アイドル飛ばします
「次は名古屋でーす。降りる準備をお願いしまーす。あれ? お客さん?」
おんぶしてる客を下ろすと嘔吐して気絶していた。今回は安全且つ迅速にビルとビルの屋上を飛び抜けたのにおかしい。とりあえず指定した時間に間に合わないのでお客様を起こすことにした。機械仕掛の義手で顔に一発デコピンを喰らわすと、客は直様目が見開いた。
「ここは…どこだ?」
「名古屋ですよー。あっ、まずいですね」
お客様の背広が冷や汗でびっしょりだったので手拭いで吹いてあげた。お客様は呆然と正座されたまま上の空で何が起こった分からない様子でしたので現状を説明します。
「本日は韋駄天特急『籠』のご利用ありがとうございます。緊急の会議で朝4時厳守とのご依頼でございましたので飛ばさせてもらいました。現在3時45分名古屋。お客様の出社先のビル屋上でございますがご理解頂けました?」
お客様の顔は地蔵の様に灰色状に固まって硬直が解けてません。お代金の話がしたいのですがどうしましょう。するとお客様が前屈みに立ち上がり辺りを見渡し始めました。息が切れて苦しそうに呟きました。
「ここは違う。会社じゃ……ないぞ」
そんなはずありません。私は腕時計型のナビで住所をお客様に見せた。お客様は私の腕に提げられた鞄から眼鏡を取り出すと現在地を比較してます。表情は上空と同じように曇り、青ざめております。
「本当は隣のオフィスビルに行って欲しかったんだ。今から降りても4時には間に合わん。終わった…」
ミスをしたのは私なのに