこんなのだから、信頼がないのが欠点の、幼なじみだ。

 まあ、人望と信用はあるから、まだマシか。

 私は心の中で、ため息をついた。

「とりあえず、さっきのイクシアランク測定のデータが全部サルベージできたから、その報告」

 私は普段、誰にでも敬語で話すが、銀とプライベートの時だけは、こうして砕けたしゃべり方になる。

 銀のつっぷしていたテーブルに、先ほどの結果をまとめた紙をどさどさと置く。

 先ほど時坂君の測定によって破壊された、今日の測定データだ。

「こんなのアテクシが見る必要なんてないでしょー。カリキュラムを考えるのは、先生であるあーたのお仕事。アテクシは、そのカリキュラムが決まってから、承認の判子を押すだけー」

 今日はもうお休みー。なんて言いながら、両手を上にあげ、ゆーらーゆーらと、体を揺らす。

 相変わらず、どこまでもフリーダムな人ね。

「でも、これを見たら、そんなことも言っていられませんよ。学園長」

 私の口調が変わったことにより、銀の動きも止まった。

 ふざけた顔も真面目に変わり、しっかりとした理事長、銀之丞が、姿を現す。

 私の取り出した、一枚の書類が、机の一番上に置かれる。

 それを手に取り、じっと見つめた瞬間。銀の顔色も、驚きに染まった。

 それは、時坂廻。その、イクシアランク測定の結果だ。

 データをサルベージした結果、イクシアの種類はわからなかったが、そのランクはわかった。

 そして、それが、あの装置が暴走した原因でもある。

 紙を持つ、銀の手が震えているのがわかった。

 当然だろう。私も最初に見た時、信じられなかった。


 そこに書いてある時坂廻君のイクシアランク。その等級は。


『S』


 だったのだから。

 Sランク。それは、世界を揺るがすほどの力を秘め、日本最強のイクシア使い、神代銀之丞を超える、イクシア。

 ランクAの銀の力さえ計りきる、あの測定装置が破壊された、原因。

 世界を揺るがす力を、スキャンし、再現しようとしたのだ。あの結果は、原因を考えれば、当然と言える。

 彼がまだ、どんなイクシアを持つのかはまだわからないが、それを発現した時、世界は大きく揺れ動く可能性を秘めていた。

 星をも揺るがす力は、イーターだけでなく、時には人類の脅威にもなりかねない。

 イクシアの種類によっては、世界そのものを変えてしまうからだ……

「途中で測定機器が壊れたため、これを正式にランク認定することはできませんし、壊れた際の判定ミスの可能性も捨て切れませんから、公表もできません。が、あの子の作った物ですから、私は測定ミスではないと判断し、これを報告しました」

 公表できない理由は、これだけではないが、この二つだけでも十分、公表できない。

 なにより、ランクSは、有史以来、たった五名しか記録されていない、稀有な存在。その出現は、表の世界情勢さえ変えかねない衝撃だ。

 ゆえに、公表するだけでも、慎重に慎重を期す必要がある。

 しばらくこの事実は、本人にさえ伏せられることになるだろう。

「しかし、さすがね」

「んー?」

 私の声に、報告書をじっと見ていた銀が、やっと反応を返した。

「誰も、彼がここまでの力を秘めているとは想像していなかったわ。誰もが、いつもの気まぐれだと思っていた。だというのに、結果はこの通り。銀が目をつけた少年が、ランクSの逸材だったと知れば、皆はまた、銀を見る目が変わるわよ」

 この子は、昔からそういう子だった。誰もが呆れるような行動をとるが、結果としては、それが正しい。

 この島の理事長になろうとした時も、そうだった。

 今回も、その流れだ。

「で、でしょー。アテクシが目をつけたんだから、とーぜんよー」

 だが、今回は、ちょっと違うように見えた。


(イクシアを使わず、イーターに勝つだけではなく、その上イクシアもランクS? アテクシ、なんてとんでもない子に目をつけちゃったのかしら!)


 さすがの銀も、ここまでとは予想外だったようだ。いくらなんでもSランクのイクシア使いというのは、想定外というのが本音らしい。

 でも、銀が目をつけていてくれて、お本当によかったと思う。

 後に、この情報が他に漏れたあとでも、すでにあの子は、理事長の手元にあると見えるから。

 こんな狭い島の中にも、権力闘争は存在する。

 こんな破天荒な理事長が、島を牛耳っているというのが、気に入らないと思うやからも存在している。

 しかし、その存在の希少性。ランクAというパワー。その他の実力が、対イーターに対して、島に必要であるため、誰も銀之丞を追い落とすことなどできない。

 彼は、この島の最終兵器であり、頼りになる指導者でもあるから。

 であるから、そのパワーバランスをひっくり返す、ランクSの登場は、様々な混乱をこの島にもたらすだろう。

 時坂君が、銀と敵対する一派にとりこまれれば、この島を二分する大きな争いになりかねない。

 その発生を、この時点で大きく牽制できるのだから、銀の勘の鋭さには、私も感服する。

 だが、思う。

「……理事長、交代、か。いい案ですよね」

 私はアゴに手をあて、ぼそりとつぶやいた。

 さすがの銀も、びくぅ! と体を震わせる。

 きっと銀も、私の言葉の直前に、その可能性を考えたはずだ。

「獅子身中の虫がいたわ!」

「冗談ですよ。冗談」

「全然目が笑ってなーい!」

 冗談なのは本当。でも、たまーにこうしてお灸をすえないと、いつまでもわがまま言い出す子ですからね。

「ああ、アテクシには、敵しかいないのだわ……」

 よよよよよよ。と、両手で顔を覆い、泣きまねをはじめる。

 むしろ、笑いを堪えているような感じであった。

 ああ、これは全然、懲りてないな。

 そんな銀を見て、私はまた、小さくため息をついた。


「……ねぇ」

「銀?」

 両手で顔を覆ったまま、銀が、とても真面目な声を出した。

「彼が本物なら、俺の願いも、かなうのだろうかね」

 ぽつりと、銀がつぶやいた。

「……それは、まだわかりませんね」

 そう。わからない。

 あの子が、どんなイクシアを持っているのかも、それが発現できるのかも、わからない。

 だから、私達の希望となるのかも、わからない。

「総一郎……」

 銀は、小さな声で、その名を発した。



──時坂廻──



「はー。今日は初日からハチャメチャだったな……」

 俺は、男子寮の廊下を一人歩きつつ、割り当てられた自分の部屋へと向っていた。

 あの後、寮に出発するみんなを横目に、俺は一人だけ呼び止められランク測定の件について話をうけた。

 しばらく、あの装置が使い物にならないので、俺の判定は後日になるという報告と、あと、制服のための身体測定をやらされた。

 身体測定はあのスキャンが自動的にやってくれるはずだったが、ボムしてしまったので、俺だけ居残りのようなものである。

 で、色々計測して、一人遅れて、寮に到着したというわけである。


 寮は、二人一部屋の相部屋方式のようだ。

 場所は、最上階になる、三階。ルームメイトは当然もう、部屋にいるのだろう。

「お邪魔しますよー」

 そう声をかけ、俺は自分に割り当てられた部屋の扉を開けた。


「んしょ……」

 入ってすぐに目に飛びこんできたのは、上着を脱いでいる、ルームメイトの姿。

 ああ、着替え中だったか。

 なんて思うと、すぽっと、その子は上着を首から引き抜いた。

 ぷはぁ。と、上着から解き放たれた、その子の全身が、俺の目に入る。

「え?」

 肩まである長い髪が、部屋に揺れる。

 俺は、それを見て、動きを固まらざるを得なかった。

 そこにはなぜか、あの豊増光がいたからだ。

 俺の前には、なぜか、女子である豊増が、立っていたのだ。

 大変なことだから、二度確認しました。

 明らかに女の子である、入っていきなりランクCなんてのをたたき出した注目株が、なぜか、俺の部屋にいた。

 様々な可能性が俺の頭の中を駆けめぐる。

 一つ、ぴーんときた。

 まさか、こいつ男の娘だったのか!?

 と、俺は視線を下にさげた。

 上着を脱いだその上半身には、スポーツブラに包まれた、慎ましい双丘が、広がっている。

 陶磁器のように美しい白い肌に、弾力がありそうな、肉付き。

 それはまさしく、女の子の肉体だった。


 なにがなんだか、俺にはさっぱりわからなかった。

 ただ、一つだけ言える。

 こいつが噂の、ラッキースケベってヤツか……!


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