非労働系魔法少女ニト 第三羽
どうでもいいけど三羽→羽休めその2 の順番で書いたので……
わたしは夢を見ていた……まるで現実のようなのに、なぜか私自身が夢と悟っていた……おそらくだが、これが明晰夢というものなのだろう。
その夢の中で、わたしは……まるで悪意のみで構成されたような怪物……夢だからか、姿ははっきりと認識できない……を相手にしていた。
『それ』はわたしに対して何かを叫び、それに対してわたしは何か反論しようとした……厳密にはしたのだろうが、わたしにも何を叫んだのかは分からなかった。
そして『それ』とわたしが同時に動き…………ここで夢は終わった。
……何故か朝の早い時間に目覚めたわたしの目の前には、長い黒髪があった。黒曜石のように黒く、光沢のある髪……
あまり回転していない思考ながらも、必死に昨夜の記憶を探って全てを思い出した。
まず、昨日出会った姫……本名は明かしてくれなかったので不明だが、事情があってどこからか知らないが亡命してきたらしく家がないらしいので、一晩だけわたしの部屋に泊めることにした。一晩だけだが。
そして、一晩だけ泊まるとなると問題となるのは、一人暮らしの私の部屋にはシングルベッドしかないということだ。
一応姫は「師匠を床で眠らせてまで弟子がベッドで寝るのはありえないのじゃ」といってわたしにベッドで寝ろと言っていたのだが、流石に床で寝てもらうのはアレだったので、キューティクルなわたしは機転をきかせ、2人で一緒に寝ることにしたのだ。
一応、念のために言うのだが、別にわたしは百合とかではない。わたしは百合ではない。何度でも宣言しよう、『わたし、不動 ニトは百合ではない。よって、この行動に特別な意味はない。』
話を今に戻す、目の前には無防備に姫が眠っている。無防備に……なにかイタズラをやっても気づきそうにないくらいにグッスリだ…………やろうか
「ん……うーん……」
姫が心地良さそうに伸びている……若干イラッときた。なんかイラッとした。
「ニト殿、いったいどうしたのじゃ? 部屋の真ん中で寝転んで……」
「何があったかだって? ……もう1人のあなたにでも聞けばいいんじゃないかな? もしくは隠された記憶を持ったあなたに」
ありのままを話すよ。さっきついつい闇の誘惑に負けてしまいイタズラしようと姫に触れたところ……姫の瞳が微かに赤く光ったかと思うと一瞬にして部屋の真ん中の方向に向かって投げ飛ばされていた。
……何を言っているか分からないよね、ごめんね。私も自分で何を言ってるか分からないから。
「闇の扉は開かれた」だとか「僕だ!」とかそんな真相じゃあ断じてない、もっと恐ろしいモノだったよ、今のは……
「ニト殿……そういえば、道場に行く件はどうなったのじゃ?」
「夕方」
「であれば、少しこの街…………を案内してほしいのじゃが……」
「……眠いからヤヌスに頼んで、あと6時間は眠りたいから」
「……分かったのじゃ」
とりあえず寝る……こんな厄介な姫に付き合っていられるか、わたしは惰眠を貪るぞ……今眠っても……直ちに影響は……
「大変だよニト!」
「荏田野寝ろ」
「ボクは荏田野じゃないよ! というか反射的に言わなかった!? それ!」
「わたし眠い、あなた起こした、あなた死ぬ。オーケー?」
「よくないよ! 暴君の命令並みにワケが分からない理論だよそれ!」
ヤヌスが大変だというのだから仕方がない……あとでヤヌスクルクルの刑にするから許してやろう。
処刑する時点で明らかに許してないけど。絶対ヤヌス許されてないけど
「大変なんだよニト! いつのまにか姫とチューザがいなくなっちゃってたんだよ!」
「ヤヌスがこの街の案内してていなくなったのならヤヌスの責任ね?」
「そ、そそそ、そんなワケ無いじゃんか、ニトは心配性だねぇ……」
恐ろしいほどに挙動不審な上、声が裏返っているしこれは確定だね……
「有罪」
「ギクッ……とにかくニト、探しに行くよ!」
「よしヤヌス、あとで切腹、打ち首、エキサイティング絞首刑、満足神の生贄、満足町式紐無しバンジー、リストラ、どれか1つ選ばせてあげるからね?」
「ボク死んじゃう! 結果的には全部死んじゃうよ!」
一応それぞれ、死亡確認、死亡確認、死亡確認からの蘇生、満足して魂奪われるがそのうちひっそりと生き返る、腰打ってヘルメットか満足が無ければ即死、社会的に瀕死。
べ、別にヤヌスが可哀想だからリストラの選択肢があるワケじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!
……ないわー。自分でやっておきながらないわー。ツンデレないわー。
「とにかく、早く探した方が」
「ヤヌス、ごー」
「全然やる気無い上に結局他人任せなの!?」
わたし、不動仁兎は静かに暮らしたい。決して目立たないように……順位は常に3位ぐらいが丁度いい。わたしは常に1位だったから2位や3位の気持ちは分からないけど。
「ねえニト、ちょっとモノローグが漏れてるんだけど……あとそれは恐ろしい性癖をもった殺人鬼の精神だからね? あと後半は自慢なの?」
「そもそもさ、ヤヌスの責任だからヤヌスが自分でかたを付けるべきじゃないかな?」
「……いや……その……言い忘れてたんだけどさ……姫がカレーパン巡りをやってたからさ、匂いにつられた可能性があったから、匂いを辿っていったら……アンノウンに行く手を阻まれちゃって……」
「それを先に言って! ヤヌスに任せずに戦闘力250のわたしが直々に葬ってくるから!」
戦闘力5相当のヤヌスにアンノウンの相手は任せられない。せめて戦闘力30になってから出直してきてほしい。
最弱クラスの蛇型アンノウンが2体なら多分いけるから。
ちなみに、わたしが片手で倒せるレベルのアンノウン、《社会のダニ》の戦闘力はだいたい80……懐に銃を隠し持っていて、かつドスを差しているヤのつく自由業の組長ぐらいの戦闘力だ。
「こっちの道だよニト!」
せまい裏道なう。さっきから小さいから攻撃を当てにくい上にかなり凶暴な龍型アンノウンやら毒々しい色の実で視覚的に攻撃してきた植物型アンノウンやら素早く動き回る燕型アンノウンやらとかなり狭い路地で戦ってストレスが溜まっているのである。どこかでイライラをふきとばせる祭はないのだろうか?
にしても奇妙な点が多い……その場所に縁もゆかりもないようなアンノウンが大量に出現している。まるで誰かが配置したかのように……
「ねえ、ヤヌス……このアンノウンの発生は」
「明らかに人為的だね……誰かがボクらに対して何かに気づけと言わんばかりの……ドラゴンに植物に燕だったよね?」
何かを思い出せそうな気がするが思い出せない。昔聞いたことがある気がする……何の意義もなくただひたすら勉強していた頃……
ひょっとしてドラゴンではなく龍、植物は枝としたら? それがあっているならひとつだけ心当たりがある……
「龍に枝に燕…………ねえヤヌス、さっきのドラゴンの首」
「球状の何かがあったような……」
「ありがと、処刑はナシにしてあげる」
「なんでボク処刑されそうだったの!?」
首に珠がある龍、何かの枝、そして燕……あとは2つ、いや……鉢はアンノウンに出来ないから実質1つか……
その1つ、わたしの直感が正しければ……
「姫様……いえ、かぐや様の元に向かいたいのであれば、僕を倒してからにしてください!」
道の先に目を向ければ、どことなくチューザの面影がある少年が立っていた。
「最初からそれぞれ、龍は首の珠、植物は蓬莱の玉の枝、そして燕は子安貝、そして残るは火鼠の衣と御仏の鉢……御仏の鉢はアンノウンになりそうにないから残るは火鼠の衣……本名かどうかは知らないけど、確かチューザのイラストは荷物が少し燃えているネズミ、つまり火のネズミ……だから、遠回しに自分が火鼠というアピールをしていたんじゃないかな?そしてバラまいたアンノウンから姫の正体がかぐや姫だと悟られかけたから自分で正体をバラした……こんな推理で合ってるかな?」
「ええ……おおむねそのような推理であっています。」
「じゃあ……かぐや姫にオラオラってして不良のたむろしている路地裏に放り込みたいからそこをどいてかぐやの居場所を教えてくれないかな?あとかぐや姫……いや、アンタらの正体というかアンノウンとの関連性も」
「冥土の土産……では負けフラグですから、一応推理の褒美という形で教えてあげます……」
ちょっとイラッときたのでヤヌスとアイコンタクト……ヤヌスもアイコンタクトを返してきたので、一応同意と見てもかまわないだろう。
話を聞くだけ聞いたらオラオラ、オラオラ殴る。
心の中で怒りの炎を炎塵爆発させていると、元チューザが本来言ってはいけないような事をポンポンしゃべり出す。
「僕らは頂の使者です……分かりやすく言えば、アンノウン達の主の使者です……まあ、使者といいましても、あなた達の情報を盗む間者として送られてきましたけど」
「じゃあ話を聞き終わったら病院の患者にしようか。」そう返したかったのだが、ひたすら我慢だ。
「いい情報だ、消すのは最後にしてやろう」……きっとヤヌスはこう思っているハズだ。長年相棒だったヤヌスの事だし、わたしは分かってる。長年もなにも相棒になってからそんなに経ってないけど。
「拍子抜けでしたよ……姫が弟子入りしたいと言ってそれをあなたはすぐに信じてしまったんですから……詐欺師もついつい標的を変えてしまうほどに隙だらけでした」
イラッときました……飢えた野良猫の中に放り込んだらどうなるでしょうかねぇ……?オラオラした後に試してみたくなってきました。
「姫様なんかあなたを抱き枕代わりにして眠っていましたよ。あなたがあまりにも無防備なので。」
「それで、頂とは一体何者なのでしょうか?」
「ニトが敬語は……あっ……死んだね、あいつ」
ヤヌスも察してくれたみたいです。いまのわたしを刺激したらオラオララッシュを喰らうことを……刺激的な真珠みたいなやつを
「頂? 僕がそこまで教えるわけないじゃないですかぁ! なに期待してるんですか?」
「……では、情報を吐かざるをえないような状況にすればいいのですね?」
より具体的に言うならば、こめかみに銃を突きつけるとか、首に刃物……ナイフなどを突きつけるとか、そういう事をすればきっと情報を吐いてくれますよね?
きっとそうですよね……吐かなかった場合は痛い目にあわせればいいことですしね……フフフ…………
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごごごめめめ」
「もういいから、頂の事について喋ってくれない?」
恐怖で縮こまっているネズミを虐めるほどわたしは悪人ではない。一応……
「宇宙から来た……としか伝えられていません!」
「よしヤヌス、こいつ食べる?」
「満円の笑みで怖いこと言わないで! いらないからね!」
「すいません、もう1つ情報があるのでエサにゃんだけは勘弁してください」
「…………なに?」
その情報によっては解放しないこともない。解放するかもしれないし、しないかもしれない。
「偵察によって予定より早くニトさんの戦力を見極めたので、作戦決行はおそらく今夜になると思われます。」
「よし、まだ情報隠してない?」
快く情報を教えてくれたチューザを尻尾で掴んで、更に質問を続ける。
尻尾を掴んで半ば拷問のようだが、質問である……場合によっては質問は拷問に変わるかも知れないが。
「頂の方達……一応、ゼニスと名乗っておられましたが、不滅とか不死身だとおっしゃっていました。」
「不滅と不死身、か……超滅殺系魔法少女のわたしの天敵になりかねないかな……死なないって」
一応、いつもの戦い方は『とりあえず殺す、話はそれからだ』なのだが流石にこのやり方は通用しないだろう。不死身だし。
死なない相手に対して死ぬまで殺し続けるという戦い方があるのかもしれないが、それをやっていると疲れ……途中で力を使い果たす可能性があるので、この戦い方はやらないほうがいいだろう。
「まあ、『死なぬなら 死ぬまで殺ろう ほととぎす』とかいう言葉があるし、なんとかならないかな?」
「ないよ! そしてなんともならないよ! そんな物理でごり押しするような戦い方じゃ!」
半分冗談で言ったのだが、流石に物理でごり押ししてどうにかなるような相手ではないらしい。
となると、わたしの陣営で唯一ゼニスについて知っているチューザに対して聞くしかないようだ。
「ねえネズ……チューザ、一応弱点のヒントになるかもしれないからゼニスの姿について教えてくれないかな? ……教えてくれなかったら野良猫の群れに放り込む」
「一応、ゼニスの方々は共通して……体のどこかに大きな宝石が埋め込まれています」
「宝石、か……覚えておいて損はないかな?」
ひょっとしたら宝石が弱点かもしれないし。多分それは無さそうだけど。第一、仮に宝石が弱点だったとしてもなぜ弱点を目立たせる必要があるのか……深読みしすぎたら分からなくなるから対峙したその時に考えることにしよう。
深夜、幽霊や妖怪の類いが丑の刻に備え準備をしているような時間帯、とある廃ビルの屋上に彼女はいた……
いや、彼女だけではない。足元にはネコとネズミがいた……
「ところでさ、ゼニスの作戦開始時刻……いや、天頂開戦の時刻はもうそろそろの予定なの?」
「そうです……僕が聞いた予定では、日付に関わらずこの時間帯に天頂開戦という手筈になっていました」
「……にしてもさ、アンタ情報ペラペラ喋りすぎじゃない? いくらわたしが脅したからって……」
「ゼニスの言いなりになっている姫様が嫌いだからです。そして姫様を僕から離そうとしたゼニスの方々が嫌いだからです」
「……まあいいや、そろそろ開戦だけど準備はいい?ヤヌス」
「ボクの準備よりも、ニトは先に自分の準備をした方がいいんじゃないかな?」
「それもそうだね」
時計の長短2本の針が真上で重なり合った頃……それは起こった。
何者かの指令で、空から正体不明の石が降り注いだ。それが始まりのサインだった。
「……始まったのかな、ニト?」
「ねえネズミ、作戦はこんな感じだったの?」
「……ありえない……こんなことしたらこの街は……」
「……ちょっと待って、電話してくる……」
そう言ってわたしはとある策を仕込むために3ヶ所ほどに電話をかける。
時間がなかったので、要件を話したら相手がクレームを言っていようとも無視して切ったのだが。それでも、あの子達ならきっとやってくれると確証があったので問題はない。
問題があるとしたら、直接本体を叩くことになるこっちの方だ。
「ねえチューザ、ゼニスとかあいつらの居場所ってどこなの?」
「分かりません……ただ1つだけ言えることは……」
「ニト殿か……先日は騙して済まんかった、許してはくれんか?」
「尖兵たる姫様はもうすでに来ているという事です」
わたし達の目の前にはわたしの弟子と偽って情報を集めていたかぐやがいた……
カレーパンは伏線だったような……?