第19話 回復
マスクをして廊下に立っている檸檬と治。葛飾先生が教室に戻るのを確認すると、檸檬は、マスクを外して治の耳にそっとささやく。
「行こう。」
「え?」
治は、マスクを外さないまま、生返事した。
「ハルスを助けに。」
「でも、」
「行くわよ。」
檸檬は、強制に治の腕を引っ張り、そして、治のマスクを引っつかんで放り投げ、自分のマスクも下に落とすと、脇から杖を取り出す。
「ワープ」
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す
驕れる人も久しからず ただ春の夜の夢の如し
たけき者もついには滅びぬ 一重に風の前の塵に同じ
「うるせえな!」
一人の、ピンク色の頭をしてその顔と割に合わない体操服を着ている少女を引っ張り、一人の、大きな大人が、道路わきでわらをしいて座ってギターを引いている頭も服もぼろぼろの人に言った。この人は、わらの前の方にいくつかの小銭の入った一つの皿を置いている。乞食。
「ぎおん・・・」
乞食は、先ほどの歌詞を繰り返そうとする。ボスは、乞食を蹴飛ばす。周りを歩いている人たちは、そのことを気に止めない。もともと迷惑であったからである。
「しょうじゃ・・・」
粘り強く繰り返す。それに対し、ボスはもう一度蹴飛ばす。
「のかね・・・」
再三蹴飛ばす。
「のおと、」
ボスは、ハルスに言った。
「やれ。」
「はい。」
ハルスは、機械的な返事を返すと、杖を乞食に向ける。
「イクスプロージョン」
乞食のひいていたギターが爆発し、乞食はついに「あわわわ・・・」と、おしげつく。その恐れ顔を見て、ボスは言った。
「うるせえ。静かにやれ。」
「い、いまのは・・・???」
乞食が、怯えた声で言う。
「ばーか、魔法に決まってんじゃねえかよ。」
ボスは、平然と返す。それに対し、乞食は黙って、怯えた顔で、敷いていたわらを片付け、小銭の入った皿に手を伸ばそうとする。その手を、ボスは払いのける。
「いいか、これは罰金だ。」
ボスは、その皿を取り上げ、手を伸ばそうとする乞食の手を強く掴んだ。ボキボキ・・・骨の折れるみたいな音がする。
「行くぞ。」
ボスがこう言って歩き出すと、ハルスは黙ってボスの後ろについていった。そこには、丸めたわらを持った乞食がいるのみであった。
「おい、学校を抜け出すなんで校則違反だぞ!」
「あんたの校則違反と友達の命と、どっちが大事なの?」
「友達じゃねえ!」
檸檬に腕を引っ張られている治は、街中で抗議する。
「だまってついてこればいいの。」
「じゃ、場所は分かってんだろうな!」
「分からない。ただ、なんとなくこっちのような気がして。」
「まぐれかい!」
そう言って、治は、後ろから懐かしいにおいのするのを覚える。こっそり振り向くと、そこにはハルスとボスが、手をつないて歩いている。広いような狭いような歩道で、多くの人通りの中で、手をつないている。しかし、治にはもともとそんな意図はなかったので、だまって檸檬の方を振り向く。と、同時に二人の足が止まった。檸檬は、脇から杖を取り出し、ボスに向ける。
「誰。」
檸檬が言うと、ボスは言った。
「お前こぞ誰だ。」
「その女の子は、私の友達。」
「今は俺の婚約者だ。」
その「婚約者」の言葉を聞き、治は、心の隅っこに引っかかりを感じる。しかし、状況にはさほと影響しない。
「証拠は?」
「やれ。」
ボスがこう命令すると、ハルスは黙って檸檬に杖を向ける。どろっとした黒い瞳が、輝く。
「ち、ちょっと、ハルス・・・?」
黒いつぼの存在を知らない檸檬は、ハルスの目の色の変化にも気付かずに、顔が次第に青ざめていく。
「ち、ちょっと、や、や、やめてよ、じ、冗談は・・・」
檸檬が、おそるおそる杖の方角をハルスに変えながら言った。しかし、その返事は魔法であった。
「イクスプロージョン」
爆発がし、檸檬は一時は倒れかけるが、体勢を取り直す。
「ち、ちょっと、どうなってるの?」
しかし、ハルスは答えない。
「廻りに人がいるのはめんとうだなあ。袋小路の端っこで続きをするか。」
ボスが言う。
「臨むところ・・・」
檸檬が、かすれた声で、言う。
場所はとある深めの袋小路の一番奥に移り変わって・・・
その袋小路の奥は、幅が80センチメートルくらいの、広いか狭いか微妙な幅であった。袋小路の端っこに行くまてはたくさんの、10くらいもの曲がり角を経ているので、後ろを向いても外は見えない。壁。袋小路の端っこの壁を背に、ボスとハルスがいる。ハルスは、ボスの肩に寄り添って、檸檬に杖を向けている。一方の檸檬と治は、手をつないている。檸檬は、杖をボスに向けている。
「あたしは檸檬。ハルスの友達。さあ、あんたも名乗りなさいよ。」
檸檬が言うと、ボスは口を開く。
「俺は、あさきゆめみしグループのボスだ。」
「あさきゆめみし?」
檸檬が疑問文を言うと、治が言った。
「あさきゆめみし・・・、昨日俺に手紙を送って、」
「そうだ。それだ。」
ボスは、にやりと笑う。
「どういうつもりなのよ!」
檸檬が、言う。
「戻ろう。」
治が、その檸檬の腕を引っ張るも、檸檬は動かない。
「あさきゆめみしって何なのよ!」
檸檬のその問いに、ボスは言った。
「多くの人は、一ノ谷市最大の不良グループと定義している。」
「不良・・・・・」
「それがどうした?」
「不良は、あたしがこの杖で成敗する!」
「しかし、そういうわけにもいかないのよね。」
ボスが勝ち誇った声でこう言うと、ハルスに「やれ」と言う。ハルスは、黙って爆発の魔法を檸檬にはなった。大きな爆発。誰もいないので、加減していない大きな爆発。たちまち檸檬と治の体は、後ろの壁にぶつかる。
「やれ。」
ボスのこの声が、何回も繰り返し響かれる。それに対応して、爆発が起こる。
檸檬と治は、ついに地面にばったりと倒れる。悪者は、笑って言った。
「はっはっは、愉快だ!友達の魔法で倒される人なんで聞いた事ないな、傑作だ!うん!」
「く・・・・・・」
「なんだ、また抵抗する気か?」
ボスは、再度檸檬の方を向く。しかし、檸檬は、治から一行の説明を聞いていた。
「ハルスは、操られているんだ。」
「えっ!?」
うつぶせになったまま、二人は話している。
「く・・・・・・」
「誰だ!」
ボスは、周りを向き回す。しかし、それらしいことを言いそうな人はいない。その前に、4人以外誰もいないはずであった。
「く・・・・・・」
今度は、音源がよく聞こえた。それは、ハルスの口からであった。
「うううううううううう・・・」
ハルスは、ついに震えだす。その振動は、次第に大きくなる。目を瞑っている。
「ううううううう・・・・・・・」
「ハルス!」
檸檬が、起き上がってハルスに杖を向ける。
「目を覚まして!」
立ち上がる。治も、立ち上がる。
「ハルス。」
治がこう言うと、ハルスの体中が黒っぽく見えてきた。それは煙らしく、その黒い煙は次第に大きくなり、そして、ハルスの震える体から離れて、上に上っていった。
「ち、ちょっとまて、」
ボスが慌てて上を向いて叫ぶ。しかし、それも後の祭り。前を向くと、ハルスが自分に杖を向けている。その瞳は、明るい桃色に輝いている。
ハルスは、白い顔になって、白い声で言った。
「よ、よくも、あたしを、」
久しぶりの投稿です。
SourceForgeにApplicarsoftを申請してしまい、
Applicarsoftのカテゴリの充実に追われる中での投稿となりました。
第21話で、そろそろ恋愛に行こうとか思ってますが、
無理。無理。絶対無理。作文苦手。はい。




