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「そうだ、月末の土曜にさあ、バーでハロウィーンパーティをやるんだ」

玄関の上り框に座ってスニーカーの紐を縛りながら航平が言った。

「ハロウィーン?」

達也はすでに靴を履いてドアの外で待っている。航平と一緒に階下まで行き、そのままコンビニに行って何か食べるものを買うつもりだった。

「ああ。チケットやるから、よかったら来いよ」

「ハロウィーンパーティてことは、仮装か何か?」

「ああ」

「いろいろ考えるんだなあ、そういうイベント」

「全部メイのアイデアだ」

ジャケットを手に持って航平は立ち上がった。

「おまえも仮装するのか?」

「多分な」

「なんの?」ドアを閉めて鍵をかける。

「まだ知らない。多分メイがどっかからなんか仕入れてくるはずだ」

ふたりでエレベータに向かって廊下を歩き始めた。

「去年はなんだった?」

歩きながら何の気なしに訊いた。すると航平は意味ありげな顔を向けてから、教えない、と言って足を速めた。

「なんでだよ。言えよ」眉をひそめながら航平の背に向って言う。

「やだよ」航平はそっけない。

達也はにやりとし、言えよ、と詰め寄りながら彼の腰を背後からくすぐった。

「やめろよ。・・あっ、やめろって」

笑いながら航平は身体をくねらせ、達也から逃れようとする。そのまま廊下の角を曲がると、奥のエレベータの前に女が立っていた。あわてて航平から離れ、達也は真顔になって咳払いした。

女がこちらを振り向く。その顔には見覚えがあった。達也の隣の部屋の女だ。確かアラガキナオコといったはずだ。引っ越した日に母の命令で、母が用意した粗品を持って達也は隣に挨拶に行った。そのときは、よろしく、と言葉を交わしただけだった。

女が笑顔で会釈をしてきたので、達也も軽く頭を下げた。垂れ気味の大きな目が印象的だ。長い髪を横にひとつに留めて肩の前に垂らしている。前に会ったときは特に気に留めなかったが、改めて近くに立つと女にしては結構背が高いようだ。モデルか何かなのだろうか。

やがてエレベータが来て女が先に乗り込み、一階のボタンを押す。達也と航平は奥の壁の前に並んで立った。女はエレベータのドアの前に立って上の回数表示パネル辺りを見上げている。気まずい沈黙の中で、もしかしたら自分たちの愛し合う声が隣の部屋に聞こえていたのではないかという思いが一瞬頭をかすめ、何となく落ち着かなくなった。無意識のうちに足元に視線を落とし、首の後ろをぽりぽり掻く。横で腕を組んで立っている航平がこちらに顔を向ける気配があったが、達也はずっと俯いていた。

エレベータが一階に着いてドアが開く。女はエレベータの開ボタンを押しながら達也たちを先に降ろした。達也は緊張気味に女の横を通り過ぎる。そして今度は航平が入り口のドアを引き開けて押さえ、彼女を先に通してやる。女は再び達也たちに会釈をし、外に出て駅のほうへ向かって歩きだした。

その後姿に目をやりながら思わずふーっと大きく息を吐いた。

「大丈夫か?」

「え?」

ジャケットを羽織りながら航平が怪訝そうな顔を向けていた。

「あ、ああ」

航平はマンションの入り口のそばに停めてあったバイクのボックスから黒い革の手袋を取りだし、ホルダーからヘルメットを外してバイクにまたがった。それからキーをさして、じゃあな、と笑顔を見せてからヘルメットをかぶり、手袋をはめ、そしてエンジンをかけた。

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