0-大聖堂地下墓地
2300年前。このフラウベルの地に英雄が誕生した。英雄の名はグランベルジュ・イスベルグ。彼は多くの命を救い平和をもたらした。自分の命と引き換えに…。世間はそう信じて疑わなかった。
リデイル公国リティシリアン大聖堂地下墓地
(…暗い。夜か?いや、この感じは密室のような感覚だ…)
一人の男が、長きにわたる眠りより、目覚めていた。密室だと仮定した男は右の拳に力を込め、眼前の暗闇に向かって拳を放つ。何かが拳に触れたと思いきや、それが轟音をたて吹飛ぶ。
「な、何事じゃあ!」
慌てた老人の声を聴いたのを最後に、男はまた一度意識を手放した。
(さすがに寝起きは辛いな…)
そして今に至る
「いやはや、事実は伝説とは異なるとはよく言った物よ・・・」
ゆうに100歳を超えていそうな風体の老人は、石棺に腰掛け、長く伸ばされた髭を扱きながら呟いた。目の前には2m近い身長を持つ男。オリーブ色の髪は長く伸ばされ乱雑に結ばれている。
「…私の事か、御老人。」
「はっはっは…。この場において伝説とは異なっとる者なぞ貴方様以外におりますまい…。生き返るなどとは思いもせんでしたぞ。」
のう、英雄殿。
男は少し首を傾げ小さく呟く。
「ちゃんと仲間には少し眠ると伝えておいたのだが。」
老人はそれを聞き少し悩んでから、ポンと膝に手を当て
「それは恐らく眠る=死ぬ、の様な方程式がお仲間の頭にあったのでしょうな!はっはっは、これはこれは…なんとも愉快な事じゃ!」
グランバルジュは快活に笑う老人に気まずげに尋ねる。
「ところで御老人。ここは一体どこなんだ?少なくとも私が最後にいたフォンディーヌ平原とは似ても似つかない所だというのは容易にわかるんだが…。」
自分は確か第13位階の魔王と戦った平原にいたはずだ。そこで仲間に眠ると告げたのだから。だがここはどうだ。どう考えてもどこかの地下墓地ではないか。故にグランバルジュは顔には浮かべない動揺を心中で感じていた。
「ここはリデイル公国リティシリアン大聖堂の地下墓地ですじゃ」
「リデイル?聞いたこともないが・・・。」
老人は口元に微笑を称えたまま答える。
「まあ、貴方様の眠っておられた2300年の間に色々とあったのでございますよ」
その瞬間、グランバルジュに脳天に巨人の槌を受けたかのような衝撃が走る。
「・・・私は2300年間も寝ていたのか。」
「周囲の者が皆、亡くなられたと勘違いされるような規模で、ですな。」
ははは、とグランバルジュの口から乾いた笑いが漏れる。ほんの数日眠るつもりが何千年という単位で寝ていたのだ。衝撃的に決まっている。
「・・・もう友人も仲間も死んでいるんだろうな。2300年だしな」
小さく、呟く。眉尻を下げて目を伏せている姿は御伽噺や伝承に出てくる英雄像とは程遠かった。長身痩躯という言葉がそのまま当てはまりそうな彼の体は、一回りも二周りも小さく見えた。
ふと、グランベルジュは目の前の老人に
「そういえば御老人。あなたの名前を聞いていなかった。」
「わしの名前、ですかの?はーて、なんじゃったか…。うーむ…。…そうじゃ、思い出した。アルイス・アルハートといった名前でしたのう」
アルハート、という言葉を耳にした瞬間グランバルジュの脳内にパーティーの一員だった快活に笑う少女が思い出される。
「…そうか、御老人、いやアルイス殿。貴方はルインの血筋の…」
「薄まりまくっておりますがのう。」
ルイン・アルハート…かつての仲間だ。こげ茶の髪と、檸檬色の瞳。どこの誰にもひけを取らない召喚士の少女。
「…懐かしい。」
アルイスの瞳は彼女と同じ、檸檬色だ。明るく、理知に富んだ輝きを宿している。
「彼女の最期を、教えては頂けないだろうか。」
「喜んでお教えしましょうぞ、先祖の魂にかけて。」
アルイスが語ったものは、この様な内容だった。
「---英雄が魔王と相打ちになり、死亡したという話はこのフラウベルのすべての大陸、海、空、森を渡りました。そして、相打ちになった魔王というものが、第13位階 全能王だという事も。貴方の亡骸…失礼、眠っておられたのでしたな…。一応死んだ事になっていたのですからご容赦して下され…。貴方の亡骸は戦いの場であった魔大陸の平原よりフェベレルテへと移されました。リデイルの前身でございます。貴方の亡骸がこの先、腐敗していくのをご先祖であるルイン様は見ていられなかったのでしょう…。未来永劫変化せぬように、と非腐敗をお掛けになられたそうです。」
そこでアルイスは一度言葉を区切った。
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(※練習も録にしていないため、未熟な点が多いですが精進致しますので今暫くお待ち下さい)