彼女の最後
「…非腐敗…。」
グランバルジュが小さく呟く。--|非腐敗
(アンチスポイル)
。それは、自分が旅中の食糧が腐敗せぬようにと編み出した魔術だった。召喚士であった彼女では使えない、第3階級魔術。
「ルインが…、非腐敗を?」
魔術師ではない彼女が無理に使おうとすれば、魔力総数が足りず彼女の命を削る羽目になりかねない。文字通り、自殺行為である。
非腐敗自体はそこまで危険な魔術ではない。だが、対象物が大きければ大きい程、使用魔力は跳ね上がる。
「なんて事を…」
自分はおおよそ2m近く丈がある。一般的なヒト族と比べると、当然長身の部類に入る。
「御先祖は、この術で半年の命を削ったと、その時仰られたと記録されております」
「当然だ。使えない物を無理に使えば、最悪命を落とす。……モットーだったのにな」
アルイス老人の話は続く。
「御先祖は、貴方を国へと連れ帰る道中に魔王軍の残党に運悪く遭遇し…その戦闘の最中、命を落とされたと伝えられております…」
原因は、魔力不足であったそうです。
目の前が暗くなった。これはどう考えても自分のせいではないか。非腐敗など、かけずとも元々死んでいないのだから腐りはしなかったのだ。
「生き残った者で御二方をフェベルテへ運び、国を挙げての…いえ、世界を挙げての葬儀を行ったそうです。」
「…そう、か。アルイス殿、話して下さり感謝する。」
どんなに心が動揺しようとも自分は表情が変わらない。非情な奴だと思われたかもしれない。
(ルイン…、残りの寿命すら全う出来なかったのか。)
哀しい。父が豚頭鬼と戦い死んだ時より、母が病で死んでしまった時より哀しい。…しかし、それでも進まねば。
「…私はこれからどうすればいいのだろう…」
友は死んだ。世界は救った。何も残されていない。
「…では、外を見て回られては如何ですかな?」
「外、を?」
「ええ。貴方がいらっしゃった時代とは様変わりしておりますし…。きっと次なる目標が見つかりましょう…」
アルイスはそう言いながら立ち上がり、グランバルジュの手をそっと包み込む。
「決して、怒りや悲しみに飲まれてはいけませんぞ…」
そして、数多の皺を顔に刻む老人は涙を零した。
更新が遅くなり申し訳ない